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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第456話 そして『英雄』の役目とは
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とにかく今は市長が同意してくれている内にどうにかするしかないな。
気が変わって反対になったら、また困った事になる。
しかし今までも人前で結構、派手な演説をかました事はあるけど、今さらまた何か気の利いた事を話すとなると結構、恥ずかしいな。
「それではしばらくお待ち下さい」
そう言って市長はひとまず部屋から出て行く。
一応は協力が得られたようで、ひとまず胸をなで下ろすべきだろうか。
しかしヌリアの時といい、ここの連中はどうも表向きは、真相を明かすのに反対のように振る舞いつつも、オレがあくまでも実行すると主張すると協力してはくれる。
ひょっとして連中はそれを待ち望んでいたのか?
関わっている誰もがヤバい事を認識しつつ、反発を恐れて言い出せず、それで誰が言い出すかのチキンゲームになっていたのかもしれない。
そんな事を考えていると、周囲の空気が一変する。
つい先ほどのいろいろな献上物が雑多に並べられた、豊かであっても統一性と品の無い部屋が、飾り気は少ないがどこか気品を感じさせる部屋へと変わったのだ。
いや。部屋が変わったのでは無い。
たぶんオレの精神がまたパップス神の領域へと入ったのだろう。
そしていつの間にやら部屋の中には、さっきと同じパップス神が姿を見せていた。
「今度は何の御用ですか?」
「なあに。いま信徒達の魂を我が領域に呼んだのだ」
「ええ? そんな事が出来るのですか?」
これにはちょっとばかり驚いた。
そりゃパップス神の信徒はこの街の定住者、せいぜい数千人だろうけどそれでもいきなりそんなに招集をかけられるものなのだろうか。
「魂を呼んだと言っても、何か出来るワケでも無い。ただ単に招集をかけただけだし、本人が付き合う気がなければそれまでだ。本来ならば年に一度、このパップスが建立された大聖日でのみ行う事だが今日は特別だ」
つまりここに呼ばれたという信徒達は、先ほどのオレと同じく、精神だけが神の領域に集まってきているに違いない。
さすがに街の神様だけあって、自分の領域限定ではかなり強い力が振るえるようだな。
一般人からすれば小さくとも神なのだから、桁違いの存在だとよく分かる。
それでも悩んで、何もかも捨ててしまいたくなるのだから、そのあたりは人間と変わらないものだ。
「さあこちらに来るがいい。皆が我らを待っている」
ついさっき市長から『神様の愛人』扱いされた事を考えると、一緒に行くのはちょっとばかり躊躇するが、いきなり迫ってくるわけでもないのでここは付き合うしかないか。
そんなわけでパップス神に同行すると、神殿の大広間にて集まった信徒達――厳密に言えば神の招集に応じた魂――の前に案内される。
ざっと見ただけでも千人以上はいるだろうか。
そこにパップス神が姿を見せると皆は一斉に跪いて敬意を示す。
どうやらオレが特別に何かする必要は無いと思って、少し安堵したのだが、次にパップス神は思わぬ言葉を発した。
「さあ。そなたが成すべき事をするがいい」
「え? どういうことです?」
「そなたが先ほど我が大司祭に対して大見得を切った言葉は我も聞いているぞ。それを実行するべきだと言っているのだ」
確かにオレが皆に向けて宣言すると言いましたけど、ここにいる人達は『神様の声』を聞くために集まったんでしょうが。
「ここまでお膳立てを整えたのですから、あなたが実行するのではないのですか? 何と言ってもこの地の神様なのですから」
「残念だが神であるからこそ、その声が届く者は限られている。人の身であるそなたならば全員に声を届かせることが出来るのだ」
「わたしはあなたの信徒でも無いのによろしいのですか?」
「神でも信徒でも無いからこそ出来る事もある。そういう話を聞いた事はないかね?」
確かに神様が良く出てくる昔話の類いでも、明らかにその神様の信者では無い子供がちょっとばかり知恵を働かせて、神様でもどうしようもなかった危機を乗り切ったりするけど、今はそういう話じゃないだろう。
いや。たぶんここで今のオレが果たすべき役割は元の世界で言えば『業績がやばい会社が引き入れた社外取締役』みたいなものらしい。
元の世界で業績が傾いた会社が社外から取締役を入れて、それにより業績が劇的に改善したことがしばしばあった。
それではその社外から来た人間は、それまで誰も思いつかない凄いことをしたのかといえばそうでもなく、ほとんどが『不採算事情の整理』とか『似通った製品ラインナップの削減』とか『一部下請けの切り捨て』などなど、ぶっちゃけ思いつくだけなら誰でもできるものだったそうだ。
ただしそれを元からいた経営陣はいろいろなしがらみから、実行できずズルズルと採算を悪化させるばかりだったので、社外から来た何のしがらみもない相手に実行してもらうことになったらしい。
つまりこいつらは誰もが泥を被るのを嫌がって『状況が次第に悪化していくのをただ眺めていくだけ』という『悪い意味での現状維持』をやっていたところに、このオレ――『白き貴婦人の英雄』――という、この地に何のしがらみもない異分子が現れたので、喜んで全部ひっかぶせようという魂胆なのだ。
まったく神様から司祭にいたるまで、この『聖なる街』にいるのは本当に人間臭い連中ばっかりだ。
もっとも『聖戦』でも掲げて、自分たちが善を為していると信じ込みつつ異教徒を迫害するような連中に比べれば、オレの言葉通りにしてくれるだけマシだと思うしか無いか。
気が変わって反対になったら、また困った事になる。
しかし今までも人前で結構、派手な演説をかました事はあるけど、今さらまた何か気の利いた事を話すとなると結構、恥ずかしいな。
「それではしばらくお待ち下さい」
そう言って市長はひとまず部屋から出て行く。
一応は協力が得られたようで、ひとまず胸をなで下ろすべきだろうか。
しかしヌリアの時といい、ここの連中はどうも表向きは、真相を明かすのに反対のように振る舞いつつも、オレがあくまでも実行すると主張すると協力してはくれる。
ひょっとして連中はそれを待ち望んでいたのか?
関わっている誰もがヤバい事を認識しつつ、反発を恐れて言い出せず、それで誰が言い出すかのチキンゲームになっていたのかもしれない。
そんな事を考えていると、周囲の空気が一変する。
つい先ほどのいろいろな献上物が雑多に並べられた、豊かであっても統一性と品の無い部屋が、飾り気は少ないがどこか気品を感じさせる部屋へと変わったのだ。
いや。部屋が変わったのでは無い。
たぶんオレの精神がまたパップス神の領域へと入ったのだろう。
そしていつの間にやら部屋の中には、さっきと同じパップス神が姿を見せていた。
「今度は何の御用ですか?」
「なあに。いま信徒達の魂を我が領域に呼んだのだ」
「ええ? そんな事が出来るのですか?」
これにはちょっとばかり驚いた。
そりゃパップス神の信徒はこの街の定住者、せいぜい数千人だろうけどそれでもいきなりそんなに招集をかけられるものなのだろうか。
「魂を呼んだと言っても、何か出来るワケでも無い。ただ単に招集をかけただけだし、本人が付き合う気がなければそれまでだ。本来ならば年に一度、このパップスが建立された大聖日でのみ行う事だが今日は特別だ」
つまりここに呼ばれたという信徒達は、先ほどのオレと同じく、精神だけが神の領域に集まってきているに違いない。
さすがに街の神様だけあって、自分の領域限定ではかなり強い力が振るえるようだな。
一般人からすれば小さくとも神なのだから、桁違いの存在だとよく分かる。
それでも悩んで、何もかも捨ててしまいたくなるのだから、そのあたりは人間と変わらないものだ。
「さあこちらに来るがいい。皆が我らを待っている」
ついさっき市長から『神様の愛人』扱いされた事を考えると、一緒に行くのはちょっとばかり躊躇するが、いきなり迫ってくるわけでもないのでここは付き合うしかないか。
そんなわけでパップス神に同行すると、神殿の大広間にて集まった信徒達――厳密に言えば神の招集に応じた魂――の前に案内される。
ざっと見ただけでも千人以上はいるだろうか。
そこにパップス神が姿を見せると皆は一斉に跪いて敬意を示す。
どうやらオレが特別に何かする必要は無いと思って、少し安堵したのだが、次にパップス神は思わぬ言葉を発した。
「さあ。そなたが成すべき事をするがいい」
「え? どういうことです?」
「そなたが先ほど我が大司祭に対して大見得を切った言葉は我も聞いているぞ。それを実行するべきだと言っているのだ」
確かにオレが皆に向けて宣言すると言いましたけど、ここにいる人達は『神様の声』を聞くために集まったんでしょうが。
「ここまでお膳立てを整えたのですから、あなたが実行するのではないのですか? 何と言ってもこの地の神様なのですから」
「残念だが神であるからこそ、その声が届く者は限られている。人の身であるそなたならば全員に声を届かせることが出来るのだ」
「わたしはあなたの信徒でも無いのによろしいのですか?」
「神でも信徒でも無いからこそ出来る事もある。そういう話を聞いた事はないかね?」
確かに神様が良く出てくる昔話の類いでも、明らかにその神様の信者では無い子供がちょっとばかり知恵を働かせて、神様でもどうしようもなかった危機を乗り切ったりするけど、今はそういう話じゃないだろう。
いや。たぶんここで今のオレが果たすべき役割は元の世界で言えば『業績がやばい会社が引き入れた社外取締役』みたいなものらしい。
元の世界で業績が傾いた会社が社外から取締役を入れて、それにより業績が劇的に改善したことがしばしばあった。
それではその社外から来た人間は、それまで誰も思いつかない凄いことをしたのかといえばそうでもなく、ほとんどが『不採算事情の整理』とか『似通った製品ラインナップの削減』とか『一部下請けの切り捨て』などなど、ぶっちゃけ思いつくだけなら誰でもできるものだったそうだ。
ただしそれを元からいた経営陣はいろいろなしがらみから、実行できずズルズルと採算を悪化させるばかりだったので、社外から来た何のしがらみもない相手に実行してもらうことになったらしい。
つまりこいつらは誰もが泥を被るのを嫌がって『状況が次第に悪化していくのをただ眺めていくだけ』という『悪い意味での現状維持』をやっていたところに、このオレ――『白き貴婦人の英雄』――という、この地に何のしがらみもない異分子が現れたので、喜んで全部ひっかぶせようという魂胆なのだ。
まったく神様から司祭にいたるまで、この『聖なる街』にいるのは本当に人間臭い連中ばっかりだ。
もっとも『聖戦』でも掲げて、自分たちが善を為していると信じ込みつつ異教徒を迫害するような連中に比べれば、オレの言葉通りにしてくれるだけマシだと思うしか無いか。
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