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第19章 神気の山脈にて
第787話 生け贄の方には何があったのか
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フォラジの学術的興味はともかくいつまでもこの廃虚に留まっているわけにもいかない。
「とにかく先ほどの砦に戻って兵士達をここに呼びましょう」
「そこまでする必要はないよ」
「え?? どうするつもりなんですか?」
生け贄は許されざる行為だと言っていたのに、兵士達に引き渡さないと言う事はまさかこの場で殺すつもりなのか?
いくら何でもそれはやり過ぎだろうと思っていたら、フォラジは神殿前に歩き出す。
おいおい。ひょっとして縛り上げたまま放置するのか?
そう思ったところで、フォラジは何事か呪文らしきものを唱えると、魔法の光が天に上がりそこでいくつかの光球となって輝く。
恐らくアレは魔法の『烽火』だろう。あの光球の数や色などで情報を伝えているに違いない。
だけどこれはこれで問題じゃないか?
「これを見たら砦の兵士がこちらに来るはずだよ」
「それはいいのですけど、当然あれを見て何事かと寄ってくる相手は兵士だけではありませんよね?」
「むう。言われて見ればその通りか」
おい。それを考えていなかったのか。
もうやってしまった事は仕方ないし、ここは急いで引き上げるとしよう。
とりあえず薬物で意識を失っていた女性に対し『毒回復』をかける。
名前の通り本来は毒を無効化する魔法だけど、意識を失わせている薬の効果を取り除ければそれでいい。
そして魔法を受けた女性の目に光が戻り、少しばかり惚けた様子で周囲を見回し、そこでオレにその目の焦点が合う。
生け贄に選ばれただけあってそれなりに容姿は整っていて、一般の基準では『器量よし』で通るところだろう。
「もしや……あなた様はあたしを迎えに来た神様のお使いでしょうか?」
何でそうなるかと思ったが、要するに彼女は自分が生け贄として神に捧げられた後だと考えているのか。
オレの容姿を見て『神の使い』と勘違いしたというわけか。
「いいえ。違いますよ。わたしの事はアルと呼んで下さい。あなたの名前は?」
「あたしはハラーダと言います。それではあたしはいったいどうなったのですか?」
「あなたは生け贄にならずに済んだのです」
ここでオレは縛られた連中を指差す。
そうするとハラーダはその目を大きく見開き、そして『安堵』や『不安』などいろいろな感情の入り交じった表情を浮かべた。
ただそれは少なくとも『生け贄にならずに済んでよかった』と単純に喜んでいるものではなかった。
「ま、待って下さい。そんな事になったらあたしは……いえ。あたしの村に神様のお怒りを受けて……」
なるほどな。考えてみれば嫌がる相手をさらってきて生け贄にするよりも、騙してでも脅してでも自発的に協力させた方がよっぽど手間がかからない。
ただハラーダ本人も生け贄になる事を受け入れていたとは言えど、首をはねられるのは恐ろしいに決まっているから薬で意識を奪っていたと言う事か。
「それに生け贄になったら神様の元で永遠に幸せに暮らせると……空腹も無く、寒さに震える事も無く……」
これはオレに聞かせるためでは無く、ハラーダはどこか自分に言い聞かせるように呟いているようだな。
生け贄になる事で辛い現世から逃れて、幸せになれる教え込む事でその生け贄本人はもちろん家族や友人達の反発も抑えるのだろう。
ただハラーダ本人も心からそれを信じているワケではなく、恐らくはそういうことにして自分を納得させた様子だ。
そういえばフォラジはあまりハラーダには興味が無さそうだな。
知識を重んじるフォラジにとって『生け贄の証言』は貴重な情報ではないのだろうか?
そんなわけでオレはちょっとばかりフォラジに問いかける。
「あなたの方からハラーダさんに聞く事は無いのですか?」
「先ほどからの話を聞く限りでは、月並みな事しか知らないようだ。実際に生け贄になった魂から何が起きたのか聞く機会があれば有益だけど、あの程度なら興味はそそられないな」
そうだったな。この世界では死んだ後の霊体から話を聞くことも可能なんだ。
生け贄に捧げられた魂から、簡単に情報が得られるとは思えないけど、過去の長年の探究でそういう情報の積み重ねもあるのだろう。
「とにかく今はこの場を早く離れましょう」
オレの言葉を聞いて、縛られていた連中は口々に叫ぶ。
「おおい待ってくれ! 俺達はどうなるんだ?」
「このままにしないでくれよ!」
「大丈夫ですよ。何もなければすぐに兵士達がやってきます」
「そうだな。それではこちらも――」
ここでフォラジは石の壁に木炭で何事か書き込む。
「兵士達が来たら、これで奴らが何をしていたのか分かるだろう」
オレが『翻訳』の魔法で読むと、縛られている連中が違法な生け贄を捧げようとしていたと書いたようだ。
「それではわたし達は引き上げますので、ハラーダさんもご自身の村に戻って――」
「待って下さい……あたしも連れて行って下さいませんか?」
「え? どういうことですか?」
いま顔を合わせたばかりの相手に同行を頼むなど、いくら何でもおかしいだろう。
「いったん生け贄になったのにもう村には戻れません」
なるほど。そういうことか。村には戻れないし、一人でうろついていても、ろくな結果にならないのは明白だ。
彼女にとってはもう、僅かでも可能性があるならすがりたいという気分なのだろう。
つくづく嫌な話だけど、このまま放置するわけにもいかない。
まったくいつもながら面倒事ばかり増えていくなあ。
「とにかく先ほどの砦に戻って兵士達をここに呼びましょう」
「そこまでする必要はないよ」
「え?? どうするつもりなんですか?」
生け贄は許されざる行為だと言っていたのに、兵士達に引き渡さないと言う事はまさかこの場で殺すつもりなのか?
いくら何でもそれはやり過ぎだろうと思っていたら、フォラジは神殿前に歩き出す。
おいおい。ひょっとして縛り上げたまま放置するのか?
そう思ったところで、フォラジは何事か呪文らしきものを唱えると、魔法の光が天に上がりそこでいくつかの光球となって輝く。
恐らくアレは魔法の『烽火』だろう。あの光球の数や色などで情報を伝えているに違いない。
だけどこれはこれで問題じゃないか?
「これを見たら砦の兵士がこちらに来るはずだよ」
「それはいいのですけど、当然あれを見て何事かと寄ってくる相手は兵士だけではありませんよね?」
「むう。言われて見ればその通りか」
おい。それを考えていなかったのか。
もうやってしまった事は仕方ないし、ここは急いで引き上げるとしよう。
とりあえず薬物で意識を失っていた女性に対し『毒回復』をかける。
名前の通り本来は毒を無効化する魔法だけど、意識を失わせている薬の効果を取り除ければそれでいい。
そして魔法を受けた女性の目に光が戻り、少しばかり惚けた様子で周囲を見回し、そこでオレにその目の焦点が合う。
生け贄に選ばれただけあってそれなりに容姿は整っていて、一般の基準では『器量よし』で通るところだろう。
「もしや……あなた様はあたしを迎えに来た神様のお使いでしょうか?」
何でそうなるかと思ったが、要するに彼女は自分が生け贄として神に捧げられた後だと考えているのか。
オレの容姿を見て『神の使い』と勘違いしたというわけか。
「いいえ。違いますよ。わたしの事はアルと呼んで下さい。あなたの名前は?」
「あたしはハラーダと言います。それではあたしはいったいどうなったのですか?」
「あなたは生け贄にならずに済んだのです」
ここでオレは縛られた連中を指差す。
そうするとハラーダはその目を大きく見開き、そして『安堵』や『不安』などいろいろな感情の入り交じった表情を浮かべた。
ただそれは少なくとも『生け贄にならずに済んでよかった』と単純に喜んでいるものではなかった。
「ま、待って下さい。そんな事になったらあたしは……いえ。あたしの村に神様のお怒りを受けて……」
なるほどな。考えてみれば嫌がる相手をさらってきて生け贄にするよりも、騙してでも脅してでも自発的に協力させた方がよっぽど手間がかからない。
ただハラーダ本人も生け贄になる事を受け入れていたとは言えど、首をはねられるのは恐ろしいに決まっているから薬で意識を奪っていたと言う事か。
「それに生け贄になったら神様の元で永遠に幸せに暮らせると……空腹も無く、寒さに震える事も無く……」
これはオレに聞かせるためでは無く、ハラーダはどこか自分に言い聞かせるように呟いているようだな。
生け贄になる事で辛い現世から逃れて、幸せになれる教え込む事でその生け贄本人はもちろん家族や友人達の反発も抑えるのだろう。
ただハラーダ本人も心からそれを信じているワケではなく、恐らくはそういうことにして自分を納得させた様子だ。
そういえばフォラジはあまりハラーダには興味が無さそうだな。
知識を重んじるフォラジにとって『生け贄の証言』は貴重な情報ではないのだろうか?
そんなわけでオレはちょっとばかりフォラジに問いかける。
「あなたの方からハラーダさんに聞く事は無いのですか?」
「先ほどからの話を聞く限りでは、月並みな事しか知らないようだ。実際に生け贄になった魂から何が起きたのか聞く機会があれば有益だけど、あの程度なら興味はそそられないな」
そうだったな。この世界では死んだ後の霊体から話を聞くことも可能なんだ。
生け贄に捧げられた魂から、簡単に情報が得られるとは思えないけど、過去の長年の探究でそういう情報の積み重ねもあるのだろう。
「とにかく今はこの場を早く離れましょう」
オレの言葉を聞いて、縛られていた連中は口々に叫ぶ。
「おおい待ってくれ! 俺達はどうなるんだ?」
「このままにしないでくれよ!」
「大丈夫ですよ。何もなければすぐに兵士達がやってきます」
「そうだな。それではこちらも――」
ここでフォラジは石の壁に木炭で何事か書き込む。
「兵士達が来たら、これで奴らが何をしていたのか分かるだろう」
オレが『翻訳』の魔法で読むと、縛られている連中が違法な生け贄を捧げようとしていたと書いたようだ。
「それではわたし達は引き上げますので、ハラーダさんもご自身の村に戻って――」
「待って下さい……あたしも連れて行って下さいませんか?」
「え? どういうことですか?」
いま顔を合わせたばかりの相手に同行を頼むなど、いくら何でもおかしいだろう。
「いったん生け贄になったのにもう村には戻れません」
なるほど。そういうことか。村には戻れないし、一人でうろついていても、ろくな結果にならないのは明白だ。
彼女にとってはもう、僅かでも可能性があるならすがりたいという気分なのだろう。
つくづく嫌な話だけど、このまま放置するわけにもいかない。
まったくいつもながら面倒事ばかり増えていくなあ。
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