異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
786 / 1,316
第19章 神気の山脈にて

第786話 生け贄を捧げる事情とは

しおりを挟む
 話を聞いたところで恐らくはこの地域の住民の多くは、特に生贄を求めているわけではないのだろう。
 だが何かあった時には『椀かづき』に生贄を捧げて、その助力を求めるというのが、伝統になっていると言うことか。

「あなた方が『椀かづき』様に生贄を捧げ、助力を請い願った理由は何なのです?」
「ワシらの近隣の連中が、こちらに攻めてくるという話が広まっているんです」
「それだけで、生贄を捧げるのですか?」
「そうしないと俺達が負けてしまうかもしれないんだよ!」

 う~ん。そういう伝説があるのか?
 正直に言えば『縁起を担ぐ』程度ならいざ知らず、具体的な恩恵も無いのに、生け贄まで捧げるというのはオレの感覚でもよく分からない。
 元の世界でも、ある地域では太陽神が夜の神との戦いに負けて世界が暗闇に覆われる事を心配し、生け贄の神像を捧げ続けたという話を聞いた事がある。
 このあたりの住民はそれと同じようにな事を、思い込んでしまっているんだろうか?

「他の連中も椀かづき様に生け贄を捧げているんだ。だからもしも俺達がそれをしなければこちらだけ加護が受けられなくなってしまうんだよ!」

 なるほど。そういうことか。
 要するに他がやっているのに、自分達がやらなければ負けてしまうという競争意識があるのだな。
 もちろんこの世界において、どこそこが神様に生け贄を捧げたという話が広まっても、それを他の勢力が確認する術はそうそうない。
 本音では馬鹿馬鹿しいと思っていても、そんな話が広まると意地の張り合いになってしまう事もしばしばある話だ。
 歴史の授業で主君が死んだ時に、忠義の証として殉死する家臣の数を競い合ったので、次の主君を支えるべき人間が大勢失われて困った事があったそうだが、この場合は神への信仰の証明とその加護を受ける手段となっているわけか。
 しかもそれで勝てば『生け贄を捧げたお陰』になるし、負けても『生け贄が足りなかったから』と言う事になってしまうのだろうなあ。

 こういうのはロクでもないカルト教団がよく使う手口だな。
 ひょっとするとこんな堕落した教えが広まっているのは、何ものかの意図があると考えるべきだろうか。
 そこまでこいつらが知っているとは思えないが、仮に裏で糸を引いている存在があるとしたら、それはいったいどんな相手なんだ。
 正直に言って今の時点では見当もつかないし、これが単なるオレの思い過ごしで本当にただ自然発生的なものなのかもしれない。
 オレがそんな事を考えていると、縛られた連中は口々に懇願してくる。

「とにかく一人でも生け贄を捧げないと、皆が不安に思うんでさあ」
「ワシらだって別に好きでやっていることではないんですよ」

 ひょっとすると本当に彼等は貧乏くじを引かされてしまっただけなのかもしれない。
 しかしその一方で生け贄を捧げる事で、自分達が『椀かづき様の祝福を受ける』事を望んでいた事も十分に考えられるだろう。
 どっちにしろオレが裁く事では無いから、後は先ほどの砦の兵士達を呼んできてこいつらを引き渡すだけだな。
 フォラジによれば兵士達が仕えているテシュノ王国において、人間を生け贄を捧げる事は許されざる行為だから、未遂でもかなり重い罪に問われるのだろうし、それは分かっていてもやらざるを得ないと彼等も思い込んでいたのは確かだ。

 一方でこの近隣の状況についていろいろと話が出ているが、本来なら問い詰めそうなフォラジの方はどういうわけか難しい表情を浮かべているな。

「フォラジさん。いったいどうしたのですか?」
「ううむ。こいつらの話が本当だとすれば、この近辺では愚か者どもがあちこちでケフェルティリ神に生け贄を捧げているのは間違い無い」
「そこまではわたしにも見当はつきますよ」
「この地に残る神話からすると、そうやって大勢の生け贄を捧げると、ケフェルティリ神が姿を顕現するという話になっているのだ」
「わたしが聞いたところでは、既に神様が姿を見せていて、その祝福を得るために生け贄が必要だという事でしたよ」

 因果が逆になっているけど、もちろんこれもどちらかが正しくて、もう一方が間違っているという話ではなく、伝承によって違うのだろう。
 そしてこれまた神様が本当に顕れているかどうかなど、殆どの人間には確かめようが無いから、とにかく神様――そして不安を抱く人間――をなだめるために生け贄を捧げようという話になってしまっている可能性があるな。

「それでフォラジさんとしては、どうするおつもりなのですか?」

 義憤に駆られ、その愚かしさに警鐘を鳴らす必要を感じている――と言うわけでもなさそうだな。

「本当にケフェルティリ神が顕現するのならば、是非とも直接対面してみたいところだと思っていてね」
「その場合、対価はあなたの命で払う事になりかねませんよ」
「仕方ない事だけど、そうそうそんな機会は得られないさ」

 この人は本当に神様と対面出来るなら、対価に自分の首まで差し出しそうだ。

「それなら生け贄を志願したらいかがですか? イヤでも神様に会えるでしょう」
「君は何を言うんだ!」

 オレはちょっと呆れつつ突っ込みを入れるが、フォラジはいきなり叫ぶ。

「生け贄になるのは、命と魂をその神に捧げる事だ! マークホール神に捧げたボクの命と魂を別の存在に捧げるなどあり得ない!」

 ううむ。命を落とすのは覚悟の上だけど、生け贄になるのは真っ平という事か。
 このあたりもいろいろとややこしいものだな。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...