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第17章 海と大地の狭間に
第695話 村を正面から訪れて
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そんなわけでオレとガレリアは廃墟に戻る。
エレリアを一人残して来たのが、少しばかり心配だったからだ。
「ところでエレリアさんの方はどうですか?」
「大丈夫だ。特に気にするような事はないと言ってる」
この双子はテレパシーで繋がっているから、エレリアが危機にあればすぐにガレリアに伝わるわけだから、今のところは大丈夫らしい。
ただ。エレリアはどうにもつかみどころが無いというか、底知れない部分が感じられるので、オレとしてはちょっとばかり不安があるのだ。
そして帰ってきたオレ達をエレリアはいつも通りの笑顔で出迎えた。
「アルさん。お疲れだったでしょう」
「何かありませんでしたか?」
「ええ。ここにおられた方々と幾らか話をさせていただきました」
やっぱりそうか。
エレリアにはどこか世俗離れした、霊媒的なものを感じるのだけど、それでこの廃虚で何かを見いだしたらしい。
「ただ……少しばかり疲れたので、詳しい話は後ほど説明させていただきますけど、よろしいですか?」
「分かりました。今晩はゆっくりと休んで下さい」
そんなわけでオレ達は一晩、廃虚で過ごし、それから翌朝早く出ていく。
幸いにもこの地域では女性は人前で顔や手足を晒さないのが一般的なので、エレリアの容姿を隠すのは難しくはない。
そしてくだんの村に近づくと、やはり周囲を警戒しているらしく塔の上から笛の音が響いてくる。
更に近づくと門からは警告の声が飛んでくる。
「止まれ! お前達は何者だ?!」
こちらがロクに武装もしてない三人組なので、それほど殺気だっているというわけでは無いが、それでも民兵が何人か粗末な槍や弓を構えるのが見える。
たぶん状況次第では、捕まえてヴェガと同様に儀式における敵役をやらせるつもりもあるかもしれないな。
取りあえず前もって『調和』をかけて、暴力的な活動は抑止しておく。
だがこの魔法はかけたときに視界外にいた相手には効果が無いし、その相手が何らかの暴力的行動に出ると効果が切れてしまうので、こういう状況では正直、頼りないのだがやらないよりはマシだろう。
そしてここでオレの方からひとまず声をかける。
「わたしは治癒の女神チャラーナ・イロールの信徒です。旅の途中なのでよろしければ少し休ませていただけないでしょうか」
やむを得ないとはいえ、信心の欠片も無いのに守護女神の信徒を騙るというのも我ながらよく分からない話だ。
「なんだと? 本当か?」
「ええ。もしも怪我や病気でお悩みの方がおられたら、是非とも診させて下さい。お力になれると思いますよ」
オレの言葉を聞いて、村の中の方では少しばかりざわめいているようだ。
「ところで連れの二人は何者だ?」
「男の人はわたしの護衛をして下さってます。女性は少しばかり体調がよろしくなくて、それでわたしが診させていただいているのです」
「ふうむ……いいだろう。中に入れ」
「ありがとうございます」
門団の許可を得たところでオレは一礼して村に入るが、ガレリアは少々不満げだ。
「恋人だとは紹介してくれないのか?」
だからあれはヴェガを前にして仕方なく演技しただけだろうが。
ここは余計な事を口走らないよう、前もって釘を刺しておこう。
「とにかく静かにしていて下さいよ」
中に入ると周囲がこちらに注ぐ視線は期待半分、警戒半分というところだ。
一応はフードをかぶって容姿を隠してはいるけど、それでもオレの年齢が十代半ば過ぎぐらいであることは分かるだろうからな。
本当に治癒の女神の信徒であったとしても、若すぎてあまり当てにならないと思っているのかもしれないな。
また改めて見たところヴェガを閉じ込めていた小屋に変化は無いようだ。
まだ危害は加えられていないようで、少しはホッとする。
そして村で最も大きな建物から、初老の男性が出てきた。周囲の様子からして、どうやら村長らしい。
「よくおいで下さいました。私は村長のアザールと申します」
「わたしの事はアルとお呼び下さい」
「それではアル様。早速ですが、病人を診ていただけるというのは本当でございますか?」
「もちろんですとも。もしもお急ぎでしたら、今すぐにでも微力を尽くさせていただきます」
「ありがとうございます。ただ……なにぶんにも見ての通りの貧乏村ですので……」
明らかにアザールは心配げだ。恐らく報酬の事を気にしているのだろうな。
「ご心配なく。返礼は皆さんが出来る範囲で構いませんから」
オレの言葉を聞いて、アザールだけでなく周囲にも希望の色が垣間見える。
そうすると周囲にいた男の一人が飛び出してきてオレに取りすがってくる。
「お願いです! うちの子供が病に斃れているのです。なにとぞお助け下さい!」
これを切っ掛けに次から次に助けを求めに来る。
「ワシのつれあいが――」
「俺の親父が――」
どうやら病気の相手はざっと十人はいるらしい。既に死者も何人か出ているらしいし、この小さな村では極めて深刻な状況であるのは間違い無い。
ああもうやかましい。
「分かりました。とにかく順番に診させていただきます」
「俺が先だ!」
「何を言う。こっちが――」
またしても見苦しい争いが引き起こされかねないな。いや。普通の聖女でも重病人相手では一日に一人診るのがやっとという事だからな。
病人がいるのなら躍起なって当然か。
「とにかく今日中に全員、診させてもらいます! だから慌てないで下さい」
「え? 大丈夫なのですか? いくら何でも――」
「はい。だから村長さんが仕切って下さい」
「わ、分かりました」
アザールはさすがに疑念の表情を浮かべるが、半信半疑ながら頷く。
そしてその日の昼までに、オレは病人全員に『病の治療』の魔法をかけて治療したのだった。
う~ん。オレとしてはいろいろと不本意なはずだが、回復役としての仕事をまともに果たすと、結構それなりに充実感があるものだよ。
エレリアを一人残して来たのが、少しばかり心配だったからだ。
「ところでエレリアさんの方はどうですか?」
「大丈夫だ。特に気にするような事はないと言ってる」
この双子はテレパシーで繋がっているから、エレリアが危機にあればすぐにガレリアに伝わるわけだから、今のところは大丈夫らしい。
ただ。エレリアはどうにもつかみどころが無いというか、底知れない部分が感じられるので、オレとしてはちょっとばかり不安があるのだ。
そして帰ってきたオレ達をエレリアはいつも通りの笑顔で出迎えた。
「アルさん。お疲れだったでしょう」
「何かありませんでしたか?」
「ええ。ここにおられた方々と幾らか話をさせていただきました」
やっぱりそうか。
エレリアにはどこか世俗離れした、霊媒的なものを感じるのだけど、それでこの廃虚で何かを見いだしたらしい。
「ただ……少しばかり疲れたので、詳しい話は後ほど説明させていただきますけど、よろしいですか?」
「分かりました。今晩はゆっくりと休んで下さい」
そんなわけでオレ達は一晩、廃虚で過ごし、それから翌朝早く出ていく。
幸いにもこの地域では女性は人前で顔や手足を晒さないのが一般的なので、エレリアの容姿を隠すのは難しくはない。
そしてくだんの村に近づくと、やはり周囲を警戒しているらしく塔の上から笛の音が響いてくる。
更に近づくと門からは警告の声が飛んでくる。
「止まれ! お前達は何者だ?!」
こちらがロクに武装もしてない三人組なので、それほど殺気だっているというわけでは無いが、それでも民兵が何人か粗末な槍や弓を構えるのが見える。
たぶん状況次第では、捕まえてヴェガと同様に儀式における敵役をやらせるつもりもあるかもしれないな。
取りあえず前もって『調和』をかけて、暴力的な活動は抑止しておく。
だがこの魔法はかけたときに視界外にいた相手には効果が無いし、その相手が何らかの暴力的行動に出ると効果が切れてしまうので、こういう状況では正直、頼りないのだがやらないよりはマシだろう。
そしてここでオレの方からひとまず声をかける。
「わたしは治癒の女神チャラーナ・イロールの信徒です。旅の途中なのでよろしければ少し休ませていただけないでしょうか」
やむを得ないとはいえ、信心の欠片も無いのに守護女神の信徒を騙るというのも我ながらよく分からない話だ。
「なんだと? 本当か?」
「ええ。もしも怪我や病気でお悩みの方がおられたら、是非とも診させて下さい。お力になれると思いますよ」
オレの言葉を聞いて、村の中の方では少しばかりざわめいているようだ。
「ところで連れの二人は何者だ?」
「男の人はわたしの護衛をして下さってます。女性は少しばかり体調がよろしくなくて、それでわたしが診させていただいているのです」
「ふうむ……いいだろう。中に入れ」
「ありがとうございます」
門団の許可を得たところでオレは一礼して村に入るが、ガレリアは少々不満げだ。
「恋人だとは紹介してくれないのか?」
だからあれはヴェガを前にして仕方なく演技しただけだろうが。
ここは余計な事を口走らないよう、前もって釘を刺しておこう。
「とにかく静かにしていて下さいよ」
中に入ると周囲がこちらに注ぐ視線は期待半分、警戒半分というところだ。
一応はフードをかぶって容姿を隠してはいるけど、それでもオレの年齢が十代半ば過ぎぐらいであることは分かるだろうからな。
本当に治癒の女神の信徒であったとしても、若すぎてあまり当てにならないと思っているのかもしれないな。
また改めて見たところヴェガを閉じ込めていた小屋に変化は無いようだ。
まだ危害は加えられていないようで、少しはホッとする。
そして村で最も大きな建物から、初老の男性が出てきた。周囲の様子からして、どうやら村長らしい。
「よくおいで下さいました。私は村長のアザールと申します」
「わたしの事はアルとお呼び下さい」
「それではアル様。早速ですが、病人を診ていただけるというのは本当でございますか?」
「もちろんですとも。もしもお急ぎでしたら、今すぐにでも微力を尽くさせていただきます」
「ありがとうございます。ただ……なにぶんにも見ての通りの貧乏村ですので……」
明らかにアザールは心配げだ。恐らく報酬の事を気にしているのだろうな。
「ご心配なく。返礼は皆さんが出来る範囲で構いませんから」
オレの言葉を聞いて、アザールだけでなく周囲にも希望の色が垣間見える。
そうすると周囲にいた男の一人が飛び出してきてオレに取りすがってくる。
「お願いです! うちの子供が病に斃れているのです。なにとぞお助け下さい!」
これを切っ掛けに次から次に助けを求めに来る。
「ワシのつれあいが――」
「俺の親父が――」
どうやら病気の相手はざっと十人はいるらしい。既に死者も何人か出ているらしいし、この小さな村では極めて深刻な状況であるのは間違い無い。
ああもうやかましい。
「分かりました。とにかく順番に診させていただきます」
「俺が先だ!」
「何を言う。こっちが――」
またしても見苦しい争いが引き起こされかねないな。いや。普通の聖女でも重病人相手では一日に一人診るのがやっとという事だからな。
病人がいるのなら躍起なって当然か。
「とにかく今日中に全員、診させてもらいます! だから慌てないで下さい」
「え? 大丈夫なのですか? いくら何でも――」
「はい。だから村長さんが仕切って下さい」
「わ、分かりました」
アザールはさすがに疑念の表情を浮かべるが、半信半疑ながら頷く。
そしてその日の昼までに、オレは病人全員に『病の治療』の魔法をかけて治療したのだった。
う~ん。オレとしてはいろいろと不本意なはずだが、回復役としての仕事をまともに果たすと、結構それなりに充実感があるものだよ。
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