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第15章 とある御家騒動の話
第581話 ハッキリと決着はつかないがまた旅立つ
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そして翌日、オレはドズ・カムの町を出ることにした。
もちろん領主が誰になるかはまだ決まっていないが、オレとしては意図的にその前に出て行きたかったのだ。
町の住民達にもオレが去る事は黙ってもらっているので、見送りはドロムとミリンサの二人だけだ。
「本当に結果を見届けなくともよろしいのですか?」
ドロムは明らかに怪訝な表情を浮かべている。
どうやらオレがアッサリと引き上げるのが、逆に心配になっているらしいな。
たぶんこの人からすると、オレは皇帝の意を受け領主争いに首を突っ込むべくやってきておきながら中途半端なところで帰ってしまうので、何がしたくてやってきたのか分からないというところなんだろう。
ひょっとすると過去の知り合いにも、同様にオレの意図が分からないと思われている事が多々あるかもしれないなあ。
「大丈夫ですよ。大司祭様。アルタシャ様は我らを信じて下さっているのですから、我らがその信頼に応えるべきでしょう」
同じく出迎えに来てくれたミリンサの方は簡単に納得してくれているようだ。
家族についてはこれから時間をかけて和解してもらうしかないが、話によるとミリンサ本人はまたドズ・カムを出て学業に戻るらしいので、ひょっとするともうここには戻るつもりはないのかもしれないな。
「ミリンサさんの言うとおり、わたしはこの町の皆さんの選択を尊重します」
「そう仰ってくれると嬉しいのですが……」
やっぱりドロムは納得しがたいようだ。
ひょっとすると決まった領主の権威付けとして、オレが祝福するような形にしたかったかもしれないので、こっちが突き放したと思っているのかもしれない。
それともオレが引き上げるのが、帝国が介入してくる合図とでも疑っているのか。
結果的にはどうにか領主選びについて『誰も選べないまま、住民同士が対立し合う』という最悪の展開は避けられたわけなので、オレとしては一応は納得のいく決着というところだ。
何にせよドロムは今度もいろいろな勢力とのバランスを考え、綱渡りを続けながら、町の自治を守り抜かねばならないのだから、さぞかし苦労も多いだろう。
この世界の基準では立派な高齢者だし、新しい領主が決まったらそろそろ後任に道を譲って引退した方がいいのかもしれないな。
「ただ今回のような問題が起きないように、投票人についてはもっと数が増えるように規則を見直した方がいいと思いますよ。それも新しい領主が決まってから、なるだけ早くした方がいいですね」
「お言葉ですが……それほど急ぐ必要があるでしょうか?」
確かに新しい君主にもいろいろと面倒をかけるのは間違いないし、ドロム自身もあまり乗り気ではないようだ。
それに不測の事態がなければ、次の領主選びは何十年も先の事になるわけで、それなら今すぐ慌ててやるよりもじっくり時間をかけた方がいいという見方もあるだろうけど、オレの考えは違う。
今回のゴタゴタについては大勢の市民も記憶しているはずで、当然ながら次にもまた同じような事が起きるのはゴメンだという意識はあるはずだ。
しかしそれが時間と共に忘れられると、結局のところは元の木阿弥ということになってしまいかねない。
あとまだずっと将来の事となったら、いま現在の有利不利はあまり関係無いという事もある。
もしも領主選挙が近くにあると思ったら、当然どこの勢力も次の投票で有利になるように画策するだろうけど、それが仮に二〇年後にあるかもしれないという話だったら、今の有利不利は殆ど関係無いはずだ。
もちろんそれでも誰の文句も出ない、完璧な制度など作れないだろう。
たとえば領主選びには男性も投票出来るようにすると誰かが言い出したら、やっぱり女性達が反対するに違いないからな。
もうそのあたりはこの町の住民が決める事と丸投げするしかないか。そのためにもちょっとばかり脅すのはアリだよね。
「もしも……万が一、また同じような事になったら、今度こそ本当に帝国が介入して、領主は誰にしろと命じてくるかもしれませんよ。それでもいいのですか?」
「確かに……お言葉の通りです」
そんな事になったとしたら積極的にでは無くとも『別にそれでもいい』と消極的に受け入れる住民も少なく無いだろうけど、逆に反発する住民もいるだろう。
当然ながらドロムにすれば、そういう事は避けたいだろうし、そんなわけで次のルール作りに頑張ってもらうしかない。
「それではそろそろ失礼します。この町が新しい領主の元で繁栄する事と、あとミリンサさんのご家族が元通りになれるように祈っていますよ」
「ありがとうございます。何から何まで……」
「皇帝陛下にも、この町は大丈夫だとお伝え下さい」
ミリンサとドロムの別れを受けて、オレはドズ・カムの町を後にした。
その後もドズ・カムとその周辺の町々は、自治と中央政権との支配とのせめぎ合いの中で帝国との微妙な関係を続けた。
そしてドズ・カムの町では、存亡の危機を救い、そのまま去って行った美しき乙女の伝説が語り継がれる事となる。
それは大多数が称賛を送る存在ではあったが、中には『帝国が影響力を強めるために送り込んで来た』と疑いの目を向けるものもいて、その評価は長らく定まらなかった。
いっぽう帝国の中心部では、大貴族の当主が急な隠居を余儀なくされたが、噂ではそれは皇帝の脅しに近い強い意向があったとされる。
その背後に何があったのかについて、いろいろな推測はあったが、地方都市で起きた騒動と関係付けて考えるものは殆どいなかった。
【後書き】
ドズ・カム編はここで終わりです。
お付き合い下さってありがとうございます。
もちろん領主が誰になるかはまだ決まっていないが、オレとしては意図的にその前に出て行きたかったのだ。
町の住民達にもオレが去る事は黙ってもらっているので、見送りはドロムとミリンサの二人だけだ。
「本当に結果を見届けなくともよろしいのですか?」
ドロムは明らかに怪訝な表情を浮かべている。
どうやらオレがアッサリと引き上げるのが、逆に心配になっているらしいな。
たぶんこの人からすると、オレは皇帝の意を受け領主争いに首を突っ込むべくやってきておきながら中途半端なところで帰ってしまうので、何がしたくてやってきたのか分からないというところなんだろう。
ひょっとすると過去の知り合いにも、同様にオレの意図が分からないと思われている事が多々あるかもしれないなあ。
「大丈夫ですよ。大司祭様。アルタシャ様は我らを信じて下さっているのですから、我らがその信頼に応えるべきでしょう」
同じく出迎えに来てくれたミリンサの方は簡単に納得してくれているようだ。
家族についてはこれから時間をかけて和解してもらうしかないが、話によるとミリンサ本人はまたドズ・カムを出て学業に戻るらしいので、ひょっとするともうここには戻るつもりはないのかもしれないな。
「ミリンサさんの言うとおり、わたしはこの町の皆さんの選択を尊重します」
「そう仰ってくれると嬉しいのですが……」
やっぱりドロムは納得しがたいようだ。
ひょっとすると決まった領主の権威付けとして、オレが祝福するような形にしたかったかもしれないので、こっちが突き放したと思っているのかもしれない。
それともオレが引き上げるのが、帝国が介入してくる合図とでも疑っているのか。
結果的にはどうにか領主選びについて『誰も選べないまま、住民同士が対立し合う』という最悪の展開は避けられたわけなので、オレとしては一応は納得のいく決着というところだ。
何にせよドロムは今度もいろいろな勢力とのバランスを考え、綱渡りを続けながら、町の自治を守り抜かねばならないのだから、さぞかし苦労も多いだろう。
この世界の基準では立派な高齢者だし、新しい領主が決まったらそろそろ後任に道を譲って引退した方がいいのかもしれないな。
「ただ今回のような問題が起きないように、投票人についてはもっと数が増えるように規則を見直した方がいいと思いますよ。それも新しい領主が決まってから、なるだけ早くした方がいいですね」
「お言葉ですが……それほど急ぐ必要があるでしょうか?」
確かに新しい君主にもいろいろと面倒をかけるのは間違いないし、ドロム自身もあまり乗り気ではないようだ。
それに不測の事態がなければ、次の領主選びは何十年も先の事になるわけで、それなら今すぐ慌ててやるよりもじっくり時間をかけた方がいいという見方もあるだろうけど、オレの考えは違う。
今回のゴタゴタについては大勢の市民も記憶しているはずで、当然ながら次にもまた同じような事が起きるのはゴメンだという意識はあるはずだ。
しかしそれが時間と共に忘れられると、結局のところは元の木阿弥ということになってしまいかねない。
あとまだずっと将来の事となったら、いま現在の有利不利はあまり関係無いという事もある。
もしも領主選挙が近くにあると思ったら、当然どこの勢力も次の投票で有利になるように画策するだろうけど、それが仮に二〇年後にあるかもしれないという話だったら、今の有利不利は殆ど関係無いはずだ。
もちろんそれでも誰の文句も出ない、完璧な制度など作れないだろう。
たとえば領主選びには男性も投票出来るようにすると誰かが言い出したら、やっぱり女性達が反対するに違いないからな。
もうそのあたりはこの町の住民が決める事と丸投げするしかないか。そのためにもちょっとばかり脅すのはアリだよね。
「もしも……万が一、また同じような事になったら、今度こそ本当に帝国が介入して、領主は誰にしろと命じてくるかもしれませんよ。それでもいいのですか?」
「確かに……お言葉の通りです」
そんな事になったとしたら積極的にでは無くとも『別にそれでもいい』と消極的に受け入れる住民も少なく無いだろうけど、逆に反発する住民もいるだろう。
当然ながらドロムにすれば、そういう事は避けたいだろうし、そんなわけで次のルール作りに頑張ってもらうしかない。
「それではそろそろ失礼します。この町が新しい領主の元で繁栄する事と、あとミリンサさんのご家族が元通りになれるように祈っていますよ」
「ありがとうございます。何から何まで……」
「皇帝陛下にも、この町は大丈夫だとお伝え下さい」
ミリンサとドロムの別れを受けて、オレはドズ・カムの町を後にした。
その後もドズ・カムとその周辺の町々は、自治と中央政権との支配とのせめぎ合いの中で帝国との微妙な関係を続けた。
そしてドズ・カムの町では、存亡の危機を救い、そのまま去って行った美しき乙女の伝説が語り継がれる事となる。
それは大多数が称賛を送る存在ではあったが、中には『帝国が影響力を強めるために送り込んで来た』と疑いの目を向けるものもいて、その評価は長らく定まらなかった。
いっぽう帝国の中心部では、大貴族の当主が急な隠居を余儀なくされたが、噂ではそれは皇帝の脅しに近い強い意向があったとされる。
その背後に何があったのかについて、いろいろな推測はあったが、地方都市で起きた騒動と関係付けて考えるものは殆どいなかった。
【後書き】
ドズ・カム編はここで終わりです。
お付き合い下さってありがとうございます。
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