異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第16章 破滅の聖者

第645話 後方に下がったはずが……

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 ファザールは戦況説明の後でオレとテマーティンに対して圧力をかけてくる。

「とりあえず殿下とアルタシャ様は引き上げていただけますかな」
「待って下さい。戦うからには必ず負傷者や病人が出るはずです。それをわたしが治療しますから、ここは同行させて下さい」

 このオレの反論をファザールは予想通りと言わんばかりに応じる。

「後方に負傷者を集める場所を設けています。今はノイエル殿がおられますが、さすがに一人だけでは手に余るでしょう。アルタシャ様はそこで負傷者や病人の救護をお願いします」
むう。さすがにファザールはそれを切り出されたらオレが断りきれないことをよく分かっているな。

 確かに駆け出し聖女のノイエル一人では、手に余る状況だろう。
 それにいくつかの部隊に別れていたらその中でどの部隊の負傷者が多くなるかは分からないのだから、同行するよりはファザールの言うとおりにするしかないか。

「分かった。今は引き上げよう」

 ファザールの言葉を聞いてテマーティンは馬の背に乗ると、自分の前の鞍を手で叩く。

「それではアルタシャはこちらにどうぞ」

 どうやら一緒に馬に乗れと言っているらしい。

「ダメですよ。そんな事は出来ません」
「アルタシャを歩かせて、騎馬で先に行くような真似をしたら、私の恥になりますよ」
「私と一緒の馬に乗っていたら目立ってそれこそ危険ですよ。つい先日、魔法で狙われた事をもうお忘れですか?」

 敵にすればテマーティンを討つ機会があれば、それを見逃す理由はない。
 二人が一緒に同じ馬に乗るなど、狙ってくれと言っているようなものだ。
 もちろんテマーティンに『お持ち帰り』されてしまうのを避けるためでもあるけどな。

「殿下。それはアルタシャ様のお言葉の通りです」

 おお。ファザールも分かってくれているのだな。
 だがそこで安心するのは早かった。

「ただ粗末ですが兵糧を運んできた馬車を用意していますので、それにアルタシャ様とお乗り下さい」
「おおそうか。それならよいな」

 やっぱりファザールはそういうところは抜け目ないな!
 仕方ない。テマーティンと同じ鞍に乗るよりはマシだと思って諦めよう。

 そんなわけでオレはテマーティンと一緒に一度、引き上げる事となった。
 馬車と言っても、もちろん貴人が乗るようにいろいろ飾られたものではなく、ありふれた荷運び用のものだ。
 外見も粗末だし、どう見ても乗り心地もよくはなさそうだな。
 もちろんテマーティンは平民の格好で田舎を見て回るような事をやっているから、そんなのまるで苦にはならないようで、馬車が動き出すと嬉しげに話しかけてくる。

「我が国があなたの最初の足跡となった事は私の誇りでもあるのですよ」

 そういえばオレが伝説となる事を初めに行ったのも、テマーティンのところに厄介になっていたときに『虚ろなる者』の教団とやり合った事だったな。
 まだ一年も経っていないのに、随分と前のような気がするよ。

「それからあなたに会いたい一心で私は国を飛びだそうかと思った事も幾度かあります」

 普通だったらとても信じられないというか、そこまでいったらファンタジーな冒険でパーティの仲間になる王子並に無茶な話だけど、テマーティンだとそこまでやりかねないと思わせるところはあるな。

「こうして会えたのは運命というものですね」
「王子。いまわたし達はまだ戦場にいるのですよ。気を抜いていたら命が幾らあっても足りませんよ」

 オレも元男として『探し求めていた乙女とようやく再会出来た』事で浮かれるテマーティンの気持ちは分からないでもないけど、今は調子に乗ったらなにかと困るのでひとまず釘を刺しておく。
 もちろんテマーティンはオレを嫁にしたいのが見え見えだが、こちらはそれに応じる気はありませんから。

「あなたの言われる通りですが――」
「それに目的地が見えてきましたよ。私は負傷者の手当をせねばなりませんから、話はここまでといたしましょう」

 見たところ戦場近くの村の建物を幾つか接収して、軍の施設として利用しているらしい。
 どうやら軍を頼りに避難してきた民衆もいるようだ。
 もっとも今のところはそれほど大勢、負傷兵がいる様子はないな。
 まあ救急車があるわけでもないから、自力で動けない負傷者は馬車なり担架なりで運ばないといけないので、集まってくるのはまだ先ということか。
 ただそれでも兵士や農民がひっきりなしに出入りしていて、かなり緊迫した空気は流れている様子だ。

「しかし――」
「国のために命がけで戦い負傷した兵士の前で、王子が女にうつつを抜かすような事をするなど亡国への道ですよ。あなたはそんな事も分からないのですか?」

 テマーティンは軽率な面はあるが、愚かな男ではない。
 筋の通った指摘なら受け入れるはずだ。

「……分かりました。残念ですが話はまた後で……」

 本当に残念そうだが、これで一安心というところだろう。
 そんなわけでオレが馬車から降りると、慌てた様子でノイエルが駆け寄ってくる。

「よかった。アルタシャ様。ご無事でしたか! 心配していたのですよ」

 どうやらオレを注視するあまり同じ馬車でもテマーティンの方は気がついていないらしい。

「ノイエルさんはどうですか?」
「もう目が回るほど忙しいです」
「「「……」」」

 ノイエルと話をしていると、いつの間にかこちらに注目が集まっているぞ。
 どうやら先ほどのノイエルがオレの名を叫んだのが広まっているらしい。
 これはまずいと思ったら、もう遅かった。
 周囲にはどんどん人間が集まって来たのだ。

「あなたが本当にアルタシャ様なのですか?」
「お願いです。ワシらをお助け下さい」
「おお。前に村に来ておられたあのお方がやはりアルタシャ様だったのですね」

 むう。これは何とも面倒だな。傍らでは原因となったノイエルは申し訳なさそうな顔をしているし、一方でテマーティンもちょっと困った様子で眺めている。
 もちろん困っている人を助けるのはやぶさかではないけど、無秩序に迫られたらたまったものではない。

「皆さん。落ち着いて話は順番に――」

 オレがそこまで口を開いたところで、人垣の中から『何か』がいきなり飛び出してきた。
 その相手はまるで血が通っていないかのような青白い顔で、まるで精気がなくそれにも関わらず悪意や殺意を宿している赤い視線をオレに向けつつ、襲いかかって来たのだった。
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