異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第18章 奇怪なる殺戮者?

第755話 『サレナ』の真相とは

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 取りあえずオレはサレナの水銀の腕をつかんで引っ張り、見上げるほどにまで巨大化しつつ今のところはそれから動きを見せていないガザック=ラザラから隠れることにする。
 そしてサレナはオレに敢えて逆らいはせず、手を引かれるままながら、どうにも呆れた様子で小さくつぶやく。

「ずっと一緒にいたシドンだってあたしを化け物だと言ったのよ……それなのに……」

 この言葉を聞いてオレは『サレナの正体』を確信する。

「やっぱりそうだったんですね」
「どういう意味よ?」

 サレナの表情が少しばかり歪む。
 たぶん怪訝な表情を浮かべているのだろうけど、水銀の女性の容貌ではいまいち伝わらないな。

「シドンがあなたについて大きな誤解をしていると言う事ですよ」
「誤解はしていないわよ……さっき言ったようにあたしは—」
「あなたが『本物のサレナ』を同化したのは十年前、先代の会長が自殺した日の事なのでしょう?」
「……」
「ここからはわたしの推測ですけど、たぶん間違い無いと思います」

 今まで散々、勘違いを繰り返してきたけどこの結論には自信はあるよ。

「十年前に先代の会長は、長らく行方不明だった疑似生命体の一体を発見したのですね。そして休眠状態だったそのメルティナを研究のため魔法的に封印して自宅に持ち込んでいた」
「それで?」
「しかしその魔法的な封印を当時、五歳だった『本物のサレナ』は破ってしまったのでしょう」

 父親に溺愛されていた幼い彼女にとってそれはただ単に『父の宝物を見たい』とか、そんなたわいの無い理由での些細なイタズラだったに違いない。

「そして何も分からない休眠状態だったメルティナは、サレナをあっさりと乗っ取り、それを知った先代の会長は娘を失った事で狂乱し、あなたに対し『お前さえいなければ』と呪いつつ、自殺したのですね」

 オレと対面した現在の会長は、抵抗できない幼児は簡単に乗っ取られると言っていたが、サレナの父が気付いた時には完全に乗っ取られていて、その絶望のあまり全ての資料と自分自身を焼き尽くしてしまったのだろう。

「サレナの父の意図した結果か偶然かは分かりませんが、あなたはそのまま『サレナ』として残され、先代会長と親しくて、研究にも協力していたであろうシドンの祖父、ノーズ翁以外は誰もあなたの正体には気付かなかった」

 会長の異常な死に様が注目の的になって、その傍らで佇んでいた娘に何が起きたのかについて、気を回す余裕など周囲の人間には無かったのが『サレナ』にとっては幸いだった、と言うべきか。
 そして本物のサレナの知識や記憶は、当然ながら幼女のものでしか無かったが故に、長年休眠していて何もない状態だったメルティナ自身も何をしていいのか分からなかったはずだ。

「それでノーズ翁はあなたの正体に気付いた上で引き取り『人間』として育てたのですね? ここまでの話で何か違うところがあるのなら言って下さい」
「なんでそんな事を考えたのよ……どうしたらそんな発想が出来るのかしら? アンタはどこか頭のネジがゆるんでいるんじゃないの?」
「ええ。よくそんな事は言われます」

 どうやらオレの想像は正しかったらしい。
 もちろん『幼児と同化した疑似生命体を人間として育てる』なんて、常識的には考える筈が無い。
 だから誰一人として――共に暮らしていたシドンを含め――サレナの正体には気付きもしなかった。
 そういう意味ではやっぱりオレも『異世界人の発想』だから、気付いたと考えるべきなんだろうな。
 いずれにしてもマッドな魔術師として純粋な学者的興味に基づくものだったのか、はたまた何らかの『情』によるものだったのか、ノーズ翁が何を考えてそんな事をしたのか、それは分からない。
 今さらそんな事を考えても無駄だろう。
 ただ勝手な決めつけだけど、最初の思惑はどうあれ、最終的にはサレナに対し本当に弟子、と言うよりもむしろ『孫』に近い意識を抱いていたのではないだろうか。
 だからこそノーズ翁は死期を悟ったときに、肝心な部分を隠蔽してサレナが人間として生きるように計らったように思える。
 シドンに託すというメモ書きがあったとガザックが言っていたのも、それが理由だろう。
 ただそのメモ書きが目にしたガザックの野心に火をつけて暴走させてしまうとは、ノーズ翁も想像だにしていなかっただろうけど。

「あなたが夜な夜な出歩いていたのは、連続殺人の話を聞いてそれがあなたと同じ疑似生命体の仕業ではないかと思ったからなのですよね」
「つまりあたしがこの町を守ろうとしたとでも思っているわけなの」
「たぶん……あなたはシドンの身に危険が迫る事を心配したのではないですか?」

 結果的にはシドンがそれでサレナを心配して、夜の町に向かわせ、オレと出くわす事になったわけだからそれこそ運命の皮肉というのだろうか。

「間違い無く言えるのは、経緯はどうあれシドンにとって最初からあなたはずっとサレナだって事ですよ」

 先ほどサレナに対して激昂したシドンは、つい最近になってサレナがメルティナに乗っ取られたと思っているに違いない。
 それはシドン自身が疑似生命体については殺人鬼と化したラザラしか知らないから、十年も一緒に暮らしたサレナが同等の存在などとは想像だに出来ないからだろう。
 彼の前では変わらぬ態度を示していたのもせいぜい『人間社会に溶け込むため』などと考えてしまったのかもしれないな。

「そんな事を言ったところで、あたしがずっとあの子を騙していた事に変わりは無いのよ」
「だけど話せばきっとシドンだって――」

 オレがそこまで口にしたところで、背後で立て続けに爆発音が轟く。
 見ると魔術師達が協会の建物を破壊してそびえていたまま動いていなかったラザラの巨体に攻撃魔法を放っていたのだ。だが――

「うがぁぁぁぁ!」

 それまで硬直していたラザラはまるで狂乱したかのごとき咆哮を挙げつつ、動き出したのだった。
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