異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第19章 神気の山脈にて

第804話 手がかりを求めたところ

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 イスタスはオレに向かってジロリと仮面の下の目を向ける。

「よいかえ。シャーマンは『椀かづき』に対し、その苦しみを和らげてなだめるのを仕事としておるが、崇拝して力を得ようとしてはならんのだ」

 似たような話は、平原で兄神に逆らって追放され、荒野を吹きすさぶ風の神となった『荒れ狂うもの』について聞いた事があるな。
 恐れられ、その怒りをやわらげるべく敬意を払われるが、崇拝はしないということか。

「ゆえに『椀かづき』にはなるだけ近づかず、遠ざけつつ振る舞う事が求められるのじゃ」

 要するに『敬して遠ざける』というヤツか。
 そこまでイスタスが言い切ったのはオレが『椀かづき』に接触しようとしたので、それを止めようとしているのだろう。
 しかしそこで引き下がるワケにはいかないのだ。

「その打ち砕かれた『椀かづき』に会うにはどうしたらいいのですか?」

 オレのこの質問に対し、イスタスは呆れた様子を見せる。

「いま言った事を聞いていなかったのかい?」
「まさか。大変、ありがたいお話でしたよ」

 これは紛れも無く本音だ。
 伝説が事実かどうかはともかく、慢心や傲慢を常に戒めねばならないオレにとっては実に有意義な話だったと思っている。

「その上でわたしが『椀かづき』に接触して話を聞いてみたいのです」
「はあ……確かにあんたはいろいろと違うようだが、逆に『椀かづき』に喰われてしまうかもしれないぞえ」

 本当に霊体としてオレを取り込める程の相手だったら、こんな田舎に引きこもってはいないとは思うけど、警戒しておくに越した事は無いだろう。

「その上でどうかお願いします」
「分かったよ……どうせ止めても行くんじゃな……シャーマンに出来る事は道を指し示すところまでだからね」

 それは道を踏み外したという息子の事を顧みて言っているのだろうなあ。

「この先に石で出来た古い古い台座がある。言い伝えでは、太古の戦いで『椀かづき』をそこで打ち砕いたそうじゃ」

 先ほど聞いた伝説だと『椀かづき』が倒した精霊の骸が、山脈になるほどのスケールだったのに、それが石の台座で打ち砕かれるとはいきなり小さくなったな。
 その話が本当だとしても『神の欠片』を更に細かく砕いたというぐらいの話だろう。

「そこでわしらはいつも『椀かづき』をなだめておったのじゃ。ただし先も言ったが、わしはかの精霊の言葉には耳を傾けんかったから、何を伝えようとしているのかは知らん」
「それだけ伺えば十分です。ありがとうございます」
「感謝には及ばんよ。ひょっとしたらあんたならどうにかしてくれるかもしれないからな」
「そこまでご期待に添えるかどうかは分かりません。それでは失礼します」

 オレがイスタスに背を向けたところで、横合いからアリスカが叫ぶ。

「ちょっと待ってくれ! おいらも一緒に――」
「こら! お前は先の話を聞いていなかったのか!」

 イスタスは怒ってアリスカの首筋をつかむ。

「だけど師匠……おいらだって――」
「ダメじゃと言っておるだろうが! これを聞けぬと言うなら、お前は破門じゃぞ!」
「うう……」

 アリスカにすれば子供らしい『ちょっとした怖い物見たさ』によるものなんだろう。
 もちろん精霊に襲われてアリスカの身にもしもの事があっても責任など取れないから、オレも同行させる気はさらさらない。

「アリスカはこれからもお師匠の元で頑張って修行し、その教えをしっかり受け継ぎなさい。それがあなたの役目ですよ」
「それぐらいはおいらだって分かっているよ!」

 アリスカの叫びを聞きつつ、オレは少し離れたところで聞いていたフォラジと共に小さな庵を後にした。


「少し待っていなさい。とりあえず先ほどの話は記録しておきましょう」

 距離を置いたところでフォラジは手帳に熱心に書き込んでいる。イスタスの見えるところでやらなかったのは、さすがに配慮したからか。
 もしかするとイスタスが気を悪くして、情報を得られなくなるのを警戒したからかもしれないな。
 そういえば少しばかり気になる事もある。

「ところでフォラジさんが集めてきた、今までの記録はどうするのですか?」

 フォラジのやしろにあった資料は大部分、失われていたがそれについてフォラジは随分と落ち着いている様子だ。

「それなら少し前、中央の寺院に報告書を出しておいたよ。定期的に報告はしているのでボクの得た情報が失われる事は無いけど……実物が失われたのは心苦しいよ」

 元の世界だとコンピュータネットワークで一瞬にして全世界に情報が飛び交ったけど、こちらの世界だと各地の社から定期的に報告が来るだけでも相当に進歩的な組織だろう。
 たぶん連絡網を構築した者は『英雄』として神殿で尊敬されているに違いない。

「ところでこの先にあるという台座についてフォラジさんはご存じですか?」
「実物を見たわけでは無いから、軽々しく断言は出来ないが、恐らくは昔に生け贄を捧げていた処刑台だったのではないかな? そこでケフェルティリ神を崇拝していたのを後世に『そこで神が打ち砕かれた』という形で伝わった可能性が高いな」

 恐らくそんなところだろうな。信者が本気で信じていたら、神もまたその通りに変化していくから真実がどうなのかは分からないけど。

「だから口伝などではダメなのだ。文書で正確に記録を残す必要性がアル君にも理解出来ただろう」

 やっぱりこの男は一言余計だけど、たぶん一生それを理解しないだろうなという確信はあった。
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