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第16章 破滅の聖者
第613話 重要な話の最中に
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取りあえずオレにはメトゥサイラが何を望み、また何をやらかそうとしているのかはサッパリ分からない。
しかしこの少年が何かとてつもない事を考え、またどういうわけかオレがそれに重要な役割を果たすと思っているのは間違い無いようだ。
「いったいあなたは何を望んでいるのですか?」
「だからこの世界そのものを救済するのだよ」
「申し訳ないのですけど、曖昧な事を言わずにハッキリと伝えて下さい」
ええい。だからもったいぶるなとさっきから言っているだろう。
普通の人間だったら、メトゥサイラの放つよく分からない魅力に圧倒されて、それでも納得してしまうかもしれないが、オレは違うんだよ。
いや。ひょっとしたらこの少年にとってはそれが当たり前なので、まともに説明する事がそもそも無かったのかもしれない。
「確かに君の言うとおりだね。ハッキリと私の望みを伝えなかったのが悪かった」
ようやく本題に入ってくれるのか。
これで胸をなで下ろすというのもどうかと思うけど、少しは話が進んでくれるのだろう。
「君にはこれからこの私と――」
いったい何を要求されるのかと、ちょっとばかり緊張気味に身構えたところで、オレの耳には思わぬものが飛び込んできた。
「アルタシャ様! ここにおられましたか!」
「え?」
オレを呼ぶ声に反射的に振り向くと、そこではファザールが息せき切って駆け寄ってきていたのだ。
「あ……まさか」
慌ててオレが振り向くと、そこにはもうメトゥサイラの姿は無かった。
それはまるで瞬間移動でもしたかのような、忽然とした消え去り具合だった。
「どうなさいましたか? ここに何かあったのでしょうか?」
「いえ……何でもありません」
ファザールが割り込んできたためにメトゥサイラが姿を消してしまったけど、どこか安堵したような、残念なようなちょっと複雑な気分だな。
もっともメトゥサイラはまたオレの前に姿を見せるのは確実だろう。
あの神秘的でそれでいてどこか恐ろしい少年がどれほど大事をやらかすつもりでも、オレが協力しなければ何も進まないはずだから、次に姿を現したときに今度こそ、何をオレに望んでいるのか確認せねばなるまいな。
回りくどい事を言っていなかったら、ファザールが来る前にとっくに本題に入っていた筈だが、これでメトゥサイラが反省してもっとストレートな物言いをしてくれるようになればいいのだが。
「そうですか。そろそろ引き上げの準備が整ったので、ご同行願えますか?」
どうやらファザールが強権を発動して、これ以上時間をかけることは出来ないと、村人達に急いで村を引き払うように命じたらしい。
時間をかけて次の襲撃を受けたら危ないのは明白なのでそれは仕方の無い事なのだろう。
村人達がここに戻る事が出来るかどうか分からないし、仮にそれが出来ても残した財産は奪われたり、壊されたりしている可能性があるけど、命がかかっているのだからそこは我慢してもらうしかない。
「分かりました。安全なところまでは同行させてもらいましょう」
「その後はやはりお一人で行動されるおつもりなのですか?」
「ええ。わたしにはまだここでやり残した事がありますからね」
具体的に何をどうしたらよいのか、と言う事はオレにも分からないのだけど、それでも病の精霊の脅威にさらされて、その教団に参加・協力させられている人々の助けになることは出来るはずだ。
メトゥサイラの事も色々と気がかりというところもある。
それに何より問題なのは――
「しかしそれでは殿下があなた様の事を心配なさるでしょう……」
テマーティン王子と再会したら、今度こそオレを嫁にすべく迫ってくるのは間違い無い。
もちろんテマーティンは拒絶されて無理強いをするような人間では無いけど、簡単に諦める事もしないからしつこく求婚してくるだろう。
そうなるとオレとしてもいろいろ困る。
「もしもあなた様がこの地で活動していると聞けば、殿下は何をおいても駆けつける事でしょう。しかしそれで殿下の身にもしもの事があれば取り返しがつきません」
ファザールの心配も当然なんだけど、そこをどうにかするにはオレがテマーティンと結婚するしか無いのだから、ここは我慢してもらうしかない。
「申し訳ないのですが、テマーティン王子にはどうにか我慢していただくしかありません」
「やっぱりあなた様は一度、決めたらもう何を言っても聞いては下さらないのですね」
ファザールは諦めた様子で肩を落とす。
つくづく苦労の多い人生なのだろうけど、テマーティンが王位についたら側近として、国家の重鎮に出世間違い無しなのだから、そこは我慢してもらいたい。
たぶんテマーティンが王になったらなったで、この人は一生苦労のさせられ通しではあるのだろうけどな。
「分かりました。ただし我らの元を離れる時は必ず前もってそれをお伝え下さい」
「もちろんです。それではなるだけ急いでここを離れましょう」
しかし老人や病人、子供は荷車に乗せて運ばねばならないし、それ以外の家財道具や家畜も運べるだけ持って来ているので、否応なしにこちらの足は遅くなっている。
魔法で疲労を回復させる事は出来るから、そのままよりは大分マシだろうけど、それでも気休めでしかないだろう。
もちろん集団で村を引き払ったのは隠しようもないから、もしも敵が狙っているなら絶好の機会となる。
しかも相手はここに仇敵である『アルタシャ』がいることは当然知っている筈だ。
先々がいろいろと思いやられる状況で、オレはファザール達と共に引き上げる事となった。
しかしこの少年が何かとてつもない事を考え、またどういうわけかオレがそれに重要な役割を果たすと思っているのは間違い無いようだ。
「いったいあなたは何を望んでいるのですか?」
「だからこの世界そのものを救済するのだよ」
「申し訳ないのですけど、曖昧な事を言わずにハッキリと伝えて下さい」
ええい。だからもったいぶるなとさっきから言っているだろう。
普通の人間だったら、メトゥサイラの放つよく分からない魅力に圧倒されて、それでも納得してしまうかもしれないが、オレは違うんだよ。
いや。ひょっとしたらこの少年にとってはそれが当たり前なので、まともに説明する事がそもそも無かったのかもしれない。
「確かに君の言うとおりだね。ハッキリと私の望みを伝えなかったのが悪かった」
ようやく本題に入ってくれるのか。
これで胸をなで下ろすというのもどうかと思うけど、少しは話が進んでくれるのだろう。
「君にはこれからこの私と――」
いったい何を要求されるのかと、ちょっとばかり緊張気味に身構えたところで、オレの耳には思わぬものが飛び込んできた。
「アルタシャ様! ここにおられましたか!」
「え?」
オレを呼ぶ声に反射的に振り向くと、そこではファザールが息せき切って駆け寄ってきていたのだ。
「あ……まさか」
慌ててオレが振り向くと、そこにはもうメトゥサイラの姿は無かった。
それはまるで瞬間移動でもしたかのような、忽然とした消え去り具合だった。
「どうなさいましたか? ここに何かあったのでしょうか?」
「いえ……何でもありません」
ファザールが割り込んできたためにメトゥサイラが姿を消してしまったけど、どこか安堵したような、残念なようなちょっと複雑な気分だな。
もっともメトゥサイラはまたオレの前に姿を見せるのは確実だろう。
あの神秘的でそれでいてどこか恐ろしい少年がどれほど大事をやらかすつもりでも、オレが協力しなければ何も進まないはずだから、次に姿を現したときに今度こそ、何をオレに望んでいるのか確認せねばなるまいな。
回りくどい事を言っていなかったら、ファザールが来る前にとっくに本題に入っていた筈だが、これでメトゥサイラが反省してもっとストレートな物言いをしてくれるようになればいいのだが。
「そうですか。そろそろ引き上げの準備が整ったので、ご同行願えますか?」
どうやらファザールが強権を発動して、これ以上時間をかけることは出来ないと、村人達に急いで村を引き払うように命じたらしい。
時間をかけて次の襲撃を受けたら危ないのは明白なのでそれは仕方の無い事なのだろう。
村人達がここに戻る事が出来るかどうか分からないし、仮にそれが出来ても残した財産は奪われたり、壊されたりしている可能性があるけど、命がかかっているのだからそこは我慢してもらうしかない。
「分かりました。安全なところまでは同行させてもらいましょう」
「その後はやはりお一人で行動されるおつもりなのですか?」
「ええ。わたしにはまだここでやり残した事がありますからね」
具体的に何をどうしたらよいのか、と言う事はオレにも分からないのだけど、それでも病の精霊の脅威にさらされて、その教団に参加・協力させられている人々の助けになることは出来るはずだ。
メトゥサイラの事も色々と気がかりというところもある。
それに何より問題なのは――
「しかしそれでは殿下があなた様の事を心配なさるでしょう……」
テマーティン王子と再会したら、今度こそオレを嫁にすべく迫ってくるのは間違い無い。
もちろんテマーティンは拒絶されて無理強いをするような人間では無いけど、簡単に諦める事もしないからしつこく求婚してくるだろう。
そうなるとオレとしてもいろいろ困る。
「もしもあなた様がこの地で活動していると聞けば、殿下は何をおいても駆けつける事でしょう。しかしそれで殿下の身にもしもの事があれば取り返しがつきません」
ファザールの心配も当然なんだけど、そこをどうにかするにはオレがテマーティンと結婚するしか無いのだから、ここは我慢してもらうしかない。
「申し訳ないのですが、テマーティン王子にはどうにか我慢していただくしかありません」
「やっぱりあなた様は一度、決めたらもう何を言っても聞いては下さらないのですね」
ファザールは諦めた様子で肩を落とす。
つくづく苦労の多い人生なのだろうけど、テマーティンが王位についたら側近として、国家の重鎮に出世間違い無しなのだから、そこは我慢してもらいたい。
たぶんテマーティンが王になったらなったで、この人は一生苦労のさせられ通しではあるのだろうけどな。
「分かりました。ただし我らの元を離れる時は必ず前もってそれをお伝え下さい」
「もちろんです。それではなるだけ急いでここを離れましょう」
しかし老人や病人、子供は荷車に乗せて運ばねばならないし、それ以外の家財道具や家畜も運べるだけ持って来ているので、否応なしにこちらの足は遅くなっている。
魔法で疲労を回復させる事は出来るから、そのままよりは大分マシだろうけど、それでも気休めでしかないだろう。
もちろん集団で村を引き払ったのは隠しようもないから、もしも敵が狙っているなら絶好の機会となる。
しかも相手はここに仇敵である『アルタシャ』がいることは当然知っている筈だ。
先々がいろいろと思いやられる状況で、オレはファザール達と共に引き上げる事となった。
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