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第14章 拳の王
第464話 ビネースの目的地とは
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ビネースが極めて優秀な能力の持ち主であると同時に、その思想信条と宗教が行く先々で問題を引き起こしそうなものであり、なおかつ本人がそれを自覚しないどころか、たぶん正反対に『争いを無くす』事だと思っているところまでは間違い無い。
こうなるとどうにも放っておけないのが、オレのサガだな。
あと興味が抑えられないので、ついついクビを突っ込んでしまうという事でもあるのだが。
「それではしばらくわたしもお付き合いしましょう」
「よろしいのですか? 助力を申し出たのはこちらの方なのですけど」
「ええ。気にしないで下さい。あなたの神を癒やしたというイロールも別に報酬が望みではなかったと思いますよ」
その伝説が本当だとしたらの話だけどな。
「ありがとうございます。それであなたのお名前は?」
「……アルタシャと呼んで下さい」
何というか同行する相手に対して、ここで敢えて『偽名の偽名』を名乗るのも不誠実な気がしてしまう。
だけどビネースがイロールと繋がりが深いのならば、オレの名前は聞いていて当然だろうし、たぶん偽者がはびこっている事も聞いているだろう。
もしも偽者と思われたら、それも仕方ないだろう。
「そうですか。分かりました」
うん? ビネースは随分とアッサリと受け入れたな。
「あのう? わたしの名を聞いてどう思われました?」
「初めて聞くお名前ですけど、どうかされましたか」
ああそうか。ビネースは信徒がごく少数しかいない、小さな共同体で半ば隔離されて暮らしていたんだった。
それでは外部との付き合いも限定的だろうから、せいぜい数ヶ月で名が広まったオレの情報も届いていないのだな。
ちょっとばかり残念な気もするが、ビネースがオレの事を知らないなら気楽な付き合いが出来ると言う事でもある。
「それでは少し時間を取らせて下さい」
そう言ってビネースは先ほど自分が叩きのめした山賊達の武器を一つ一つへし折り、また叩き潰す。
「う……うぐう……」
山賊の中でオレの『応急手当』を受け、意識を取り戻した奴らもいた様子だが、口惜しげに自分達の武器が破壊されているのを見ている。
「これでお前達も武器を持つことの愚かしさが分かっただろう。これに懲りたら武器を捨てて平和な生き方をするのだぞ」
本当にそれで心を入れ替えて真人間になってくれればいいのだけど、世の中がそんなに甘いワケが無い。
もっともビネースもそこまで夢想家というワケでもなく、あくまでも『そうなってくれたらいい』ぐらいの意識だろうけど。
「では参りましょうか。我が次の目的地はすぐ近くです」
そう言ってビネースはキビキビと歩き出すので、オレもついていく。
その歩き方を見ると、素人目にも無駄な動きがまるでなく、長旅に関してもかなりの訓練を受けている事がうかがえるよ。
オレの場合は魔法で脚力を強化して移動力を高めているけど、ビネースはそんな事を気にせず普通に歩いているだけらしい。
たぶんひとり旅なのが当たり前なので、そんな事を考えた事もないようだ。
ビネースは個人としての戦闘能力は桁違いだけど、集団戦闘にはまったく向いていないな。
ガイザーの信徒達は幼い頃から共同体で集団行動をしているのに、戦闘に関してはまるで集団戦が考慮されていないというもの、かなり興味深いところがある。
「そこには何があるのですか?」
「かつてはそこにガイザーに捧げられた寺院があったのですが……」
ここでビネースは痛ましそうな表情を浮かべる。
「信徒が減ったので寺院が維持出来なくなってしまったのですか?」
「それならばまだよいのですが、数世代前にその近辺で戦争が起きたとき、どうにかそれを食い止めようとして、双方から攻められ寺院が破壊されてしまったそうです」
そういうことですか。残念ながらこの世界では『反戦運動』の市民権などないからな。
しかもガイザーは戦神系の信徒からは嫌われているから、この時とばかりに目の敵にされて戦争のドサクサで攻撃されたのだろう。
似たような形で、戦争始め暴力的な出来事が巻き起こる度に、ガイザーの信徒は踏みつぶされているのかもしれない。
引きこもって信仰を細々と守っているだけならまだしも、武器を取って戦争が起きれば黙ってはいられないのだから、何とも過酷な信仰だな。
そしてそれからしばらくビネースと共に歩き続けると、山奥の小さな谷の中に廃虚の広がる場所についた。
「ここが目的の場所です」
ビネースはそういって目を細め、谷の奥を指し示す。
これが寺院の跡だとすると、谷の入り口に土塁を設けてそこを砦にしたように思えるな。彼が育ったのもこれに近い環境だったのだろう。
彼らの主張や行動はともかく、こういうやり方で周囲とは一線を画した価値観や宗教観を抱いている小集団となると、敵視とまではいかなくとも不信感を抱かれてしまうだろうな。
たぶんそれを承知の上で、ガイザーの信徒も世間から敢えて距離をおいているに違いない。
しかしこの廃虚を見る限り、ここに残って生活をしている人間はいないようだが、ビネースは何をするのだろうか。
ビネースは台座の石垣だけが残っている建物の跡に足を踏みいれ、そこで祈りを捧げ始める。
このとき『魔法眼』で魔力を知覚するオレの目には、ビネースの鍛え上げられた肉体から、何かが立ち上り始めているのが見えていた。
こうなるとどうにも放っておけないのが、オレのサガだな。
あと興味が抑えられないので、ついついクビを突っ込んでしまうという事でもあるのだが。
「それではしばらくわたしもお付き合いしましょう」
「よろしいのですか? 助力を申し出たのはこちらの方なのですけど」
「ええ。気にしないで下さい。あなたの神を癒やしたというイロールも別に報酬が望みではなかったと思いますよ」
その伝説が本当だとしたらの話だけどな。
「ありがとうございます。それであなたのお名前は?」
「……アルタシャと呼んで下さい」
何というか同行する相手に対して、ここで敢えて『偽名の偽名』を名乗るのも不誠実な気がしてしまう。
だけどビネースがイロールと繋がりが深いのならば、オレの名前は聞いていて当然だろうし、たぶん偽者がはびこっている事も聞いているだろう。
もしも偽者と思われたら、それも仕方ないだろう。
「そうですか。分かりました」
うん? ビネースは随分とアッサリと受け入れたな。
「あのう? わたしの名を聞いてどう思われました?」
「初めて聞くお名前ですけど、どうかされましたか」
ああそうか。ビネースは信徒がごく少数しかいない、小さな共同体で半ば隔離されて暮らしていたんだった。
それでは外部との付き合いも限定的だろうから、せいぜい数ヶ月で名が広まったオレの情報も届いていないのだな。
ちょっとばかり残念な気もするが、ビネースがオレの事を知らないなら気楽な付き合いが出来ると言う事でもある。
「それでは少し時間を取らせて下さい」
そう言ってビネースは先ほど自分が叩きのめした山賊達の武器を一つ一つへし折り、また叩き潰す。
「う……うぐう……」
山賊の中でオレの『応急手当』を受け、意識を取り戻した奴らもいた様子だが、口惜しげに自分達の武器が破壊されているのを見ている。
「これでお前達も武器を持つことの愚かしさが分かっただろう。これに懲りたら武器を捨てて平和な生き方をするのだぞ」
本当にそれで心を入れ替えて真人間になってくれればいいのだけど、世の中がそんなに甘いワケが無い。
もっともビネースもそこまで夢想家というワケでもなく、あくまでも『そうなってくれたらいい』ぐらいの意識だろうけど。
「では参りましょうか。我が次の目的地はすぐ近くです」
そう言ってビネースはキビキビと歩き出すので、オレもついていく。
その歩き方を見ると、素人目にも無駄な動きがまるでなく、長旅に関してもかなりの訓練を受けている事がうかがえるよ。
オレの場合は魔法で脚力を強化して移動力を高めているけど、ビネースはそんな事を気にせず普通に歩いているだけらしい。
たぶんひとり旅なのが当たり前なので、そんな事を考えた事もないようだ。
ビネースは個人としての戦闘能力は桁違いだけど、集団戦闘にはまったく向いていないな。
ガイザーの信徒達は幼い頃から共同体で集団行動をしているのに、戦闘に関してはまるで集団戦が考慮されていないというもの、かなり興味深いところがある。
「そこには何があるのですか?」
「かつてはそこにガイザーに捧げられた寺院があったのですが……」
ここでビネースは痛ましそうな表情を浮かべる。
「信徒が減ったので寺院が維持出来なくなってしまったのですか?」
「それならばまだよいのですが、数世代前にその近辺で戦争が起きたとき、どうにかそれを食い止めようとして、双方から攻められ寺院が破壊されてしまったそうです」
そういうことですか。残念ながらこの世界では『反戦運動』の市民権などないからな。
しかもガイザーは戦神系の信徒からは嫌われているから、この時とばかりに目の敵にされて戦争のドサクサで攻撃されたのだろう。
似たような形で、戦争始め暴力的な出来事が巻き起こる度に、ガイザーの信徒は踏みつぶされているのかもしれない。
引きこもって信仰を細々と守っているだけならまだしも、武器を取って戦争が起きれば黙ってはいられないのだから、何とも過酷な信仰だな。
そしてそれからしばらくビネースと共に歩き続けると、山奥の小さな谷の中に廃虚の広がる場所についた。
「ここが目的の場所です」
ビネースはそういって目を細め、谷の奥を指し示す。
これが寺院の跡だとすると、谷の入り口に土塁を設けてそこを砦にしたように思えるな。彼が育ったのもこれに近い環境だったのだろう。
彼らの主張や行動はともかく、こういうやり方で周囲とは一線を画した価値観や宗教観を抱いている小集団となると、敵視とまではいかなくとも不信感を抱かれてしまうだろうな。
たぶんそれを承知の上で、ガイザーの信徒も世間から敢えて距離をおいているに違いない。
しかしこの廃虚を見る限り、ここに残って生活をしている人間はいないようだが、ビネースは何をするのだろうか。
ビネースは台座の石垣だけが残っている建物の跡に足を踏みいれ、そこで祈りを捧げ始める。
このとき『魔法眼』で魔力を知覚するオレの目には、ビネースの鍛え上げられた肉体から、何かが立ち上り始めているのが見えていた。
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