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第15章 とある御家騒動の話
第579話 そしてまた祭り上げられ
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思わず口にしたこちらの文句を聞いて、ウァリウスは少しばかり呆れた様子でこれ見よがしにため息をつく。
「君はどこの誰かもその意図も分からないのに、命を狙った相手を心配するのかい?」
「黒幕当人はともかく、一族郎党まで処罰するのは行きすぎですよ」
まあこの世界の基準だと、重大な犯罪に手を染めたら一族まで罪に問うのはむしろ当たり前なのだけど、オレにはどうしても受け入れ難い事なのだ。
「本当に君はいつも自分よりも他人を優先させるのだね。それなら――」
「断っておきますけど、人質をとって言う事を聞かせようなどと考えないことですね」
「それはあんまりな評価だよ。この僕がそんな浅はかで愚かしい真似をするとでも思っているのかい?」
もちろん思っていないよ。
ウァリウスがそんな真似をしてオレを言いなりに出来ると思うような男だったら、こっちも決して付き合う事はなかったろうし、もちろん皇帝の権威付けに使われる事を許したりはしていない。
「そんなやり方で得られるのは僕の望んでいる愛では無く、軽蔑と憎悪じゃないか……いや。待てよ」
ここで何かに気付いた様子で、皇帝は自分のアゴに手を当てる。
「ひょっとすると君だったら僕にそこまでさせてしまった事に負い目を感じて、愛の力で正道に立ち返らせようと必死になってくれるかな?」
「あなたもご存じでしょうけど、世の中では愛で片付く問題の方がずっと少ないですから、それはないですね」
悲しい事にオレの経験でも、愛の力でどうこう出来る事よりももっと直接的な力で解決する事の方が圧倒的に多い。
しかしそれでも流血よりは愛の方が遥かにマシだと思うけど、この場でそんな事を口にしたら確実にこの皇帝は自分に都合のいい方向に無理矢理にでも話をねじ曲げるだろう。
「いつまでもそんな軽口を叩いている場合ではありませんよ。本当にこの町をどうするつもりなのですか?」
「どうしてもそちらが優先なのか。なぜ君はいつもいつも皇帝よりも政治の話をしたがるのだろうな」
「あなたが皇帝なのに、自分の責務に関係無い話をしたがるのですよ」
「そんな事は無いさ。皇帝にとっては後継者をもうけるのは非常に重要な責務だよ」
「わたしもそのための宮女の一人だった事もありますから、それぐらいは知っていますよ」
前もって持ち出されないよう、こちらが先回りしておこう。
「しかしそれと今回の件は関係ありません」
「分かったよ。やはり僕は生身で君の前に立つ必要があるということだね」
思った通りこちらの言っている事を意図的にゆがめているな。
いつまでも付き合っていたら、ウァリウスのペースに引き込まれて余計な言質を取られかねないので、ここは話を無理矢理にでも引き戻す。
「とにかく今はあなたが皇帝として、このドズ・カムをどうするのかだけ話をして下さい。そうでないとこの部屋から出て行きますよ」
「仕方ないな。もちろんさっきも言ったように当面は無理はしないさ。まずは協力的な町に軍を駐屯させて、周囲に睨みをきかせるところから始めるよ」
そのあたりは以前に出会ったカリルがジャニューブ河添いの都市に対して行ったのと似たようなやり方だな。
まあ同様に地方の独立性を抑えようとする中央とそれに抵抗する地方領主というのは、どこの国でもある事なんだろうけど、オレの場合はいつも中央権力側の象徴に使われてしまっている気がするな。
恐らくこの場合の一番のキモとなるのは、オレの見た目と評判なんだろう。
いかに皇帝とは言えど見た目は普通のウァリウス本人よりも、オレを前に出した方が絶対に一般市民の反発は小さいだろうからな。
残念ながら人間は中身よりも見た目だけで判断する方が圧倒的に多いのは、どの世界でも変わらない一つの真実なのだ。
「君がこの町で怪物と何度も対峙し、その脅威から人々を守ってくれたという話は、僕にとってもいろいろとありがたい事だよ」
どうやらコンラディンが怪物を差し向けてオレの命を狙っただけなのに、ウァリウスはそれを敢えて利用して、この地域に帝国軍を駐留させる大義名分にしようとしているのか。
ついでに言えばオレの命を狙った黒幕は、皇帝の権威に傷をつけようとしていた筈だろうけど、逆手にとる事でウァリウスは意趣返しをする気もありそうだな。
「君もそれを考えて、人々に死者が出ないように頑張ってくれたのだろう?」
「残念ですけど、わたしも怪物と対峙したときに、帝国の事もあなたの事も思い浮かべはしませんでしたよ」
オレとしては無関係の人間を巻き込まない事を考えても、皇帝や帝国のためとは考えた事も無い。
しかしそれを利用する側としては、関係が無いことも分かっている。
「うんうん。君が何も考えなくとも僕のために行動してくれるほどにまで、なってくれたのなら本当に嬉しい事だよ」
良くも悪くもウァリウスは本当に抜け目の無い政治家になったものだよ。
そう考えていると、ウァリウスの画像はどんどん薄くなっていく。
「どうやらここまでが限界らしいね。次は是非ともこの手で直に君のその身を抱きしめさせてもらおう」
オレの返答を聞きもせず、一方的に話は打ち切られた。
オレは『無理矢理にでも奪って欲しい』なんて思った事も無いのに、どうしてそういう強引な連中が『自称恋人』になっているのかねえ。
「君はどこの誰かもその意図も分からないのに、命を狙った相手を心配するのかい?」
「黒幕当人はともかく、一族郎党まで処罰するのは行きすぎですよ」
まあこの世界の基準だと、重大な犯罪に手を染めたら一族まで罪に問うのはむしろ当たり前なのだけど、オレにはどうしても受け入れ難い事なのだ。
「本当に君はいつも自分よりも他人を優先させるのだね。それなら――」
「断っておきますけど、人質をとって言う事を聞かせようなどと考えないことですね」
「それはあんまりな評価だよ。この僕がそんな浅はかで愚かしい真似をするとでも思っているのかい?」
もちろん思っていないよ。
ウァリウスがそんな真似をしてオレを言いなりに出来ると思うような男だったら、こっちも決して付き合う事はなかったろうし、もちろん皇帝の権威付けに使われる事を許したりはしていない。
「そんなやり方で得られるのは僕の望んでいる愛では無く、軽蔑と憎悪じゃないか……いや。待てよ」
ここで何かに気付いた様子で、皇帝は自分のアゴに手を当てる。
「ひょっとすると君だったら僕にそこまでさせてしまった事に負い目を感じて、愛の力で正道に立ち返らせようと必死になってくれるかな?」
「あなたもご存じでしょうけど、世の中では愛で片付く問題の方がずっと少ないですから、それはないですね」
悲しい事にオレの経験でも、愛の力でどうこう出来る事よりももっと直接的な力で解決する事の方が圧倒的に多い。
しかしそれでも流血よりは愛の方が遥かにマシだと思うけど、この場でそんな事を口にしたら確実にこの皇帝は自分に都合のいい方向に無理矢理にでも話をねじ曲げるだろう。
「いつまでもそんな軽口を叩いている場合ではありませんよ。本当にこの町をどうするつもりなのですか?」
「どうしてもそちらが優先なのか。なぜ君はいつもいつも皇帝よりも政治の話をしたがるのだろうな」
「あなたが皇帝なのに、自分の責務に関係無い話をしたがるのですよ」
「そんな事は無いさ。皇帝にとっては後継者をもうけるのは非常に重要な責務だよ」
「わたしもそのための宮女の一人だった事もありますから、それぐらいは知っていますよ」
前もって持ち出されないよう、こちらが先回りしておこう。
「しかしそれと今回の件は関係ありません」
「分かったよ。やはり僕は生身で君の前に立つ必要があるということだね」
思った通りこちらの言っている事を意図的にゆがめているな。
いつまでも付き合っていたら、ウァリウスのペースに引き込まれて余計な言質を取られかねないので、ここは話を無理矢理にでも引き戻す。
「とにかく今はあなたが皇帝として、このドズ・カムをどうするのかだけ話をして下さい。そうでないとこの部屋から出て行きますよ」
「仕方ないな。もちろんさっきも言ったように当面は無理はしないさ。まずは協力的な町に軍を駐屯させて、周囲に睨みをきかせるところから始めるよ」
そのあたりは以前に出会ったカリルがジャニューブ河添いの都市に対して行ったのと似たようなやり方だな。
まあ同様に地方の独立性を抑えようとする中央とそれに抵抗する地方領主というのは、どこの国でもある事なんだろうけど、オレの場合はいつも中央権力側の象徴に使われてしまっている気がするな。
恐らくこの場合の一番のキモとなるのは、オレの見た目と評判なんだろう。
いかに皇帝とは言えど見た目は普通のウァリウス本人よりも、オレを前に出した方が絶対に一般市民の反発は小さいだろうからな。
残念ながら人間は中身よりも見た目だけで判断する方が圧倒的に多いのは、どの世界でも変わらない一つの真実なのだ。
「君がこの町で怪物と何度も対峙し、その脅威から人々を守ってくれたという話は、僕にとってもいろいろとありがたい事だよ」
どうやらコンラディンが怪物を差し向けてオレの命を狙っただけなのに、ウァリウスはそれを敢えて利用して、この地域に帝国軍を駐留させる大義名分にしようとしているのか。
ついでに言えばオレの命を狙った黒幕は、皇帝の権威に傷をつけようとしていた筈だろうけど、逆手にとる事でウァリウスは意趣返しをする気もありそうだな。
「君もそれを考えて、人々に死者が出ないように頑張ってくれたのだろう?」
「残念ですけど、わたしも怪物と対峙したときに、帝国の事もあなたの事も思い浮かべはしませんでしたよ」
オレとしては無関係の人間を巻き込まない事を考えても、皇帝や帝国のためとは考えた事も無い。
しかしそれを利用する側としては、関係が無いことも分かっている。
「うんうん。君が何も考えなくとも僕のために行動してくれるほどにまで、なってくれたのなら本当に嬉しい事だよ」
良くも悪くもウァリウスは本当に抜け目の無い政治家になったものだよ。
そう考えていると、ウァリウスの画像はどんどん薄くなっていく。
「どうやらここまでが限界らしいね。次は是非ともこの手で直に君のその身を抱きしめさせてもらおう」
オレの返答を聞きもせず、一方的に話は打ち切られた。
オレは『無理矢理にでも奪って欲しい』なんて思った事も無いのに、どうしてそういう強引な連中が『自称恋人』になっているのかねえ。
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