異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第20章 とある国と聖なる乙女

第853話 再度の登校時にまた面倒事が

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 別にアイウーズが暗殺され、戦争が勃発しようとオレの知ったこっちゃない――と言えたら楽なのだが、聞いてしまった以上は何もしないわけにはいかないな。
 王妃の件もまるで手がついていないのに難題が増えていく一方だ。
 だが守護精霊が見張っているような、貴族の子弟が通う名門学校で暗殺をするとしたらどんな手口があるだろうか。
 この世界の守護精霊は人間など肉体を持つ相手に対し、直接力を振るう事はほとんど無いが、通常は要所に魔法的な防御を提供して不審者を警戒しているし、霊体が侵入してきたら追い払うのでそう簡単には生徒に危害を加える事はできない。
 もっとも盗賊の神だと、守護精霊の目をごまかすとか、魔法防御を無効化するとかいろいろと潜入に有効な魔術を提供している事もあるらしい。
 暗殺者の教団があるなら、もっとロクでもない魔術を有しているかもしれない。
 他にもいろいろと精霊のウラをかくことが出来るので完璧とは言えないな。
 あと元の世界のフィクションだったら生徒を誰か刺客に仕立てるパターンがあるが、公子の暗殺など発覚すれば自分が処刑なのはもちろん一族もただでは済まない大罪だ。
 貴族の子弟がそんな事をやれと言われて、ハイそうですかと応じるわけがないとは思うが、決めつけは禁物か。
 あれこれ考え出すとキリがないが、とりあえずオレに可能な限りの事はするべきか。
 どっちにしても男子校の方にオレが行くわけにはいかないので、今のところはアイウーズに会った時に警告するぐらいしか打つ手は無い――などという予想はやっぱり裏切られることとなるのだが。

 翌日、オレがネアラと共に登校するが、明らかに初登校の時とは周囲の空気も、集まる視線も別物だった。
 昼休みの時点でオレの評判は男子校の方まで広まっていたからな。もうその実家の方までいろいろと話が飛んでいても不思議ではない。
 初日の登校時はオレの容姿をたまたま見かけた相手が注視していただけだったのが、すでにオレ自身に対する憶測が広がっている様子だ。
 魔法で知覚力を強化すれば、いろいろと噂が飛び交っているのがすぐに聞こえてくる。

「あれほどの美姫は我が宮廷でも見たことがないぞ」
「見た目だけではなく古典までそらんじる教養があると聞いたぞ」
「初日に『サバシーナ先生』が顕現されただけの事はあるな」

 いろいろと賛辞が聞こえてくるが、もちろんそれだけではない。
 明らかに悪意のこもった誹謗中傷も次から次へと耳に飛び込んでくる。

「どこの誰とも分からぬ胡乱なものが、下級貴族を誘惑して養女になっただけで、我らと同じ貴族としてこの学院に通うとは……」
「昨日『サバシーナ先生』が顕現されたというのも何かの間違いではないのですか。仮にそれが事実だとしても、むしろ秩序安寧を乱す輩に警告したのかもしれませんよ?」
「そうそう。聞くところによれば、魔法がまるで使えないそうではありませんか」
「どれほど容姿端麗で学業が出来ても魔法が使えないのでは、これからの我が国ではやっていけませんね」

 でたらめな言いがかりもとっくに慣れっこで気にすることではないが、最後のは何だ?
 確かに魔法の授業はフケたけど、魔法が使えないという事ではないはずだが、やっぱり話に尾ひれがついている――というよりはむしろ喜んでつけている。
 まあ口コミだから無責任な話が混じるのは当たり前だ。『嘘を嘘と見抜けない人間に口コミを使うのは難しい』ということである。
 そしてそんな噂の渦中でも、男子がオレを見る視線は明らかに『男の欲望』がたぎっている。
 オレだって男子だったら、ちょっとばかり悪い噂を耳にしたところで、相手が並外れた美少女であれば喜んでお付き合いさせてもらうだろう。
 なんだかんだ言っても、人間が見た目に大きく左右されるのは過去、数知れず思い知らされた現実だ。
 もっとも貴族の男女交際に厳しいらしいこの国では、さすがに登校中にコナをかけてくる相手はいないらしい。
 だが何にでも例外というものはある。

「やあ。おはよう」

 笑顔で声をかけてきたのは、会おうとは思っていたが、本心ではあんまり会いたくはなかったアイウーズだ。

「あのう。公子様。私どもは登校中ですので――」
「それなら学校につくまで話は出来るね」

 ネアラが押しとどめようとしたが、アイウーズは図々しくオレの横に並ぶ。
 こいつはこの国での男女交際について知らないのか?
 いや。そんな愚かな男ではない。おそらくは自分は異国人なのでこの国の習慣は関係ないという顔をしつつ、先んじてオレを口説いてモノにしようと思っているのだろう。
 だがこんな真似をすれば周囲でこちらを注視している連中が騒ぐに決まっている。下手すりゃ『不良学生』扱いだぞ。
 王妃に近づくためには、あまり悪い評判が立っては困るのだ。だが周囲の声はオレの想像するようなものではなかった。

「あれはアイウーズ卿だぞ」
「グラフト公国では『美人に声をかけないのは失礼に当たる』そうな」
「それなら仕方ないな」

 なんじゃそりゃ? やっぱりイケメンかつ地位のある人間がやれば、後付けでも何でも周囲は認めるという事なのか。
 いつもながら世の中とは理不尽だな――もちろんオレが人の事を言える筋合いではない。
 だがこれだけ注視されている状況で『暗殺』云々を口にするわけにはいかないし、ここは登校まで適当にあしらうしかないか。
 しかしここでいきなり周囲に黄色い悲鳴が上がる。なんだ? また新しい相手の登場か?
 うんざりしつつ振り向くと、そこには確かに新しい相手がいた。
 朝の通学路にて人間に数倍する巨躯を有する存在がそびえていたのだ。
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