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第16章 破滅の聖者
第593話 迫り来る不死者の群れに対し
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もともとオレの場合、アンデッドに対する知識はお寒いものだけど、元の世界における映画や漫画のゾンビだと人間を襲って喰らうとか、噛みつかれたら感染してその人間もゾンビになるとかその手のホラーな話が一般的だったな。
もちろんこちらの世界ではさすがにそこまで無茶な能力は無い――そんな事があったらとっくの昔に世界の全てがアンデッドになっている。
オレの聞いている限りでは、低級アンデッドは知性が殆ど無いため命令した通りにしか行動出来ない上に動きも鈍い。
しかしそれは殆ど自分で考えて動く事が出来ないのが理由であり、普通の人間のように精神的なブレーキや、苦痛、疲労が存在しないため、全力を出せば常人を遥かに上回る動きが出来るらしい。
ついでに言えば食事もしないので、当然ながら人間を喰う事も無い。
ただしこれは低級なアンデッド、言わば『量産型』の場合であって、上位のアンデッドの場合は個体毎に千差万別であるようだ。
そして『虚ろなる者』の信徒は、酷税や戦乱、、飢餓、疫病などの理由で苦しむ人々に対し『その苦難を免れて永遠の平和が得られる』と約束するものの、その真実は下級アンデッドとして永遠に使役される運命なのだ。
これは元の世界における本来の意味のゾンビ――死体を動かして農園で永遠に奴隷として働かせる――に近いけど、やっぱり人件費が実質ゼロというのは、どこの世界でも強欲な経営者にとって魅力的なものなのだろう。
しかしそんな事を考えているうちにも、アンデッドの群れはドンドンと迫ってくる。
どう考えてもオレの命を狙っているのは間違い無い。
オレが倒した『屍収集家』の作成は、長年の期間と多大な手間をかけた『虚ろなる者』教団の悲願だったはずだから、それを邪魔した相手がヒョッコリと姿を見せた以上、復讐しないわけにはいかないのだろうな。
「助けてくれぇ!」
「お願いだ。離してくれ!」
オレが縛り上げたごろつき連中は、恐怖にかられその身をひねって必死で逃げようとしている。たぶんアンデッド共に自分達も襲われる危険性を考えているのだな。
あのクラスのアンデッドは、命令通りにしか行動出来ないから、逆を言えば自発的に人を襲うことは無い。
しかし今回は明らかにオレを狙ってやってきたのだろう。
そしてやつらには魔法的に命令を下す『主人』はいるかもしれないが、恐らくそれ以外の個人は区別がつかないはずだ。
そうするとこのごろつき連中もまた無差別に攻撃されてしまいかねない。
こんな連中がオレはどうなろうと知ったこっちゃないと言いたいのだが、幾ら悪党でもがんじがらめでゾンビに襲われて八つ裂きという最後はあんまりだろう。
仕方ないのでここは『誓言』を使うとしよう。
「あなた方をここで解放したら、今後は真っ当に生きると約束できますか?」
「もちろんだ!」
「もう悪い事はいたしません!」
そんなの連中が助かりたい一心から口走っているだけなのは明白だが、約束した事の拘束力を高める『誓言』の元で少しでもまともな人生に近づいてくれるなら、今回だけは大目に見てやろう。
そんなわけでオレは改めて『植物歪曲』を唱えて連中を解放する。
「ありがとうございます!」
この場だけの感謝の弁でしかないが、この中で一人だけでも今後、まともな人生を歩んでくれる事を期待するしかないだろう。
そして連中は蜘蛛の子を散らすように逃げる――のではなく、どういうわけかオレの周囲に集まってくる。
気がつくといつの間にか、周囲は二十体以上のアンデッドで埋め尽くされていて、彼らは逃げ場が無いらしい。
「あんたは凄い魔法使いなんだろう? 助けてくれよ」
「頼む。あいつらを蹴散らしてくれ」
残念だけどオレにはそんな都合のいい攻撃魔法はありません。
山中ならまだしも、こんな平地では常人よりも遥かに腕力で勝るアンデッドを植物で縛り上げるのも困難だろう。
しかも連中はまともな精神を持っていないから『調和』で暴力的な行動を封じる事も出来ないので、オレにとっては実に面倒な相手ではある。
だがそれはこの場から逃げる手段がないという事を意味しない。
「大丈夫ですよ。見たところあのアンデッドは自分で考えて行動出来るような、高度なタイプではありません。だから連中の隙間を全力疾走すれば、ここから逃げるのはそう難しくないですよ」
「そんな事が簡単にできてたまるか!」
「あんたと一緒にしないでくれ!」
やっぱりそうなるか。
捕まったら八つ裂きにされかねない相手を多数目の前にして『捕まらなければ大丈夫だからその間を全力疾走しましょう』と言われて、はいそうですかと実行出来る人間はそうそういない。
たぶん男だった頃のオレも、足がすくんでとてもそんな真似は無理だったろう。
つくづく追い込まれる事に慣れてしまったものだ。
だけど実際にオレ一人だけなら、逃げるのは造作も無いし、この状況ではついさっきまでこっちを蹂躙する気満々だったごろつき共を見捨てたとして、道義的にも法的にも問題はあるまい。
「ひぃぃぃ!」
「もうダメだぁ!」
ドンドンと迫ってくる、生気も精気も正気も無いアンデッドはその血の気が無い手で、血の気の引いたごろつきに向けて手を伸ばしてくる。
ええい。仕方ない!
オレは覚悟を固めると、迫り来るアンデッドの群れに正対する事となった。
もちろんこちらの世界ではさすがにそこまで無茶な能力は無い――そんな事があったらとっくの昔に世界の全てがアンデッドになっている。
オレの聞いている限りでは、低級アンデッドは知性が殆ど無いため命令した通りにしか行動出来ない上に動きも鈍い。
しかしそれは殆ど自分で考えて動く事が出来ないのが理由であり、普通の人間のように精神的なブレーキや、苦痛、疲労が存在しないため、全力を出せば常人を遥かに上回る動きが出来るらしい。
ついでに言えば食事もしないので、当然ながら人間を喰う事も無い。
ただしこれは低級なアンデッド、言わば『量産型』の場合であって、上位のアンデッドの場合は個体毎に千差万別であるようだ。
そして『虚ろなる者』の信徒は、酷税や戦乱、、飢餓、疫病などの理由で苦しむ人々に対し『その苦難を免れて永遠の平和が得られる』と約束するものの、その真実は下級アンデッドとして永遠に使役される運命なのだ。
これは元の世界における本来の意味のゾンビ――死体を動かして農園で永遠に奴隷として働かせる――に近いけど、やっぱり人件費が実質ゼロというのは、どこの世界でも強欲な経営者にとって魅力的なものなのだろう。
しかしそんな事を考えているうちにも、アンデッドの群れはドンドンと迫ってくる。
どう考えてもオレの命を狙っているのは間違い無い。
オレが倒した『屍収集家』の作成は、長年の期間と多大な手間をかけた『虚ろなる者』教団の悲願だったはずだから、それを邪魔した相手がヒョッコリと姿を見せた以上、復讐しないわけにはいかないのだろうな。
「助けてくれぇ!」
「お願いだ。離してくれ!」
オレが縛り上げたごろつき連中は、恐怖にかられその身をひねって必死で逃げようとしている。たぶんアンデッド共に自分達も襲われる危険性を考えているのだな。
あのクラスのアンデッドは、命令通りにしか行動出来ないから、逆を言えば自発的に人を襲うことは無い。
しかし今回は明らかにオレを狙ってやってきたのだろう。
そしてやつらには魔法的に命令を下す『主人』はいるかもしれないが、恐らくそれ以外の個人は区別がつかないはずだ。
そうするとこのごろつき連中もまた無差別に攻撃されてしまいかねない。
こんな連中がオレはどうなろうと知ったこっちゃないと言いたいのだが、幾ら悪党でもがんじがらめでゾンビに襲われて八つ裂きという最後はあんまりだろう。
仕方ないのでここは『誓言』を使うとしよう。
「あなた方をここで解放したら、今後は真っ当に生きると約束できますか?」
「もちろんだ!」
「もう悪い事はいたしません!」
そんなの連中が助かりたい一心から口走っているだけなのは明白だが、約束した事の拘束力を高める『誓言』の元で少しでもまともな人生に近づいてくれるなら、今回だけは大目に見てやろう。
そんなわけでオレは改めて『植物歪曲』を唱えて連中を解放する。
「ありがとうございます!」
この場だけの感謝の弁でしかないが、この中で一人だけでも今後、まともな人生を歩んでくれる事を期待するしかないだろう。
そして連中は蜘蛛の子を散らすように逃げる――のではなく、どういうわけかオレの周囲に集まってくる。
気がつくといつの間にか、周囲は二十体以上のアンデッドで埋め尽くされていて、彼らは逃げ場が無いらしい。
「あんたは凄い魔法使いなんだろう? 助けてくれよ」
「頼む。あいつらを蹴散らしてくれ」
残念だけどオレにはそんな都合のいい攻撃魔法はありません。
山中ならまだしも、こんな平地では常人よりも遥かに腕力で勝るアンデッドを植物で縛り上げるのも困難だろう。
しかも連中はまともな精神を持っていないから『調和』で暴力的な行動を封じる事も出来ないので、オレにとっては実に面倒な相手ではある。
だがそれはこの場から逃げる手段がないという事を意味しない。
「大丈夫ですよ。見たところあのアンデッドは自分で考えて行動出来るような、高度なタイプではありません。だから連中の隙間を全力疾走すれば、ここから逃げるのはそう難しくないですよ」
「そんな事が簡単にできてたまるか!」
「あんたと一緒にしないでくれ!」
やっぱりそうなるか。
捕まったら八つ裂きにされかねない相手を多数目の前にして『捕まらなければ大丈夫だからその間を全力疾走しましょう』と言われて、はいそうですかと実行出来る人間はそうそういない。
たぶん男だった頃のオレも、足がすくんでとてもそんな真似は無理だったろう。
つくづく追い込まれる事に慣れてしまったものだ。
だけど実際にオレ一人だけなら、逃げるのは造作も無いし、この状況ではついさっきまでこっちを蹂躙する気満々だったごろつき共を見捨てたとして、道義的にも法的にも問題はあるまい。
「ひぃぃぃ!」
「もうダメだぁ!」
ドンドンと迫ってくる、生気も精気も正気も無いアンデッドはその血の気が無い手で、血の気の引いたごろつきに向けて手を伸ばしてくる。
ええい。仕方ない!
オレは覚悟を固めると、迫り来るアンデッドの群れに正対する事となった。
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