異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
550 / 1,316
第15章 とある御家騒動の話

第550話 ミリンサのちょっとした昔話から

しおりを挟む
 平地に出ればドズ・カムの町にはミリンサを連れていても一日あれば到着するだろう。
 問題なのは追っ手だけど、相手がミリンサを捕らえるのでは無く殺す気だったら、どんな強引な事をしてくるか分からない。
 即死しなければどんな傷や毒でもオレの回復魔法でどうにかなると言いたいけど、常時ミリンサに目を向けているわけにもいかない。
 下手をすれば強力な魔法を撃ち込まれて身体が粉々になってしまう事すらありうる――この世界でそんな魔法が使えるのは一国で何人というレベルだけどな。

 追っ手に公的な権力が使えるわけでないのなら、街道を堂々と通過するのも一つの手だけど、そうでないのなら役人に追い回される危険性がある。
 そうするとやっぱり人通りの少ない道を選んだ方がいいな。。
 いくら何でも全ての道を見張る事は出来ないだろうし、仮に見つかっても数人やそこらならどうにでもなるだろう。
 そんなわけでオレとミリンサは人通りの少ない脇道を一緒に進んでいた。

「ところでミリンサさんは今回、領主候補に名乗り出た人達についてどれぐらいご存じなんですか?」
「それほど詳しいワケではありません。前にも言いましたけど何年もドズ・カムには戻っていませんからね」

 そこまでは想像通りだけど、それでももう少し突っ込むべきだろう。

「しかし知っている事は少しでもあるのなら教えてくれませんか。何らかの付き合いのある人もおられるのでしょう?」

 オレの問いかけにミリンサは少しばかり困った顔をするが、そこで意を決した様子で口を開く。

「実は……立候補者の一人は私の幼なじみなのです」

 むう。これは想定外というか、むしろお約束のパターンというか。
 まあ何年も顔を合わせていない幼なじみと未だに恋仲とか、そんな漫画かラノベにしか無い展開はさすがにあり得ないか。
 しかしミリンサの幼なじみなら年齢は高く見ても二十歳かそこらだろう。
 ただの世襲君主ならどれだけ若くても関係無いだろうけど、領主が投票で決まると言ってもやはり血筋だとか、その実家の勢力が大きな影響を与えるのは当然だから、若くて選挙に選ばれる可能性もあるわけだ。

「その幼なじみの人はどんな方だったのですか?」
「名前はアラズバンと言って、お互いの実家が近くにある事もあって幼い頃はよく喧嘩していたものでした……」

 ふうん。喧嘩友達みたいな相手だったのかな。
 お約束のパターンなら相手は成長したミリンサを見て、幼い頃の喧嘩友達が美しい乙女になっているので息を呑み、そこから恋愛関係になったりするわけだが、さすがにそんな青春漫画みたいな展開はありえないか。

「しかしそれも幼い頃だけです、十歳になる頃にはお互いの家の事情で疎遠になっていったのです。だから今のアラズバンについては良く知りませんよ」
「それはそのアラズバンという人が領主に近しい有力な家だったからですね」
「……まあそう思うのが当然でしょうね」

 うん? 何か含みのありそうな言い方だな。

「違うのですか?」
「もちろんそれもありますが……むしろアラズバンに近づくなと、私の両親から釘を刺されたのですよ」

 ミリンサには特に悔やんでいる様子は無いから、やっぱり恋仲とかそういう関係では無かったらしい。
 しかしミリンサの家は有力では無いと聞いていたけど、それでも町の派閥でアラズバンという人の家とはいろいろ摩擦があったのだろうか。
 だけどどこかが引っかかる。

「それではミリンサさんは、少なくともそのアラズバンさんには投票するつもりはないのですね」

 オレのこの質問に対し、ミリンサは少しばかり困った表情を浮かべる。

「それは分かりません……敢えて言わせていただくと私の票も別に自分の自由になるわけでもないので、逆を言えばアラズバンに投票するかもしれないのです」

 実家の都合で投票する先が決まるのも仕方のない事か。
 しかし以前に聞いたところでは、誰が誰に投票したのかは分からないやり方になっているはずだし、市民の女性は数百人いるそうだから、誰に投票したかなんて分からないだろう。
 ミリンサは実家と疎遠とまではいかなくとも、何年も故郷を離れていたのだし、候補者についても良く知らないのなら、適当に決めてもいいような気がするな。
 まあそんな事を軽々しく考えられるのは、オレが部外者だからなんだろうけど。

「それではミリンサさんの実家はどの候補に近しいのですか? もしも差し支えなければ教えて下さい」
「申し訳ないが、それは知りません。ただたぶん……」

 ここでミリンサは言葉を切り、そして苦笑いを浮かべる。

「どうしました?」
「実家は私の票をあちこちの候補に売り込んでいるでしょうね」

 それは当然かもしれないけど、これまでの展開に加えて、彼女の言い方からするとミリンサの票は領主選を左右しかねない影響があるようにも聞こえるぞ。
 確かにミリンサ一人の票が領主選挙の行方を左右するなら、確かに大勢の追っ手が差し向けられるのも分かる。
 当然。ミリンサの実家と仲の良くない勢力の候補者もいるだろうから、そういう勢力が追っ手を差し向けて投票できないようにしようと考えるのも不思議では無い。

 しかしなぜミリンサのたった一票にそんな影響があるのだろうか。
 やっぱりオレが何かを見落としているのか。
 だがそれについて深く考える事は出来なかった。
 オレ達の進む細い道の先に数人の男が集まって、小さな検問を作っているのが目に入ったからだ。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...