異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
509 / 1,316
第14章 拳の王

第509話 またしても化身となって

しおりを挟む
 目の前で今まさに殺し合いが始まりかねない状況で、しかもオレの力ではどうしようもない。
 こうなっては出来ることはただ一つだけだ。
 まったくもって望ましく無いけど、オレの守護女神を自称しているイロールの助けを呼ぶしか無い。
 何しろあの女神は殆どこの世界との接点が無いらしいので、オレが呼ぶと――場合によっては呼ばなくとも――すぐにこっちと連絡を取りに来るからな。
 どうもオレとの繋がりから、こちらの心を読むとまではいかなくとも、感情の動きぐらいは分かるらしいので、ピンチになったらこちらへの干渉を強めているらしいのだ。

『何か御用ですか?』

 まだ呼んでないのに、オレの心にいつもの声が響いてくる。
 どうやら以前と同じくオレの呼びかけを待っていたらしい。
 まあいい。望みもしないのに無理矢理、精神に介入してくる『地獄の轟き』よりはマシと考えよう。

「状況を説明している暇はありません。すみませんが力を貸して下さい」
『いいですよ。分かりました』

 相変わらずその辺りは大ざっぱだな。
 まあ非常に不本意ながらオレはこの女神の信仰を広めるにあたって、大きな役割を『果たしてしまっている』けど、その貢献を考えれば十分にギブアンドテイクの関係だ。
 そんなわけで力を借りるにあたって特にありがたいとも、申し訳ないとも思っていないが、その都度どうもあの女神の影響をより強く受けるようになっている感じがする。
 しかしそれでも頼らざるを得ないのだから、薬物中毒かはたまたヒーローもので言えば『心身をむしばむパワーアップ』みたいなものだろうか。
 そしてオレの身体に今までと同じく『何か』が流れ込んで来て、それと共に一気に視覚が切り替わる。
 毎度の事だが女神の化身となったので、外見的には一気に成長して二十代前半程度になって背が高くなったのだ。
 それと胸も成長するのはいつも通りだが、前よりも少し大きくなった気がするぞ。
 いや。気のせいかもしれないし、化身になる都度、影響が微妙に違っているので、オレの姿もその都度変化しているのかもしれないな。

「なんだとその姿は?」
「やはりあなたが本物だったのですか」
「どうやら思った通りですね」

 一触即発だった連中も皆、オレの方を注目してくれたお陰で、ひとまず戦いはストップしてくれたらしい。
 まあオレの眼前で流血の惨事が引き起こされるのを避けるためなら、神の化身になるどころか裸踊りだってやってやるさ。

「な……まさか?!」

 オレが賄賂を渡した役人は自分の目が信じられないと言わんばかりに呆然としている。
 この姿を見ても『偽者が化けている』と言い張るのでもいいし、まあ『女神の化身から賄賂もらった』と思うならそれでもよし。
 どっちにしても引いてくれるならそれでいい。
 そしてオレ達の周囲に漂っていた『地獄の轟き』の霊体は一気にこちらに迫ってくる。

『おお……そなたの身を我らにゆだねよ……』

 こっちはとっくに女神様にゆだねた身ですから、先客がいるのでそんな頼みには応じられません。

『あなたも見当はついているようですが、どうやら彼らは戦乱で犠牲となった人々の苦しみや憎しみ、悲しみの集まった存在のようですね……痛ましい事です』

 オレの脳裏に響くイロールの声は確かに悲しんではいるんだろうけど、どこか遠い他人事のようにも感じられるな。
 まあ千年存在してきて、戦乱を何度も目の当たりにし、理不尽な虐殺に接した事も一度や二度の話ではないのだろうからそう考えるのも仕方ないのだろう。
 元の世界にいた時はオレ自身、外国での虐殺の話を聞いても対して気にもとめていなかったからそれに近い感覚なのかもしれない。
 もちろん今のオレは少なくとも目の前でそんな事が起きるのを見逃す気はないけどな。
 そしてオレの周囲はいつの間にか霊体の放つ魔力で覆い尽くされている。

「これはいったい何が起きているのだ?」

 普通ならば霊体など感知出来ないはずだが、これだけ濃密なものとなったらミーリアの目でも霞ぐらいには見えるらしい。
 だがオレ以外の人間はこれに触れたら一気に精神を破壊されてしまいかねない。

「だがこのままではあなたが危ない。ここは愚僧が――」
「ダメです! 近寄らないで! 危ないですから」

 マクラマンやミーリアは慌てて駆け寄ろうとするが、オレは必死で止める。

「お願いですからここはわたしに任せて下さい!」
「分かりました。我が拳では残念ながらどうしようもない相手のようです」

 さすがにビネースは司祭だけあって、どうやら自分の力の及ばない相手だと察すると見切りが早いらしい。

「とにかくわたしは大丈夫です!」
『お前の身があれば、我らは皆、もう一度この世で生きられる……』

 オレの周囲にまとわりつき、脳裏に響く声はどうやらこの身を自分達の『器』にしたいらしい。
 考えてみれば当然だが女神イロールにとって魅力的な器は、こいつらにとっても同様なのだ。
 しかしそんな要求にオレが応じるはずがないだろう。少なくともこんな奴らに身体を与えるぐらいなら、まだ女にされた方がずっとマシだ!
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...