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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第447話 パップス神の本音とは
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オレ達がパップス神の神殿に入ったとき、周囲の景色が一変した。
いきなりオレの周囲から人影が全て消えたのだ。
一緒にここまで来たヌリアやターダ、カウワイミ達もいつの間にかいなくなっていた。
「これはまさか?!」
こういう場合、何が起きたのか。
普通だったらワケも分からず驚愕するところだが、オレの場合はこんな展開に慣れてしまって、今さら驚きもしなくなった自分にちょっとばかり驚く。
オレは性別だけでなく、いろいろな意味でこの世界に順応してしまったものだな。
「ふうむ。そなたが『白き貴婦人』の英雄か。名は聞いていたが、さすが大陸で広く信仰される女神の英雄となると違うものだな」
その声に振り向くと、そこには三十代半ばで遊牧民とは一風違った服装をした、かなり大柄な男が立っていた。
「あなたはもしや……」
「我はパップス。この街の守護神だ」
思った通りこれがパップス神の化身というわけか。神殿に入った時に、この神の領域にオレを引き込んだわけだな。
今まで出会った神様の化身と比較しても、あまり変わらないな。
街の神は殆どの場合『その街における貴族の典型的な外見』をとるものらしいので、これは平均的なものなのだろう。
奇をてらった姿をされるよりはいいさ。
しかしこうやってパップス神がオレを招き入れたと言う事は、重要な話をするつもりなのは明らかだ。
まあ『結婚の要求』でも重要な話だから、とりあえず何を言われても対応出来るだけの心構えを持つとしよう。
「そなたの事はよく聞いておるぞ。この街に来る商人達がしばしば話題にしているからな。世に知られて一年にも満たない間に数多の偉業を成し遂げ、大陸中にその名を轟かせているそうではないか」
「それは……光栄です」
その話題にどれだけ尾ひれがついているか、想像するだに恐ろしいけどな。
それにオレはその商人達を怒らせる真似をしているわけで、今後はその評判がロクでもない話になるかもしれない。
「そなたがここに来たのは、この地で行われている取引に関するものだな」
やっぱり知っていたか。まあ当たり前の話だな。
パップス神がこの街で起きている事は全部、お見通しなのは分かっている。
ただし神様と言えど、人間のやることには直接介入できず、あくまでも神としての権能を使い、信徒を通じてしか影響力を行使出来ないのがこの世界の決まりだ。
だから以前に出会ったバラストールの街の神はドラゴンに街が滅ぼされても、自分自身ではどうしようもなかった。
問題なのはこの神様が間違いなく状況を知っていた上で、何もせず手をこまねき黙っていた理由だ。
これが神様の意志を欲にかられた信徒達が無視しているのならまだいいけど、神さまも捧げられるお布施や信仰の精力に目がくらんでいたら、困った事になる。
「遊牧民の長となる試練の対象となっている獅子が既に絶滅し、その身体が高値……いえ。法外な値で取引されているのはあなたもとっくにご存じのはずです」
「もちろんだとも」
パップス神はごく平然と答える。
思っていた通りだが、ますます嫌な予感が高まってくるな。
「それではなぜ放置しているのですか? あなたでしたら――」
「そのような事は我の神命ではない。我が神命はこの地を守り、このパップスの街が遊牧民達にとっての中立的な聖地とすることだからな」
神様のくせに何とも杓子定規な――いや。神様だからこそルールには無駄に忠実なのか?
いや。違うぞ。
パップス神からは現場に関する懸念や深刻感がまるで漂ってこないだけならいい。
しかしむしろこうなることを望んでいるかのように、そんな雰囲気が感じられるのだ。
下手をすればこのパップスが怒りに狩られた遊牧民に攻め込まれかねない、この現場をむしろ肯定している?
もしかするとそんな事はおきないと高をくくっていて、ただお布施が増えた事を喜んでいるだけなのか。
それとももっと深刻な何かがあるのか。
「ひょっとして……あなたはこのパップスだけでなく、遊牧民達の全てひっくり返されることを望んでいるのですか?」
「まさか。先ほど言ったように、我はあくまでも父より与えられし神命には忠実だ。故にそのような事を考えるなどあり得ない」
そうだ。これまでに何度も神様には出会ってきたが、いずれも神としての使命そのものには従っていて、信徒に崇拝の見返りとして力を与えてきたはずだ。
だけどそれを望んでいない神様がいたとしたらどうだ。
与えられた神命に不満を持ちつつ、それに抗う術を持たず、長年に渡り神を続けた結果として、解放されるために全てを破壊してしまいたいと思っても不思議では無い。
多神教の神様が人間と殆ど変わらない感情と知性を持つなら、同じように現場への不満から何もかもを無茶苦茶にしようとする神様がいるかもしれないじゃないか。
そんな神様の破滅願望と人間の欲望が絡み合ってしまった事の現れが、この街に起きている出来事の正体だとしたら?
オレは思わず背筋が寒くならずにはいられなかった。
いきなりオレの周囲から人影が全て消えたのだ。
一緒にここまで来たヌリアやターダ、カウワイミ達もいつの間にかいなくなっていた。
「これはまさか?!」
こういう場合、何が起きたのか。
普通だったらワケも分からず驚愕するところだが、オレの場合はこんな展開に慣れてしまって、今さら驚きもしなくなった自分にちょっとばかり驚く。
オレは性別だけでなく、いろいろな意味でこの世界に順応してしまったものだな。
「ふうむ。そなたが『白き貴婦人』の英雄か。名は聞いていたが、さすが大陸で広く信仰される女神の英雄となると違うものだな」
その声に振り向くと、そこには三十代半ばで遊牧民とは一風違った服装をした、かなり大柄な男が立っていた。
「あなたはもしや……」
「我はパップス。この街の守護神だ」
思った通りこれがパップス神の化身というわけか。神殿に入った時に、この神の領域にオレを引き込んだわけだな。
今まで出会った神様の化身と比較しても、あまり変わらないな。
街の神は殆どの場合『その街における貴族の典型的な外見』をとるものらしいので、これは平均的なものなのだろう。
奇をてらった姿をされるよりはいいさ。
しかしこうやってパップス神がオレを招き入れたと言う事は、重要な話をするつもりなのは明らかだ。
まあ『結婚の要求』でも重要な話だから、とりあえず何を言われても対応出来るだけの心構えを持つとしよう。
「そなたの事はよく聞いておるぞ。この街に来る商人達がしばしば話題にしているからな。世に知られて一年にも満たない間に数多の偉業を成し遂げ、大陸中にその名を轟かせているそうではないか」
「それは……光栄です」
その話題にどれだけ尾ひれがついているか、想像するだに恐ろしいけどな。
それにオレはその商人達を怒らせる真似をしているわけで、今後はその評判がロクでもない話になるかもしれない。
「そなたがここに来たのは、この地で行われている取引に関するものだな」
やっぱり知っていたか。まあ当たり前の話だな。
パップス神がこの街で起きている事は全部、お見通しなのは分かっている。
ただし神様と言えど、人間のやることには直接介入できず、あくまでも神としての権能を使い、信徒を通じてしか影響力を行使出来ないのがこの世界の決まりだ。
だから以前に出会ったバラストールの街の神はドラゴンに街が滅ぼされても、自分自身ではどうしようもなかった。
問題なのはこの神様が間違いなく状況を知っていた上で、何もせず手をこまねき黙っていた理由だ。
これが神様の意志を欲にかられた信徒達が無視しているのならまだいいけど、神さまも捧げられるお布施や信仰の精力に目がくらんでいたら、困った事になる。
「遊牧民の長となる試練の対象となっている獅子が既に絶滅し、その身体が高値……いえ。法外な値で取引されているのはあなたもとっくにご存じのはずです」
「もちろんだとも」
パップス神はごく平然と答える。
思っていた通りだが、ますます嫌な予感が高まってくるな。
「それではなぜ放置しているのですか? あなたでしたら――」
「そのような事は我の神命ではない。我が神命はこの地を守り、このパップスの街が遊牧民達にとっての中立的な聖地とすることだからな」
神様のくせに何とも杓子定規な――いや。神様だからこそルールには無駄に忠実なのか?
いや。違うぞ。
パップス神からは現場に関する懸念や深刻感がまるで漂ってこないだけならいい。
しかしむしろこうなることを望んでいるかのように、そんな雰囲気が感じられるのだ。
下手をすればこのパップスが怒りに狩られた遊牧民に攻め込まれかねない、この現場をむしろ肯定している?
もしかするとそんな事はおきないと高をくくっていて、ただお布施が増えた事を喜んでいるだけなのか。
それとももっと深刻な何かがあるのか。
「ひょっとして……あなたはこのパップスだけでなく、遊牧民達の全てひっくり返されることを望んでいるのですか?」
「まさか。先ほど言ったように、我はあくまでも父より与えられし神命には忠実だ。故にそのような事を考えるなどあり得ない」
そうだ。これまでに何度も神様には出会ってきたが、いずれも神としての使命そのものには従っていて、信徒に崇拝の見返りとして力を与えてきたはずだ。
だけどそれを望んでいない神様がいたとしたらどうだ。
与えられた神命に不満を持ちつつ、それに抗う術を持たず、長年に渡り神を続けた結果として、解放されるために全てを破壊してしまいたいと思っても不思議では無い。
多神教の神様が人間と殆ど変わらない感情と知性を持つなら、同じように現場への不満から何もかもを無茶苦茶にしようとする神様がいるかもしれないじゃないか。
そんな神様の破滅願望と人間の欲望が絡み合ってしまった事の現れが、この街に起きている出来事の正体だとしたら?
オレは思わず背筋が寒くならずにはいられなかった。
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