異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
787 / 1,316
第19章 神気の山脈にて

第787話 生け贄の方には何があったのか

しおりを挟む
 フォラジの学術的興味はともかくいつまでもこの廃虚に留まっているわけにもいかない。

「とにかく先ほどの砦に戻って兵士達をここに呼びましょう」
「そこまでする必要はないよ」
「え?? どうするつもりなんですか?」

 生け贄は許されざる行為だと言っていたのに、兵士達に引き渡さないと言う事はまさかこの場で殺すつもりなのか?
 いくら何でもそれはやり過ぎだろうと思っていたら、フォラジは神殿前に歩き出す。
 おいおい。ひょっとして縛り上げたまま放置するのか?
 そう思ったところで、フォラジは何事か呪文らしきものを唱えると、魔法の光が天に上がりそこでいくつかの光球となって輝く。
 恐らくアレは魔法の『烽火』シグナルファイアだろう。あの光球の数や色などで情報を伝えているに違いない。
 だけどこれはこれで問題じゃないか?

「これを見たら砦の兵士がこちらに来るはずだよ」
「それはいいのですけど、当然あれを見て何事かと寄ってくる相手は兵士だけではありませんよね?」
「むう。言われて見ればその通りか」

 おい。それを考えていなかったのか。
 もうやってしまった事は仕方ないし、ここは急いで引き上げるとしよう。
 とりあえず薬物で意識を失っていた女性に対し『毒回復』キュアポイズンをかける。
 名前の通り本来は毒を無効化する魔法だけど、意識を失わせている薬の効果を取り除ければそれでいい。
 そして魔法を受けた女性の目に光が戻り、少しばかり惚けた様子で周囲を見回し、そこでオレにその目の焦点が合う。
 生け贄に選ばれただけあってそれなりに容姿は整っていて、一般の基準では『器量よし』で通るところだろう。

「もしや……あなた様はあたしを迎えに来た神様のお使いでしょうか?」

 何でそうなるかと思ったが、要するに彼女は自分が生け贄として神に捧げられた後だと考えているのか。
 オレの容姿を見て『神の使い』と勘違いしたというわけか。

「いいえ。違いますよ。わたしの事はアルと呼んで下さい。あなたの名前は?」
「あたしはハラーダと言います。それではあたしはいったいどうなったのですか?」
「あなたは生け贄にならずに済んだのです」

 ここでオレは縛られた連中を指差す。
 そうするとハラーダはその目を大きく見開き、そして『安堵』や『不安』などいろいろな感情の入り交じった表情を浮かべた。
 ただそれは少なくとも『生け贄にならずに済んでよかった』と単純に喜んでいるものではなかった。

「ま、待って下さい。そんな事になったらあたしは……いえ。あたしの村に神様のお怒りを受けて……」

 なるほどな。考えてみれば嫌がる相手をさらってきて生け贄にするよりも、騙してでも脅してでも自発的に協力させた方がよっぽど手間がかからない。
 ただハラーダ本人も生け贄になる事を受け入れていたとは言えど、首をはねられるのは恐ろしいに決まっているから薬で意識を奪っていたと言う事か。

「それに生け贄になったら神様の元で永遠に幸せに暮らせると……空腹も無く、寒さに震える事も無く……」

 これはオレに聞かせるためでは無く、ハラーダはどこか自分に言い聞かせるように呟いているようだな。
 生け贄になる事で辛い現世から逃れて、幸せになれる教え込む事でその生け贄本人はもちろん家族や友人達の反発も抑えるのだろう。
 ただハラーダ本人も心からそれを信じているワケではなく、恐らくはそういうことにして自分を納得させた様子だ。
 そういえばフォラジはあまりハラーダには興味が無さそうだな。
 知識を重んじるフォラジにとって『生け贄の証言』は貴重な情報ではないのだろうか?
 そんなわけでオレはちょっとばかりフォラジに問いかける。

「あなたの方からハラーダさんに聞く事は無いのですか?」
「先ほどからの話を聞く限りでは、月並みな事しか知らないようだ。実際に生け贄になった魂から何が起きたのか聞く機会があれば有益だけど、あの程度なら興味はそそられないな」

 そうだったな。この世界では死んだ後の霊体から話を聞くことも可能なんだ。
 生け贄に捧げられた魂から、簡単に情報が得られるとは思えないけど、過去の長年の探究でそういう情報の積み重ねもあるのだろう。

「とにかく今はこの場を早く離れましょう」

 オレの言葉を聞いて、縛られていた連中は口々に叫ぶ。

「おおい待ってくれ! 俺達はどうなるんだ?」
「このままにしないでくれよ!」
「大丈夫ですよ。何もなければすぐに兵士達がやってきます」
「そうだな。それではこちらも――」

 ここでフォラジは石の壁に木炭で何事か書き込む。

「兵士達が来たら、これで奴らが何をしていたのか分かるだろう」

 オレが『翻訳』の魔法で読むと、縛られている連中が違法な生け贄を捧げようとしていたと書いたようだ。

「それではわたし達は引き上げますので、ハラーダさんもご自身の村に戻って――」
「待って下さい……あたしも連れて行って下さいませんか?」
「え? どういうことですか?」

 いま顔を合わせたばかりの相手に同行を頼むなど、いくら何でもおかしいだろう。

「いったん生け贄になったのにもう村には戻れません」

 なるほど。そういうことか。村には戻れないし、一人でうろついていても、ろくな結果にならないのは明白だ。
 彼女にとってはもう、僅かでも可能性があるならすがりたいという気分なのだろう。
 つくづく嫌な話だけど、このまま放置するわけにもいかない。
 まったくいつもながら面倒事ばかり増えていくなあ。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...