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第15章 とある御家騒動の話
第550話 ミリンサのちょっとした昔話から
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平地に出ればドズ・カムの町にはミリンサを連れていても一日あれば到着するだろう。
問題なのは追っ手だけど、相手がミリンサを捕らえるのでは無く殺す気だったら、どんな強引な事をしてくるか分からない。
即死しなければどんな傷や毒でもオレの回復魔法でどうにかなると言いたいけど、常時ミリンサに目を向けているわけにもいかない。
下手をすれば強力な魔法を撃ち込まれて身体が粉々になってしまう事すらありうる――この世界でそんな魔法が使えるのは一国で何人というレベルだけどな。
追っ手に公的な権力が使えるわけでないのなら、街道を堂々と通過するのも一つの手だけど、そうでないのなら役人に追い回される危険性がある。
そうするとやっぱり人通りの少ない道を選んだ方がいいな。。
いくら何でも全ての道を見張る事は出来ないだろうし、仮に見つかっても数人やそこらならどうにでもなるだろう。
そんなわけでオレとミリンサは人通りの少ない脇道を一緒に進んでいた。
「ところでミリンサさんは今回、領主候補に名乗り出た人達についてどれぐらいご存じなんですか?」
「それほど詳しいワケではありません。前にも言いましたけど何年もドズ・カムには戻っていませんからね」
そこまでは想像通りだけど、それでももう少し突っ込むべきだろう。
「しかし知っている事は少しでもあるのなら教えてくれませんか。何らかの付き合いのある人もおられるのでしょう?」
オレの問いかけにミリンサは少しばかり困った顔をするが、そこで意を決した様子で口を開く。
「実は……立候補者の一人は私の幼なじみなのです」
むう。これは想定外というか、むしろお約束のパターンというか。
まあ何年も顔を合わせていない幼なじみと未だに恋仲とか、そんな漫画かラノベにしか無い展開はさすがにあり得ないか。
しかしミリンサの幼なじみなら年齢は高く見ても二十歳かそこらだろう。
ただの世襲君主ならどれだけ若くても関係無いだろうけど、領主が投票で決まると言ってもやはり血筋だとか、その実家の勢力が大きな影響を与えるのは当然だから、若くて選挙に選ばれる可能性もあるわけだ。
「その幼なじみの人はどんな方だったのですか?」
「名前はアラズバンと言って、お互いの実家が近くにある事もあって幼い頃はよく喧嘩していたものでした……」
ふうん。喧嘩友達みたいな相手だったのかな。
お約束のパターンなら相手は成長したミリンサを見て、幼い頃の喧嘩友達が美しい乙女になっているので息を呑み、そこから恋愛関係になったりするわけだが、さすがにそんな青春漫画みたいな展開はありえないか。
「しかしそれも幼い頃だけです、十歳になる頃にはお互いの家の事情で疎遠になっていったのです。だから今のアラズバンについては良く知りませんよ」
「それはそのアラズバンという人が領主に近しい有力な家だったからですね」
「……まあそう思うのが当然でしょうね」
うん? 何か含みのありそうな言い方だな。
「違うのですか?」
「もちろんそれもありますが……むしろアラズバンに近づくなと、私の両親から釘を刺されたのですよ」
ミリンサには特に悔やんでいる様子は無いから、やっぱり恋仲とかそういう関係では無かったらしい。
しかしミリンサの家は有力では無いと聞いていたけど、それでも町の派閥でアラズバンという人の家とはいろいろ摩擦があったのだろうか。
だけどどこかが引っかかる。
「それではミリンサさんは、少なくともそのアラズバンさんには投票するつもりはないのですね」
オレのこの質問に対し、ミリンサは少しばかり困った表情を浮かべる。
「それは分かりません……敢えて言わせていただくと私の票も別に自分の自由になるわけでもないので、逆を言えばアラズバンに投票するかもしれないのです」
実家の都合で投票する先が決まるのも仕方のない事か。
しかし以前に聞いたところでは、誰が誰に投票したのかは分からないやり方になっているはずだし、市民の女性は数百人いるそうだから、誰に投票したかなんて分からないだろう。
ミリンサは実家と疎遠とまではいかなくとも、何年も故郷を離れていたのだし、候補者についても良く知らないのなら、適当に決めてもいいような気がするな。
まあそんな事を軽々しく考えられるのは、オレが部外者だからなんだろうけど。
「それではミリンサさんの実家はどの候補に近しいのですか? もしも差し支えなければ教えて下さい」
「申し訳ないが、それは知りません。ただたぶん……」
ここでミリンサは言葉を切り、そして苦笑いを浮かべる。
「どうしました?」
「実家は私の票をあちこちの候補に売り込んでいるでしょうね」
それは当然かもしれないけど、これまでの展開に加えて、彼女の言い方からするとミリンサの票は領主選を左右しかねない影響があるようにも聞こえるぞ。
確かにミリンサ一人の票が領主選挙の行方を左右するなら、確かに大勢の追っ手が差し向けられるのも分かる。
当然。ミリンサの実家と仲の良くない勢力の候補者もいるだろうから、そういう勢力が追っ手を差し向けて投票できないようにしようと考えるのも不思議では無い。
しかしなぜミリンサのたった一票にそんな影響があるのだろうか。
やっぱりオレが何かを見落としているのか。
だがそれについて深く考える事は出来なかった。
オレ達の進む細い道の先に数人の男が集まって、小さな検問を作っているのが目に入ったからだ。
問題なのは追っ手だけど、相手がミリンサを捕らえるのでは無く殺す気だったら、どんな強引な事をしてくるか分からない。
即死しなければどんな傷や毒でもオレの回復魔法でどうにかなると言いたいけど、常時ミリンサに目を向けているわけにもいかない。
下手をすれば強力な魔法を撃ち込まれて身体が粉々になってしまう事すらありうる――この世界でそんな魔法が使えるのは一国で何人というレベルだけどな。
追っ手に公的な権力が使えるわけでないのなら、街道を堂々と通過するのも一つの手だけど、そうでないのなら役人に追い回される危険性がある。
そうするとやっぱり人通りの少ない道を選んだ方がいいな。。
いくら何でも全ての道を見張る事は出来ないだろうし、仮に見つかっても数人やそこらならどうにでもなるだろう。
そんなわけでオレとミリンサは人通りの少ない脇道を一緒に進んでいた。
「ところでミリンサさんは今回、領主候補に名乗り出た人達についてどれぐらいご存じなんですか?」
「それほど詳しいワケではありません。前にも言いましたけど何年もドズ・カムには戻っていませんからね」
そこまでは想像通りだけど、それでももう少し突っ込むべきだろう。
「しかし知っている事は少しでもあるのなら教えてくれませんか。何らかの付き合いのある人もおられるのでしょう?」
オレの問いかけにミリンサは少しばかり困った顔をするが、そこで意を決した様子で口を開く。
「実は……立候補者の一人は私の幼なじみなのです」
むう。これは想定外というか、むしろお約束のパターンというか。
まあ何年も顔を合わせていない幼なじみと未だに恋仲とか、そんな漫画かラノベにしか無い展開はさすがにあり得ないか。
しかしミリンサの幼なじみなら年齢は高く見ても二十歳かそこらだろう。
ただの世襲君主ならどれだけ若くても関係無いだろうけど、領主が投票で決まると言ってもやはり血筋だとか、その実家の勢力が大きな影響を与えるのは当然だから、若くて選挙に選ばれる可能性もあるわけだ。
「その幼なじみの人はどんな方だったのですか?」
「名前はアラズバンと言って、お互いの実家が近くにある事もあって幼い頃はよく喧嘩していたものでした……」
ふうん。喧嘩友達みたいな相手だったのかな。
お約束のパターンなら相手は成長したミリンサを見て、幼い頃の喧嘩友達が美しい乙女になっているので息を呑み、そこから恋愛関係になったりするわけだが、さすがにそんな青春漫画みたいな展開はありえないか。
「しかしそれも幼い頃だけです、十歳になる頃にはお互いの家の事情で疎遠になっていったのです。だから今のアラズバンについては良く知りませんよ」
「それはそのアラズバンという人が領主に近しい有力な家だったからですね」
「……まあそう思うのが当然でしょうね」
うん? 何か含みのありそうな言い方だな。
「違うのですか?」
「もちろんそれもありますが……むしろアラズバンに近づくなと、私の両親から釘を刺されたのですよ」
ミリンサには特に悔やんでいる様子は無いから、やっぱり恋仲とかそういう関係では無かったらしい。
しかしミリンサの家は有力では無いと聞いていたけど、それでも町の派閥でアラズバンという人の家とはいろいろ摩擦があったのだろうか。
だけどどこかが引っかかる。
「それではミリンサさんは、少なくともそのアラズバンさんには投票するつもりはないのですね」
オレのこの質問に対し、ミリンサは少しばかり困った表情を浮かべる。
「それは分かりません……敢えて言わせていただくと私の票も別に自分の自由になるわけでもないので、逆を言えばアラズバンに投票するかもしれないのです」
実家の都合で投票する先が決まるのも仕方のない事か。
しかし以前に聞いたところでは、誰が誰に投票したのかは分からないやり方になっているはずだし、市民の女性は数百人いるそうだから、誰に投票したかなんて分からないだろう。
ミリンサは実家と疎遠とまではいかなくとも、何年も故郷を離れていたのだし、候補者についても良く知らないのなら、適当に決めてもいいような気がするな。
まあそんな事を軽々しく考えられるのは、オレが部外者だからなんだろうけど。
「それではミリンサさんの実家はどの候補に近しいのですか? もしも差し支えなければ教えて下さい」
「申し訳ないが、それは知りません。ただたぶん……」
ここでミリンサは言葉を切り、そして苦笑いを浮かべる。
「どうしました?」
「実家は私の票をあちこちの候補に売り込んでいるでしょうね」
それは当然かもしれないけど、これまでの展開に加えて、彼女の言い方からするとミリンサの票は領主選を左右しかねない影響があるようにも聞こえるぞ。
確かにミリンサ一人の票が領主選挙の行方を左右するなら、確かに大勢の追っ手が差し向けられるのも分かる。
当然。ミリンサの実家と仲の良くない勢力の候補者もいるだろうから、そういう勢力が追っ手を差し向けて投票できないようにしようと考えるのも不思議では無い。
しかしなぜミリンサのたった一票にそんな影響があるのだろうか。
やっぱりオレが何かを見落としているのか。
だがそれについて深く考える事は出来なかった。
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