異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第15章 とある御家騒動の話

第549話 ひとまず追っ手を振り切って

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 とりあえず周囲の植物にドルイド魔法をかけて、結界を作ってから休むことにする。
 結界と言っても、そんな大したものではなく範囲に侵入者があればオレに対して警報を発する程度の代物だが、使う魔力も少なくて済むし、何よりも万一にも無関係な相手を巻き込んだりしないので、今はこれで十分だ。
 一般的な攻撃魔法は使えないオレだが、自然の中では『植物歪曲』ワープ・ウッド『成長加速』グロウスの魔法を使うことで、相手を拘束し動けなくすることぐらいはできる。
 それならたとえ相手が屈強な兵士数十人であろうと釘付けに出来る自信はあるので、少なくとも自然の中でなら逃げ回るのはさほど難しくは無い。
 自分で言うのも何だが、このあたりは確かに化け物じみているかもしれないな。

 しかしいまオレ達を追ってきている相手も、送り込んだ精霊が追い返されているのだから、当然こちらに魔法使いがいることは察知しているだろう。
 そうすると相応の手を打ってくる可能性が高い。
 さすがに夜の山中という危険なところで無理をするとも思えないが、相手が何をしてくるか分からない以上、気を抜く事は出来ない。
 極端な話、大勢で火を放って山ごと焼き払うとかそんな無茶苦茶な事をしてくるかもしれない――その場合、山に住んでいる精霊の類いが激怒するだろうけど、同時にそういうことを喜ぶ野火の精霊もいたりするからいろいろとややこしい。
 何にせよオレの場合、ちょっとした判断の誤りで命を落としかけたり、ろくでもない相手に捕まったりした事が何度もあるからな。
 元の世界で『歴戦の猛者はいない。いるのは歴戦の臆病者だけだ』などという言葉を聞いた事があるが、オレもそんな感覚が身についてきたのかもしれないな。

 そんなわけでその晩は警戒しつつ、オレも眠りについたが翌朝、特に何もなく朝日を浴びて目を醒ました。
 う~む。とりあえず良かったと考えるべきだろうか。
 昨晩、オレが撃退した精霊で打ち止めだったのか、それとも五体も精霊を撃退されたので相手も慎重になったのか。
 相手の意図は分からないが、少なくともこれぐらいで諦めてくれるとは思えない。
 いや。諦めてくれたらいいのだけど、そんなに簡単に事が進むような都合のいい事などあった例しがないからな。

「おはようございます……」

 目を醒ましたミリンサが一礼する。一晩ぐらいで疲れが取れるとは思えないが、それでもちゃんと起きてくるところは、恐らく寮で厳しくしつけられたからなのだろう。

「ところでなぜミリンサさんはドズ・カムの町に戻ろうとしているのですか? ここまで必死で追っている相手です。もし町に戻ったとしても、危険が伴うのは明らかでしょう」
「あなただって危険があると分かっていて、私に同行してくれているではありませんか」

 あまり反論になっていない気がするが、やっぱり答えたくない話題らしい。

「……すまない。どうやら寝起きのために頭が回っていないようです」
「別に構いませんけど、戻る理由は領主の後継者争いと関係あるのですよね?」

 少なくともこの点ぐらいは確認して起きたい。
 全く的外れな勘違いをしていたのでは話にならないからな。

「……その通りです」
「そうすると領主選びの投票に間に合わせるため、どうしても町に戻らねばならないと言う事ですか」
「ええ……そこまでは当たり前ですね」
「いちおう確認しておきますけど、それはいつなのです」

 お約束のパターンだともう時間が無くて、最後はギリギリ間に合うかどうかという話になるのだろう。
 お話の都合とは言え『それだったらギリギリになる前にもっと早く行動しろ』と言いたくなるのがよくあるが、子供にとっての夏休みの宿題のように嫌な事は土壇場になるまでなかなか手がつけられないのが人間というものなのだ。

「予定では投票は五日後ということでした。だからこのままなら十分に間に合うでしょう」

 それは一安心というところだが、ちょっとばかり引っかかるな。
 どうもその期日について、ミリンサはそれほど気にしていないように思えるのだ。
 以前に聞いたとおり、市民の成人女性が何百人もいるとすればミリンサ一人の票など殆ど影響など無いから、関係無いと思っているのだろうか。
 実家が領主家とは殆ど関係無いと言っていたし、ミリンサ本人も町をかなり前に出ているので、領主が誰になろうとどうでもいいと思っている可能性もある。

 まあこっちの世界では立候補者が有権者に対し、可能な限り分かりやすく自分が当選したあかつきに実行する政策について訴えるなんて事はしていないだろう。
 ましてや遠く離れた学校に進学していて、実家からの便りしか情報が無いであろうミリンサが複数いる候補者の全員について詳しく知っているとは思えない。
 そうすると領主候補者の事についてさほど実感を抱いていなくとも不思議では無いだろう。
 ドズ・カムの領主は横暴だったり無能だったりすれば、女性達の投票で解任も出来るそうだから、逆を言えば度を過ぎてダメな人間が候補者に名乗り出る事も無いだろう。


 彼女が細かい事情を語らないのは、ひょっとすると知らない事が多くて迂闊にしゃべるわけにもいかないと思っているのかもしれないな。
 それでもどうしてもドズ・カムの町に戻ろうとするのは、領主選びに投票するのが権利であると共に義務でもあるからなのかもしれない。
 そんな事をあれこれと考えつつ、オレとミリンサは山を抜けて平地に出るのだった。
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