異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第14章 拳の王

第499話 戦場での『死』とは

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 このまま話を続けていたとしても、彼らが納得して引き上げてくれるとはとても思えない。
 しかし幸いにも『地獄の轟き』の信徒はいまここにいる連中だけで、新手がやってくる様子は無さそうだ。
 そうすると今は彼らをどうにか説得するか、少なくとも諦めさせねばならない。
 もちろん口で言うのは簡単だけど、それが実行できれば苦労はないのだ。
 オレが『女神の化身』となって諭したら、連中がひれ伏して言う事を聞いてくれるなどという都合のいい展開など考えるだけでも馬鹿馬鹿しい。
 そんな事を考えている間にも連中は堪えきれないと言わんばかりに口々に叫んでいる。

「俺たちはもう命なんか捨てているんだ!」
「あとはもう死ぬまでどれだけ破壊と略奪が出来るかだけなんだよ」
「そうだ! 『地獄の轟き』に忠誠を誓った時に、俺たちはもう生ける死人になったんだ!」

 それは普通『アンデッド』の事でしょう。
 しかし考えてみると、さっきから随分と『命を捨てている』だの何だの繰り返しているな。
 もちろん元の世界でも宗教的な情熱や、愛国心、場合によっては復讐心などの理由から命を捨てる人間の事はよくニュースでも報じられていたから、それが全く理解出来ないわけではない。
だけどどうにも違和感があるぞ。
 そうだ。最初、オレは彼らを寺院の略奪に来たのであり、損得勘定で動いていると思ったのだった。
 しかし『調和』で暴力的な行動を封じた上で、連中と話をしてみると今のように『死ぬ』だの何だと必死で繰り返しているのだ。
 待てよ。これはひょっとしたらひょっとするぞ。
 よし。ここは久方ぶりに『誓言』オースを試してみよう。
 これは交渉事における制約力を高める魔法だけど、誘導次第では相手に本音を吐かせる事も出来るのだ。

「すみませんがあなた方は本当の事を言っているのですか? 心から思っている事を叫んでいるのですか?」
「当たり前だ!」

 よし。これで相手も少なくとも本音を口にはしてくれるはず。
 まあ嘘をつくことを丸っきり気にしない人間には殆ど効果は無いし、あくまでも『交渉』の一環なのでオレが嘘をついていると相手が思ったら、やはり効果は無くなるのでそれほど便利でもないのだけどな。

「あなた達も本音では死にたくなどないのでしょう? それどころか今の荒んだ生活にも不満だらけなのではありませんか?」
「あ、当たり前だろうが!」

 言葉だけはさっきと同じ事を言っているが、やはり思った通りだ。
 人間なら普通は死にたくないに決まっている。
 もちろん宗教的情熱を込めて『死ぬ』と繰り返していれば、人間はその言葉に酔って自爆テロのような確実に自分が死ぬ方策を選択する事もありうるだろう。
 しかし実際に自爆テロの実行犯は多くの場合、残された家族への厚遇が約束されるか、長期間に渡り洗脳された場合が殆どだったそうだけど、こちらの『地獄の轟き』で雑魚兵士にそんな手間暇かけているはずがない。
 彼らはあくまでも目の前にいる相手と、そして何よりも自分自身を騙すために先ほどから過激なことを唱えているのだろう。
 まともに考えれば、戦争になれば王族でも殺せる、とかそんな事を夢想する人間でも現実的な目的として今のような生活を選ぶはずが無い。
 それは現状を受け入れさせるために、後からすり込まれたものなんだろう。
 もちろん漠然とでもそんな願望はあったかもしれないが、そこに『地獄の轟き』の教団がつけ込んだかもしれないな。
 近くで見れば彼らは明らかに不潔だし、戦う前から既に怪我や病気を患っている面々も何人かいるようだな。
 そう言えば元の世界にいたときに聞いたところでは昔の戦争は『戦闘とは飢餓と疫病を乗り越えた兵士が生きのびるための最後の試練』などと言われていたそうだ。
 オマケに戦場どころか、兵営、そして病院ですら不潔極まる環境なので、兵士達の多くが伝染病にかかり、行く先々で病気をまき散らしたので、戦争よりもその病気の犠牲が多い事もよくあったらしい。

 最初に組織的な戦場医療が行われ、戦死の原因についても統計が取られた一九世紀の戦争では犠牲者の八割が餓死と病死だったと聞いた事がある。
 しかも『地獄の轟き』の信徒の場合は、負傷や病気で動けなくなっても誰も助けてもくれないわけだ――いくら貧困者を救う事が目的で行動している『聖女教会』でもこんな連中を助けるはずがないからな。
 たぶん普段から戦いだけでなく、病気や疲労、餓えなどで身体を壊した仲間が次々に脱落してのたれ死んでいくけど、それでも他に行くところも帰るところもなく、こんな心身共に荒んだ生活を続けざるを得ないのではないか。
 新手がここに来る様子がないのは、これで全員というより、そもそも遅れるものは切り捨てられてしまうからなのだろう。
 困った事に雑魚兵士がこういう扱いをされるところはこの世界ではしばしばあって、そのために荒んだ兵士が戦争を終えた後、徒党を組んで暴れ回っていたりする。
 それで犠牲になった人間が、また彼らのような荒んだ生活に足を踏みいれる結果になるとは、ここまで悲惨な因果はそうそう無いだろう。

 しかしそれが分かったところでどうなる?
 このオレが連中に対して真っ当な生活を保障する事など出来っこないのは分かりきっている。
 いま出来る事が何かと言えば――やっぱり一つしか無いか。
 オレはいつものように半ば諦観を込めて『地獄の轟き』の面々に向き合う事となった。
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