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第19章 神気の山脈にて
第821話 別れと新たな探索の道と
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オレはイスタス達と別れたところで、少しばかり離れたところにいた一人でいたフォラジにも改めて話しかける。
「これからフォラジさんは、テシュノ王国に戻るのですか?」
「もちろんだよ。これまでに得た情報を整理して報告し、その上で『胴体』も探さないといけないからね」
「その探索行はフォラジさんが行うのですか?」
「探索行は一人でやらなければいけないわけでもないし、皆で協力するとも限らないさ。本当に価値のある事ならば、誰もが目の色を変えて追い求めるからね。つまり同士であっても競争相手でもある」
やっぱり神の力に関わるような事だと、そうやって熾烈な競争どころか、足の引っ張り合いすら行われるわけか。
つい先日『椀かづき』に捧げる生け贄を巡って、山賊達が不毛な争いをしていたのを目の当たりにすると、血が流れないだけマシと考えるしかないか。
「それとは逆に周囲から無価値な行為だと蔑まれても、信念を貫いて真理を見出し、英雄となった偉大な先達も数多いさ。ボクにとってはどちらでも構わない」
フォラジは誇らしげだけど、やっぱりそれはさっきのシャーマンと相通じるものがあるな。
それを指摘したら、間違いなく双方ともに『一緒にするな!』と怒るだろうけど。
「ただまだしばらくは後片付けが必要になるだろうね」
そう言ってフォラジが指し示した先には、規律正しく行動する兵士たちの姿があった。
その紋章からすると、どうやら攻め落とされた砦の再建や、この地域の治安回復のため、テシュノ王国から兵士が送り込まれてきたらしい。
もっとも装備やその動きからして、以前に砦にいた連中よりもずっと上手の精鋭らしい。
どうやら『国家の威信』をかけて、この地域の山賊連中を退治する気になったようだ。
いや。待てよ。幾ら何でもやってくるのが早すぎる。
フォラジがいた砦が落とされて、その情報が入った時点で近くにあった別の駐屯地から急いで駆けつけてきたに違いない。
もしかすると山賊連中の行動を口実にして、この地域を一気に軍事的占領しようという考えでもあったのだろうか。
似たような事なら、暴れ回る傭兵崩れの連中を抑えるという口実で、その地域の都市に対する統制を強化するために兵士を駐屯させるような事もあった。
だがフォラジはこちらに近づいてくる兵士達を見て、安堵したような、残念そうな、複雑な表情を浮かべていた。
「早かったと言うべきか……いや。むしろ間に合わなかったと言うべきだろうね」
「そういうことですか」
この地域の情勢が不穏だと言う事で、本来ならば前もって砦に入って、警備体制を強化するつもりだったのに、それが間に合わず砦が山賊連中に攻め落とされてしまったのか。
いや。精鋭を送るのは金がかかるので、どんどん遅れていって、結局は砦が落とされるまで活動しなかったと言う事もあり得るな。
どっちにしても、これでこの地域のあちこちで起きている『椀かづきへの生け贄』は取り締まられるだろう。
もっともそれもまた一時の事で、また何年か、何十年かしたら、復活するかもしれない。
過去にも同じ事が何度も繰り返されてきたのも間違い無いのだ。
たぶん本当に神と首が一体になっても、やっぱり力を求めて生け贄を捧げるロクでもないヤツが絶える事は無いのだろう。
「ボクは彼等と合流するけど、君はどうするのだね?」
「また旅を続けますよ」
「以前にボクと話をした『白き貴婦人』生誕の地に向かうのかい?」
「そのつもりです」
フォラジの話によれば、オレの守護女神であるイロール生誕の地はまだまだ東の果てらしいが、目的地が出来たのならばそれでいいぐらいの気持ちだった。
その気になれば女神本人の化身にもなれる身だと、たとえ生誕の地でもそれほどありがたみは無い気がしてくるのだ。
あんまり当ての無い旅を続け過ぎて、自分でも感覚がマヒしている気がするな。
「分かった。君の旅に同行出来ないのが残念だが、記録は間違い無く、我がマークホール神の身元に残るだろう」
「それはどうも……」
これまでの経験からして、その記録の中身には期待しないでおくとしよう。
たぶん過去の『神の首』の情報がハッキリしないのと同様、フォラジの報告と探索行もまた神殿内の議論に巻き込まれて、色々面倒な事になるのだろう。
ハッキリしているのはフォラジもまた、これから人生を費やし、命をかけて知識を求め、探索行を続けると言う事だけだ。
それからしばらくしてこの『龍の背』山脈でいっとき猛威を振るった『椀かづき』への生け贄の儀式はまたなりを潜める事になる。
過去に幾度も起きた事ではあったが、このときは山脈の西から来た『白き貴婦人』の英雄と、知識神の探求者が協力したからというのがもっぱらの噂であった。
そしてその知識神の探求者は『神の首』に関わる伝説に取り組むために、名も知らぬ遠き地へと旅だったと言う。
過去に数多の探求者が、志半ばで朽ち果てた探索を彼が最後まで成し遂げられるのか。それともやはり後世の探求者にまた運命がゆだねられるのか。
それはこの時点では神にすら分からない事である。
【後書き】
これでこの章は完結です。
お付き合い下さってありがとうございます。
「これからフォラジさんは、テシュノ王国に戻るのですか?」
「もちろんだよ。これまでに得た情報を整理して報告し、その上で『胴体』も探さないといけないからね」
「その探索行はフォラジさんが行うのですか?」
「探索行は一人でやらなければいけないわけでもないし、皆で協力するとも限らないさ。本当に価値のある事ならば、誰もが目の色を変えて追い求めるからね。つまり同士であっても競争相手でもある」
やっぱり神の力に関わるような事だと、そうやって熾烈な競争どころか、足の引っ張り合いすら行われるわけか。
つい先日『椀かづき』に捧げる生け贄を巡って、山賊達が不毛な争いをしていたのを目の当たりにすると、血が流れないだけマシと考えるしかないか。
「それとは逆に周囲から無価値な行為だと蔑まれても、信念を貫いて真理を見出し、英雄となった偉大な先達も数多いさ。ボクにとってはどちらでも構わない」
フォラジは誇らしげだけど、やっぱりそれはさっきのシャーマンと相通じるものがあるな。
それを指摘したら、間違いなく双方ともに『一緒にするな!』と怒るだろうけど。
「ただまだしばらくは後片付けが必要になるだろうね」
そう言ってフォラジが指し示した先には、規律正しく行動する兵士たちの姿があった。
その紋章からすると、どうやら攻め落とされた砦の再建や、この地域の治安回復のため、テシュノ王国から兵士が送り込まれてきたらしい。
もっとも装備やその動きからして、以前に砦にいた連中よりもずっと上手の精鋭らしい。
どうやら『国家の威信』をかけて、この地域の山賊連中を退治する気になったようだ。
いや。待てよ。幾ら何でもやってくるのが早すぎる。
フォラジがいた砦が落とされて、その情報が入った時点で近くにあった別の駐屯地から急いで駆けつけてきたに違いない。
もしかすると山賊連中の行動を口実にして、この地域を一気に軍事的占領しようという考えでもあったのだろうか。
似たような事なら、暴れ回る傭兵崩れの連中を抑えるという口実で、その地域の都市に対する統制を強化するために兵士を駐屯させるような事もあった。
だがフォラジはこちらに近づいてくる兵士達を見て、安堵したような、残念そうな、複雑な表情を浮かべていた。
「早かったと言うべきか……いや。むしろ間に合わなかったと言うべきだろうね」
「そういうことですか」
この地域の情勢が不穏だと言う事で、本来ならば前もって砦に入って、警備体制を強化するつもりだったのに、それが間に合わず砦が山賊連中に攻め落とされてしまったのか。
いや。精鋭を送るのは金がかかるので、どんどん遅れていって、結局は砦が落とされるまで活動しなかったと言う事もあり得るな。
どっちにしても、これでこの地域のあちこちで起きている『椀かづきへの生け贄』は取り締まられるだろう。
もっともそれもまた一時の事で、また何年か、何十年かしたら、復活するかもしれない。
過去にも同じ事が何度も繰り返されてきたのも間違い無いのだ。
たぶん本当に神と首が一体になっても、やっぱり力を求めて生け贄を捧げるロクでもないヤツが絶える事は無いのだろう。
「ボクは彼等と合流するけど、君はどうするのだね?」
「また旅を続けますよ」
「以前にボクと話をした『白き貴婦人』生誕の地に向かうのかい?」
「そのつもりです」
フォラジの話によれば、オレの守護女神であるイロール生誕の地はまだまだ東の果てらしいが、目的地が出来たのならばそれでいいぐらいの気持ちだった。
その気になれば女神本人の化身にもなれる身だと、たとえ生誕の地でもそれほどありがたみは無い気がしてくるのだ。
あんまり当ての無い旅を続け過ぎて、自分でも感覚がマヒしている気がするな。
「分かった。君の旅に同行出来ないのが残念だが、記録は間違い無く、我がマークホール神の身元に残るだろう」
「それはどうも……」
これまでの経験からして、その記録の中身には期待しないでおくとしよう。
たぶん過去の『神の首』の情報がハッキリしないのと同様、フォラジの報告と探索行もまた神殿内の議論に巻き込まれて、色々面倒な事になるのだろう。
ハッキリしているのはフォラジもまた、これから人生を費やし、命をかけて知識を求め、探索行を続けると言う事だけだ。
それからしばらくしてこの『龍の背』山脈でいっとき猛威を振るった『椀かづき』への生け贄の儀式はまたなりを潜める事になる。
過去に幾度も起きた事ではあったが、このときは山脈の西から来た『白き貴婦人』の英雄と、知識神の探求者が協力したからというのがもっぱらの噂であった。
そしてその知識神の探求者は『神の首』に関わる伝説に取り組むために、名も知らぬ遠き地へと旅だったと言う。
過去に数多の探求者が、志半ばで朽ち果てた探索を彼が最後まで成し遂げられるのか。それともやはり後世の探求者にまた運命がゆだねられるのか。
それはこの時点では神にすら分からない事である。
【後書き】
これでこの章は完結です。
お付き合い下さってありがとうございます。
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