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第17章 海と大地の狭間に
第697話 ヴェガの方では気付いていました
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とにかく今はヴェガをこのまま解放してもらってとっととこの村を出るだけだ。
「それではそろそろ失礼させていただきますので、お願いした通り捕まえている人の解放を頼みますよ」
「もちろん。すぐに村の者に解放するように伝えます」
「ありがとうございます」
「ただくれぐれも申し上げておきますが、先ほどお伝えした呪われし場所にはお近づきにならぬようお願いします」
「分かりました」
本当にオレの事を心配してくれているのは分かったので、少しばかり心が痛むな。
そんなわけでオレは解放されたヴェガに、ガレリア、エレリアと供に村を出る。
「どうぞ。また来て下さい」
「もしも病人がいなくとも喜んで歓迎させてもらいますから」
村人達は本当に別れを惜しみ、好意を示してくれている。
彼らは排他的であっても、自分達の開拓生活に役立つ相手には心からの友情は惜しまないという話だったが、要するに『枠の外と中』ではまるで扱いが違うらしい。
ここまで手の平返しをされると、ちょっとどころではなく複雑な気分だけど、今は笑顔でお付き合いして穏便にここを去るしか無い。
そしてオレはここで解放されたと言え、仏頂面のヴェガに近づく。
「お気持ちは分かりますが、今は黙っていて下さい」
ヴェガの方に文句は山のようにあるだろうけど、ここで司法官の立場を振りかざして、村人達を罪に問う等と言い出されたら、下手をすれば流血の惨事だ。
ここはどうにか抑えてもらうしかない。
「それぐらいは分かっている。ただ自分の無力さをかみしめていただけだ……」
まあ司法官としての権威が通用しない相手だっただから、一人ではどうしようもないのだし、悩んでも仕方ないと思うけど、それでは駄目なんだろうなあ。
「本来ならば司法官である私があのような村をどうにかせねばならない筈なのに、捕まって助けてもらうだけとは……」
「何を言っているんだ。ヴェガがいなかったら俺達も危なかった」
「そうですよ。助かったのはお互い様です。ヴェガさんが気になさる事はありませんよ」
ガレリア・エレリアは揃ってヴェガをいたわっている。
こうしてみるとすっかり『仲間』になっているのだな。
「しかしお前達が私を助けてくれるとはな……最初に随分と酷いことを言ってしまったが、謝らせてくれ」
「いや。そんな事は別に気にはしていないさ。俺達はもう仲間だろう」
ガレリアは随分と嬉しげな様子だ。
ひょっとして『ハーレム状態』だとでも思って調子に乗ってないか?
まあ気持ちは分かるし、そう思わせた一因が『恋人』のフリをしたオレにもあるけど、何というかかなり複雑な気分だよ。
「ところで一つ聞くが、アルは一日であれだけ多くの病人を治したと言うが、いったい何をしたのだ?」
「オレには詳しい事は分からないが、やはりアルは凄いのだな」
ガレリアは誇らしげに言っているが、オレと出会ったのがエレリアの導きということで『妹を誇っている』のならばよいのだが『恋人』だからだと思っているのなら釘を刺しておきたいところだ。
しかしヴェガの前ではそういうわけにもいかない。
まあオレ達のためなら命も賭ける覚悟もある男だから、しばらくいい気分になるぐらいは許してやろう。
「いえ。大した事ではありませんよ」
「そんな事はあるまい。私だって並の聖女では伏している患者をせいぜい一日に一人ぐらいしか診ることが出来ない事は知っているぞ。それにずっとエレリアに魔法をかけているが、大勢の人間を診た後で、ごく当たり前に何度も使えるものではあるまい」
やっぱりヴェガは司法官だけあって、それぐらいの知識はあるか。
「別にとがめ立てをしているわけではないが、いったいアルは何者なのだ? 是非とも教えてもらいたい」
これはちょっとばかり困った事になったな。
正直に答えてもいいのだけど、今までそれで何度も面倒になったからな。
過去には『アルタシャを名乗る者は出頭して取り調べを受けねばならない』と迫られた事もあるからな。
しかも今さらヴェガに本当の事を教えたら、当然ながら『ガレリアと恋人』という話がウソなのはモロバレだ。
ますます話がややこしくなるのは確実だろう。
しかし数日とは言え、一緒に旅をしてきた相手をいつまでも偽るのは心苦しい――もっともオレの場合、偽りだらけでどこからどこまでが本当なのかと問われたら、自分でもよく分からないのだけど。
詐欺師が偽名を使いすぎて、自分の本名を忘れてしまったという話を聞いた事があるが、今のオレもそれに近い面があるかもしれない。
そしてオレが返答に窮していると、ヴェガは小さくため息をつく。
「言っておくがアルとガレリアが恋人だというウソについては気にしなくてもいいぞ」
「ええ?! 気付いていたんですか?」
「当たり前だろう。司法官である私の目は節穴ではないつもりだぞ。数日同行していれば、どう考えても恋人らしくない事ぐらい気がつく」
「そんなに俺達は『恋人』らしくなかったか……」
ガレリアは落胆した様子だが、どう見てもその理由は『ウソがばれたから』ではなくオレとの関係が恋人に見えなかった事が理由だろう。
何にしても今はヴェガに謝るしかない。
「すみません。ウソをついていた事は謝ります」
「もちろんウソをつくのはよくないが、まあ私がガレリア達の関係を誤解してしまったのが理由なのは分かっているから、そこはお互い様だ」
要するにオレ達がいずれも『恋人』で無いところまで、ヴェガは察していてくれたということか。
それでも今まで文句を言わなかったのは、一緒に旅をしているうちに、信頼してくれたのだろう。
嬉しい気もするが、このまま欺き続けるワケにもいかないのが何とも悩ましい。
「それではそろそろ失礼させていただきますので、お願いした通り捕まえている人の解放を頼みますよ」
「もちろん。すぐに村の者に解放するように伝えます」
「ありがとうございます」
「ただくれぐれも申し上げておきますが、先ほどお伝えした呪われし場所にはお近づきにならぬようお願いします」
「分かりました」
本当にオレの事を心配してくれているのは分かったので、少しばかり心が痛むな。
そんなわけでオレは解放されたヴェガに、ガレリア、エレリアと供に村を出る。
「どうぞ。また来て下さい」
「もしも病人がいなくとも喜んで歓迎させてもらいますから」
村人達は本当に別れを惜しみ、好意を示してくれている。
彼らは排他的であっても、自分達の開拓生活に役立つ相手には心からの友情は惜しまないという話だったが、要するに『枠の外と中』ではまるで扱いが違うらしい。
ここまで手の平返しをされると、ちょっとどころではなく複雑な気分だけど、今は笑顔でお付き合いして穏便にここを去るしか無い。
そしてオレはここで解放されたと言え、仏頂面のヴェガに近づく。
「お気持ちは分かりますが、今は黙っていて下さい」
ヴェガの方に文句は山のようにあるだろうけど、ここで司法官の立場を振りかざして、村人達を罪に問う等と言い出されたら、下手をすれば流血の惨事だ。
ここはどうにか抑えてもらうしかない。
「それぐらいは分かっている。ただ自分の無力さをかみしめていただけだ……」
まあ司法官としての権威が通用しない相手だっただから、一人ではどうしようもないのだし、悩んでも仕方ないと思うけど、それでは駄目なんだろうなあ。
「本来ならば司法官である私があのような村をどうにかせねばならない筈なのに、捕まって助けてもらうだけとは……」
「何を言っているんだ。ヴェガがいなかったら俺達も危なかった」
「そうですよ。助かったのはお互い様です。ヴェガさんが気になさる事はありませんよ」
ガレリア・エレリアは揃ってヴェガをいたわっている。
こうしてみるとすっかり『仲間』になっているのだな。
「しかしお前達が私を助けてくれるとはな……最初に随分と酷いことを言ってしまったが、謝らせてくれ」
「いや。そんな事は別に気にはしていないさ。俺達はもう仲間だろう」
ガレリアは随分と嬉しげな様子だ。
ひょっとして『ハーレム状態』だとでも思って調子に乗ってないか?
まあ気持ちは分かるし、そう思わせた一因が『恋人』のフリをしたオレにもあるけど、何というかかなり複雑な気分だよ。
「ところで一つ聞くが、アルは一日であれだけ多くの病人を治したと言うが、いったい何をしたのだ?」
「オレには詳しい事は分からないが、やはりアルは凄いのだな」
ガレリアは誇らしげに言っているが、オレと出会ったのがエレリアの導きということで『妹を誇っている』のならばよいのだが『恋人』だからだと思っているのなら釘を刺しておきたいところだ。
しかしヴェガの前ではそういうわけにもいかない。
まあオレ達のためなら命も賭ける覚悟もある男だから、しばらくいい気分になるぐらいは許してやろう。
「いえ。大した事ではありませんよ」
「そんな事はあるまい。私だって並の聖女では伏している患者をせいぜい一日に一人ぐらいしか診ることが出来ない事は知っているぞ。それにずっとエレリアに魔法をかけているが、大勢の人間を診た後で、ごく当たり前に何度も使えるものではあるまい」
やっぱりヴェガは司法官だけあって、それぐらいの知識はあるか。
「別にとがめ立てをしているわけではないが、いったいアルは何者なのだ? 是非とも教えてもらいたい」
これはちょっとばかり困った事になったな。
正直に答えてもいいのだけど、今までそれで何度も面倒になったからな。
過去には『アルタシャを名乗る者は出頭して取り調べを受けねばならない』と迫られた事もあるからな。
しかも今さらヴェガに本当の事を教えたら、当然ながら『ガレリアと恋人』という話がウソなのはモロバレだ。
ますます話がややこしくなるのは確実だろう。
しかし数日とは言え、一緒に旅をしてきた相手をいつまでも偽るのは心苦しい――もっともオレの場合、偽りだらけでどこからどこまでが本当なのかと問われたら、自分でもよく分からないのだけど。
詐欺師が偽名を使いすぎて、自分の本名を忘れてしまったという話を聞いた事があるが、今のオレもそれに近い面があるかもしれない。
そしてオレが返答に窮していると、ヴェガは小さくため息をつく。
「言っておくがアルとガレリアが恋人だというウソについては気にしなくてもいいぞ」
「ええ?! 気付いていたんですか?」
「当たり前だろう。司法官である私の目は節穴ではないつもりだぞ。数日同行していれば、どう考えても恋人らしくない事ぐらい気がつく」
「そんなに俺達は『恋人』らしくなかったか……」
ガレリアは落胆した様子だが、どう見てもその理由は『ウソがばれたから』ではなくオレとの関係が恋人に見えなかった事が理由だろう。
何にしても今はヴェガに謝るしかない。
「すみません。ウソをついていた事は謝ります」
「もちろんウソをつくのはよくないが、まあ私がガレリア達の関係を誤解してしまったのが理由なのは分かっているから、そこはお互い様だ」
要するにオレ達がいずれも『恋人』で無いところまで、ヴェガは察していてくれたということか。
それでも今まで文句を言わなかったのは、一緒に旅をしているうちに、信頼してくれたのだろう。
嬉しい気もするが、このまま欺き続けるワケにもいかないのが何とも悩ましい。
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