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第19章 神気の山脈にて
第802話 『シャーマンの道』もいろいろと
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砦を襲撃し『椀かづき』の神像を奪い、さらには死んだ人間の魂を死体に呪縛して亡霊と化していたシャーマンが、この廃村に残ったイスタスの息子だというのか?
「兄貴はおいらの憧れだったんじゃ……最近になってやってきた連中がシャーマンをバカにした時にも、その力を示して追い払っていたぐらいだ」
アリスカは口惜しそうにその拳を握り締める。
どうやらシャーマンに憧れてイスタスに弟子入りしたこの少年にとって、イスタスの息子はあこがれの対象だったらしい。
そして最近になってこの地域でシャーマンを侮蔑する人間が出るようになったのは、交易路の警備のためにテシュノ王国が砦を建てて『文明人』が幅を利かせた事が大きな理由だろう。
フォラジもこの地域におけるシャーマンを含めた土着の信仰について学術的な興味はあり、その知識を得るためならば危険も厭わない程の覚悟はあるが、敬意を有しているワケではない。
フォラジの行動はあくまでも『知識神マークホールの信徒』として、新たな知識を得るためであって、彼にとっては『辺境のシャーマン』などはやはり見下す対象でしかないのである。
「やめい。力に溺れたあのバカモンの事など忘れるんじゃ」
イスタスは苦々しそうにアリスカに釘を刺す。
「待って下さい。その『力に溺れた』とはどういうことですか? 息子さんはいったい何をしたのです?」
「あやつは長年、禁忌とされていたものに手を出してしまったのじゃよ……」
やっぱりそのあたりはオレでも容易に想像がつく話だ。
「それはもしかすると『椀かづき』と呼ばれる、生け贄を望む精霊に接触する事でしょうか?」
「そうじゃ……わしは辞めろと言ったのに、あの愚か者はそれを聞き入れずにな……」
こちらの世界では、基本的に神の力は捧げられた崇拝が元になっている。
このため元の世界のフィクションでよくあった『太古に封印された邪神が復活して、世界が危機に陥る』という状況はあり得ない。
しかしオレが出会った範囲でも『相対思想の神であるオセンタルカ』だとか『生きる事の苦痛を体現したメトゥサイラ』のように、人間の漠然とした意識や畏れを元に力を持ち、それなりの影響力を有する神的な存在はあった。
この地域の住民が『生け贄の血と引き替えに力を与える』行為を畏れ敬っているのならば、それにより一定の力を有している事は当然考えられる。
逆を言えばそのような事があるからこそ、今までにない力を求めるものが時としてすがるようになるし、それによって『椀かづき』への信仰が維持されると言う事でもあるのだな。
「わしにはあやつを止める事はもう出来ん……」
「お師匠! このおいらがいるよ!」
明らかに落胆したイスタスに対し、アリスカが元気づけるように叫ぶが、そこで少しばかり恥ずかしそうにうつむく。
「そ、そりゃあ今のおいらは何も出来ないけど……将来はきっとお師匠の教えを受け継いでみせるよ。それで兄貴の目も覚まさせてやる! だから心配しないでくれ!」
「そうか……ありがとうな……」
イスタスの力ない言葉は、アリスカに期待していないと言うよりは、自分自身を含めた将来への不安が先に立っているのだろう。
そんなイスタスやアリスカ達を見て、フォラジは小さく肩をすくめつつ距離を置く。
さすがにここで挑発めいた事を口にするほど非常識では無かったか。
まあイスタスもそれなりの力を有するシャーマンだから、本当に怒らせて精霊でもけしかけられたら危ないとフォラジも思ったのだろう。
それでもやっぱり心配にはなるので、ひとまずフォラジに近づいて声をかける。
「今までにもこんなことをしてきたのですか?」
「そうでもない。そもそもテシュノ王国の文明地ではシャーマンなど滅多に見かけないのだ。だからボクが話を聞いたシャーマンはまだ数人というところだ」
「それでトラブルは無かったのですか?」
今回、フォラジとイスタスで対立したのは『物事を後世に伝えるのを口伝で行うか、文書として記録するか』という点での文化的な食い違いだ。
もちろんシャーマンだっていろいろだ。
そんな事にはこだわらないのもいれば、文書で記録を残すのが当たり前になっているシャーマンの宗派もあるだろう。
「ボクがマークホール神の信徒で、テシュノ王国に仕えて記録を残す使命があると理解出来る、まだ『まともなシャーマン』であれば記録をとることに文句など言わないさ」
要するにフォラジにとって、自分が記録を取ることに同意するのが『まとも』であって、それに苦言を呈したイスタスが間違っているとしか考えられないのだろう。
縁もゆかりも無い遺跡ですら堂々と私物化して恥じない人間だから、ここは割り切るしかないか。
「そんなわけで君があいつらともう少し話をしてもらえないかな? ボクはそれを書き留めるとしよう」
少し前までフォラジがいた砦を攻め落とした連中に関して、かなり重要な話をしているつもりなのだが、そっちには本当に興味が無いらしい。
フォラジは復讐心や憎悪に駆られる様子はまるで見えないが、それが人間として正しいのかどうか、ちょっとばかり考えさせられるところだな。
「兄貴はおいらの憧れだったんじゃ……最近になってやってきた連中がシャーマンをバカにした時にも、その力を示して追い払っていたぐらいだ」
アリスカは口惜しそうにその拳を握り締める。
どうやらシャーマンに憧れてイスタスに弟子入りしたこの少年にとって、イスタスの息子はあこがれの対象だったらしい。
そして最近になってこの地域でシャーマンを侮蔑する人間が出るようになったのは、交易路の警備のためにテシュノ王国が砦を建てて『文明人』が幅を利かせた事が大きな理由だろう。
フォラジもこの地域におけるシャーマンを含めた土着の信仰について学術的な興味はあり、その知識を得るためならば危険も厭わない程の覚悟はあるが、敬意を有しているワケではない。
フォラジの行動はあくまでも『知識神マークホールの信徒』として、新たな知識を得るためであって、彼にとっては『辺境のシャーマン』などはやはり見下す対象でしかないのである。
「やめい。力に溺れたあのバカモンの事など忘れるんじゃ」
イスタスは苦々しそうにアリスカに釘を刺す。
「待って下さい。その『力に溺れた』とはどういうことですか? 息子さんはいったい何をしたのです?」
「あやつは長年、禁忌とされていたものに手を出してしまったのじゃよ……」
やっぱりそのあたりはオレでも容易に想像がつく話だ。
「それはもしかすると『椀かづき』と呼ばれる、生け贄を望む精霊に接触する事でしょうか?」
「そうじゃ……わしは辞めろと言ったのに、あの愚か者はそれを聞き入れずにな……」
こちらの世界では、基本的に神の力は捧げられた崇拝が元になっている。
このため元の世界のフィクションでよくあった『太古に封印された邪神が復活して、世界が危機に陥る』という状況はあり得ない。
しかしオレが出会った範囲でも『相対思想の神であるオセンタルカ』だとか『生きる事の苦痛を体現したメトゥサイラ』のように、人間の漠然とした意識や畏れを元に力を持ち、それなりの影響力を有する神的な存在はあった。
この地域の住民が『生け贄の血と引き替えに力を与える』行為を畏れ敬っているのならば、それにより一定の力を有している事は当然考えられる。
逆を言えばそのような事があるからこそ、今までにない力を求めるものが時としてすがるようになるし、それによって『椀かづき』への信仰が維持されると言う事でもあるのだな。
「わしにはあやつを止める事はもう出来ん……」
「お師匠! このおいらがいるよ!」
明らかに落胆したイスタスに対し、アリスカが元気づけるように叫ぶが、そこで少しばかり恥ずかしそうにうつむく。
「そ、そりゃあ今のおいらは何も出来ないけど……将来はきっとお師匠の教えを受け継いでみせるよ。それで兄貴の目も覚まさせてやる! だから心配しないでくれ!」
「そうか……ありがとうな……」
イスタスの力ない言葉は、アリスカに期待していないと言うよりは、自分自身を含めた将来への不安が先に立っているのだろう。
そんなイスタスやアリスカ達を見て、フォラジは小さく肩をすくめつつ距離を置く。
さすがにここで挑発めいた事を口にするほど非常識では無かったか。
まあイスタスもそれなりの力を有するシャーマンだから、本当に怒らせて精霊でもけしかけられたら危ないとフォラジも思ったのだろう。
それでもやっぱり心配にはなるので、ひとまずフォラジに近づいて声をかける。
「今までにもこんなことをしてきたのですか?」
「そうでもない。そもそもテシュノ王国の文明地ではシャーマンなど滅多に見かけないのだ。だからボクが話を聞いたシャーマンはまだ数人というところだ」
「それでトラブルは無かったのですか?」
今回、フォラジとイスタスで対立したのは『物事を後世に伝えるのを口伝で行うか、文書として記録するか』という点での文化的な食い違いだ。
もちろんシャーマンだっていろいろだ。
そんな事にはこだわらないのもいれば、文書で記録を残すのが当たり前になっているシャーマンの宗派もあるだろう。
「ボクがマークホール神の信徒で、テシュノ王国に仕えて記録を残す使命があると理解出来る、まだ『まともなシャーマン』であれば記録をとることに文句など言わないさ」
要するにフォラジにとって、自分が記録を取ることに同意するのが『まとも』であって、それに苦言を呈したイスタスが間違っているとしか考えられないのだろう。
縁もゆかりも無い遺跡ですら堂々と私物化して恥じない人間だから、ここは割り切るしかないか。
「そんなわけで君があいつらともう少し話をしてもらえないかな? ボクはそれを書き留めるとしよう」
少し前までフォラジがいた砦を攻め落とした連中に関して、かなり重要な話をしているつもりなのだが、そっちには本当に興味が無いらしい。
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