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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第415話 ターダに問うてみると……
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ターダによればあの悪鬼の湿原には知性のある獣が生息していて、遊牧民とは仇敵関係にあるらしい。
あそこで狩りをするのが、部族の勇者、そして族長の条件というのだから、遊牧民と仲が良いはずがないのだが、相手が知性を持っているとなるといろいろ厄介だな。
動物が人間並みの知性を持つなどと言うのは、元の世界の常識では考えられないけど、こっちの世界ではそもそも脳みそすらない霊体が知性を持っている以上、そんな理屈は通じないのだ。
「それでその獣はどういう相手なのですか」
湿原に生息している動物と言ってもピンキリだ。
確かアフリカで世界遺産に認定されていた湿原では、ライオンもいればアフリカ象も住んでいる自然の宝庫だとN○Kで放送していたのを見た記憶がある。
そんな相手が知性を持ち、群れを形成していたりしたら、どう考えても勝ち目はないだろう。あいにくオレもターダも『勇者』というには程遠い存在なんだ。
ひょっとしたらガリバー旅行記のクライマックスのように、人間以上に知性があって、高貴な馬だったりするかもしれないけど、そんな相手だったらとても手出しなんかできないぞ。
「それなのだが――」
オレにとっては結構、深刻な問いだったけど、ターダもどこか悩んでいる様子を見せる。
「やつらは俺達が家畜とする動物、つまり馬や羊などとまるで異なる連中だ」
「もう少し細かく教えてもらえませんかね」
「かなり大きくて力も強いようだ。だから狩るのは優れた戦士でも命がけになる」
ええい。話をそんなに小出しにするのは辞めてくれ。
お互い命がかかっているんだぞ。
これまでの話からするとこの平原で家畜になっている動物ではないのは確実だけど、それだけでは範囲が広すぎる。
いや。待てよ。考えてみると遊牧民が家畜にしないと言う事は、ターダにとっても馴染みのない動物だということか。
そしてもちろんターダは過去に見た事も無いのは確実だ。そうだとすると――
「ひょっとするとターダもよく知らないのですか?」
「う……すまん」
ターダは申し訳なさそうに頭を下げる。
やっぱりそうか。遊牧民も絵ぐらいは描くだろうけど、そんなに写実的なものではないだろうから、外見については大ざっぱにしか知らないのだな。
遊牧民にとって仇敵と言ったところで、出会う事が殆ど無いのなら、現実の脅威としては敵対する部族か無法者、後は『風の欠片』のような野良精霊の方がずっと深刻だろう。
それに湿原に住んでいる動物は、その知性ある獣だけではないだろうから、軽々しく決めつけるのも危険だ。
「それでは彼らはいかなる神を崇拝しているんですか? やっぱり『悪鬼の湿原』に棲んでいるのだから、悪鬼を崇拝していたりするんでしょうか」
「いや……そういうわけでもないのだがな……」
今度もやっぱり歯切れが悪いけど、どうも『知ってはいるけど話したくない』ような雰囲気があるぞ。
遊牧民のタブーに関わる問題なのだろうか。
少なくとも『悪鬼』を崇拝しているわけではないのなら、宗教的には仇敵という事では無いはずだけど、同じ相手を崇拝していながら、はた目には些細な差違で殺し合いになったりもするからな。
この件でも深入りは難しそうだ。
仕方ない。湿原に棲んでいる相手については後回しにしよう。
そんなわけでオレはひとまずターダに釘を刺すことにした。
ターダは愚かではないが、以前に『風の欠片』とやり合ったときにように、そして何より一族を飛び出してここまでやってきた事から、かなり向こう見ずなところがあるからな。
「ひとつ聞きますけど、ターダの目的はあくまでも行方不明になったお兄さんの手がかりをつかむ事ですよね?」
「その通りだ」
「つまり『悪鬼の湿原』で狩りをするのは目的でない以上、戦いはなるだけ避けるべきです」
相手に知性があればオレの『調和』で暴力的な行動はなるだけ抑止出来るけど、万能ではないからな。
それにドラゴンには効果が無かったけど、同様のモンスターが他にいてもおかしくない。
戦いになるような真似は可能な限り避けるに越した事は無い。
「お前の言うことは分かるが、それでは逃げ回れと言うのか?」
「そうですよ。別に逃げる事は恥ではないでしょう」
土地に執着の無い遊牧民の場合、家畜を守るために命を賭ける事はあっても、不利な戦いを挑んだりはしないはずだ。
「それはその通りだが……」
「厳しい事を言わせてもらいますけど、ターダは自分でも戦士として未熟だと認めていたではありませんか。とにかく戦いは避けて、お兄さんの手がかりを探す事を優先しましょう」
「……分かった」
ターダは少しばかり残念そうだな。
たぶん自分でも無謀だとは思いつつも『悪鬼の湿原で狩りをした勇者』に憧れていたのだろう。
オレもその気持ちは分からないでもないが、ここで命を落としたらそれこそ無駄死にだ。
「あとお兄さんの手がかりを見つけるにしても、あの広い湿原を闇雲に探すのは無茶というものです」
「ああ……それは分かっているんだが……」
「たとえば《神託》で何か手がかりは得られなかったのですか?」
オレの問いにターダは力なくクビを振る。
「前にも言ったが、兄者に関する《神託》は族長の父しか詳しい事は知らんのだ」
「それではお兄さんの特徴となるものは何か無いのですか。たとえば他に例を見ないものを持たされていたとか……」
「それならあるぞ!」
あまり期待はしていない問いかけだったが、ここでターダは急に勢い込んで叫んだのでオレはちょっとばかり意表をつかれた。
どうやらこちらは自慢出来る話らしい。
ターダが元気になってくれるのなら、そこは付き合うしかないな。
あそこで狩りをするのが、部族の勇者、そして族長の条件というのだから、遊牧民と仲が良いはずがないのだが、相手が知性を持っているとなるといろいろ厄介だな。
動物が人間並みの知性を持つなどと言うのは、元の世界の常識では考えられないけど、こっちの世界ではそもそも脳みそすらない霊体が知性を持っている以上、そんな理屈は通じないのだ。
「それでその獣はどういう相手なのですか」
湿原に生息している動物と言ってもピンキリだ。
確かアフリカで世界遺産に認定されていた湿原では、ライオンもいればアフリカ象も住んでいる自然の宝庫だとN○Kで放送していたのを見た記憶がある。
そんな相手が知性を持ち、群れを形成していたりしたら、どう考えても勝ち目はないだろう。あいにくオレもターダも『勇者』というには程遠い存在なんだ。
ひょっとしたらガリバー旅行記のクライマックスのように、人間以上に知性があって、高貴な馬だったりするかもしれないけど、そんな相手だったらとても手出しなんかできないぞ。
「それなのだが――」
オレにとっては結構、深刻な問いだったけど、ターダもどこか悩んでいる様子を見せる。
「やつらは俺達が家畜とする動物、つまり馬や羊などとまるで異なる連中だ」
「もう少し細かく教えてもらえませんかね」
「かなり大きくて力も強いようだ。だから狩るのは優れた戦士でも命がけになる」
ええい。話をそんなに小出しにするのは辞めてくれ。
お互い命がかかっているんだぞ。
これまでの話からするとこの平原で家畜になっている動物ではないのは確実だけど、それだけでは範囲が広すぎる。
いや。待てよ。考えてみると遊牧民が家畜にしないと言う事は、ターダにとっても馴染みのない動物だということか。
そしてもちろんターダは過去に見た事も無いのは確実だ。そうだとすると――
「ひょっとするとターダもよく知らないのですか?」
「う……すまん」
ターダは申し訳なさそうに頭を下げる。
やっぱりそうか。遊牧民も絵ぐらいは描くだろうけど、そんなに写実的なものではないだろうから、外見については大ざっぱにしか知らないのだな。
遊牧民にとって仇敵と言ったところで、出会う事が殆ど無いのなら、現実の脅威としては敵対する部族か無法者、後は『風の欠片』のような野良精霊の方がずっと深刻だろう。
それに湿原に住んでいる動物は、その知性ある獣だけではないだろうから、軽々しく決めつけるのも危険だ。
「それでは彼らはいかなる神を崇拝しているんですか? やっぱり『悪鬼の湿原』に棲んでいるのだから、悪鬼を崇拝していたりするんでしょうか」
「いや……そういうわけでもないのだがな……」
今度もやっぱり歯切れが悪いけど、どうも『知ってはいるけど話したくない』ような雰囲気があるぞ。
遊牧民のタブーに関わる問題なのだろうか。
少なくとも『悪鬼』を崇拝しているわけではないのなら、宗教的には仇敵という事では無いはずだけど、同じ相手を崇拝していながら、はた目には些細な差違で殺し合いになったりもするからな。
この件でも深入りは難しそうだ。
仕方ない。湿原に棲んでいる相手については後回しにしよう。
そんなわけでオレはひとまずターダに釘を刺すことにした。
ターダは愚かではないが、以前に『風の欠片』とやり合ったときにように、そして何より一族を飛び出してここまでやってきた事から、かなり向こう見ずなところがあるからな。
「ひとつ聞きますけど、ターダの目的はあくまでも行方不明になったお兄さんの手がかりをつかむ事ですよね?」
「その通りだ」
「つまり『悪鬼の湿原』で狩りをするのは目的でない以上、戦いはなるだけ避けるべきです」
相手に知性があればオレの『調和』で暴力的な行動はなるだけ抑止出来るけど、万能ではないからな。
それにドラゴンには効果が無かったけど、同様のモンスターが他にいてもおかしくない。
戦いになるような真似は可能な限り避けるに越した事は無い。
「お前の言うことは分かるが、それでは逃げ回れと言うのか?」
「そうですよ。別に逃げる事は恥ではないでしょう」
土地に執着の無い遊牧民の場合、家畜を守るために命を賭ける事はあっても、不利な戦いを挑んだりはしないはずだ。
「それはその通りだが……」
「厳しい事を言わせてもらいますけど、ターダは自分でも戦士として未熟だと認めていたではありませんか。とにかく戦いは避けて、お兄さんの手がかりを探す事を優先しましょう」
「……分かった」
ターダは少しばかり残念そうだな。
たぶん自分でも無謀だとは思いつつも『悪鬼の湿原で狩りをした勇者』に憧れていたのだろう。
オレもその気持ちは分からないでもないが、ここで命を落としたらそれこそ無駄死にだ。
「あとお兄さんの手がかりを見つけるにしても、あの広い湿原を闇雲に探すのは無茶というものです」
「ああ……それは分かっているんだが……」
「たとえば《神託》で何か手がかりは得られなかったのですか?」
オレの問いにターダは力なくクビを振る。
「前にも言ったが、兄者に関する《神託》は族長の父しか詳しい事は知らんのだ」
「それではお兄さんの特徴となるものは何か無いのですか。たとえば他に例を見ないものを持たされていたとか……」
「それならあるぞ!」
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