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第16章 破滅の聖者
第618話 テマーティンを説得するために
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各国の利害が絡み合っていながら、今のところはどこも戦争をしてまで手に入れようとまではしていないこの土地で活動している連中が、本当は各国の対立を煽って戦争に引きずり込もうとしている、とすればその目的はなんなのか。
やはり戦乱になれば、疫病が猛威をふるうのに加えて、苦境に陥る人間も爆発的に増えてアンデッド教団の勧誘がしやすくなるのに加えて、戦士としてのアンデッドの需要も増えて自分たちの教団が潤うとか、そういう発想だろうな。
下級アンデッドが労働者として理想的な理由である、腕力が常人離れしているが、給与も食事もいらず、待遇に文句一つ言わずに働く点は下級兵士としても間違いなく有益だ。
それに加えて何も考えず、恐怖も抱かないのだから絶望的な戦場でも、逃げ出さずに最後まで戦うことを保証してくれるわけで、むしろいいことずくめだろう。
いや。もっと恐ろしい事に、連中は病の精霊の教団とも手を組んでいるわけだから、戦場に病気を蔓延させ、アンデッド以外はまともに活動出来ない状況に陥らせようとしているのかもしれないぞ。
それで疫病に苦しむ民衆を騙してスカウトし、それで更に下級アンデッドを増やして勢力を拡大し、また疫病も蔓延させるという世にも恐ろしいマッチポンプなのかもしれない。
教科書にも出てくるほど有名な『クリミアの天使』の逸話で知られるクリミア戦争では、戦死者の八割が餓死と病死だったそうだけど、アンデッドで軍団を作ればそのような事態は安上がりに避けられると言って、売り込むことは十分に考えられる。
いや。ひょっとしたらもうどこかの勢力に売り込んでいて、後は火がつくのを待っているだけなのかもしれないな。
もちろん表だってアンデッド教団などと手を組んでいるとは、どこの国も明かせないだろうけど、裏では何をやっているのか分かったもんじゃない。
この推測が正しいとすると、ひとまず戦争を避けるためにも、テマーティンの安全を確保するためにも、オレが一緒にここを立ち去るのが一番手っ取り早く確実だ。
しかしそれはまたオレにとって、非常に厄介な事を招きかねないのだが。
「わたしの事は心配無用です。テマーティン王子は早くこの地から引き上げて下さい」
「あなたならそう言われると思っていましたが、アルタシャを置いて私が逃げるワケにはいきませんよ」
「この地に王子が滞在し続けたら、あなたの身が危ういだけでなく、他国を刺激して戦争にすらなりかねないのですよ」
「それならば私と共にアルタシャが下がっていただければ、全て解決しますよ。いえ。あなたとならばたとえ地獄の底であろうとも喜んで一緒させてもらいます」
この様子だと、もしもテマーティンに対して戦争しろとオレが言ったら、本当にやりかねないな。
惚れた女の前でええ格好するのは男のサガかもしれないが、今はそういう話をしている場合ではないのだ。
そんなわけでオレはひとまず先ほどの推理をテマーティンとファザールに披露する。
「なるほど。さすがはアルタシャ様です。それは十分に考えられる事です」
ファザールはオレの推理に感心している様子だが、たぶんそれはテマーティンをとにかく引き下がらせるために都合がいいからなのだろう。
「アルタシャ様の仰る通り、この地に殿下がおられるというだけで戦争の口実にする輩が出てくるやもしれません。そうなってしまっては手遅れです」
「私は戦を恐れはせぬ……と言いたいが――」
この世界だと王族に限らず、戦争で功績を挙げて、名声を広めたいと思う人間は別に珍しくもなんともない。
以前に幾柱かの戦神の信徒に出会ったけど、当然ながら彼らは神の名の元で行われる戦争を避ける気など全然無かった。
だが戦争など真っ平なオレはここでテマーティンに釘を刺す。
「どうしても戦を避けられないのならば仕方ありませんが、避けようと努力しない人とは話もしたくありません」
ここでテマーティンは一瞬、険しい表情を浮かべるが、それでも引き下がりはしなかった。
「もちろん私も別に戦が好きなわけではありませんよ。しかし民衆を苦しめている『虚ろなる者』や病の精霊を崇めるものを見逃すワケにはいきません。それが王太子たる私の責務でもあるのです」
ぬう。さすがにテマーティンも王族だけあって、オレの言う事を何でも聞き入れるつもりはないようだ。
まあテマーティンであれ、他の誰であれ、もしもオレの言う事を盲目的に支持されたりしたら、確かにかえって引いてしまうけどな――これが複雑な乙女心、もとい人間の心理というものだろうか。
「確かにあなたの言う事も分かりますが、それは何も王子が行わねばならない事ではないでしょう」
「それではアルタシャはいったいどうされるつもりなのです? まさかあなたひとりでこの地にいる連中をどうにかするわけではありますまい」
「それは分かっています。だからファザールさんに協力させてもらっていたのですよ」
「そうです! ここは小官に任せ、殿下は安全なところでお待ち下さい」
ファザールもオレと利害が一致するので、ここは助け船を出してくれるのはホッとするところだな。
そしてオレとファザールに詰め寄られた形となったテマーティンは難しい表情で考え込んでいる様子だった。
やはり戦乱になれば、疫病が猛威をふるうのに加えて、苦境に陥る人間も爆発的に増えてアンデッド教団の勧誘がしやすくなるのに加えて、戦士としてのアンデッドの需要も増えて自分たちの教団が潤うとか、そういう発想だろうな。
下級アンデッドが労働者として理想的な理由である、腕力が常人離れしているが、給与も食事もいらず、待遇に文句一つ言わずに働く点は下級兵士としても間違いなく有益だ。
それに加えて何も考えず、恐怖も抱かないのだから絶望的な戦場でも、逃げ出さずに最後まで戦うことを保証してくれるわけで、むしろいいことずくめだろう。
いや。もっと恐ろしい事に、連中は病の精霊の教団とも手を組んでいるわけだから、戦場に病気を蔓延させ、アンデッド以外はまともに活動出来ない状況に陥らせようとしているのかもしれないぞ。
それで疫病に苦しむ民衆を騙してスカウトし、それで更に下級アンデッドを増やして勢力を拡大し、また疫病も蔓延させるという世にも恐ろしいマッチポンプなのかもしれない。
教科書にも出てくるほど有名な『クリミアの天使』の逸話で知られるクリミア戦争では、戦死者の八割が餓死と病死だったそうだけど、アンデッドで軍団を作ればそのような事態は安上がりに避けられると言って、売り込むことは十分に考えられる。
いや。ひょっとしたらもうどこかの勢力に売り込んでいて、後は火がつくのを待っているだけなのかもしれないな。
もちろん表だってアンデッド教団などと手を組んでいるとは、どこの国も明かせないだろうけど、裏では何をやっているのか分かったもんじゃない。
この推測が正しいとすると、ひとまず戦争を避けるためにも、テマーティンの安全を確保するためにも、オレが一緒にここを立ち去るのが一番手っ取り早く確実だ。
しかしそれはまたオレにとって、非常に厄介な事を招きかねないのだが。
「わたしの事は心配無用です。テマーティン王子は早くこの地から引き上げて下さい」
「あなたならそう言われると思っていましたが、アルタシャを置いて私が逃げるワケにはいきませんよ」
「この地に王子が滞在し続けたら、あなたの身が危ういだけでなく、他国を刺激して戦争にすらなりかねないのですよ」
「それならば私と共にアルタシャが下がっていただければ、全て解決しますよ。いえ。あなたとならばたとえ地獄の底であろうとも喜んで一緒させてもらいます」
この様子だと、もしもテマーティンに対して戦争しろとオレが言ったら、本当にやりかねないな。
惚れた女の前でええ格好するのは男のサガかもしれないが、今はそういう話をしている場合ではないのだ。
そんなわけでオレはひとまず先ほどの推理をテマーティンとファザールに披露する。
「なるほど。さすがはアルタシャ様です。それは十分に考えられる事です」
ファザールはオレの推理に感心している様子だが、たぶんそれはテマーティンをとにかく引き下がらせるために都合がいいからなのだろう。
「アルタシャ様の仰る通り、この地に殿下がおられるというだけで戦争の口実にする輩が出てくるやもしれません。そうなってしまっては手遅れです」
「私は戦を恐れはせぬ……と言いたいが――」
この世界だと王族に限らず、戦争で功績を挙げて、名声を広めたいと思う人間は別に珍しくもなんともない。
以前に幾柱かの戦神の信徒に出会ったけど、当然ながら彼らは神の名の元で行われる戦争を避ける気など全然無かった。
だが戦争など真っ平なオレはここでテマーティンに釘を刺す。
「どうしても戦を避けられないのならば仕方ありませんが、避けようと努力しない人とは話もしたくありません」
ここでテマーティンは一瞬、険しい表情を浮かべるが、それでも引き下がりはしなかった。
「もちろん私も別に戦が好きなわけではありませんよ。しかし民衆を苦しめている『虚ろなる者』や病の精霊を崇めるものを見逃すワケにはいきません。それが王太子たる私の責務でもあるのです」
ぬう。さすがにテマーティンも王族だけあって、オレの言う事を何でも聞き入れるつもりはないようだ。
まあテマーティンであれ、他の誰であれ、もしもオレの言う事を盲目的に支持されたりしたら、確かにかえって引いてしまうけどな――これが複雑な乙女心、もとい人間の心理というものだろうか。
「確かにあなたの言う事も分かりますが、それは何も王子が行わねばならない事ではないでしょう」
「それではアルタシャはいったいどうされるつもりなのです? まさかあなたひとりでこの地にいる連中をどうにかするわけではありますまい」
「それは分かっています。だからファザールさんに協力させてもらっていたのですよ」
「そうです! ここは小官に任せ、殿下は安全なところでお待ち下さい」
ファザールもオレと利害が一致するので、ここは助け船を出してくれるのはホッとするところだな。
そしてオレとファザールに詰め寄られた形となったテマーティンは難しい表情で考え込んでいる様子だった。
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