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第14章 拳の王
第498話 戦乱に晒されたものたちは
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この近隣ではそんな大きな戦争が起きているとは聞いていないけど、それでも領地の境界線だとか、商業や水運などの利権を巡って小規模な紛争はしょっちゅうらしい。
もちろん国家規模での何万という軍勢がぶつかり合うようなものとは比べものにならない小さなものだが、それでも実際に蹂躙された人間には何の関係もない話だろう。
しかもこの世界では紛争で家を失った人間に対する社会保障など、無いに等しいし、家族が離散でもしようものなら一生再会出来なくて当たり前なのだ。
たぶんこの人達の殆どはそういった紛争で、生活の場や家族を失い、その結果としてこんな明日をも知れぬやさぐれた生活を選んだ――ひょっとすると選ばされた――に違いない。
「俺たちは戦争によって平等になるんだよ!」
「持っている奴からは奪う! 色男はその顔を切り裂き、屋敷には火をつけ、家畜はその火で焼いて食ってやる!」
「そうすればどいつもこいつも俺たちと同じになる。まさに平等だ! こんなことは昔の俺達では考える事すら出来なかったんだぞ!」
ああ。『神の前で王侯貴族も平民もなく万人は平等だ』という教えは元の世界でもよく聞いたけど、ここまでロクでもない『平等』を聞くと言葉の意味すら変わってきそうだ。
しかしこんな『平等』思想にすがる気持ちも、一応は理解できる。
彼らにすれば自分たちが戦乱でひどい目にあっているのだから、他人も同じ目に遭わせてやりたいという意識を持つのは特に不思議でも無いだろう。
あと連中の一人が先ほど叫んだように『戦争になれば平民でも王族を殺す事が出来る』というも、現実にはまずあり得ない事であっても、それに近い事――普段いばっている役人や貴族を手にかける――事が出来るのはひとつの『魅力』なんだろう。
たとえば元の世界で百年前に起きた大戦争にて、兵士の数が足りなくなったある植民地大国は植民地から兵士を募って戦わせた。
ところがその結果として『最前線で武器を持って殺し合いをすれば人種や民族など関係無い』事が分かってしまったので、それ以降は植民地からの独立闘争が一気に盛んになるという事態を招いたそうだ。
オレとしては戦争など真っ平だけど、それで自分の置かれた状況を何もかもぶちこわしにしたいと思ってしまうところまで追い込まれてしまったのが彼らなのだ。
そしてそんな絶望に落とされた彼らに対し『これまで通り自分達が食い物にされるのか、それとも他人を食い物にするのか』という選択肢を示して、引き込んでいるのが『地獄の轟き』の教団ということか。
しかしどう考えてもその実態は略奪と破壊に明け暮れた挙げ句、捨て駒の兵士として短い人生を終えるだけだろう。
いや。それですらひょっとすると、彼らの中で『救済』になっているかもしれない。
そう思っていると、マクラマンが怒りを込めて叫ぶ。
「いい加減にしろ! お前達も法に従い、真っ当に生きるならばまだ慈悲も与えられようが、それを拒むとあらば容赦はせんぞ!」
「はん! 俺達は長生きしようなんぞ最初から思ってねえよ! ただどうせ死ぬならその前に少しでもいい思いをしたいだけだ!」
ああ。やっぱりな。
彼らも最初はむしろ『自分達が生き残るためだけに、より弱い者を手にかける』という選択をしぶしぶしたに過ぎないはずだ。
しかしいつの間にかそれがすり替えられて、こんな殺伐とした生活に命を賭ける有様となってしまっているに違いない。
「待って下さい! あなた達も本当はそんな生活でいいとは思っていないでしょう? 違いますか? 本当は戦乱に翻弄されない安全な生活をしたかっただけですよね?」
オレの呼びかけを受けて、連中は動きを止めるが、そこで連中はあらためてこちらに対して憎々しげな視線を注いでくる。
「そうだと言ったらどうなる? お前が俺達にそんな生活を約束してくれるのか?」
「ならばいくさで焼かれた俺の村を元通りにしろ!」
「もう生きているかどうかも分からない俺の家族に遭わせてくれよ!」
「それが出来ないならお前が先にあの世に逝ってこい!」
やっぱりこういう話になるか。
彼らは間違い無く戦乱の犠牲者ではあるけど、同時に加害者でもある。
残念だけどこれについては『諸悪の根源』が存在していて、そいつを打倒すれば問題が解決するなんて甘い話ではないのだ。
そしてそんな彼らの現状に対しては、やっぱりオレの名声だの魔力だのではどうする事も出来ない――実際、以前に略奪をしてまわる傭兵団を向こうに回して『黄金の乙女』をやらされていたときも、結局は事態を収拾したのは武力だった。
まだ賄賂で片付いた昨晩の役人相手の方が遥かに簡単だ。
いや。そんな事を考えていても仕方ない。
とにかくこの場合、考えるべきは『いまオレが何をすべきか』ということだ。
もちろん抜本的な解決など出来るはずが無いのは、今までと同じだろう。つくづくオレってその場しのぎばっかりやっているな。
それなのにいつの間にか『英雄』だの『女神』だの言われているわけだから、つくづく世の中はままならない。
もちろん国家規模での何万という軍勢がぶつかり合うようなものとは比べものにならない小さなものだが、それでも実際に蹂躙された人間には何の関係もない話だろう。
しかもこの世界では紛争で家を失った人間に対する社会保障など、無いに等しいし、家族が離散でもしようものなら一生再会出来なくて当たり前なのだ。
たぶんこの人達の殆どはそういった紛争で、生活の場や家族を失い、その結果としてこんな明日をも知れぬやさぐれた生活を選んだ――ひょっとすると選ばされた――に違いない。
「俺たちは戦争によって平等になるんだよ!」
「持っている奴からは奪う! 色男はその顔を切り裂き、屋敷には火をつけ、家畜はその火で焼いて食ってやる!」
「そうすればどいつもこいつも俺たちと同じになる。まさに平等だ! こんなことは昔の俺達では考える事すら出来なかったんだぞ!」
ああ。『神の前で王侯貴族も平民もなく万人は平等だ』という教えは元の世界でもよく聞いたけど、ここまでロクでもない『平等』を聞くと言葉の意味すら変わってきそうだ。
しかしこんな『平等』思想にすがる気持ちも、一応は理解できる。
彼らにすれば自分たちが戦乱でひどい目にあっているのだから、他人も同じ目に遭わせてやりたいという意識を持つのは特に不思議でも無いだろう。
あと連中の一人が先ほど叫んだように『戦争になれば平民でも王族を殺す事が出来る』というも、現実にはまずあり得ない事であっても、それに近い事――普段いばっている役人や貴族を手にかける――事が出来るのはひとつの『魅力』なんだろう。
たとえば元の世界で百年前に起きた大戦争にて、兵士の数が足りなくなったある植民地大国は植民地から兵士を募って戦わせた。
ところがその結果として『最前線で武器を持って殺し合いをすれば人種や民族など関係無い』事が分かってしまったので、それ以降は植民地からの独立闘争が一気に盛んになるという事態を招いたそうだ。
オレとしては戦争など真っ平だけど、それで自分の置かれた状況を何もかもぶちこわしにしたいと思ってしまうところまで追い込まれてしまったのが彼らなのだ。
そしてそんな絶望に落とされた彼らに対し『これまで通り自分達が食い物にされるのか、それとも他人を食い物にするのか』という選択肢を示して、引き込んでいるのが『地獄の轟き』の教団ということか。
しかしどう考えてもその実態は略奪と破壊に明け暮れた挙げ句、捨て駒の兵士として短い人生を終えるだけだろう。
いや。それですらひょっとすると、彼らの中で『救済』になっているかもしれない。
そう思っていると、マクラマンが怒りを込めて叫ぶ。
「いい加減にしろ! お前達も法に従い、真っ当に生きるならばまだ慈悲も与えられようが、それを拒むとあらば容赦はせんぞ!」
「はん! 俺達は長生きしようなんぞ最初から思ってねえよ! ただどうせ死ぬならその前に少しでもいい思いをしたいだけだ!」
ああ。やっぱりな。
彼らも最初はむしろ『自分達が生き残るためだけに、より弱い者を手にかける』という選択をしぶしぶしたに過ぎないはずだ。
しかしいつの間にかそれがすり替えられて、こんな殺伐とした生活に命を賭ける有様となってしまっているに違いない。
「待って下さい! あなた達も本当はそんな生活でいいとは思っていないでしょう? 違いますか? 本当は戦乱に翻弄されない安全な生活をしたかっただけですよね?」
オレの呼びかけを受けて、連中は動きを止めるが、そこで連中はあらためてこちらに対して憎々しげな視線を注いでくる。
「そうだと言ったらどうなる? お前が俺達にそんな生活を約束してくれるのか?」
「ならばいくさで焼かれた俺の村を元通りにしろ!」
「もう生きているかどうかも分からない俺の家族に遭わせてくれよ!」
「それが出来ないならお前が先にあの世に逝ってこい!」
やっぱりこういう話になるか。
彼らは間違い無く戦乱の犠牲者ではあるけど、同時に加害者でもある。
残念だけどこれについては『諸悪の根源』が存在していて、そいつを打倒すれば問題が解決するなんて甘い話ではないのだ。
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まだ賄賂で片付いた昨晩の役人相手の方が遥かに簡単だ。
いや。そんな事を考えていても仕方ない。
とにかくこの場合、考えるべきは『いまオレが何をすべきか』ということだ。
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