異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
510 / 1,316
第14章 拳の王

第510話 思わぬ『神話の真実』は

しおりを挟む
 とりあえず女神の化身となったオレの周囲には霊体が寄り集まり、分厚い霧のような光景となっている。
 しかしその霧の中では苦しむ人間の顔が一瞬、浮かび上がってはまた霧に溶け込むように消え去り、その次にはまた別の憎しみに歪んだ顔が浮かび上がる。
 以前にも似たような相手に出会った事があるが、人間の苦しみや恨みが寄り集まった霊体の集合体というのは近い形態を取るものなのだろう。
 もっとも今はこんな風に落ち着いていられるけど、常人だったらたぶんあっという間に取り込まれ、ここに集う無数の顔の一つにされてしまったに違いない。

『その身をよこせ……そして我らの器となれ』
「お断りします。そんな事よりとっととこの世から消えて下さい」

 そんな事を口にしたところで、消えてくれるなら苦労はないけど、相手もかつては『人間』だったのなら意志疎通を試みてみたいのだ。

『なんだと。少なくとも今のお前は『器』になっているだろう。それならば我らにも同じようにその身を明け渡せ』

 確かに今は女神の器になっているけど、少なくとも身体の主導権はオレにあるし、あくまでも一時的なものだ。
 しかしこの『地獄の轟き』の器になったら、ほぼ間違い無くこの身を乗っ取られてオレの意識すら奪われてしまうだろう。
 ああ。イロールがまだまだ真っ当な女神だったとしみじみ思う時なんて来て欲しくはなかったなあ。

『さあ。その身を明け渡せ……そうすれば我らは再びこの世に生きる事が出来る』

 そうか。当たり前だけどこの霊体は無念の死を迎えた人達なんだ。
 だからこの世に舞い戻って再び生きたいと思っているのか?
 いや。それも無数にある彼らの欲求の一つであって、ただ他人を苦しめてやりたいとか、戦乱を広めて自分達と同じ目にあう人間を増やしたいとかいろいろあるんだろう。
 しかし彼らの器にされた人間はその精神を破壊されて取り込まれ、身体もすぐに息絶えてしまうに違いない。
 以前にも理想的な実験材料だの何だのいろいろ酷い扱いをされた事はあるが、こういう相手は幾ら出て来ても慣れないものだ。

「こういう人達を癒やす事は出来ないのですか?」

 オレはイロールに向けて問いかける。

『それは困難ですね。まだ生きている人間であればどうにかなるのですが、彼らは曲がりなりにも神界に身を置いている存在ですから』

 うん? 神界に身を置いている存在は癒やせないのか?
 それでは以前にビネースから聞いた『戦いを止めようとして他の神々に袋だたきにされ深傷を負ったガイザー神の傷をイロールが癒やした』という伝説は嘘だったという事なのだろうか。

「それではあなたがガイザー神の傷を治したという話はやっぱり事実ではないのですか?」

 周囲の状況を考えると、そんな事を追求する場面では無いだろう。
 しかしオレの場合はそういう話を聞くとついつい突っ込みを入れてしまうのが習い性になってしまっているのだ。
 だが次にオレの心に響いた女神の声は、こちらの予想をいつものように裏切った。

『それは確かに事実ではありませんが、嘘でもありませんよ』
「どういう事ですか?」
『あなたはこのわたくしと同じく、治癒の権能を有する女神が、過去の時代には存在しなかったと思いますか?』
「それは……当然いたでしょうね」

 傷や病気を治してもらいたいというのは、人間ならば当然の望みであって、この世界ならばそれを司る存在はイロールが神となったという千年以上前から存在したのは間違い無い。

『わたくしも過去の神から権能を引き継いだ存在です。だから昔、同じ権能を有する女神が癒やしたのであれば、それが現在のわたくしに繋がってもいるのですよ』

 う~ん。これもいろいろ面倒だが、要するに同じ治癒の神という権能を受け継いでいるので、当人でも無いかもしれないけど嘘でも無いという理屈なのか。
 神様にとっては信徒達が納得しているのなら、それぐらいの齟齬は許容範囲という事なのかもしれないな。
 しかし『信徒が増えるならちょっとばかり間違った話が広まっていても、喜んで受け入れる』というなら、まったく神様も商売上手というかちゃっかりしているというか。
 まあいい。自分で話をずらしてしまったけど、今は本題に戻そう。

「それではあなたではガイザー神やこの『地獄の轟き』達を癒やす事は出来ないのですか?」
『断っておきますが神界に身を置いている存在は癒やせないのでは無く、相手が同意せねば力が及ばないという事なのですよ。ですから先ほどの伝説でもわたくしがその場にいればガイザー神を癒やせたでしょう。その治癒の女神よりもっと確実に』

 あれ? ちょっとばかりムキになっている?
 たぶんオレが女神の力に疑念を持つ言い方をしたので、カチンと来たのかもしれないな。
 まあいい。つまり彼らが望むのであれば、その狂気を癒やす事は出来るのだろう。
 だったら彼らを追い払うのでは無く、助ける事も可能なはずだ。
 そしてオレは新たな決意を固めつつ、周囲に集まっている無数の霊体に対し改めて向き合った。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...