異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
464 / 1,316
第14章 拳の王

第464話 ビネースの目的地とは

しおりを挟む
 ビネースが極めて優秀な能力の持ち主であると同時に、その思想信条と宗教が行く先々で問題を引き起こしそうなものであり、なおかつ本人がそれを自覚しないどころか、たぶん正反対に『争いを無くす』事だと思っているところまでは間違い無い。
 こうなるとどうにも放っておけないのが、オレのサガだな。
 あと興味が抑えられないので、ついついクビを突っ込んでしまうという事でもあるのだが。

「それではしばらくわたしもお付き合いしましょう」
「よろしいのですか? 助力を申し出たのはこちらの方なのですけど」
「ええ。気にしないで下さい。あなたの神を癒やしたというイロールも別に報酬が望みではなかったと思いますよ」

 その伝説が本当だとしたらの話だけどな。

「ありがとうございます。それであなたのお名前は?」
「……アルタシャと呼んで下さい」

 何というか同行する相手に対して、ここで敢えて『偽名の偽名』を名乗るのも不誠実な気がしてしまう。
 だけどビネースがイロールと繋がりが深いのならば、オレの名前は聞いていて当然だろうし、たぶん偽者がはびこっている事も聞いているだろう。
 もしも偽者と思われたら、それも仕方ないだろう。

「そうですか。分かりました」

 うん? ビネースは随分とアッサリと受け入れたな。

「あのう? わたしの名を聞いてどう思われました?」
「初めて聞くお名前ですけど、どうかされましたか」

 ああそうか。ビネースは信徒がごく少数しかいない、小さな共同体で半ば隔離されて暮らしていたんだった。
 それでは外部との付き合いも限定的だろうから、せいぜい数ヶ月で名が広まったオレの情報も届いていないのだな。
 ちょっとばかり残念な気もするが、ビネースがオレの事を知らないなら気楽な付き合いが出来ると言う事でもある。

「それでは少し時間を取らせて下さい」

 そう言ってビネースは先ほど自分が叩きのめした山賊達の武器を一つ一つへし折り、また叩き潰す。

「う……うぐう……」

 山賊の中でオレの『応急手当』を受け、意識を取り戻した奴らもいた様子だが、口惜しげに自分達の武器が破壊されているのを見ている。

「これでお前達も武器を持つことの愚かしさが分かっただろう。これに懲りたら武器を捨てて平和な生き方をするのだぞ」

 本当にそれで心を入れ替えて真人間になってくれればいいのだけど、世の中がそんなに甘いワケが無い。
 もっともビネースもそこまで夢想家というワケでもなく、あくまでも『そうなってくれたらいい』ぐらいの意識だろうけど。

「では参りましょうか。我が次の目的地はすぐ近くです」

 そう言ってビネースはキビキビと歩き出すので、オレもついていく。
 その歩き方を見ると、素人目にも無駄な動きがまるでなく、長旅に関してもかなりの訓練を受けている事がうかがえるよ。
 オレの場合は魔法で脚力を強化して移動力を高めているけど、ビネースはそんな事を気にせず普通に歩いているだけらしい。
 たぶんひとり旅なのが当たり前なので、そんな事を考えた事もないようだ。
 ビネースは個人としての戦闘能力は桁違いだけど、集団戦闘にはまったく向いていないな。
 ガイザーの信徒達は幼い頃から共同体で集団行動をしているのに、戦闘に関してはまるで集団戦が考慮されていないというもの、かなり興味深いところがある。

「そこには何があるのですか?」
「かつてはそこにガイザーに捧げられた寺院があったのですが……」

 ここでビネースは痛ましそうな表情を浮かべる。

「信徒が減ったので寺院が維持出来なくなってしまったのですか?」
「それならばまだよいのですが、数世代前にその近辺で戦争が起きたとき、どうにかそれを食い止めようとして、双方から攻められ寺院が破壊されてしまったそうです」

 そういうことですか。残念ながらこの世界では『反戦運動』の市民権などないからな。
 しかもガイザーは戦神系の信徒からは嫌われているから、この時とばかりに目の敵にされて戦争のドサクサで攻撃されたのだろう。
 似たような形で、戦争始め暴力的な出来事が巻き起こる度に、ガイザーの信徒は踏みつぶされているのかもしれない。
 引きこもって信仰を細々と守っているだけならまだしも、武器を取って戦争が起きれば黙ってはいられないのだから、何とも過酷な信仰だな。
 そしてそれからしばらくビネースと共に歩き続けると、山奥の小さな谷の中に廃虚の広がる場所についた。

「ここが目的の場所です」

 ビネースはそういって目を細め、谷の奥を指し示す。
 これが寺院の跡だとすると、谷の入り口に土塁を設けてそこを砦にしたように思えるな。彼が育ったのもこれに近い環境だったのだろう。
 彼らの主張や行動はともかく、こういうやり方で周囲とは一線を画した価値観や宗教観を抱いている小集団となると、敵視とまではいかなくとも不信感を抱かれてしまうだろうな。
 たぶんそれを承知の上で、ガイザーの信徒も世間から敢えて距離をおいているに違いない。
 しかしこの廃虚を見る限り、ここに残って生活をしている人間はいないようだが、ビネースは何をするのだろうか。
 ビネースは台座の石垣だけが残っている建物の跡に足を踏みいれ、そこで祈りを捧げ始める。
 このとき『魔法眼』で魔力を知覚するオレの目には、ビネースの鍛え上げられた肉体から、何かが立ち上り始めているのが見えていた。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...