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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第448話 神様の不満について
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元の世界の神話について思い返せば多神教の神様が、人間と同じく嫉妬や恨み、怒りなどで暴走する事はさして珍しい事ではない。
ひょっとするとパップス神も表向きはどうあれ、内心では激情に駆られているのではないだろうか。
「あなたは神命に逆らう事はできなくとも、その範囲内で最大限に遊牧民が困るように行動しているのではありませんか?」
遊牧民の生き様を決めた『定めし者』の掟が、時代の流れによる環境の変化と、それによって生まれた掟の隙により、今では遊牧民の枷になっているわけだが、このパップス神はそれを止めるどころか黙認、いや、ひょっとしたら奨励すらしているかもしれない。
「仮にそうだとして、そなたに何の関わりがあるのだ? このパップスは我が領域、我が身そのもの『白き貴婦人』の英雄たるそなたには関係なかろうが」
そうだ。確かにこのパップスはでもヌリアの寺院は遊牧民の諸神とは別の場所に建てられていて、明らかに『よそ者』扱いだった。
「遊牧民はそなたの主人たる『白き貴婦人』を崇拝などしておらぬ。信徒ではない以上、そなたが何もせずとも咎めなどあるまい」
「そんな事はどうでもいいのですよ」
遊牧民の言う『白き貴婦人』ことイロールは一応、オレの守護神だけど、あの女神が何をするつもりなのかなどまるで考えた事も無い。
「わたしの場合、相手がどの神を信仰しているかは関係ないのですよ」
「それはまた随分と変わり者なのだな」
「ええ。よく言われますよ」
「なるほど。だからこそ短期間でこれほどの高名を得たということか……しょせんは我ごときとは違うのだな」
むう。やはりパップス神はどこか自分を卑下している様子がうかがえるな。
しかしそれでも自分の信徒まで犠牲にするものなのだろうか。
「このままでパップスの住民はどうなるのですか?」
「しばらくすれば激発した遊牧民達によって、この街は攻められ蹂躙され、滅ぼされかねないというのだな」
神様の『しばらく』だと何年か何十年か分からないが、少なくともそれほど遠い将来だとはパップス神も思っていないのだろう。
「それを承知していながら、なぜこんな事を続けているのですか」
「神であろうと分かっていても止めようのない事はある。どれほど偉大な部族の守護者でも、滅びを止められない例は幾らでもある。我はそんな相手を大勢見てきたのだ」
この平原の遊牧民達もまた多くの部族が滅びているだろうからな。パップスの守護者として、そんな例は幾つも見てきたのだろう。
そしてオレが少し前に出会ったバラストールの街の神様もそうだった。
人間が欲に駆られて破滅に突き進むのは、神様であってもどうする事も出来ないのだ。
しかしそれでもこのパップス神の行動はどうにも納得出来ない。
「あなたはそれをむしろ望んでいるのではないですか? 少なくともこの街と共に滅びても構わないと思っているように見えます」
「その通りだと言ったらどうする?」
「もちろんわたしにはあなたをどうする事も出来ませんよ。しかしなぜご自身や崇拝する信徒達を危うくするのですか?」
「我などとは比較にもならぬほど恵まれたそなたには分かるまい……」
パップス神はここで力なくため息をつく。
望みもせずに女にされた挙げ句、行く先々で勝手に『恋人』を名乗られるわ、首輪をはめられて奴隷にされるわ、ドラゴンになめ回されるわととんでもない目にあってきたオレがそんなに羨ましいなら、是非とも代わって欲しいぐらいだ。
「あなたはいったい何に不満があるのです?」
「この地に巡礼に来る遊牧民どもは、我を内心では見下しているのだ」
「そんな事は――」
「やつらは我をずっと『定めし者』の真の息子ではないと考え、その血を引く自分達の方が気高いものだと思っている」
遊牧民のそれぞれの部族の始祖が『定めし者の子供』と言う事は、拾われた捨て子だったという伝説のあるパップス神は言わば『偉大な先祖の血を引いていない』と見なされるわけだな。
「そして何より、奴らは城壁の中に住んでいるものを軽蔑している」
広大な平原で遊牧生活を営んでいる遊牧民は、川の民などの定住民を見下し、日常的に略奪の対象にしていたのだったな。
その価値観で言えば、確かにパップスの街の住民とその神も遊牧民からすれば、自分達よりも下の存在と見下される事になるのか。
そうだよな。遊牧民はここに巡礼には来ても、別にパップスの信徒ではないから、敬意を払う義理もない。
嫌われている平原の風の神である『荒れ狂う者』ですら、遊牧民は信仰せずとも敬意は払い、その怒りをなだめていたのだからむしろパップス神の方が低い扱いなのか。
しかし何でも『聖地の守護者』を明白に侮蔑するものが大勢いるとも思えない。
「待ってください。そのように考えている遊牧民も中にはいるかもしれませんが、それは一部に過ぎないでしょう」
「そうかもしれん。しかし長年、我はかの者達に見下され続けてきたのだ。奴らにとっても必要な事をしているにも関わらず、感謝もされず『城壁の中にいる惰弱なもの』と見なされてきた気持ちが分かるのか?」
なるほど。この神はずっと自分の置かれた状況について不満を抱いていたのだな。
そしてその元凶である遊牧民達が掟によって苦しんでいるのを、積極的に手を貸す事まではしなくとも、黙認する事で報復しているのだ。
しかしそのやり方でパップス神は満足などしていないのだろう――当たり前だけど。
恐らく空しいだけに違いない。
そんな自分に嫌気がさして、何もかも終わらせてしまいたい気分なのか。
人間でもしばしば見られる話だけど、神様がそんな事になると何とも面倒臭い。
それをどうにかせねばならないオレが『恵まれている』などとは、とんでもない勘違いにも程があるけどな。
ひょっとするとパップス神も表向きはどうあれ、内心では激情に駆られているのではないだろうか。
「あなたは神命に逆らう事はできなくとも、その範囲内で最大限に遊牧民が困るように行動しているのではありませんか?」
遊牧民の生き様を決めた『定めし者』の掟が、時代の流れによる環境の変化と、それによって生まれた掟の隙により、今では遊牧民の枷になっているわけだが、このパップス神はそれを止めるどころか黙認、いや、ひょっとしたら奨励すらしているかもしれない。
「仮にそうだとして、そなたに何の関わりがあるのだ? このパップスは我が領域、我が身そのもの『白き貴婦人』の英雄たるそなたには関係なかろうが」
そうだ。確かにこのパップスはでもヌリアの寺院は遊牧民の諸神とは別の場所に建てられていて、明らかに『よそ者』扱いだった。
「遊牧民はそなたの主人たる『白き貴婦人』を崇拝などしておらぬ。信徒ではない以上、そなたが何もせずとも咎めなどあるまい」
「そんな事はどうでもいいのですよ」
遊牧民の言う『白き貴婦人』ことイロールは一応、オレの守護神だけど、あの女神が何をするつもりなのかなどまるで考えた事も無い。
「わたしの場合、相手がどの神を信仰しているかは関係ないのですよ」
「それはまた随分と変わり者なのだな」
「ええ。よく言われますよ」
「なるほど。だからこそ短期間でこれほどの高名を得たということか……しょせんは我ごときとは違うのだな」
むう。やはりパップス神はどこか自分を卑下している様子がうかがえるな。
しかしそれでも自分の信徒まで犠牲にするものなのだろうか。
「このままでパップスの住民はどうなるのですか?」
「しばらくすれば激発した遊牧民達によって、この街は攻められ蹂躙され、滅ぼされかねないというのだな」
神様の『しばらく』だと何年か何十年か分からないが、少なくともそれほど遠い将来だとはパップス神も思っていないのだろう。
「それを承知していながら、なぜこんな事を続けているのですか」
「神であろうと分かっていても止めようのない事はある。どれほど偉大な部族の守護者でも、滅びを止められない例は幾らでもある。我はそんな相手を大勢見てきたのだ」
この平原の遊牧民達もまた多くの部族が滅びているだろうからな。パップスの守護者として、そんな例は幾つも見てきたのだろう。
そしてオレが少し前に出会ったバラストールの街の神様もそうだった。
人間が欲に駆られて破滅に突き進むのは、神様であってもどうする事も出来ないのだ。
しかしそれでもこのパップス神の行動はどうにも納得出来ない。
「あなたはそれをむしろ望んでいるのではないですか? 少なくともこの街と共に滅びても構わないと思っているように見えます」
「その通りだと言ったらどうする?」
「もちろんわたしにはあなたをどうする事も出来ませんよ。しかしなぜご自身や崇拝する信徒達を危うくするのですか?」
「我などとは比較にもならぬほど恵まれたそなたには分かるまい……」
パップス神はここで力なくため息をつく。
望みもせずに女にされた挙げ句、行く先々で勝手に『恋人』を名乗られるわ、首輪をはめられて奴隷にされるわ、ドラゴンになめ回されるわととんでもない目にあってきたオレがそんなに羨ましいなら、是非とも代わって欲しいぐらいだ。
「あなたはいったい何に不満があるのです?」
「この地に巡礼に来る遊牧民どもは、我を内心では見下しているのだ」
「そんな事は――」
「やつらは我をずっと『定めし者』の真の息子ではないと考え、その血を引く自分達の方が気高いものだと思っている」
遊牧民のそれぞれの部族の始祖が『定めし者の子供』と言う事は、拾われた捨て子だったという伝説のあるパップス神は言わば『偉大な先祖の血を引いていない』と見なされるわけだな。
「そして何より、奴らは城壁の中に住んでいるものを軽蔑している」
広大な平原で遊牧生活を営んでいる遊牧民は、川の民などの定住民を見下し、日常的に略奪の対象にしていたのだったな。
その価値観で言えば、確かにパップスの街の住民とその神も遊牧民からすれば、自分達よりも下の存在と見下される事になるのか。
そうだよな。遊牧民はここに巡礼には来ても、別にパップスの信徒ではないから、敬意を払う義理もない。
嫌われている平原の風の神である『荒れ狂う者』ですら、遊牧民は信仰せずとも敬意は払い、その怒りをなだめていたのだからむしろパップス神の方が低い扱いなのか。
しかし何でも『聖地の守護者』を明白に侮蔑するものが大勢いるとも思えない。
「待ってください。そのように考えている遊牧民も中にはいるかもしれませんが、それは一部に過ぎないでしょう」
「そうかもしれん。しかし長年、我はかの者達に見下され続けてきたのだ。奴らにとっても必要な事をしているにも関わらず、感謝もされず『城壁の中にいる惰弱なもの』と見なされてきた気持ちが分かるのか?」
なるほど。この神はずっと自分の置かれた状況について不満を抱いていたのだな。
そしてその元凶である遊牧民達が掟によって苦しんでいるのを、積極的に手を貸す事まではしなくとも、黙認する事で報復しているのだ。
しかしそのやり方でパップス神は満足などしていないのだろう――当たり前だけど。
恐らく空しいだけに違いない。
そんな自分に嫌気がさして、何もかも終わらせてしまいたい気分なのか。
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