447 / 1,316
第13章 広大な平原の中で起きていた事
第447話 パップス神の本音とは
しおりを挟む
オレ達がパップス神の神殿に入ったとき、周囲の景色が一変した。
いきなりオレの周囲から人影が全て消えたのだ。
一緒にここまで来たヌリアやターダ、カウワイミ達もいつの間にかいなくなっていた。
「これはまさか?!」
こういう場合、何が起きたのか。
普通だったらワケも分からず驚愕するところだが、オレの場合はこんな展開に慣れてしまって、今さら驚きもしなくなった自分にちょっとばかり驚く。
オレは性別だけでなく、いろいろな意味でこの世界に順応してしまったものだな。
「ふうむ。そなたが『白き貴婦人』の英雄か。名は聞いていたが、さすが大陸で広く信仰される女神の英雄となると違うものだな」
その声に振り向くと、そこには三十代半ばで遊牧民とは一風違った服装をした、かなり大柄な男が立っていた。
「あなたはもしや……」
「我はパップス。この街の守護神だ」
思った通りこれがパップス神の化身というわけか。神殿に入った時に、この神の領域にオレを引き込んだわけだな。
今まで出会った神様の化身と比較しても、あまり変わらないな。
街の神は殆どの場合『その街における貴族の典型的な外見』をとるものらしいので、これは平均的なものなのだろう。
奇をてらった姿をされるよりはいいさ。
しかしこうやってパップス神がオレを招き入れたと言う事は、重要な話をするつもりなのは明らかだ。
まあ『結婚の要求』でも重要な話だから、とりあえず何を言われても対応出来るだけの心構えを持つとしよう。
「そなたの事はよく聞いておるぞ。この街に来る商人達がしばしば話題にしているからな。世に知られて一年にも満たない間に数多の偉業を成し遂げ、大陸中にその名を轟かせているそうではないか」
「それは……光栄です」
その話題にどれだけ尾ひれがついているか、想像するだに恐ろしいけどな。
それにオレはその商人達を怒らせる真似をしているわけで、今後はその評判がロクでもない話になるかもしれない。
「そなたがここに来たのは、この地で行われている取引に関するものだな」
やっぱり知っていたか。まあ当たり前の話だな。
パップス神がこの街で起きている事は全部、お見通しなのは分かっている。
ただし神様と言えど、人間のやることには直接介入できず、あくまでも神としての権能を使い、信徒を通じてしか影響力を行使出来ないのがこの世界の決まりだ。
だから以前に出会ったバラストールの街の神はドラゴンに街が滅ぼされても、自分自身ではどうしようもなかった。
問題なのはこの神様が間違いなく状況を知っていた上で、何もせず手をこまねき黙っていた理由だ。
これが神様の意志を欲にかられた信徒達が無視しているのならまだいいけど、神さまも捧げられるお布施や信仰の精力に目がくらんでいたら、困った事になる。
「遊牧民の長となる試練の対象となっている獅子が既に絶滅し、その身体が高値……いえ。法外な値で取引されているのはあなたもとっくにご存じのはずです」
「もちろんだとも」
パップス神はごく平然と答える。
思っていた通りだが、ますます嫌な予感が高まってくるな。
「それではなぜ放置しているのですか? あなたでしたら――」
「そのような事は我の神命ではない。我が神命はこの地を守り、このパップスの街が遊牧民達にとっての中立的な聖地とすることだからな」
神様のくせに何とも杓子定規な――いや。神様だからこそルールには無駄に忠実なのか?
いや。違うぞ。
パップス神からは現場に関する懸念や深刻感がまるで漂ってこないだけならいい。
しかしむしろこうなることを望んでいるかのように、そんな雰囲気が感じられるのだ。
下手をすればこのパップスが怒りに狩られた遊牧民に攻め込まれかねない、この現場をむしろ肯定している?
もしかするとそんな事はおきないと高をくくっていて、ただお布施が増えた事を喜んでいるだけなのか。
それとももっと深刻な何かがあるのか。
「ひょっとして……あなたはこのパップスだけでなく、遊牧民達の全てひっくり返されることを望んでいるのですか?」
「まさか。先ほど言ったように、我はあくまでも父より与えられし神命には忠実だ。故にそのような事を考えるなどあり得ない」
そうだ。これまでに何度も神様には出会ってきたが、いずれも神としての使命そのものには従っていて、信徒に崇拝の見返りとして力を与えてきたはずだ。
だけどそれを望んでいない神様がいたとしたらどうだ。
与えられた神命に不満を持ちつつ、それに抗う術を持たず、長年に渡り神を続けた結果として、解放されるために全てを破壊してしまいたいと思っても不思議では無い。
多神教の神様が人間と殆ど変わらない感情と知性を持つなら、同じように現場への不満から何もかもを無茶苦茶にしようとする神様がいるかもしれないじゃないか。
そんな神様の破滅願望と人間の欲望が絡み合ってしまった事の現れが、この街に起きている出来事の正体だとしたら?
オレは思わず背筋が寒くならずにはいられなかった。
いきなりオレの周囲から人影が全て消えたのだ。
一緒にここまで来たヌリアやターダ、カウワイミ達もいつの間にかいなくなっていた。
「これはまさか?!」
こういう場合、何が起きたのか。
普通だったらワケも分からず驚愕するところだが、オレの場合はこんな展開に慣れてしまって、今さら驚きもしなくなった自分にちょっとばかり驚く。
オレは性別だけでなく、いろいろな意味でこの世界に順応してしまったものだな。
「ふうむ。そなたが『白き貴婦人』の英雄か。名は聞いていたが、さすが大陸で広く信仰される女神の英雄となると違うものだな」
その声に振り向くと、そこには三十代半ばで遊牧民とは一風違った服装をした、かなり大柄な男が立っていた。
「あなたはもしや……」
「我はパップス。この街の守護神だ」
思った通りこれがパップス神の化身というわけか。神殿に入った時に、この神の領域にオレを引き込んだわけだな。
今まで出会った神様の化身と比較しても、あまり変わらないな。
街の神は殆どの場合『その街における貴族の典型的な外見』をとるものらしいので、これは平均的なものなのだろう。
奇をてらった姿をされるよりはいいさ。
しかしこうやってパップス神がオレを招き入れたと言う事は、重要な話をするつもりなのは明らかだ。
まあ『結婚の要求』でも重要な話だから、とりあえず何を言われても対応出来るだけの心構えを持つとしよう。
「そなたの事はよく聞いておるぞ。この街に来る商人達がしばしば話題にしているからな。世に知られて一年にも満たない間に数多の偉業を成し遂げ、大陸中にその名を轟かせているそうではないか」
「それは……光栄です」
その話題にどれだけ尾ひれがついているか、想像するだに恐ろしいけどな。
それにオレはその商人達を怒らせる真似をしているわけで、今後はその評判がロクでもない話になるかもしれない。
「そなたがここに来たのは、この地で行われている取引に関するものだな」
やっぱり知っていたか。まあ当たり前の話だな。
パップス神がこの街で起きている事は全部、お見通しなのは分かっている。
ただし神様と言えど、人間のやることには直接介入できず、あくまでも神としての権能を使い、信徒を通じてしか影響力を行使出来ないのがこの世界の決まりだ。
だから以前に出会ったバラストールの街の神はドラゴンに街が滅ぼされても、自分自身ではどうしようもなかった。
問題なのはこの神様が間違いなく状況を知っていた上で、何もせず手をこまねき黙っていた理由だ。
これが神様の意志を欲にかられた信徒達が無視しているのならまだいいけど、神さまも捧げられるお布施や信仰の精力に目がくらんでいたら、困った事になる。
「遊牧民の長となる試練の対象となっている獅子が既に絶滅し、その身体が高値……いえ。法外な値で取引されているのはあなたもとっくにご存じのはずです」
「もちろんだとも」
パップス神はごく平然と答える。
思っていた通りだが、ますます嫌な予感が高まってくるな。
「それではなぜ放置しているのですか? あなたでしたら――」
「そのような事は我の神命ではない。我が神命はこの地を守り、このパップスの街が遊牧民達にとっての中立的な聖地とすることだからな」
神様のくせに何とも杓子定規な――いや。神様だからこそルールには無駄に忠実なのか?
いや。違うぞ。
パップス神からは現場に関する懸念や深刻感がまるで漂ってこないだけならいい。
しかしむしろこうなることを望んでいるかのように、そんな雰囲気が感じられるのだ。
下手をすればこのパップスが怒りに狩られた遊牧民に攻め込まれかねない、この現場をむしろ肯定している?
もしかするとそんな事はおきないと高をくくっていて、ただお布施が増えた事を喜んでいるだけなのか。
それとももっと深刻な何かがあるのか。
「ひょっとして……あなたはこのパップスだけでなく、遊牧民達の全てひっくり返されることを望んでいるのですか?」
「まさか。先ほど言ったように、我はあくまでも父より与えられし神命には忠実だ。故にそのような事を考えるなどあり得ない」
そうだ。これまでに何度も神様には出会ってきたが、いずれも神としての使命そのものには従っていて、信徒に崇拝の見返りとして力を与えてきたはずだ。
だけどそれを望んでいない神様がいたとしたらどうだ。
与えられた神命に不満を持ちつつ、それに抗う術を持たず、長年に渡り神を続けた結果として、解放されるために全てを破壊してしまいたいと思っても不思議では無い。
多神教の神様が人間と殆ど変わらない感情と知性を持つなら、同じように現場への不満から何もかもを無茶苦茶にしようとする神様がいるかもしれないじゃないか。
そんな神様の破滅願望と人間の欲望が絡み合ってしまった事の現れが、この街に起きている出来事の正体だとしたら?
オレは思わず背筋が寒くならずにはいられなかった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる