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第17章 海と大地の狭間に
第718話 埋もれた『聖域』を後にすると
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取りあえずいったん穏便に収まってくれた事は喜ぶべきだろう。
将来的には分からないが大精霊で地殻変動させる事も『選択肢の一つ』としつつも、このまま棚上げになってくれるといいのだが。
本当にその大精霊にそんな力があるのか、また契約があるとしてもそこまでの力を使ってくれるのか、そこは試してみないと分からないし、成功しても失敗しても後が大変となるとどうにか手をつけないままで終わってほしいものだ。
いずれにせよ地中に埋もれてしまったこの寺院の聖域からいったん引き上げる事に関してはオレも文句は無いが、ガレリアは少しばかり不満げだ。
「ここを探ればまだ何か見つかるかもしれないだろう……」
「もう一度、ガレリアさんが亡霊に乗っ取られても、その場合は見捨ててもいいと仰るなら探してもいいですよ」
オレがそう言うとガレリアはちょっとばかり情けなさそうな表情を浮かべる。
「おいおい。俺達は仮にもこいびと――」
そこまで口にしたところで、ガレリアはまた言葉を失うが恐らくはまたエレリアにテレパシーで責められたのだろう。
「無理を言ってすまない……いえ。すみません」
どうやらエレリアからオレが『アルタシャ』だと伝えられたようだな。
「そんな事を言わずとも、今まで通り『アル』でいいですよ」
オレは知り合いにそんな堅い態度を取られるのは、なるだけ遠慮したいのだ。
「そうかそう言ってくれると嬉しいな」
またずいぶんとあっさりだな。まあいいけど。
もう『恋人』のフリはしないから、そこはちゃんと分かっているのだろうか。
そしてここでヴェガの方も口を挟んでくる。
「やはりアルの正体はアルタシャだったのだな……」
今さらごまかしても仕方ないので、オレは曖昧に頷く。
「これまでの数々の無礼をお許しいただきたい」
「いえ。気にしないでください。わたしはなんとも思っていませんから」
まあ最初にそんな事を口にしたら、間違いなくヴェガはオレをニセモノ扱いしたろうから、ここは信じてくれただけでも感謝すべき事だろう。
「先ほどエレリアさんが口にされたとおり、ここはいったん引き上げて地上に戻りましょう」
「それからどうされるつもりですか?」
「ひとまずは大地の精霊に頼んで、この地に縛られている亡霊を解放します」
推測だけど大地の精霊ならば、この地に埋もれてしまっている亡霊達のありかを探るのもそうは難しく無いはずだ。
「それは分かりますが、そのような事をすれば危険ではありませんか?」
「ええ。ですから皆さんはいったん離れていて下さい」
ヴェガの懸念通り掘り当てた亡霊が吹き出してきて、周囲をあれこれとうろつき回る可能性は高い。
そうなった時にオレはどうにか出来るとは思うし、まあ大司祭から杖を受け継いだエレリアも大丈夫かもしれないけど、ガレリアとヴェガは巻き込まれたら危険だ。
「しかしあなたを置いて行くわけには……」
律儀なのはありがたいけど、正直に言ってヴェガは肉体的な襲撃はともかく、霊体を相手にするときに一緒にいたらこっちが困ります。
「いえ。あなたにとって私ごときは足手まといと言う事なのですね」
ああ。何か悩んでいるぞ。
咄嗟にどう言っていいのか分からないけど、ここはオレがどうにか取り繕うしかないか。
「あの――」
「いいじゃないか。アルが俺達に下がっていて欲しいと言っているのだから、ここはその通りにするべきだろう」
ガレリアはあっさりと言い切る。
オレの事を信頼しているのか、あんまり深く考えていないのか。
まあここで『恋人だからいつまでも一緒にいよう』などと言い出すような、空気の読めない相手でなかった事はホッとすべきだろうか。
「分かった……ここは言うとおりにしよう」
そんなわけでオレはいろいろと不安を抱えつつ、寺院の聖域を後にした。
その道すがら今度はエレリアが小声で話しかけてくる。
「いろいろとありがとうございました。あなたがご助力くださらなかったら、ここまで来る事は出来なかったでしょう」
「それはいいのですけど――」
「分かっておりますとも。あなたは大地を揺るがして、干拓地を含めたこの一帯をどうにかするのは反対であられるのですね」
エレリアはそんな事は先刻承知とばかりの様子だ。
「もちろん私もそんな事は望みません。しかしそれが可能だとなれば、いろいろなところで使う事は出来るでしょう」
「エレリアさん。あなたはまさか……」
そうか。エレリアはこの『聖地』の発見や、その証拠となる杖を持ち帰るだけでなく、かの大精霊を扱えるのが今は亡き大司祭から許可を得た自分だけという事を利用して、双子神の教団での地位を確立するつもりなのか。
「今すぐにどうにか出来るワケでも無いでしょう。まずは双子の婚姻は早急に辞めるように訴え、それからまだまだやるべき事は幾らでもありますよ」
それは分かるし、オレとしても安堵するところではあるが、干拓地の地盤沈下はどうするつもりなのか。
もちろん今すぐにどうにかしないと破滅が訪れるという程のものではないけど、何年も経ってどんどん進行していくだけどなったら、やっぱりそのままには出来ない筈だ。
「それで本当に大精霊が使えるのか、またそれをよりうまく扱うにはどうすればいいのか、それは私どもで時間をかけて調べますよ。もしもそれが駄目なら、そのときは――」
「どうするつもりなのです?」
どうせ水没する運命が避けられないなら、一か八か大災害でも何でも引き起こしてでもどうにかしようなどと考えるのは何の不思議も無い。
やっぱりどこか人間離れした様子を示すエレリアの次の言葉が何になるのか。オレは固唾を呑んで見守る事となった。
将来的には分からないが大精霊で地殻変動させる事も『選択肢の一つ』としつつも、このまま棚上げになってくれるといいのだが。
本当にその大精霊にそんな力があるのか、また契約があるとしてもそこまでの力を使ってくれるのか、そこは試してみないと分からないし、成功しても失敗しても後が大変となるとどうにか手をつけないままで終わってほしいものだ。
いずれにせよ地中に埋もれてしまったこの寺院の聖域からいったん引き上げる事に関してはオレも文句は無いが、ガレリアは少しばかり不満げだ。
「ここを探ればまだ何か見つかるかもしれないだろう……」
「もう一度、ガレリアさんが亡霊に乗っ取られても、その場合は見捨ててもいいと仰るなら探してもいいですよ」
オレがそう言うとガレリアはちょっとばかり情けなさそうな表情を浮かべる。
「おいおい。俺達は仮にもこいびと――」
そこまで口にしたところで、ガレリアはまた言葉を失うが恐らくはまたエレリアにテレパシーで責められたのだろう。
「無理を言ってすまない……いえ。すみません」
どうやらエレリアからオレが『アルタシャ』だと伝えられたようだな。
「そんな事を言わずとも、今まで通り『アル』でいいですよ」
オレは知り合いにそんな堅い態度を取られるのは、なるだけ遠慮したいのだ。
「そうかそう言ってくれると嬉しいな」
またずいぶんとあっさりだな。まあいいけど。
もう『恋人』のフリはしないから、そこはちゃんと分かっているのだろうか。
そしてここでヴェガの方も口を挟んでくる。
「やはりアルの正体はアルタシャだったのだな……」
今さらごまかしても仕方ないので、オレは曖昧に頷く。
「これまでの数々の無礼をお許しいただきたい」
「いえ。気にしないでください。わたしはなんとも思っていませんから」
まあ最初にそんな事を口にしたら、間違いなくヴェガはオレをニセモノ扱いしたろうから、ここは信じてくれただけでも感謝すべき事だろう。
「先ほどエレリアさんが口にされたとおり、ここはいったん引き上げて地上に戻りましょう」
「それからどうされるつもりですか?」
「ひとまずは大地の精霊に頼んで、この地に縛られている亡霊を解放します」
推測だけど大地の精霊ならば、この地に埋もれてしまっている亡霊達のありかを探るのもそうは難しく無いはずだ。
「それは分かりますが、そのような事をすれば危険ではありませんか?」
「ええ。ですから皆さんはいったん離れていて下さい」
ヴェガの懸念通り掘り当てた亡霊が吹き出してきて、周囲をあれこれとうろつき回る可能性は高い。
そうなった時にオレはどうにか出来るとは思うし、まあ大司祭から杖を受け継いだエレリアも大丈夫かもしれないけど、ガレリアとヴェガは巻き込まれたら危険だ。
「しかしあなたを置いて行くわけには……」
律儀なのはありがたいけど、正直に言ってヴェガは肉体的な襲撃はともかく、霊体を相手にするときに一緒にいたらこっちが困ります。
「いえ。あなたにとって私ごときは足手まといと言う事なのですね」
ああ。何か悩んでいるぞ。
咄嗟にどう言っていいのか分からないけど、ここはオレがどうにか取り繕うしかないか。
「あの――」
「いいじゃないか。アルが俺達に下がっていて欲しいと言っているのだから、ここはその通りにするべきだろう」
ガレリアはあっさりと言い切る。
オレの事を信頼しているのか、あんまり深く考えていないのか。
まあここで『恋人だからいつまでも一緒にいよう』などと言い出すような、空気の読めない相手でなかった事はホッとすべきだろうか。
「分かった……ここは言うとおりにしよう」
そんなわけでオレはいろいろと不安を抱えつつ、寺院の聖域を後にした。
その道すがら今度はエレリアが小声で話しかけてくる。
「いろいろとありがとうございました。あなたがご助力くださらなかったら、ここまで来る事は出来なかったでしょう」
「それはいいのですけど――」
「分かっておりますとも。あなたは大地を揺るがして、干拓地を含めたこの一帯をどうにかするのは反対であられるのですね」
エレリアはそんな事は先刻承知とばかりの様子だ。
「もちろん私もそんな事は望みません。しかしそれが可能だとなれば、いろいろなところで使う事は出来るでしょう」
「エレリアさん。あなたはまさか……」
そうか。エレリアはこの『聖地』の発見や、その証拠となる杖を持ち帰るだけでなく、かの大精霊を扱えるのが今は亡き大司祭から許可を得た自分だけという事を利用して、双子神の教団での地位を確立するつもりなのか。
「今すぐにどうにか出来るワケでも無いでしょう。まずは双子の婚姻は早急に辞めるように訴え、それからまだまだやるべき事は幾らでもありますよ」
それは分かるし、オレとしても安堵するところではあるが、干拓地の地盤沈下はどうするつもりなのか。
もちろん今すぐにどうにかしないと破滅が訪れるという程のものではないけど、何年も経ってどんどん進行していくだけどなったら、やっぱりそのままには出来ない筈だ。
「それで本当に大精霊が使えるのか、またそれをよりうまく扱うにはどうすればいいのか、それは私どもで時間をかけて調べますよ。もしもそれが駄目なら、そのときは――」
「どうするつもりなのです?」
どうせ水没する運命が避けられないなら、一か八か大災害でも何でも引き起こしてでもどうにかしようなどと考えるのは何の不思議も無い。
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