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第19章 神気の山脈にて
第801話 シャーマンの心構えとそして……
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アリスカの師匠は近くで見ると恐らくは中年の女性だろう。
その被っている仮面、全身の入れ墨に描かれた紋様は、先ほど『過去視』で垣間見た砦で『椀かづき』の神像を持っていったシャーマンのものとよく似ている。
どう考えても偶然の一致では無い。
あのシャーマンと何か関係があるのは確実だな。
そして『お師匠』はオレを見て仮面の下の目を細める。
「こんなところにお前さんのような『お方』が来るとはのう……少しばかり驚いたわ」
オレの正体というか、何かに気付いた?
少なくともオレが有する霊力は、常人の百倍を軽く上回っている筈だから、人間離れした存在だと見抜ける相手にはすぐ分かるはずだ。
シャーマンならそういう魔法が使えても不思議では無いか。
「え? お師匠? どういうことだい?」
「困ったヤツじゃのう……これだけの違いが見て分からんとは……」
アリスカはオレと師を交互に見ているが、意味が分からずに困惑しているらしい。
まあこんな少年ではせいぜい『シャーマンの心構え』を教わっているぐらいで、魔法が使えるわけではない。
だがここでアリスカは何かに気付いた様子で頷く。
「そうか! アルとお師匠との見た目の違いと言えば――痛ぇ!」
「お前は一言多いんじゃ!」
アリスカの頭にゲンコツが落ちていた。
どうやら無神経にオレと『お師匠』の容姿を比較したのが彼女の怒りをかき立ててしまったらしい。
「いつも『見えぬものを見ろ』と言っておるじゃろう! それがなぜ分からん!」
「だけどお師匠はついさっき『見て分かる』と言ったじゃないか」
「それはシャーマンの心構えを十分に分かっておらんと言う事じゃ。そんな事では危険なシャーマンの業を教えるわけにはいかんぞ!」
「ええ?!」
ううむ。『お師匠』の言っている事は一見すれば正論かもしれないけど、何か別の意図が含まれているように思えてくるな。
そしてここでフォラジも口を挟んでくる。
「少しお話よろしいでしょうか?」
どうも自分が蚊帳の外になっている事を感じて、無理にでも割り込む気になったらしい。
「それで……お主は何を聞きたいのじゃ?」
この態度にはどこか警戒が含まれているように感じられる。
「あなたの受け継いできた伝説や神話について教えて下さい」
そう言ってフォラジはメモを取り出すが、ここで相手は少しばかり困ったような態度を見せる。
「最近のものは何でもそうやって記録に残すとか、文にして広めようとか言い出すのじゃな」
「当然ですよ。そうやって記録を後世に残すのが、我ら現世に生きるものの使命ですからね」
フォラジはさも当然のように言い切る。
その口調には『そんな事も分からないのか?』と言わんばかりに上から目線が含まれているように感じられた。
「それだからお主等は空虚な人生を送っておるのじゃぞ」
「どういう意味ですかね……」
フォラジは明らかにムッとした不愉快そうな表情を浮かべる。
「よいかえ。物事を受け継ぐのは口伝によって行うべきものじゃ。そうする事で言葉に込められた魂まで受け継がれる。書いてしまったものなど、味気のない言葉の羅列でしかないのじゃ」
「これは困ったお人ですね。重要なのは正確な情報です。そもそも言葉に魂などこもるはずがありません」
「あの……フォラジさん。ここは抑えて下さい」
オレは制止しようとしたが、今度は『お師匠』の方がフォラジを見下した言葉を発する。
「それが分からぬからお主らは精霊の声も届かず、魂を鍛える事も出来ず、ただ表面だけを見て危険も無く、真の力も得られぬ空しい人生を送るだけになるのだ」
「何ですと――」
「お願いですから、二人とも落ち着いて下さい!」
これまでにも何度か直面した事だが、この二人も価値観が違いすぎて話がかみ合わないにも程がある。
とにかく今はひとまず『お師匠』に対し、オレが聞きたいことを尋ねよう。
「すみません。お話させていただけませんかね?」
「ええじゃろう。お前さんはそちらよりも話が通じそうじゃ。我が名はイスタスじゃ」
「わたしの事はアルと呼んで下さい。それでは――」
ここでオレは先ほど砦にて見かけたシャーマンについて説明する。
「その相手について何か思い当たる事はありませんか?」
「あやつ……そんな事をしておったのか……」
「お師匠、そのシャーマンというのはもしや?!」
やっぱりこの師弟には思い当たる節どころか確信があるらしい。
またイスタスが仮面の下の唇をかみしめた様子から、何かを悔やんでいる様子がうかがえる。
「お知り合いの方なのですか?」
「ああそうじゃ……そやつは少し前にここを出ていった……我が息子じゃろうよ」
そう言ってイスタスは明らかに落胆した様子で肩を落とす。
「あやつは才能もあっての。よいシャーマンになってくれると思っておったのじゃ……じゃが息子に対し、シャーマンの業を教える事ばかり優先させて魂を伝える事を怠ってしまった」
「どういうことですか?」
「ワシらシャーマンが最近、やってきた連中から馬鹿にされているとあやつは怒ってな……そこで愚かにもそれを覆す力を求めて飛び出してしまったのじゃよ」
そう言ってイスタスは少しばかり恨めしそうにフォラジを睨んだ。
その被っている仮面、全身の入れ墨に描かれた紋様は、先ほど『過去視』で垣間見た砦で『椀かづき』の神像を持っていったシャーマンのものとよく似ている。
どう考えても偶然の一致では無い。
あのシャーマンと何か関係があるのは確実だな。
そして『お師匠』はオレを見て仮面の下の目を細める。
「こんなところにお前さんのような『お方』が来るとはのう……少しばかり驚いたわ」
オレの正体というか、何かに気付いた?
少なくともオレが有する霊力は、常人の百倍を軽く上回っている筈だから、人間離れした存在だと見抜ける相手にはすぐ分かるはずだ。
シャーマンならそういう魔法が使えても不思議では無いか。
「え? お師匠? どういうことだい?」
「困ったヤツじゃのう……これだけの違いが見て分からんとは……」
アリスカはオレと師を交互に見ているが、意味が分からずに困惑しているらしい。
まあこんな少年ではせいぜい『シャーマンの心構え』を教わっているぐらいで、魔法が使えるわけではない。
だがここでアリスカは何かに気付いた様子で頷く。
「そうか! アルとお師匠との見た目の違いと言えば――痛ぇ!」
「お前は一言多いんじゃ!」
アリスカの頭にゲンコツが落ちていた。
どうやら無神経にオレと『お師匠』の容姿を比較したのが彼女の怒りをかき立ててしまったらしい。
「いつも『見えぬものを見ろ』と言っておるじゃろう! それがなぜ分からん!」
「だけどお師匠はついさっき『見て分かる』と言ったじゃないか」
「それはシャーマンの心構えを十分に分かっておらんと言う事じゃ。そんな事では危険なシャーマンの業を教えるわけにはいかんぞ!」
「ええ?!」
ううむ。『お師匠』の言っている事は一見すれば正論かもしれないけど、何か別の意図が含まれているように思えてくるな。
そしてここでフォラジも口を挟んでくる。
「少しお話よろしいでしょうか?」
どうも自分が蚊帳の外になっている事を感じて、無理にでも割り込む気になったらしい。
「それで……お主は何を聞きたいのじゃ?」
この態度にはどこか警戒が含まれているように感じられる。
「あなたの受け継いできた伝説や神話について教えて下さい」
そう言ってフォラジはメモを取り出すが、ここで相手は少しばかり困ったような態度を見せる。
「最近のものは何でもそうやって記録に残すとか、文にして広めようとか言い出すのじゃな」
「当然ですよ。そうやって記録を後世に残すのが、我ら現世に生きるものの使命ですからね」
フォラジはさも当然のように言い切る。
その口調には『そんな事も分からないのか?』と言わんばかりに上から目線が含まれているように感じられた。
「それだからお主等は空虚な人生を送っておるのじゃぞ」
「どういう意味ですかね……」
フォラジは明らかにムッとした不愉快そうな表情を浮かべる。
「よいかえ。物事を受け継ぐのは口伝によって行うべきものじゃ。そうする事で言葉に込められた魂まで受け継がれる。書いてしまったものなど、味気のない言葉の羅列でしかないのじゃ」
「これは困ったお人ですね。重要なのは正確な情報です。そもそも言葉に魂などこもるはずがありません」
「あの……フォラジさん。ここは抑えて下さい」
オレは制止しようとしたが、今度は『お師匠』の方がフォラジを見下した言葉を発する。
「それが分からぬからお主らは精霊の声も届かず、魂を鍛える事も出来ず、ただ表面だけを見て危険も無く、真の力も得られぬ空しい人生を送るだけになるのだ」
「何ですと――」
「お願いですから、二人とも落ち着いて下さい!」
これまでにも何度か直面した事だが、この二人も価値観が違いすぎて話がかみ合わないにも程がある。
とにかく今はひとまず『お師匠』に対し、オレが聞きたいことを尋ねよう。
「すみません。お話させていただけませんかね?」
「ええじゃろう。お前さんはそちらよりも話が通じそうじゃ。我が名はイスタスじゃ」
「わたしの事はアルと呼んで下さい。それでは――」
ここでオレは先ほど砦にて見かけたシャーマンについて説明する。
「その相手について何か思い当たる事はありませんか?」
「あやつ……そんな事をしておったのか……」
「お師匠、そのシャーマンというのはもしや?!」
やっぱりこの師弟には思い当たる節どころか確信があるらしい。
またイスタスが仮面の下の唇をかみしめた様子から、何かを悔やんでいる様子がうかがえる。
「お知り合いの方なのですか?」
「ああそうじゃ……そやつは少し前にここを出ていった……我が息子じゃろうよ」
そう言ってイスタスは明らかに落胆した様子で肩を落とす。
「あやつは才能もあっての。よいシャーマンになってくれると思っておったのじゃ……じゃが息子に対し、シャーマンの業を教える事ばかり優先させて魂を伝える事を怠ってしまった」
「どういうことですか?」
「ワシらシャーマンが最近、やってきた連中から馬鹿にされているとあやつは怒ってな……そこで愚かにもそれを覆す力を求めて飛び出してしまったのじゃよ」
そう言ってイスタスは少しばかり恨めしそうにフォラジを睨んだ。
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