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第19章 神気の山脈にて
第795話 不毛な争いの跡地にて
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オレが迫ってきた亡霊を追い払い、本来死んだ魂が向かうところに連中を送り出したところで、横から見ていたフォラジは興味深そうに問いかけてくる。
「ふうむ。君は並の人間では無い事は分かっていたが、随分とあのような亡霊の扱いにも長けているのだな」
「ええ。これまで幾度も相手をしてきましたからね」
「本当に君は何でも出来るのだな……」
よくそんな事を言われるけど、自分では出来ない事だらけだから、いつも頭を悩ませているんですけどね。
「以前に君が『白き貴婦人』によく似た容姿だと言ったが、女神の末裔どころか化身だと言われても信じてしまいかねないな」
「それはどうも……」
オレは少々引きつった笑みで答える。
本当に何度も化身になった事があると言ったら、この人はどんな顔をするだろうか。
さすがに信じないか?
それとも是非ともその姿を見せてくれと目を輝かせて要求してくるだろうか?
しかしここでフォラジはオレの前で崩れた建物の廃墟に座り込む。
「本当に君が『神の化身』ならばここをどうにかして欲しいよ……」
そう呟く後ろ姿にはかなりのもの悲しさが漂っていた。
「社と資料がこんなことになってしまったし、砦もこれではしばらくここでこれまでの研究を続けることも出来ないな」
これまでは力を込めて叫び回っていたけど、この落ち着いた口調はむしろフォラジ自身が受けたダメージの深刻さを物語っているのかもしれない。
とりあえず月並みな台詞でも、フォラジを立ち直らせよう。
「命が残っただけでも幸運だと思うべきでしょう。フォラジさんもここはいったん引き払った方がいいですよ」
「そうだな……それもやむを得ないか」
あれ? 思ったよりも聞き分けがいいな。
だがそれはただ単になるオレの幻想だった。
フォラジが次に発した言葉は、オレを困惑させるしろものだったのだ。
「それでは今後は是非とも君を研究させてもらえないか?」
「はあ?」
この人はいきなり何を言いだすんだ?
「もちろん数日でどうにかなる事では無いね。場合によっては一生を捧げる必要があるかもしれないがそれも覚悟の上だよ」
「あ、あなたは自分の一生を何に捧げるつもりなんですか?」
あんたはこの地域の歴史的な信仰について、一生を捧げたのではなかったのかよ。
「聞いてなかったのかい? 君に同行して全てを知りたいのだよ。もちろん我が人生と引き換えにしてね」
おい! まるで自分の方が犠牲になるかのような言い方をしているけど、一方的に押しかけられ、言い寄られているのはこちらだよね?
今まで男からいろいろと口説かれてきたし、関係を無理強いされかけたこともしょっちゅうだし、場合によっては喰われかけた――性的な意味では無い――こともあるけど、こんなパターンは初めてだよ。
いや。フォラジにとっては口説いているつもりはないのだろうけど、こちらから見ると大差はないのだ。
「それはあなたの研究分野とは違うのではないのですか?」
「構わないさ。その程度の主旨変えならば、我が神は許して下さる」
オレが許した覚えが無いんだけどな。
「正直に言いますけど、あなたがわたしに同行するのは無理ですよ。命を落としかねません」
「それも覚悟の上だ」
そういえばコイツはそういうヤツだった。
知識を求めて『前のめり』に死んだのなら、神様の元に行けると信じているから始末に負えない。
「落ち着いて下さい。フォラジさんはこれまで取り組んで来た成果を踏みにじられて動揺しているだけです」
「しかしだな――」
「ご自身の人生を左右するような事なのですから、ジックリと時間をかけて考えなくてどうするのですか?!」
「それは……確かに君の言うとおりだな。ボクも動揺していたようだ」
どうやら少しは冷静になってきたらしい。全く手間がかかるよ。
「とにかくわたしは先ほどの像を追います」
「分かった。だったらボクも同行しよう」
ここでフォラジに帰れと言っても聞かないだろうし、単独行動させたら危なっかしくて仕方ない。ここは役に立ってもらうしかないか。
「しかしあの像を持っていった連中がどこに行ったのか分かるのかい?」
「それぐらいならどうにかなりますよ」
オレはここで『過去視』の魔法を使う。
これは時間を遡って、過去に起きた出来事を見る事が出来る魔法だ。
それだけ聞けば犯罪の捜査などに幾らでも活用出来る、もの凄く便利な魔法に思える。
だが過去に飛ばせるのはあくまでも視覚だけでしかない。つまり純粋に『過去視』ではあっても『過去聴』ではないのだ。
しかも視点を移動させる事が出来ない上に、時間の経過はリアルタイムなので、使用出来る場面はかなり限定されてしまう。
もちろん過去の出来事を見ている間も、どんどん魔力を消費していくので並の術者だと一日の魔力を全てつぎ込んでも垣間見えるのはせいぜい数分かそこらだろう。
そんなわけで普通はそうそう使えるものではないが、オレなら魔力については問題無い。
だが『過去視』では山賊連中が見苦しい同士討ちを続け、その周囲に亡霊が集まってくる見たくも無い光景が視界に飛び込んできた。
困った事にこの魔法では『目をつぶる』事が出来ないので、否応なしに浅ましい光景を脳裏に強制的に流される。
うげえ。もっと別の方法にすべきだったかといきなり後悔するが、ここ続行するしか無い。
そして幸か不幸かオレの苦痛はそれほど続きはしなかった。
争っていた連中はいきなり揃って視線を別のところに向けたのだ。
そこには明らかな怖れの色が含まれていた。
「ふうむ。君は並の人間では無い事は分かっていたが、随分とあのような亡霊の扱いにも長けているのだな」
「ええ。これまで幾度も相手をしてきましたからね」
「本当に君は何でも出来るのだな……」
よくそんな事を言われるけど、自分では出来ない事だらけだから、いつも頭を悩ませているんですけどね。
「以前に君が『白き貴婦人』によく似た容姿だと言ったが、女神の末裔どころか化身だと言われても信じてしまいかねないな」
「それはどうも……」
オレは少々引きつった笑みで答える。
本当に何度も化身になった事があると言ったら、この人はどんな顔をするだろうか。
さすがに信じないか?
それとも是非ともその姿を見せてくれと目を輝かせて要求してくるだろうか?
しかしここでフォラジはオレの前で崩れた建物の廃墟に座り込む。
「本当に君が『神の化身』ならばここをどうにかして欲しいよ……」
そう呟く後ろ姿にはかなりのもの悲しさが漂っていた。
「社と資料がこんなことになってしまったし、砦もこれではしばらくここでこれまでの研究を続けることも出来ないな」
これまでは力を込めて叫び回っていたけど、この落ち着いた口調はむしろフォラジ自身が受けたダメージの深刻さを物語っているのかもしれない。
とりあえず月並みな台詞でも、フォラジを立ち直らせよう。
「命が残っただけでも幸運だと思うべきでしょう。フォラジさんもここはいったん引き払った方がいいですよ」
「そうだな……それもやむを得ないか」
あれ? 思ったよりも聞き分けがいいな。
だがそれはただ単になるオレの幻想だった。
フォラジが次に発した言葉は、オレを困惑させるしろものだったのだ。
「それでは今後は是非とも君を研究させてもらえないか?」
「はあ?」
この人はいきなり何を言いだすんだ?
「もちろん数日でどうにかなる事では無いね。場合によっては一生を捧げる必要があるかもしれないがそれも覚悟の上だよ」
「あ、あなたは自分の一生を何に捧げるつもりなんですか?」
あんたはこの地域の歴史的な信仰について、一生を捧げたのではなかったのかよ。
「聞いてなかったのかい? 君に同行して全てを知りたいのだよ。もちろん我が人生と引き換えにしてね」
おい! まるで自分の方が犠牲になるかのような言い方をしているけど、一方的に押しかけられ、言い寄られているのはこちらだよね?
今まで男からいろいろと口説かれてきたし、関係を無理強いされかけたこともしょっちゅうだし、場合によっては喰われかけた――性的な意味では無い――こともあるけど、こんなパターンは初めてだよ。
いや。フォラジにとっては口説いているつもりはないのだろうけど、こちらから見ると大差はないのだ。
「それはあなたの研究分野とは違うのではないのですか?」
「構わないさ。その程度の主旨変えならば、我が神は許して下さる」
オレが許した覚えが無いんだけどな。
「正直に言いますけど、あなたがわたしに同行するのは無理ですよ。命を落としかねません」
「それも覚悟の上だ」
そういえばコイツはそういうヤツだった。
知識を求めて『前のめり』に死んだのなら、神様の元に行けると信じているから始末に負えない。
「落ち着いて下さい。フォラジさんはこれまで取り組んで来た成果を踏みにじられて動揺しているだけです」
「しかしだな――」
「ご自身の人生を左右するような事なのですから、ジックリと時間をかけて考えなくてどうするのですか?!」
「それは……確かに君の言うとおりだな。ボクも動揺していたようだ」
どうやら少しは冷静になってきたらしい。全く手間がかかるよ。
「とにかくわたしは先ほどの像を追います」
「分かった。だったらボクも同行しよう」
ここでフォラジに帰れと言っても聞かないだろうし、単独行動させたら危なっかしくて仕方ない。ここは役に立ってもらうしかないか。
「しかしあの像を持っていった連中がどこに行ったのか分かるのかい?」
「それぐらいならどうにかなりますよ」
オレはここで『過去視』の魔法を使う。
これは時間を遡って、過去に起きた出来事を見る事が出来る魔法だ。
それだけ聞けば犯罪の捜査などに幾らでも活用出来る、もの凄く便利な魔法に思える。
だが過去に飛ばせるのはあくまでも視覚だけでしかない。つまり純粋に『過去視』ではあっても『過去聴』ではないのだ。
しかも視点を移動させる事が出来ない上に、時間の経過はリアルタイムなので、使用出来る場面はかなり限定されてしまう。
もちろん過去の出来事を見ている間も、どんどん魔力を消費していくので並の術者だと一日の魔力を全てつぎ込んでも垣間見えるのはせいぜい数分かそこらだろう。
そんなわけで普通はそうそう使えるものではないが、オレなら魔力については問題無い。
だが『過去視』では山賊連中が見苦しい同士討ちを続け、その周囲に亡霊が集まってくる見たくも無い光景が視界に飛び込んできた。
困った事にこの魔法では『目をつぶる』事が出来ないので、否応なしに浅ましい光景を脳裏に強制的に流される。
うげえ。もっと別の方法にすべきだったかといきなり後悔するが、ここ続行するしか無い。
そして幸か不幸かオレの苦痛はそれほど続きはしなかった。
争っていた連中はいきなり揃って視線を別のところに向けたのだ。
そこには明らかな怖れの色が含まれていた。
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