異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第16章 破滅の聖者

第634話 『虚ろなる者』の総攻撃を前にして

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 いきなり何事かと思った瞬間には、オレとメトゥサイラの周囲は炎に包まれていた。

「くう。これは……」

 メトゥサイラも驚いた様子で周囲を見回している。
 よくよく見ると直接、オレ達を攻撃したのではなく、周りに火を放ったらしい。
 恐らくは『火の壁』ファイヤー・ウォールの魔法だ。こちらを倒すのではなく、逃げられなくするために使っているのだろう。
 メトゥサイラとの会話に夢中になっていて周囲に注意を払う余裕がなかったが、それにしても迂闊だった。
 しかしこれだけの魔法を使うとなると、恐らくは複数の魔法使いがいるに違いない。そうとう大がかりな襲撃だぞ。
 そして炎の隙間からは、陽炎のように揺らめきつつこちらへと歩む姿が目に入る。
 いや。違う。炎の影響で揺らめいているのではなく、本当によろよろと歩いているのだ。

「アンデッドの群れか……」

 メトゥサイラは蔑んだ様子で、向かってくる連中を睨み付ける。
 こうなったら何が起きたのかは明白だ。
 アンデッド教団の『虚ろなる者』が魔法使いとアンデッドをかき集めて、オレ達を攻撃していたに違いない。
 連中にとってオレは散々、邪魔してきた憎い存在だし、メトゥサイラもまたアンデッドを蔑んでいて、アンデッド嫌いのザスターニック神の信徒達を駆り立ててもいたので、オレ達二人はいずれも連中にとっては仇敵なのだ。
 つまり『虚ろなる者』にすればオレ達二人を一度に始末する『千載一遇』の好機となるな。

「メトゥサイラ。すみません。少しだけ待っていてくれますか?」
「どうするつもりなんだい」
「逃げる場所を探します」

 仕方がないので、ここはひとまず『鷹の目』イーグル・アイの魔法で視点を上空に上げて周囲の様子を探るとしよう。
 そうして見ると『火の壁』には何カ所か穴が開いてはいるが、そこには当然ながらアンデッドか人間の戦士が待ち構えているようだ。
 そして少し離れたところには複数の魔法使いと思しき連中と、後は昨日、老人達を連れていこうとしたのを見とがめてオレが止めた『旦那』の姿もあった。
 うう。どうやらあいつが正気を取り戻して、仲間を呼んできたらしい。
 オレは村に泊まっていて一晩あったのだから時間は十分だ。
 そりゃまあ、いきなり改心して真人間になってくれると思っていたワケではないが、こんな事態を招いてしまったとなると、あのときやっぱり息の根を止めておくべきだったろうか、等という考えがちょっとばかり脳裏をよぎる。
 いや。今さら悔やんでも仕方がないし、やっぱりいくら悪人でもそこまでやるのはオレには無理だろう。
あとひょっとしたら泊まっていた村の中にも協力者がいて、オレについて連中に教えたかもしれないぞ。
 そして残念だけど『鷹の目』イーグル・アイの魔法を使っていると、自分自身の視覚が使えないので、敵を目の前にしていつまでも周囲を探っているわけにはいかないので、いったん視覚を戻す事にする。

「どうしたんだい? 何か分かったのかい?」
「ええ。ちょっと待って下さい」

 もちろんアンデッド連中はどんどん迫ってきているので、殆ど時間の余裕などないし、どちらにしろ既に包囲されてしまっているのだから、どこかで突破せざるを得ないのは間違い無いのだ。
 たぶん今こちらに向かってきているアンデッドは、連中が多数集まって待ち構えているところにオレ達を誘導するつもりだろう。
 ただこちらの有利な点を考えると、相手はオレが上空から見下ろす形で周囲を見る事が出来るのは知らない筈なので、包囲の薄いところを突破するのは可能だろう。
 アンデッドと人間ではどちらの相手が楽だろうか。
 オレの場合、人間を直接攻撃する魔法はないが『調和』で暴力的な活動に出るのを阻止する事は出来る。
 しかしそれでも仲間を呼ぶ事は出来るのでいろいろと厄介な事に変わりは無い。
 それならアンデッドの方を相手するべきだろうか。アンデッド相手なら回復魔法の効果が裏返ってダメージを与える事が出来るし、オレとしても『破壊』する事はさほど気にはならない――そういえば以前、人間の意識が僅かに残っていたので攻撃を躊躇したためにピンチに陥ってそこをメトゥサイラに助けられたのがオレ達の初対面だったなあ。
 まだホンの数日前の事なのに、今となってはかなり前のように感じられるな。

 それはともかく『虚ろなる者』の司祭は支配している下級アンデッドとは何らかの形で連絡が取れるらしい。
 つまりこちらがアンデッドに接触すると、すぐに向こうも察知出来ると言う事になる。
 結局のところ人間相手でもアンデッド相手でも大差は無いのは確かだ。
 それなら迷っている暇も無いし、ここはまだ精神的な抵抗の少ないアンデッドの相手をしつつ逃げる方がマシと考えることにした。

「とりあえず今はわたしを信じて一緒に来て下さい」
「分かったよ」

 オレもすっかりこの手のピンチに慣れてしまったけど、メトゥサイラの方もまるで動じていないな。
 しかしそれはピンチになれているのではなく、今の自分が滅びても、次のメトゥサイラがまた世界に現れる事を分かっているから、つまり命についての価値観が根本的に違っているからだ。
 かの有名な綾○レイの台詞『たぶん私は三人目だと思うから』どころか、もう何十、何百人目か本人にすら見当もつかないのだろう。
 ただしそれは彼にとっては救いではないどころか、むしろ『苦痛に満ちた世界に縛られる続ける』という意味で最悪の呪いと言う事になるわけだ。
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