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第14章 拳の王
第496話 攻め寄せてきたものは
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廃虚に近寄ってくる連中は、見た限りでは装備などバラバラな寄せ集めの集団で、戦士と言うよりは山賊に近い。
ひょっとするとビネースがオレと初対面の時に打ち倒した連中が仕返しに来たのか?
そうなるとここはちょっとばかり『秩序と弱者保護』が神命だという人を当てにさせてもらうとしよう。
「マクラマンさん。あれはもしかして山賊のたぐいでしょうか?」
「そうです……たぶん『地獄の轟き』の信徒ですね」
このマクラマンの言葉を聞いて、ミーリアも表情を変える。
「なんだと? あの連中か?」
どうも明らかにロクでもない連中らしいが、その『地獄の轟き』についてとにかく話を聞かねばなるまい。
「すみません。『地獄の轟き』とはどういう神様なんです?」
「やつらは戦争における破壊と略奪を称揚する者どもです」
「え? それでは『地獄の轟き』というのも戦神の一柱ですか」
また別の戦神の信徒がやってきたということなのか?
類は友を呼ぶと言うが、どう見ても『友』とはかけ離れ過ぎているだろう。
しかしオレのこの言葉を聞いて、ミーリアは抗議の声を挙げる。
「あのような連中を剣神ザスターニックの信徒と一緒にされては困る!」
「あの者どもは戦争においてはもちろん、平和な時でも法を守らず、略奪と殺戮に明け暮れる犯罪者共に過ぎません。『地獄の轟き』の名も彼らに蹂躙された人々の怨嗟や悲鳴が由来だと言われている程です」
この世界にはどんな事でも守護神はいる。
ならば『地獄の轟き』と言うのは、戦争における破壊や略奪行為の守護神であり、あの連中は血も涙も無い怒りや憎しみを肯定する神様の信徒なのですか。
そんなわけで戦争が無いときは山賊行為に手を染め、戦争が起きると略奪と虐殺にいそしんでいるわけか。
そうやって無秩序を肯定する連中だから、組織化などされていないが、それでも『仲間を倒されたら報復する』などという最低限度のルールはあるのだろう。
たぶんそれでビネースに打ち倒された仲間の仕返しに来たと言う事か。
もちろん『平和主義』を掲げるガイザーの信徒とはまさに『不倶戴天の仇敵関係』でもあるだろうから、むしろ連中にとっては神聖な行いなのかもしれない。
しかしこれは困ったな。
見たところ相手の人数は二〇人程度。
さすがにビネース達を全滅させる力は無いだろうけど、連中はたぶん子供でも容赦なく――と言うよりはむしろ襲いやすい弱者を優先して攻撃するだろう。
この時、オレの脳裏には先ほど顔を合わせた子供達の事が思い浮かんだ。
とにかく彼らを守らねばならない。
あの程度の人数ならオレの『調和』で戦闘させないように抑える事はそう難しく無いが、新手が来る可能性も考えねばならない。
まあ幸いにビネース達が儀式を行っている寺院跡の廃虚は谷の中にあるので、接近出来るルートは限られている。
たぶんいまオレ達がいる谷の入り口を守ればあの程度ならどうにかなるはずだ。
「すみません。ミーリアさんは奥に入って警告をお願いします」
剣を折られたミーリアを戦わせるワケにはいかない。
ミーリアと言葉を交わすのはガイザー信徒にとっては『汚染』であるかもしれないが、警告の声を聞くだけなら問題無いはずだ。
もちろんこれでたまにしか出来ない礼拝儀式が中断されてしまいかねないが、とにかく今は人命が第一だ。
しかしミーリアの方はまたしても顔色を変える。
「待て! それはあなたのやるべき事だろう。連中の相手は私がしよう」
「その張りぼての剣でですか?」
ここでミーリアは恥ずかしそうに剣に手をかける。
「それに正直に言えばあなたが命を賭ける場面では無いと思いますけど」
もともと『ビネースの敵』だったミーリアが命を張る義理はないはずだ。
さすがに『地獄の轟き』の連中に手を貸すような真似はしないだろうけど、ガイザー信徒のために戦うのはどう考えてもおかしい。
「そうだが……しかし寸鉄も身につけていないあなたを奴らの前に残して、私がこの場を去るなど、そんな恥ずべき事は出来ない」
ええい。そういう意地を張られるとこっちが迷惑なんですよ。
いや。ミーリアはオレの身を案じてくれているワケだから、感謝すべき話なんだけどいろいろと面倒だ。
そしてミーリアだけでなくマクラマンもまたオレに向けて口を開く。
「彼女の言うとおりです、連中は愚僧がどうにかしましょう。確かに数は多いですが、奴らなど所詮は感情に駆られて復讐に走っている寄せ集めです。何人か倒せば逃げ出しますよ」
確かにその認識も正しいだろうけど、それでも多勢に無勢だし、マクラマンにとっても命がけなのは間違い無い。
「とにかくわたしなら大丈夫ですから! ミーリアさんは先ほど言ったように、中に入って警告してきて下さい!」
「本気なのか? もしも奴らに襲われたらあなたは己の身がどうなるか分からないのか?」
オレの力を込めた宣言に対し、ミーリアは困惑しつつ問いかけてくる。
もちろんあんな連中に襲われた事など何度もあって、思い出すだけでも不愉快です。しかしそれでも知らん顔など出来ないのですよ。
ええい。仕方ない。
「正直に言いますけど、こんなことはこれまでしょっちゅうでしたよ」
「え? それはどういう意味だ?」
「あなたがあのような者どもの相手を何度もしてきたと仰るのですか?」
ミーリアやマクラマンはとても信じがたいと言わんばかりだ。
まあ当然の反応だろうけど、今は議論している場合では無い。ごちゃごちゃ言っている間にくだんの『地獄の轟き』の連中はもう目の前にまで来ていたのだ。
ひょっとするとビネースがオレと初対面の時に打ち倒した連中が仕返しに来たのか?
そうなるとここはちょっとばかり『秩序と弱者保護』が神命だという人を当てにさせてもらうとしよう。
「マクラマンさん。あれはもしかして山賊のたぐいでしょうか?」
「そうです……たぶん『地獄の轟き』の信徒ですね」
このマクラマンの言葉を聞いて、ミーリアも表情を変える。
「なんだと? あの連中か?」
どうも明らかにロクでもない連中らしいが、その『地獄の轟き』についてとにかく話を聞かねばなるまい。
「すみません。『地獄の轟き』とはどういう神様なんです?」
「やつらは戦争における破壊と略奪を称揚する者どもです」
「え? それでは『地獄の轟き』というのも戦神の一柱ですか」
また別の戦神の信徒がやってきたということなのか?
類は友を呼ぶと言うが、どう見ても『友』とはかけ離れ過ぎているだろう。
しかしオレのこの言葉を聞いて、ミーリアは抗議の声を挙げる。
「あのような連中を剣神ザスターニックの信徒と一緒にされては困る!」
「あの者どもは戦争においてはもちろん、平和な時でも法を守らず、略奪と殺戮に明け暮れる犯罪者共に過ぎません。『地獄の轟き』の名も彼らに蹂躙された人々の怨嗟や悲鳴が由来だと言われている程です」
この世界にはどんな事でも守護神はいる。
ならば『地獄の轟き』と言うのは、戦争における破壊や略奪行為の守護神であり、あの連中は血も涙も無い怒りや憎しみを肯定する神様の信徒なのですか。
そんなわけで戦争が無いときは山賊行為に手を染め、戦争が起きると略奪と虐殺にいそしんでいるわけか。
そうやって無秩序を肯定する連中だから、組織化などされていないが、それでも『仲間を倒されたら報復する』などという最低限度のルールはあるのだろう。
たぶんそれでビネースに打ち倒された仲間の仕返しに来たと言う事か。
もちろん『平和主義』を掲げるガイザーの信徒とはまさに『不倶戴天の仇敵関係』でもあるだろうから、むしろ連中にとっては神聖な行いなのかもしれない。
しかしこれは困ったな。
見たところ相手の人数は二〇人程度。
さすがにビネース達を全滅させる力は無いだろうけど、連中はたぶん子供でも容赦なく――と言うよりはむしろ襲いやすい弱者を優先して攻撃するだろう。
この時、オレの脳裏には先ほど顔を合わせた子供達の事が思い浮かんだ。
とにかく彼らを守らねばならない。
あの程度の人数ならオレの『調和』で戦闘させないように抑える事はそう難しく無いが、新手が来る可能性も考えねばならない。
まあ幸いにビネース達が儀式を行っている寺院跡の廃虚は谷の中にあるので、接近出来るルートは限られている。
たぶんいまオレ達がいる谷の入り口を守ればあの程度ならどうにかなるはずだ。
「すみません。ミーリアさんは奥に入って警告をお願いします」
剣を折られたミーリアを戦わせるワケにはいかない。
ミーリアと言葉を交わすのはガイザー信徒にとっては『汚染』であるかもしれないが、警告の声を聞くだけなら問題無いはずだ。
もちろんこれでたまにしか出来ない礼拝儀式が中断されてしまいかねないが、とにかく今は人命が第一だ。
しかしミーリアの方はまたしても顔色を変える。
「待て! それはあなたのやるべき事だろう。連中の相手は私がしよう」
「その張りぼての剣でですか?」
ここでミーリアは恥ずかしそうに剣に手をかける。
「それに正直に言えばあなたが命を賭ける場面では無いと思いますけど」
もともと『ビネースの敵』だったミーリアが命を張る義理はないはずだ。
さすがに『地獄の轟き』の連中に手を貸すような真似はしないだろうけど、ガイザー信徒のために戦うのはどう考えてもおかしい。
「そうだが……しかし寸鉄も身につけていないあなたを奴らの前に残して、私がこの場を去るなど、そんな恥ずべき事は出来ない」
ええい。そういう意地を張られるとこっちが迷惑なんですよ。
いや。ミーリアはオレの身を案じてくれているワケだから、感謝すべき話なんだけどいろいろと面倒だ。
そしてミーリアだけでなくマクラマンもまたオレに向けて口を開く。
「彼女の言うとおりです、連中は愚僧がどうにかしましょう。確かに数は多いですが、奴らなど所詮は感情に駆られて復讐に走っている寄せ集めです。何人か倒せば逃げ出しますよ」
確かにその認識も正しいだろうけど、それでも多勢に無勢だし、マクラマンにとっても命がけなのは間違い無い。
「とにかくわたしなら大丈夫ですから! ミーリアさんは先ほど言ったように、中に入って警告してきて下さい!」
「本気なのか? もしも奴らに襲われたらあなたは己の身がどうなるか分からないのか?」
オレの力を込めた宣言に対し、ミーリアは困惑しつつ問いかけてくる。
もちろんあんな連中に襲われた事など何度もあって、思い出すだけでも不愉快です。しかしそれでも知らん顔など出来ないのですよ。
ええい。仕方ない。
「正直に言いますけど、こんなことはこれまでしょっちゅうでしたよ」
「え? それはどういう意味だ?」
「あなたがあのような者どもの相手を何度もしてきたと仰るのですか?」
ミーリアやマクラマンはとても信じがたいと言わんばかりだ。
まあ当然の反応だろうけど、今は議論している場合では無い。ごちゃごちゃ言っている間にくだんの『地獄の轟き』の連中はもう目の前にまで来ていたのだ。
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