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第14章 拳の王
第473話 現れたのは『聖戦なすもの』
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遠目に見たところその相手は、頑強な板金鎧に身を包み、大きな白馬にまたがっている。
その鎧は以前に出会った『第五階級』の連中が身につけていたのと区別がほとんどつかない一品なので、そうとうに高価な代物なのは間違いない。
また腰には剣を下げている他、大きな盾と長槍を馬に取り付けている。
そしてその背には深紅のマントに加え、いかにも目立つ旗指物を掲げており、そこにはこれ見よがしに『剣の切っ先の上に乗った天秤』をかたどった大きな紋章が描いてあった。
何というかファンタジーではよく見かけるが、この世界ではこれまで見た事の無いパラディンというか、クルセイダーというか、ホスピタラーというかそういう相手らしい。
それで困った事に、この世界ではパラディンがいても、その奉じる正義はその神様次第のはずだから一歩間違うと異教徒を虐殺して、高笑いしながら正義を掲げる、危険極まり無い存在の可能性すらあるのだ。
そしてここでミーリアも相手に気づいたらしい。
「あれは?!」
「ひょっとしてミーリアさんのお知り合いでしょうか?」
「そんなわけがあるか! いや……すまない」
またミーリアは癇癪を起こすも、すぐに落ち着いたようだ。
いろいろとせわしない人だが、今はどうにか話を聞きたい。
「あの旗に描かれている『天秤』の紋章からすると、あれは戦神イーヒルムの信徒に違いない」
「どんな方々なのですか?」
「奴らは神聖で純粋であるべき戦闘に余計な要素を持ち込む、困った連中だ。そのせいで我らも大いに迷惑を被っている」
一見すると敵対関係のようにも思える言い草だけど、ミーリアの態度はどちらかといえば『厄介者』に感じられる。
たぶん価値観の違いから、対立することはあっても、同じ陣営で共に戦争をすることもあって決定的に相容れない相手ということでもないらしい。
「もう少し詳しく教えて下さいますか?」
「奴らは自分達の戦いを『聖戦』であり正義と弱者を守るためだと訴える」
どうやら本当に『パラディン』であるらしい。
まあオレもそれを鵜呑みするほど純真でも無いけどそれなら名誉や誇りを重んじるタイプだろうし、ミーリアともそれほど相性が悪いとは思えないな。
もっともミーリア達、剣神ザスターニックの信徒は『自分達の神こそが正当な武器の源』という考えだから、他の軍神は皆ライバルと言う事で警戒心を見せるのは当然なのか。
「本来、戦いとは純粋なものでなければならない。もちろん我らは他人が何を大義に掲げようが知った事ではないが、奴らは一々、そういう余計なものを掲げずにはいられない、困った連中なのだ」
元の世界でもフィクションなら『大義名分など関係無く、ただ戦いを求める戦士』と『弱者を守るために戦う正義の味方』が同じ陣営にいながら対立するのはよくあるパターンだったな。
これがフィクションなら、最初は喧嘩しても、後で仲良く一緒に戦うようになるのがお約束なんだけど、もちろんこの世界でそんな都合のいい事など滅多に無い。
そんなことを考えていると、相手はゾロゾロと巡礼者らしき数人の一団を連れて、街道沿いにオレたちの方に近づいてきた。
「これはお嬢さん方、何かお困りでしょうか?」
兜の中から精悍な男性の声が響いてくる。
相手の顔は見えないが、声からすると二〇代半ばぐらいの男性のものだろう。
いくら乗馬しているとはいえ、こんないかつい鎧をつけて旅をしているのだから、若い男性なのは当たり前か。
しかしミーリアの方はぶっきらぼうに答える。
「お前などに頼むことなど何もないぞ。だいたい馬の上からなのはまだしも、他人に話かけるならせめて顔ぐらいは見せろ」
「これは失礼した」
男は自分の兜の面甲を動かして素顔を見せる。
ファンタジーなら『素顔はもの凄い美形』だとか『いかつい鎧の中身は美少女』だとか、場合によっては『兜の中は空洞』だとかあるけど、良くも悪くも中身は普通の青年だった。
「愚僧の名はマクラマン。『聖戦なすもの』イーヒルムに仕えし神官戦士です」
名前はともかく一人称が『愚僧』なのか。本当に『戦う神官』なんだな。
「私はミーリア。剣神ザスターニックに仕えし剣の一振りだ」
「そうですか。それであなたは?」
ミーリアのやや剣呑な態度に対し、マクラマンと名乗った騎士は特に気にした様子もなくオレの方に話しかけてきた。
アルタシャの名はいろいろ面倒らしいけど、ミーリアにも既に知られているし、ここで彼女の前で嘘をついたと見なされるのも厄介だ。
「わたしの事はアルタシャと呼んで下さい」
「分かりました」
アッサリと流したな。マクラマンが知らないのか、それとも知っていても気にしないのかはこの際、問わないことにしよう。
「ところで改めてうかがいますがお二方はお困りなのでしょう? よろしければお力になりますよ」
「なぜそう思うのだ?」
「ミーリアさんでしたか。あなたが剣を持っておられないからです。ザスターニック神の信徒が、外で剣を持っていないのは尋常ではありませんね」
なるほど。言われてみれば『剣に生き、剣に死す』のが教義である剣神の信徒が手ぶらなのは不自然だ。
「もしも何者かに武器を奪われたと言うなら、さぞかしお困りでしょう。よろしければ次の目的地まで愚僧がお守りいたしましょうぞ」
これが普通の相手だったら、オレ達をどこかにかどわかして売り飛ばすとか考えるけど、マクラマンにはそんな様子はまるで見られない。
だけどそれでもいろいろと面倒になりそうな予感はヒシヒシと感じられたのだが。
その鎧は以前に出会った『第五階級』の連中が身につけていたのと区別がほとんどつかない一品なので、そうとうに高価な代物なのは間違いない。
また腰には剣を下げている他、大きな盾と長槍を馬に取り付けている。
そしてその背には深紅のマントに加え、いかにも目立つ旗指物を掲げており、そこにはこれ見よがしに『剣の切っ先の上に乗った天秤』をかたどった大きな紋章が描いてあった。
何というかファンタジーではよく見かけるが、この世界ではこれまで見た事の無いパラディンというか、クルセイダーというか、ホスピタラーというかそういう相手らしい。
それで困った事に、この世界ではパラディンがいても、その奉じる正義はその神様次第のはずだから一歩間違うと異教徒を虐殺して、高笑いしながら正義を掲げる、危険極まり無い存在の可能性すらあるのだ。
そしてここでミーリアも相手に気づいたらしい。
「あれは?!」
「ひょっとしてミーリアさんのお知り合いでしょうか?」
「そんなわけがあるか! いや……すまない」
またミーリアは癇癪を起こすも、すぐに落ち着いたようだ。
いろいろとせわしない人だが、今はどうにか話を聞きたい。
「あの旗に描かれている『天秤』の紋章からすると、あれは戦神イーヒルムの信徒に違いない」
「どんな方々なのですか?」
「奴らは神聖で純粋であるべき戦闘に余計な要素を持ち込む、困った連中だ。そのせいで我らも大いに迷惑を被っている」
一見すると敵対関係のようにも思える言い草だけど、ミーリアの態度はどちらかといえば『厄介者』に感じられる。
たぶん価値観の違いから、対立することはあっても、同じ陣営で共に戦争をすることもあって決定的に相容れない相手ということでもないらしい。
「もう少し詳しく教えて下さいますか?」
「奴らは自分達の戦いを『聖戦』であり正義と弱者を守るためだと訴える」
どうやら本当に『パラディン』であるらしい。
まあオレもそれを鵜呑みするほど純真でも無いけどそれなら名誉や誇りを重んじるタイプだろうし、ミーリアともそれほど相性が悪いとは思えないな。
もっともミーリア達、剣神ザスターニックの信徒は『自分達の神こそが正当な武器の源』という考えだから、他の軍神は皆ライバルと言う事で警戒心を見せるのは当然なのか。
「本来、戦いとは純粋なものでなければならない。もちろん我らは他人が何を大義に掲げようが知った事ではないが、奴らは一々、そういう余計なものを掲げずにはいられない、困った連中なのだ」
元の世界でもフィクションなら『大義名分など関係無く、ただ戦いを求める戦士』と『弱者を守るために戦う正義の味方』が同じ陣営にいながら対立するのはよくあるパターンだったな。
これがフィクションなら、最初は喧嘩しても、後で仲良く一緒に戦うようになるのがお約束なんだけど、もちろんこの世界でそんな都合のいい事など滅多に無い。
そんなことを考えていると、相手はゾロゾロと巡礼者らしき数人の一団を連れて、街道沿いにオレたちの方に近づいてきた。
「これはお嬢さん方、何かお困りでしょうか?」
兜の中から精悍な男性の声が響いてくる。
相手の顔は見えないが、声からすると二〇代半ばぐらいの男性のものだろう。
いくら乗馬しているとはいえ、こんないかつい鎧をつけて旅をしているのだから、若い男性なのは当たり前か。
しかしミーリアの方はぶっきらぼうに答える。
「お前などに頼むことなど何もないぞ。だいたい馬の上からなのはまだしも、他人に話かけるならせめて顔ぐらいは見せろ」
「これは失礼した」
男は自分の兜の面甲を動かして素顔を見せる。
ファンタジーなら『素顔はもの凄い美形』だとか『いかつい鎧の中身は美少女』だとか、場合によっては『兜の中は空洞』だとかあるけど、良くも悪くも中身は普通の青年だった。
「愚僧の名はマクラマン。『聖戦なすもの』イーヒルムに仕えし神官戦士です」
名前はともかく一人称が『愚僧』なのか。本当に『戦う神官』なんだな。
「私はミーリア。剣神ザスターニックに仕えし剣の一振りだ」
「そうですか。それであなたは?」
ミーリアのやや剣呑な態度に対し、マクラマンと名乗った騎士は特に気にした様子もなくオレの方に話しかけてきた。
アルタシャの名はいろいろ面倒らしいけど、ミーリアにも既に知られているし、ここで彼女の前で嘘をついたと見なされるのも厄介だ。
「わたしの事はアルタシャと呼んで下さい」
「分かりました」
アッサリと流したな。マクラマンが知らないのか、それとも知っていても気にしないのかはこの際、問わないことにしよう。
「ところで改めてうかがいますがお二方はお困りなのでしょう? よろしければお力になりますよ」
「なぜそう思うのだ?」
「ミーリアさんでしたか。あなたが剣を持っておられないからです。ザスターニック神の信徒が、外で剣を持っていないのは尋常ではありませんね」
なるほど。言われてみれば『剣に生き、剣に死す』のが教義である剣神の信徒が手ぶらなのは不自然だ。
「もしも何者かに武器を奪われたと言うなら、さぞかしお困りでしょう。よろしければ次の目的地まで愚僧がお守りいたしましょうぞ」
これが普通の相手だったら、オレ達をどこかにかどわかして売り飛ばすとか考えるけど、マクラマンにはそんな様子はまるで見られない。
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