異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第18章 奇怪なる殺戮者?

第740話 何とか無事に戻ってきたが

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 半人半獣の怪物の向かい合って立っているのは、その光沢ある身体で星明かりを反射する白銀の乙女だった。
 顔にも目鼻や口は見えるが、細かいところはハッキリとはしない。分かるのはその外見が若い女性の形をしているということだけだ。
 何者なのかはまるで見当もつかないが、ついさっきシドンを助けてくれたらしい事は確かなようだ。

「アルさん……あの人は……あれはいったい何なんですか?」
「わたしにも分かりません」

 どうする? この水銀の女性が味方ならばありがたいけど、そう簡単に決め付けるわけにはいかないぞ。
 そして邪魔をされた殺人鬼の方と言えば――

「そうかお前のその姿が……」

 小さくつぶやきつつ、水銀の女性をじっと見つめていた。
 どうやら相手は何かに気づいたらしいが、どういうことなのかはよく分からない。
 そして水銀の女性は殺人鬼を前にして微動だにしていない。
 しかし矛盾するようだが、その身は常に動いていた。
 女体の光沢ある表面は微妙な変化を続けて、その身に移る景色が一秒ごとに移り変わっていくのだ。
 また長い髪はその一本にいたるまで存在する質感があるにもかかわらず、ひとかたまりになった水銀のムチのごとく波打ち、夜空の星明かりをその身に煌めかせる姿は、まるで幻想のように美しい。
 とりあえず意志疎通が可能かどうか分からないが、改めてシドンを背後において話かけるとしよう。

「あなたはいったいどなたなのですか?」
「……」

 オレの質問に対し、水銀の女性は沈黙したままだが、ちらとこちらに対しその瞳孔のない瞳を向けた。
 だがその瞬間、殺人鬼はまたしても稲妻のごとくその脚力を用いて跳ね上がり、夜闇に姿を消していった。
 それとほぼ同時にオレの視界にはいくつものカンテラの明かりが入ってきた。

「さっきの音はあちらだぞ!」
「気をつけろ!」

 どうやら水銀の女性が、殺人鬼を吹っ飛ばした時の音を聞きつけて、警邏隊がやってきたらしい。
 水銀の女性はそちらを振り向くと、その外見にそぐわぬ身軽な動きでその身を翻すと闇へと消えていった。
 殺人鬼も水銀の女性のどちらも警邏隊と事を構えるのは避けたらしい。

「あの……アルさん。どうしましょうか?」

 シドンも動揺しつつ問いかけてくる。
 殺人鬼の事をこのまま黙っているわけにはいかないが、説明したところでそう簡単に信じてもらえるとも思えない。
 最悪の場合、こちらが殺人鬼扱いされてしまう可能性もありうる。
 こちらが『アルタシャ』だと証明出来ればどうにかなるだろうけど、警邏隊に捕まってからそんな事を口にしても、普通は相手にされないどころか、偽者と見なされてしまう危険が高い。
 この場はオレ達もいったん引いて、明日になったらこのヒュールの町の聖女教会を訪れた上で殺人鬼について伝えるとしよう。
 聖女教会と関わるのは出来れば避けたかったが、こうなってしまってはやむを得ない。
 オレの守護女神イロールが聖女教会に啓示を与えているならよし。それが無くとも神託が出来ればどうにかなるだろう。

「ここはいったん下がりましょう」
「分かりました」

 そういえばオレ達は夜に出歩いているサレナを探しに来た筈だったが、彼女の事は完全に見失ってしまっていたな。
 残念ながらそちらの目的は全く果たせなかったが、それは仕方ない。サレナの事は後日、改めるとしよう。
 そんなわけでオレは再度シドンを背負い、迫り来るカンテラに背を向けて、夜闇の中に駆け出そうとした。
 だがこの時、カンテラの光にボンヤリと照らされて、警邏隊の先頭にいた人影がチラとオレの目に入り、思わず足が止まった。
 まさか? あれは?

「アルさん? どうされましたか?」
「いえ。何でもありません」

 このときこちらの方向を指差し、警邏隊に指図をしていたのは昼間に見かけた、魔術師協会のガザックだったのが少し気になったのだ。



 オレ達が屋敷に戻ったとき、もちろん日が昇ってもおらず周囲は真っ暗なままである。

「取りあえず今晩はここで別れましょう。サレナさんの事はまた後日――」

 オレがそこまで口にしたところで、屋敷の入り口から駆けてくる姿があった。

「こらぁ! シドン!」

 それは初対面の時とほぼ同じく、額に角を生やしかねない怒りの叫びを挙げるサレナだったのだ。

「ね、姉さん? いったいいつ戻って――」

 シドンが思わず問いかけたところでやってきたサレナは、オレから奪い取るように義弟おとうとの身を引っ張りつつ叫ぶ。

「いったいどういうつもりよ? こんな夜更けにシドンを連れ出すなんて! 危ない事があったらどうしてくれるのよ!」
「いや……だって姉さんが……うぐう!」

 シドンの言葉の途中でサレナは絞め殺さんばかりの勢いで抱きしめつつ、オレに対しては睨み殺すかと思えるような視線を向けてくる。

「あんたはもう二度とここには来ないでよ! シドンにも近づかないで!」

 それだけ言い切ると、サレナは問答無用とばかりにシドンを屋敷の中に引っ張り込み、猛烈な勢いでドアが閉め切られた。
 どうやらサレナとはとても話をするどころではないようだ。
 仕方あるまい。もう宿屋もとれないだろうし、今晩はどこかに野宿して明日にも聖女教会に出向いて話をするとしよう。
 そう思ってひとまず屋敷を離れようとしたところ、周囲にいくつもの人影が集まってきていた。
 なんだ? 何者だ? その動きを見る限り、地元の人間を招集した警邏隊ではなく、よく訓練された相手らしい。
 オレが緊張に身を固めた時、その人影の中から姿を現したのは、つい先ほど別れたガザックだったのだ。
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