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第15章 とある御家騒動の話
第561話 大司祭に一応、理解された結果は
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ひとまず事態を乗り切ってオレが寺院に入ると、ドロムが血相を変えてやってくる。
「アルタシャ様。なぜあのような危険な真似をなさったのですか! 御身の事をよくお考え下さい!」
先ほどオレが精霊を撃退したときは、称賛していたけど、それはあくまでも民衆の前にしたときの演技であって内心では猛烈に心配していたらしい。もしもの事があったら自分が責任を問われるのはもちろん、帝国からの介入まで招きかねないからな。
そうするとやっぱり襲撃についてこの人は無関係なのだろうか。
少なくとも疑っているとキリが無いのは確かだ。
「仰る事は分かります。しかしあの相手はわたしを狙っていたようですから――」
「それならばなおさら寺院の中にお入り下さればよろしいでしょう。あのような精霊でも寺院の中にはドズ・カム神の承認なくば入れないのですから」
寺院の中は文字通りその神の領域だからな。そこらの精霊が入り込むのが不可能なのはオレにも分かる。
まあ今のところドズ・カム神に会ってはいないから力の程は分からないけど、これまでの経験からすると、この程度の町の神様ではあんまり当てにはならないと言うのが正直なところだな。
「その場合、あの精霊が無関係の人を攻撃するかもしれないでしょう。だからわたしが自分で相手をしたのです」
「な?!」
オレの返答にドロムは驚愕する。
「それではあなた様は御身が傷つくかもしれないにも関わらず、あえてあのような怪物に立ち向かったと仰るのですか? しかもその理由は名前も知らぬもの達が傷つきかねないからだと?」
「もちろんですよ。わたしは今までずっとそうやって来ました。これからもそうするつもりです」
「それは何とも……」
ドロムはなにをどう口にしてよいのか分からないという顔をしているが、数瞬の後でどうにか思考がオレの言葉に追いついたらしい。
「なるほど。あなた様は本当に評判通りのお方だったのですね。ミリンサが危険だと思っただけでこの町にまで同行し、領主選びにも帝国の意志にも興味が無いというお言葉にも嘘偽りはなかったと……」
もう『あれこれ考えるのは疲れた』と言わんばかりにドロムはいからせた肩を落とす。
今までオレが口にしてきた『領主が誰になろうと興味は無く、口を出すつもりもない』といった事をドロムは『建前のきれい事』と受け止めていた様子だったけど、ようやく本音だと理解してくれたらしい。
「すみません。わたしがドロムさんに余計な心配をかけさせてしまったみたいですね」
「どうやらこの狭いドズ・カムとはかけ離れた世界が、外には広がっているということですね。この年寄りにもようやく理解出来ました」
まるでいきなり老け込んだかのようにドロムは力なく返答する。
まあ。どう考えてもドロムの方がオレよりもずっと『常識人』なのだろう。
地方都市とは言えどその町の大司祭を長年やってきて、いろいろな魑魅魍魎を相手にしてきたドロムにはオレの思考回路は理解の範疇を超えていたに違いない。
ちょっとばかり申し訳ない気もするな。
「それではアルタシャ様は本当にこの町の領主が誰になるのかも、お言葉の通り興味はないのですか」
「その言い方からすると、今までずっとわたしの言葉を疑っておられたのですか?」
この突っ込みにドロムは一瞬、息を呑む。
「い、いえ……そんな事は決して……」
ドロムはバツが悪そうに視線を逸らす。
「別に責めているワケではありませんよ。ところで話は変わりますが、先ほど襲撃してきた精霊について、ドロムさんは何か心当たりはありませんか?」
「……申し訳ありませんが、あのようなものを見かけた事はありません」
その話が本当なら、どこかの派閥が外で雇ったシャーマンの類いが使役していた精霊なのかもしれないな。
「そうだ。それについても色々と調べて参りましょう。それでは失礼いたします」
ドロムは一礼してそそくさと去って行く。
どうやらオレの意図をやたらと深読みしてあれこれ考えていたのが全部外れだと分かってしまったので、今後の事をどうするか方針の練り直しを考えるつもりかもしれない。
そしてこれまでの態度を見る限り、ドロムは大司祭として特定の候補を推しているわけではないようだ。
たぶんあくまでも自分は中立として、どの候補にもいい顔をしつつ、誰が当選しても問題ないように振舞っているに違いない。
もちろんそれはドロムが次の領主が誰になっても構わないと思っている事を意味しない。
ただドロムは帝国やオレを利用しようとしているのは確かだから、どちらかといえば帝国と距離を置きたがっている独立派が領主になるのは望んでいないだろう。
そして皇帝と昵懇な関係にあると言われているオレが、独立派を推すとはまず考えられないのでいろいろと利用しようとしていたのではないか。
まあオレはどの派閥も推す気はないし、仮に次の領主が独立派になったところで気にはしない。
そうなったとしてもまさかこんな地方都市がいきなり帝国から独立を叫んで、独立戦争とかそんなバカな事はしないだろう。
少しばかりウァリウスが面倒を抱える事になるかもしれないけど、そんなところまでオレが気を回す事でもあるまい。
いろいろとハプニングはあったけど、ドロムがオレの事をそれなりに理解してくれただけでもよしと考えるべきだろうな。
「アルタシャ様。なぜあのような危険な真似をなさったのですか! 御身の事をよくお考え下さい!」
先ほどオレが精霊を撃退したときは、称賛していたけど、それはあくまでも民衆の前にしたときの演技であって内心では猛烈に心配していたらしい。もしもの事があったら自分が責任を問われるのはもちろん、帝国からの介入まで招きかねないからな。
そうするとやっぱり襲撃についてこの人は無関係なのだろうか。
少なくとも疑っているとキリが無いのは確かだ。
「仰る事は分かります。しかしあの相手はわたしを狙っていたようですから――」
「それならばなおさら寺院の中にお入り下さればよろしいでしょう。あのような精霊でも寺院の中にはドズ・カム神の承認なくば入れないのですから」
寺院の中は文字通りその神の領域だからな。そこらの精霊が入り込むのが不可能なのはオレにも分かる。
まあ今のところドズ・カム神に会ってはいないから力の程は分からないけど、これまでの経験からすると、この程度の町の神様ではあんまり当てにはならないと言うのが正直なところだな。
「その場合、あの精霊が無関係の人を攻撃するかもしれないでしょう。だからわたしが自分で相手をしたのです」
「な?!」
オレの返答にドロムは驚愕する。
「それではあなた様は御身が傷つくかもしれないにも関わらず、あえてあのような怪物に立ち向かったと仰るのですか? しかもその理由は名前も知らぬもの達が傷つきかねないからだと?」
「もちろんですよ。わたしは今までずっとそうやって来ました。これからもそうするつもりです」
「それは何とも……」
ドロムはなにをどう口にしてよいのか分からないという顔をしているが、数瞬の後でどうにか思考がオレの言葉に追いついたらしい。
「なるほど。あなた様は本当に評判通りのお方だったのですね。ミリンサが危険だと思っただけでこの町にまで同行し、領主選びにも帝国の意志にも興味が無いというお言葉にも嘘偽りはなかったと……」
もう『あれこれ考えるのは疲れた』と言わんばかりにドロムはいからせた肩を落とす。
今までオレが口にしてきた『領主が誰になろうと興味は無く、口を出すつもりもない』といった事をドロムは『建前のきれい事』と受け止めていた様子だったけど、ようやく本音だと理解してくれたらしい。
「すみません。わたしがドロムさんに余計な心配をかけさせてしまったみたいですね」
「どうやらこの狭いドズ・カムとはかけ離れた世界が、外には広がっているということですね。この年寄りにもようやく理解出来ました」
まるでいきなり老け込んだかのようにドロムは力なく返答する。
まあ。どう考えてもドロムの方がオレよりもずっと『常識人』なのだろう。
地方都市とは言えどその町の大司祭を長年やってきて、いろいろな魑魅魍魎を相手にしてきたドロムにはオレの思考回路は理解の範疇を超えていたに違いない。
ちょっとばかり申し訳ない気もするな。
「それではアルタシャ様は本当にこの町の領主が誰になるのかも、お言葉の通り興味はないのですか」
「その言い方からすると、今までずっとわたしの言葉を疑っておられたのですか?」
この突っ込みにドロムは一瞬、息を呑む。
「い、いえ……そんな事は決して……」
ドロムはバツが悪そうに視線を逸らす。
「別に責めているワケではありませんよ。ところで話は変わりますが、先ほど襲撃してきた精霊について、ドロムさんは何か心当たりはありませんか?」
「……申し訳ありませんが、あのようなものを見かけた事はありません」
その話が本当なら、どこかの派閥が外で雇ったシャーマンの類いが使役していた精霊なのかもしれないな。
「そうだ。それについても色々と調べて参りましょう。それでは失礼いたします」
ドロムは一礼してそそくさと去って行く。
どうやらオレの意図をやたらと深読みしてあれこれ考えていたのが全部外れだと分かってしまったので、今後の事をどうするか方針の練り直しを考えるつもりかもしれない。
そしてこれまでの態度を見る限り、ドロムは大司祭として特定の候補を推しているわけではないようだ。
たぶんあくまでも自分は中立として、どの候補にもいい顔をしつつ、誰が当選しても問題ないように振舞っているに違いない。
もちろんそれはドロムが次の領主が誰になっても構わないと思っている事を意味しない。
ただドロムは帝国やオレを利用しようとしているのは確かだから、どちらかといえば帝国と距離を置きたがっている独立派が領主になるのは望んでいないだろう。
そして皇帝と昵懇な関係にあると言われているオレが、独立派を推すとはまず考えられないのでいろいろと利用しようとしていたのではないか。
まあオレはどの派閥も推す気はないし、仮に次の領主が独立派になったところで気にはしない。
そうなったとしてもまさかこんな地方都市がいきなり帝国から独立を叫んで、独立戦争とかそんなバカな事はしないだろう。
少しばかりウァリウスが面倒を抱える事になるかもしれないけど、そんなところまでオレが気を回す事でもあるまい。
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