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第15章 とある御家騒動の話
第562話 ミリンサの相談は……
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それからしばらく後、ミリンサがオレのところにやってきた。
見たところかなり焦っている様子だ。
「アルタシャ様。襲撃されたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「ご心配なく。あれぐらいはいつもの事ですから」
アッサリと言ったオレに対して、ミリンサは一瞬息を呑むが、それから納得した様子で頷く。
「私の時と同じということですか。本当にあなたはその名声の通りのお方なのですね」
ミリンサはどうやらドロムよりは、オレの事を分かっていてくれたようだが、名声だの何だの言われると少しばかりこそばゆい。
「ところでミリンサさんは領主を決める投票では誰に入れるか決めたのですか?」
「それなんですが……」
ここでミリンサはかなり困った、というよりは非常に悩んだ顔をする。
「もちろんミリンサさんが答えられないと言うのなら、別に構いませんよ」
「そういうわけでないのです……いえ……どう言ってよいのか……」
ためらうような様子をミリンサは見せるが、意を決した様子でオレに向き直る。
「実は我が家の恥をさらす話なのですが、聞いてもらえますか?」
「いいですよ。もちろん他言はしないと約束します」
「ありがとうございます……」
ミリンサは頭を下げるが正直なところ彼女の悩みについては、どんなものかだいたい予想はついている。
「以前に私の票を実家は売り込んでいると言いましたね」
「もちろん覚えていますよ」
何しろ彼女の票で誰が領主になるか決まるような状況だからな。
それなりに裕福ではあるにせよ、領主とも縁遠く権力とは無縁だったというミリンサの実家にとっては降って湧いた大チャンスだろう。
だけど人間はそういう時にむしろロクでもない結果を招く事は珍しくも無いのだ。
「実は……両親も兄もそれぞれ私の票を勝手に売り込んで、それで家族が喧嘩をしてバラバラになってしまっていたのです」
やっぱりそうか。なんとなくそんな事になっていそうな気はしていたよ。
「助力して下さったアルタシャ様には申し訳ないのですけど、正直に言えば、私はここに帰ってきた事を後悔しています」
たぶん彼女の目の前で家族同士が見苦しく争ったんだろうな。
たった一日でミリンサがいかにウンザリしたのか、なんとなくオレにも分かるよ。
元の世界のテレビで見たけど、とある国にて石油が出た地域にて近くの村が石油会社に利益の配分を要求したところ、石油会社の代表が毎月小切手を払うと言ったら、その場でそれまで一緒にやってきた村人達が、小切手を誰が受け取るかを巡って喧嘩を始めてしまうと言う事があった。
そのときは所詮、遠くの国における他人事だったから冷静に見られたが、自分の家族がそんな事をしていたらオレもドン引きしただろうなあ。
残念ながら欲に駆られた人間がやることは、どの世界でも変わらないらしい。
長らくドズ・カムを離れていたミリンサは、この町の領主が誰になろうとあまり興味がなかった様子だが、それだからこそ領主選挙の最後の一票を巡って争う家族の姿は見たくもなかったに違いない。
「それを家族の皆さんにハッキリと伝えたのですか?」
「いえ……何と言ってよいのか分からず……黙るしか出来ませんでした……」
そりゃまあ昨日帰ってきたところ、対面した家族がいきなり険悪になっていて目の前で口論を始めたりしたら頭の中が真っ白になっていてもおかしくない。
しばらく時間が経って。ようやく冷静さを取り戻しオレにところに来たという事らしい。
「それでミリンサさんはどうするつもりなのですか?」
「私は今すぐにでもこの町を出て行きたい気分なのですけど、それが出来ない事も分かっています……」
そこでミリンサはオレに問いかけてくる。
「正直に言って私は家族の誰の言う事も聞きたくありません……いえ。結果がどうなろうと関係無く、家族には今回の領主選びの前に戻って欲しいのです……」
残念ながらいったんバラバラになってしまった家族が元通りになるのは難しい。
壊れてしまったものを元通りにするのは、最初から作るよりも困難な事が多いものだ。
たぶん彼女が学業のためにドズ・カムを離れる前は、普通の仲の良い家族だったのだろうな。
ミリンサの記憶にあったそんな家族の姿は原型を止めぬほど壊れてしまっていたのだ。
う~ん。元の世界にいた時のオレだったら、そんな重い話にはとても付き合っていられなかっただろうなあ。
そしてだいたいここまで来ると、ミリンサの相談も見当がついてくる。
「私が家族の誰の言うとおりにしても、他の家族は納得しないでしょう。それならいっそアルタシャ様が決めて下さいませんか?」
やっぱりそうなるか。
ミリンサとすれば家族の誰の言う事を聞いても、他の家族とのしこりが残るし、自分の一存で決めたところで利権がらみで候補を推している面々が納得するはずも無い。
しかしオレに従った事にすれば、ひとまずそれは棚上げになって家族の関係が修復出来るかもしれないと期待しているのだろうなあ。
正直に言って期待薄だと思うけど、そこを今指摘しても仕方ない。
「これが身勝手なお願いなのは分かっています……しかし……頼れる相手はあなたしかいないのです」
まあオレが適当に領主を選んで、その結果としてミリンサの家族に恨まれたとしても別に困りはしない。
しかし領主選びに全く興味が無いオレが、いつの間にか次期領主のキャスティングボートを握っているかのような立場になっているとは、つくづく世の中は理不尽な事だな。
見たところかなり焦っている様子だ。
「アルタシャ様。襲撃されたと聞きましたが、大丈夫でしたか?」
「ご心配なく。あれぐらいはいつもの事ですから」
アッサリと言ったオレに対して、ミリンサは一瞬息を呑むが、それから納得した様子で頷く。
「私の時と同じということですか。本当にあなたはその名声の通りのお方なのですね」
ミリンサはどうやらドロムよりは、オレの事を分かっていてくれたようだが、名声だの何だの言われると少しばかりこそばゆい。
「ところでミリンサさんは領主を決める投票では誰に入れるか決めたのですか?」
「それなんですが……」
ここでミリンサはかなり困った、というよりは非常に悩んだ顔をする。
「もちろんミリンサさんが答えられないと言うのなら、別に構いませんよ」
「そういうわけでないのです……いえ……どう言ってよいのか……」
ためらうような様子をミリンサは見せるが、意を決した様子でオレに向き直る。
「実は我が家の恥をさらす話なのですが、聞いてもらえますか?」
「いいですよ。もちろん他言はしないと約束します」
「ありがとうございます……」
ミリンサは頭を下げるが正直なところ彼女の悩みについては、どんなものかだいたい予想はついている。
「以前に私の票を実家は売り込んでいると言いましたね」
「もちろん覚えていますよ」
何しろ彼女の票で誰が領主になるか決まるような状況だからな。
それなりに裕福ではあるにせよ、領主とも縁遠く権力とは無縁だったというミリンサの実家にとっては降って湧いた大チャンスだろう。
だけど人間はそういう時にむしろロクでもない結果を招く事は珍しくも無いのだ。
「実は……両親も兄もそれぞれ私の票を勝手に売り込んで、それで家族が喧嘩をしてバラバラになってしまっていたのです」
やっぱりそうか。なんとなくそんな事になっていそうな気はしていたよ。
「助力して下さったアルタシャ様には申し訳ないのですけど、正直に言えば、私はここに帰ってきた事を後悔しています」
たぶん彼女の目の前で家族同士が見苦しく争ったんだろうな。
たった一日でミリンサがいかにウンザリしたのか、なんとなくオレにも分かるよ。
元の世界のテレビで見たけど、とある国にて石油が出た地域にて近くの村が石油会社に利益の配分を要求したところ、石油会社の代表が毎月小切手を払うと言ったら、その場でそれまで一緒にやってきた村人達が、小切手を誰が受け取るかを巡って喧嘩を始めてしまうと言う事があった。
そのときは所詮、遠くの国における他人事だったから冷静に見られたが、自分の家族がそんな事をしていたらオレもドン引きしただろうなあ。
残念ながら欲に駆られた人間がやることは、どの世界でも変わらないらしい。
長らくドズ・カムを離れていたミリンサは、この町の領主が誰になろうとあまり興味がなかった様子だが、それだからこそ領主選挙の最後の一票を巡って争う家族の姿は見たくもなかったに違いない。
「それを家族の皆さんにハッキリと伝えたのですか?」
「いえ……何と言ってよいのか分からず……黙るしか出来ませんでした……」
そりゃまあ昨日帰ってきたところ、対面した家族がいきなり険悪になっていて目の前で口論を始めたりしたら頭の中が真っ白になっていてもおかしくない。
しばらく時間が経って。ようやく冷静さを取り戻しオレにところに来たという事らしい。
「それでミリンサさんはどうするつもりなのですか?」
「私は今すぐにでもこの町を出て行きたい気分なのですけど、それが出来ない事も分かっています……」
そこでミリンサはオレに問いかけてくる。
「正直に言って私は家族の誰の言う事も聞きたくありません……いえ。結果がどうなろうと関係無く、家族には今回の領主選びの前に戻って欲しいのです……」
残念ながらいったんバラバラになってしまった家族が元通りになるのは難しい。
壊れてしまったものを元通りにするのは、最初から作るよりも困難な事が多いものだ。
たぶん彼女が学業のためにドズ・カムを離れる前は、普通の仲の良い家族だったのだろうな。
ミリンサの記憶にあったそんな家族の姿は原型を止めぬほど壊れてしまっていたのだ。
う~ん。元の世界にいた時のオレだったら、そんな重い話にはとても付き合っていられなかっただろうなあ。
そしてだいたいここまで来ると、ミリンサの相談も見当がついてくる。
「私が家族の誰の言うとおりにしても、他の家族は納得しないでしょう。それならいっそアルタシャ様が決めて下さいませんか?」
やっぱりそうなるか。
ミリンサとすれば家族の誰の言う事を聞いても、他の家族とのしこりが残るし、自分の一存で決めたところで利権がらみで候補を推している面々が納得するはずも無い。
しかしオレに従った事にすれば、ひとまずそれは棚上げになって家族の関係が修復出来るかもしれないと期待しているのだろうなあ。
正直に言って期待薄だと思うけど、そこを今指摘しても仕方ない。
「これが身勝手なお願いなのは分かっています……しかし……頼れる相手はあなたしかいないのです」
まあオレが適当に領主を選んで、その結果としてミリンサの家族に恨まれたとしても別に困りはしない。
しかし領主選びに全く興味が無いオレが、いつの間にか次期領主のキャスティングボートを握っているかのような立場になっているとは、つくづく世の中は理不尽な事だな。
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