異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第17章 海と大地の狭間に

第693話 ヴェガを見つけ出したところで

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 とりあえず暗がりの中、オレは隠れつつ土塀で覆われた村へと近づく。
 夜目のきく『猫目』の魔法をかけているので、村から漏れている僅かな光でもオレの行動には支障はない。
 当然ながら入り口は既に閉められているが、今度は『蜘蛛登り』スパイダー・クライムの魔法を使って壁をよじ登る。
 これではどう見ても完全に不審者だな。まあとっくに慣れっこではあるけど。
 とりあえず塀の上から、改めて中を確認する。
 最悪の場合、村人が集まっている広場の中央でヴェガが縛られていて、これから火あぶりの刑に処すと言って盛り上がっている事になっていないかと心配していたが、さすがにそこまで深刻な事にはなってはいない。
 そうするとどこかに閉じ込められている筈だ。

 もちろん人に聞くわけにもいかないけど、罪人扱いと言う事なら、普通の家に押し込められている事は無いはずだ。
 見たところでは干しレンガを積み上げたらしい普通の家屋が数軒、もっとも大きい建物が恐らく村長の家であり、別にもう一つある大きな建物は穀物貯蔵庫らしい。
 村の中央にある小さな祠はこの地域の精霊をなだめるためのものなのだろう。
 ざっと見て確認したところでは、小さな建物の前にかがり火がもうけられ、見張りらしい民兵が立っている。
 ひょっとするとあそこにヴェガが押し込められているのか?

 小さな村なので、魔法的な防御だとか、守護する精霊などは見当たらないので、とりあえず塀を越えて中に入ると、そこで建物に近づくと見張りに対し『平静』カームの魔法をかけて、精神をロックさせる。
 そこで隠れつつ、小さな建物の中の様子を伺うと思った通り、ヴェガが縛られて押し込められているようだ。
 しかし困ったな。
 ここでヴェガを助けても、ちょっとした砦となっているこの村を、隠れて二人で出るのはいろいろと手間だ。
 そんなわけでとりあえず何があったのかを確認しよう。
 オレは『腹話術』ヴェントリロキズムの魔法でヴェガに話しかける。

「ヴェガさん。大丈夫ですか?」
「その声はアルか?!」

 当然というかヴェガは驚いて周囲を見回し、そこでのぞき込んでいるオレに気付く。

「こんな姿を見られるとは……」

 ヴェガは縛られた身で恥ずかしそうにしている。
 ただ様子を見る限り、縛られてはいるが『囚われの女騎士』の定番的な酷い目に遭ったわけではないようで、そこは少しだけだが安堵するところだな。

「お静かに。村の人に気付かれたら面倒です」
「分かった」
「それでいったい何があったのです? やはり先ほどの廃虚に足を踏みいれていたのが理由で捕らえられたのですか?」
「それもあるのだが……」

 ここでヴェガは小さくため息をつく。

「連中は確かに私を疑って問い詰めに来たのだが、そのとき廃虚の中から亡霊が幾つも出てきたのが見つかってな。それでどうも私が連中を使役しているのかと言いがかりをつけられてこうなったと言うわけだ」

 うがあ。つまりオレがたまたま廃虚の亡霊を解放して、連中が出ていったの見て村人達は敷地内にいたヴェガが何かロクでもない事をやらかしたからだと勘違いしたのか。

「しかし……寺院の中に入って誰も確認しようとはしませんでしたよ」
「ああ。奴らはあの廃虚を恐れていたからな。だから日が落ちてから敷地に入るだけでも、大変な事であって、ましてや建物に入るなど禁忌だったようだ」

 それで結果的にオレやガレリア達は助かったと言う事か。

「私はもちろんアル達も亡霊を使役して、他人を呪うなどありえない。だがお前達が寺院の中にいるところを見られたら、どんな面倒な事になるか分からなかったからな」
「それはすみません……」
「アルが謝る事ではないだろう。何も悪い事などしていないのだからな」

 取りあえずヴェガはオレの事を信頼してくれているようで、そこはホッとするところだな。

「しかし困った事にどうもこの村の連中は、やつらの抱えている面倒事に私を無理にでも巻き込みたいらしい」

 ああそういうことか。
 早い話が『たまたま見つけたよそ者をスケープゴートにしている』と言うヤツだな。
 元の世界でもしばしば、天災や飢饉、疫病などをマイノリティや通りすがりの旅人のせいにして、八つ当たりに近い非道な仕打ちを行う事はあったらしい。
 今回はヴェガがその対象にされてしまったというわけか。

「しかしヴェガさんは司法官なのでしょう? 『神託』すれば無実だと神様が証明してくれるのではないですか?」
「もちろん私もそれは訴えた。しかしそもそもこの村では『神託』の出来る司祭などいないということで、誰も聞き入れてはくれなかったのだ」

 そういうことか。ヴェガの方が『法』を唱えても、相手に聞く耳がなければどうしようもない。

「それで連中はヴェガさんをどうしようと思っているのですか?」
「恐らくは儀式における『敵』の役目をやらせるつもりだろう」
「つまり神話における『悪役』として倒される役目というわけですか」
「そうなるな……」

 以前に出会った『二本足の狼』も伝説の再現として、儀式的に人間を追い回すような真似をしていたと言っていたが、こういう開拓地でもよそ者を神話上の敵の代理とする儀式があるということか。

「それはあくまでも芝居なのですか? それとも本当に戦わせる気でしょうか?」
「そこまでは実際にやってみないと分からない。しかしここまでやって逃げられないようにしているとなると――」

 どうやらロクでもない事になるのだけは間違い無いらしい。
 こうなったら後の事は考えず、すぐにでもヴェガを助けるしかないな。
 だがオレが決意を固めたところ、表の方が少し騒がしくなってくる。
 しまった! 精神をロックしていた見張りが見つかったか。
 オレは冷や汗を流しつつ、ヴェガを縛っているロープに手を伸ばすのだった。
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