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第19章 神気の山脈にて
第786話 生け贄を捧げる事情とは
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話を聞いたところで恐らくはこの地域の住民の多くは、特に生贄を求めているわけではないのだろう。
だが何かあった時には『椀かづき』に生贄を捧げて、その助力を求めるというのが、伝統になっていると言うことか。
「あなた方が『椀かづき』様に生贄を捧げ、助力を請い願った理由は何なのです?」
「ワシらの近隣の連中が、こちらに攻めてくるという話が広まっているんです」
「それだけで、生贄を捧げるのですか?」
「そうしないと俺達が負けてしまうかもしれないんだよ!」
う~ん。そういう伝説があるのか?
正直に言えば『縁起を担ぐ』程度ならいざ知らず、具体的な恩恵も無いのに、生け贄まで捧げるというのはオレの感覚でもよく分からない。
元の世界でも、ある地域では太陽神が夜の神との戦いに負けて世界が暗闇に覆われる事を心配し、生け贄の神像を捧げ続けたという話を聞いた事がある。
このあたりの住民はそれと同じようにな事を、思い込んでしまっているんだろうか?
「他の連中も椀かづき様に生け贄を捧げているんだ。だからもしも俺達がそれをしなければこちらだけ加護が受けられなくなってしまうんだよ!」
なるほど。そういうことか。
要するに他がやっているのに、自分達がやらなければ負けてしまうという競争意識があるのだな。
もちろんこの世界において、どこそこが神様に生け贄を捧げたという話が広まっても、それを他の勢力が確認する術はそうそうない。
本音では馬鹿馬鹿しいと思っていても、そんな話が広まると意地の張り合いになってしまう事もしばしばある話だ。
歴史の授業で主君が死んだ時に、忠義の証として殉死する家臣の数を競い合ったので、次の主君を支えるべき人間が大勢失われて困った事があったそうだが、この場合は神への信仰の証明とその加護を受ける手段となっているわけか。
しかもそれで勝てば『生け贄を捧げたお陰』になるし、負けても『生け贄が足りなかったから』と言う事になってしまうのだろうなあ。
こういうのはロクでもないカルト教団がよく使う手口だな。
ひょっとするとこんな堕落した教えが広まっているのは、何ものかの意図があると考えるべきだろうか。
そこまでこいつらが知っているとは思えないが、仮に裏で糸を引いている存在があるとしたら、それはいったいどんな相手なんだ。
正直に言って今の時点では見当もつかないし、これが単なるオレの思い過ごしで本当にただ自然発生的なものなのかもしれない。
オレがそんな事を考えていると、縛られた連中は口々に懇願してくる。
「とにかく一人でも生け贄を捧げないと、皆が不安に思うんでさあ」
「ワシらだって別に好きでやっていることではないんですよ」
ひょっとすると本当に彼等は貧乏くじを引かされてしまっただけなのかもしれない。
しかしその一方で生け贄を捧げる事で、自分達が『椀かづき様の祝福を受ける』事を望んでいた事も十分に考えられるだろう。
どっちにしろオレが裁く事では無いから、後は先ほどの砦の兵士達を呼んできてこいつらを引き渡すだけだな。
フォラジによれば兵士達が仕えているテシュノ王国において、人間を生け贄を捧げる事は許されざる行為だから、未遂でもかなり重い罪に問われるのだろうし、それは分かっていてもやらざるを得ないと彼等も思い込んでいたのは確かだ。
一方でこの近隣の状況についていろいろと話が出ているが、本来なら問い詰めそうなフォラジの方はどういうわけか難しい表情を浮かべているな。
「フォラジさん。いったいどうしたのですか?」
「ううむ。こいつらの話が本当だとすれば、この近辺では愚か者どもがあちこちでケフェルティリ神に生け贄を捧げているのは間違い無い」
「そこまではわたしにも見当はつきますよ」
「この地に残る神話からすると、そうやって大勢の生け贄を捧げると、ケフェルティリ神が姿を顕現するという話になっているのだ」
「わたしが聞いたところでは、既に神様が姿を見せていて、その祝福を得るために生け贄が必要だという事でしたよ」
因果が逆になっているけど、もちろんこれもどちらかが正しくて、もう一方が間違っているという話ではなく、伝承によって違うのだろう。
そしてこれまた神様が本当に顕れているかどうかなど、殆どの人間には確かめようが無いから、とにかく神様――そして不安を抱く人間――をなだめるために生け贄を捧げようという話になってしまっている可能性があるな。
「それでフォラジさんとしては、どうするおつもりなのですか?」
義憤に駆られ、その愚かしさに警鐘を鳴らす必要を感じている――と言うわけでもなさそうだな。
「本当にケフェルティリ神が顕現するのならば、是非とも直接対面してみたいところだと思っていてね」
「その場合、対価はあなたの命で払う事になりかねませんよ」
「仕方ない事だけど、そうそうそんな機会は得られないさ」
この人は本当に神様と対面出来るなら、対価に自分の首まで差し出しそうだ。
「それなら生け贄を志願したらいかがですか? イヤでも神様に会えるでしょう」
「君は何を言うんだ!」
オレはちょっと呆れつつ突っ込みを入れるが、フォラジはいきなり叫ぶ。
「生け贄になるのは、命と魂をその神に捧げる事だ! マークホール神に捧げたボクの命と魂を別の存在に捧げるなどあり得ない!」
ううむ。命を落とすのは覚悟の上だけど、生け贄になるのは真っ平という事か。
このあたりもいろいろとややこしいものだな。
だが何かあった時には『椀かづき』に生贄を捧げて、その助力を求めるというのが、伝統になっていると言うことか。
「あなた方が『椀かづき』様に生贄を捧げ、助力を請い願った理由は何なのです?」
「ワシらの近隣の連中が、こちらに攻めてくるという話が広まっているんです」
「それだけで、生贄を捧げるのですか?」
「そうしないと俺達が負けてしまうかもしれないんだよ!」
う~ん。そういう伝説があるのか?
正直に言えば『縁起を担ぐ』程度ならいざ知らず、具体的な恩恵も無いのに、生け贄まで捧げるというのはオレの感覚でもよく分からない。
元の世界でも、ある地域では太陽神が夜の神との戦いに負けて世界が暗闇に覆われる事を心配し、生け贄の神像を捧げ続けたという話を聞いた事がある。
このあたりの住民はそれと同じようにな事を、思い込んでしまっているんだろうか?
「他の連中も椀かづき様に生け贄を捧げているんだ。だからもしも俺達がそれをしなければこちらだけ加護が受けられなくなってしまうんだよ!」
なるほど。そういうことか。
要するに他がやっているのに、自分達がやらなければ負けてしまうという競争意識があるのだな。
もちろんこの世界において、どこそこが神様に生け贄を捧げたという話が広まっても、それを他の勢力が確認する術はそうそうない。
本音では馬鹿馬鹿しいと思っていても、そんな話が広まると意地の張り合いになってしまう事もしばしばある話だ。
歴史の授業で主君が死んだ時に、忠義の証として殉死する家臣の数を競い合ったので、次の主君を支えるべき人間が大勢失われて困った事があったそうだが、この場合は神への信仰の証明とその加護を受ける手段となっているわけか。
しかもそれで勝てば『生け贄を捧げたお陰』になるし、負けても『生け贄が足りなかったから』と言う事になってしまうのだろうなあ。
こういうのはロクでもないカルト教団がよく使う手口だな。
ひょっとするとこんな堕落した教えが広まっているのは、何ものかの意図があると考えるべきだろうか。
そこまでこいつらが知っているとは思えないが、仮に裏で糸を引いている存在があるとしたら、それはいったいどんな相手なんだ。
正直に言って今の時点では見当もつかないし、これが単なるオレの思い過ごしで本当にただ自然発生的なものなのかもしれない。
オレがそんな事を考えていると、縛られた連中は口々に懇願してくる。
「とにかく一人でも生け贄を捧げないと、皆が不安に思うんでさあ」
「ワシらだって別に好きでやっていることではないんですよ」
ひょっとすると本当に彼等は貧乏くじを引かされてしまっただけなのかもしれない。
しかしその一方で生け贄を捧げる事で、自分達が『椀かづき様の祝福を受ける』事を望んでいた事も十分に考えられるだろう。
どっちにしろオレが裁く事では無いから、後は先ほどの砦の兵士達を呼んできてこいつらを引き渡すだけだな。
フォラジによれば兵士達が仕えているテシュノ王国において、人間を生け贄を捧げる事は許されざる行為だから、未遂でもかなり重い罪に問われるのだろうし、それは分かっていてもやらざるを得ないと彼等も思い込んでいたのは確かだ。
一方でこの近隣の状況についていろいろと話が出ているが、本来なら問い詰めそうなフォラジの方はどういうわけか難しい表情を浮かべているな。
「フォラジさん。いったいどうしたのですか?」
「ううむ。こいつらの話が本当だとすれば、この近辺では愚か者どもがあちこちでケフェルティリ神に生け贄を捧げているのは間違い無い」
「そこまではわたしにも見当はつきますよ」
「この地に残る神話からすると、そうやって大勢の生け贄を捧げると、ケフェルティリ神が姿を顕現するという話になっているのだ」
「わたしが聞いたところでは、既に神様が姿を見せていて、その祝福を得るために生け贄が必要だという事でしたよ」
因果が逆になっているけど、もちろんこれもどちらかが正しくて、もう一方が間違っているという話ではなく、伝承によって違うのだろう。
そしてこれまた神様が本当に顕れているかどうかなど、殆どの人間には確かめようが無いから、とにかく神様――そして不安を抱く人間――をなだめるために生け贄を捧げようという話になってしまっている可能性があるな。
「それでフォラジさんとしては、どうするおつもりなのですか?」
義憤に駆られ、その愚かしさに警鐘を鳴らす必要を感じている――と言うわけでもなさそうだな。
「本当にケフェルティリ神が顕現するのならば、是非とも直接対面してみたいところだと思っていてね」
「その場合、対価はあなたの命で払う事になりかねませんよ」
「仕方ない事だけど、そうそうそんな機会は得られないさ」
この人は本当に神様と対面出来るなら、対価に自分の首まで差し出しそうだ。
「それなら生け贄を志願したらいかがですか? イヤでも神様に会えるでしょう」
「君は何を言うんだ!」
オレはちょっと呆れつつ突っ込みを入れるが、フォラジはいきなり叫ぶ。
「生け贄になるのは、命と魂をその神に捧げる事だ! マークホール神に捧げたボクの命と魂を別の存在に捧げるなどあり得ない!」
ううむ。命を落とすのは覚悟の上だけど、生け贄になるのは真っ平という事か。
このあたりもいろいろとややこしいものだな。
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