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第15章 とある御家騒動の話
第559話 人々と語らったそのときに
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オレが寺院の門から出て行く途中で、ドロムが問いかけてくる。
「本当に大丈夫でしょうか? あの中にあなた様へ危害を加えようとするものがいればこれは絶好の機会となりましょう」
この寺院にも当然、警備兵がいて集まってきた連中を押しとどめてはいるが、その数は見たところ十数人かそこら。
数百人の群衆が狂乱して一斉に押し寄せたらとても止める事は出来ないだろう。
もしもそんな暴動が起きて『皇帝とただならぬ関係にある』というオレに危害を加えられたら、当然ドロムの責任は免れないだろうし、何よりも『この町に帝国が介入する格好の口実』となる事を危惧しているのだろう。
「その場合でも出ていく事を決めたのはわたしです。ドロムさんに責任はありませんよ」
「あなた様がそう仰って下さるのはありがたいのですが……」
そりゃオレの身にもしもの事があったら、ウァリウス皇帝は黙ってないだろう。
恋愛感情云々を脇に置いても、オレを『女神』として自分の権威付けに使っている以上、そのオレが危害を加えられたと聞けば、放置する事はあり得ないはずだからな。
「とりあえず。あの場に領主候補者や投票権のある人はおられるのですか?」
「いえ。私が見たところではそのようなものはいないようです」
直接話が出来ればいいとは思っていたけど、さすがにそこまで都合よくいかないか。
まあいい。こうなった以上、やることは一つだけだ。
オレが姿を見せると一斉に視線が突き刺さる。
とりあえず視界内の相手は全員、オレの『調和』が効いている筈なので今すぐ暴力に訴える事は無いはずだ。
「……」
それまで騒いでいた連中が一斉に押し黙り、息を呑む様子が見て取れる。
「あ……あれがアルタシャ様なのか?」
「なんとお美しい……」
「だ、騙されるな。あの見た目で多くの人間を欺いてきたんだろう。しかし……」
やっぱりオレの見た目に大きな影響があるのは間違い無いか。
今までもそうだったけど、男だった頃の平凡な男子高校生の姿だったら、絶対に相手にされなかったろうと思える事もしょっちゅうだったからな。
「皆さんが心配されるのは分かります。しかし同じ町の住民同士で争うような事をして何になるのでしょう。落ち着いて下さい」
オレの声を聞いたところで、緊迫した空気が少しは弛緩した様子が感じ取れる。
しかしもちろんそれだけで納得しないヤツもいる。
「ええい。よそ者が口を挟むな!」
「どうせこの町の領主を帝国の手先にしようとしているのだろう」
あちこちから文句が出てくるが、もちろんそこでオレが引き下がるつもりもない。
「そもそも領主を女性の投票で決める掟が定められたのは、無益な領主争いをせず、この町が平穏に過ごせるようにするためでしょう。今のようにお互いが憎み合い、争うのはその掟に反しているのではありませんか?」
「そうだ。アルタシャ様の仰る通りだ。血を流さず、話し合いで領主を決めるための掟であるにもかかわらず、相争うなど見苦しいぞ!」
ここでドロムも一喝する。
先ほどまで心労で今にも倒れそうに見えたけど、さすがに大司祭だけあって信徒達の前では立派な態度を見せているな。
だけど近くで見ると、かなり冷や汗が流れているようだ。
まあオレの場合、どの道このドズ・カムに長居する気は無いし、自分の名声だの地位だのにも興味無いけど、この人は一生過ごすワケだからな。
ここでしくじれば今後の事はもちろん、これまでの業績すら否定されかねないとなればもう『命がけ』だろうよ。
「ですが……大司祭様……」
「お前達は初代領主にして我らが神であるドズ・カム神の身元でそのように大勢で騒いで申し訳ないと思わぬのか!」
そう言ってドロムは神殿の奥を指し示す。
ここにいる連中の殆どはドズ・カム神の信者だろうから、神の名を引き合いに出されたらさすがに遠慮はするようだ。
そしてどうやら殺伐とした空気が収まった来たようなので、オレは改めて話しかける。
「それぞれ代表の方はおられませんか? 奥でゆっくりと話をしましょう」
「……」
すぐに声が上がらないのは、オレの意図を計りかねているのか、それとも代表と言える人間がいないからなのか。
だがこの時、集まった群衆の背後から『何か』がいきなり姿を見せた。
それは人間の倍ほどの背丈はあろうかという半透明で輪郭がぼんやり光る人型の相手だった。
どうやら何か大きな霊体の類いのようだ。
現実世界に顕現しているのではなく、ここに重なる精霊界に位置しているのでオレのように常時、霊体を見る『霊視』の魔法をかけているか、さもなくばシャーマンのような専門職の人間以外には見えないはずだ。
だからまだ民衆は気付かないか、せいぜい漠然とした不安を感じるぐらいだろう。
「これは……何か妙な空気が……」
どうやらドロムも『何か』がいることには気付いたようだ。
だがこの世界において町中に『野良精霊』が現れる事は普通無い。
城壁の中は町の神の領域だから、命令されずに精霊が入る事は殆どあり得ないのだ。
逆を言えばこれは確実に何らかの目的があって、わざわざ町の神の寺院前までやってきた事になる。
「ドロムさん……急いでみんなを避難させて――」
オレがそこまで口にしたところで、くだんの霊体はいきなりこちらの世界に飛び込むと襲いかかって来た。
「本当に大丈夫でしょうか? あの中にあなた様へ危害を加えようとするものがいればこれは絶好の機会となりましょう」
この寺院にも当然、警備兵がいて集まってきた連中を押しとどめてはいるが、その数は見たところ十数人かそこら。
数百人の群衆が狂乱して一斉に押し寄せたらとても止める事は出来ないだろう。
もしもそんな暴動が起きて『皇帝とただならぬ関係にある』というオレに危害を加えられたら、当然ドロムの責任は免れないだろうし、何よりも『この町に帝国が介入する格好の口実』となる事を危惧しているのだろう。
「その場合でも出ていく事を決めたのはわたしです。ドロムさんに責任はありませんよ」
「あなた様がそう仰って下さるのはありがたいのですが……」
そりゃオレの身にもしもの事があったら、ウァリウス皇帝は黙ってないだろう。
恋愛感情云々を脇に置いても、オレを『女神』として自分の権威付けに使っている以上、そのオレが危害を加えられたと聞けば、放置する事はあり得ないはずだからな。
「とりあえず。あの場に領主候補者や投票権のある人はおられるのですか?」
「いえ。私が見たところではそのようなものはいないようです」
直接話が出来ればいいとは思っていたけど、さすがにそこまで都合よくいかないか。
まあいい。こうなった以上、やることは一つだけだ。
オレが姿を見せると一斉に視線が突き刺さる。
とりあえず視界内の相手は全員、オレの『調和』が効いている筈なので今すぐ暴力に訴える事は無いはずだ。
「……」
それまで騒いでいた連中が一斉に押し黙り、息を呑む様子が見て取れる。
「あ……あれがアルタシャ様なのか?」
「なんとお美しい……」
「だ、騙されるな。あの見た目で多くの人間を欺いてきたんだろう。しかし……」
やっぱりオレの見た目に大きな影響があるのは間違い無いか。
今までもそうだったけど、男だった頃の平凡な男子高校生の姿だったら、絶対に相手にされなかったろうと思える事もしょっちゅうだったからな。
「皆さんが心配されるのは分かります。しかし同じ町の住民同士で争うような事をして何になるのでしょう。落ち着いて下さい」
オレの声を聞いたところで、緊迫した空気が少しは弛緩した様子が感じ取れる。
しかしもちろんそれだけで納得しないヤツもいる。
「ええい。よそ者が口を挟むな!」
「どうせこの町の領主を帝国の手先にしようとしているのだろう」
あちこちから文句が出てくるが、もちろんそこでオレが引き下がるつもりもない。
「そもそも領主を女性の投票で決める掟が定められたのは、無益な領主争いをせず、この町が平穏に過ごせるようにするためでしょう。今のようにお互いが憎み合い、争うのはその掟に反しているのではありませんか?」
「そうだ。アルタシャ様の仰る通りだ。血を流さず、話し合いで領主を決めるための掟であるにもかかわらず、相争うなど見苦しいぞ!」
ここでドロムも一喝する。
先ほどまで心労で今にも倒れそうに見えたけど、さすがに大司祭だけあって信徒達の前では立派な態度を見せているな。
だけど近くで見ると、かなり冷や汗が流れているようだ。
まあオレの場合、どの道このドズ・カムに長居する気は無いし、自分の名声だの地位だのにも興味無いけど、この人は一生過ごすワケだからな。
ここでしくじれば今後の事はもちろん、これまでの業績すら否定されかねないとなればもう『命がけ』だろうよ。
「ですが……大司祭様……」
「お前達は初代領主にして我らが神であるドズ・カム神の身元でそのように大勢で騒いで申し訳ないと思わぬのか!」
そう言ってドロムは神殿の奥を指し示す。
ここにいる連中の殆どはドズ・カム神の信者だろうから、神の名を引き合いに出されたらさすがに遠慮はするようだ。
そしてどうやら殺伐とした空気が収まった来たようなので、オレは改めて話しかける。
「それぞれ代表の方はおられませんか? 奥でゆっくりと話をしましょう」
「……」
すぐに声が上がらないのは、オレの意図を計りかねているのか、それとも代表と言える人間がいないからなのか。
だがこの時、集まった群衆の背後から『何か』がいきなり姿を見せた。
それは人間の倍ほどの背丈はあろうかという半透明で輪郭がぼんやり光る人型の相手だった。
どうやら何か大きな霊体の類いのようだ。
現実世界に顕現しているのではなく、ここに重なる精霊界に位置しているのでオレのように常時、霊体を見る『霊視』の魔法をかけているか、さもなくばシャーマンのような専門職の人間以外には見えないはずだ。
だからまだ民衆は気付かないか、せいぜい漠然とした不安を感じるぐらいだろう。
「これは……何か妙な空気が……」
どうやらドロムも『何か』がいることには気付いたようだ。
だがこの世界において町中に『野良精霊』が現れる事は普通無い。
城壁の中は町の神の領域だから、命令されずに精霊が入る事は殆どあり得ないのだ。
逆を言えばこれは確実に何らかの目的があって、わざわざ町の神の寺院前までやってきた事になる。
「ドロムさん……急いでみんなを避難させて――」
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