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第20章 とある国と聖なる乙女
第856話 学長との話の後で
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ここで学長は改めて表情を引き締める。
「あなたがそれだけの魔法を学んだのは聖女教会ですよね」
保険医のサーシェルから話を聞いていれば、当然の結論だな。
もちろん事実では無いのだけど、ここで否定すれば余計に話が面倒な事になるのは目に見えている。
それに一つ安心できる材料があるとすれば、サーシェルから学長に話が行っており、また学長自身がそれを問題視していないのだから、少なくとも学長は聖女を拘束したり移住を強制したりする行為に同意はしていないという事でもある。
「そしてあなたの本当の目的は王妃殿下について調べる事ですね」
オレがサーシェルに対し、王妃について問うた事を聞いていればそう考えるのは必然だな。
自分ではこっそり隠れてスパイ活動の予定だったのが、なにをどう間違えばこんな事態になるのだろうか。
たぶんオレがスパイ活動しようという、最初から何もかもが間違っているのだろうな。
いずれにせよ王妃の件はオレにとっても渡りに船だ――と考えたい。危険がある事はとっくに承知の上だよ。
「おっしゃる通り、王妃様について知りたいと思いここに来ました」
オレの返答を聞いて、学長はため息をつく。
「そうですか。いつかはこんな日が来るだろうとは思っていました」
学長がサーシェルと同様、聖女教会がちょっかいをかけて来る事を予想していたのは間違いないな。
「それでは王妃様に目通りを願えますか?」
ほんの少し前、そんな要求をしても聞いてもらえるはずがないと思っていたが、こうなったらそれぐらいは頼んでみてもバチは当たるまい。
しかし学長は首を振る。
あんまり期待はしていなかったので、特に落胆はしなかったけどな。
「残念ですが私の方から王妃殿下にお越しを願う事は出来ません。次にいつお見えになるのかも分かりません」
「それではせめて学長先生が王妃様についてご存知の事を教えていただけませんか?」
オレのこの問いにも学長は渋い表情を浮かべる。
「友人として相談された事を、ご本人の了承なく他人に明かす事など出来ません」
そう言われるとどうしようもないな。しかし次に王妃が姿を見せた時に、何らかの事はしてくれると期待は出来るだろう。
そう考えるとアイウーズの殺害を阻止し、目立ちまくった事が怪我の功名というところか。
隠れてこそこそと王妃の動向を探るつもりが、逆方向に突き抜けてどうにか燭光が見えて来るとは相変わらず、オレのやる事は皮肉に満ちているな。
学長室を出たところで取りあえず先ほどのアイウーズ襲撃事件を考えてみる。
まず動機はフラネス王国にしぶしぶ臣従したグラフト公国から来た人質であるアイウーズを殺害して、戦争を勃発させる意図があったと考えるしかないが、そのような勢力はフラネスとグラフトの両国に存在しているはず。
そして確実とは言い切れないが、先ほど襲撃してきた相手は『アイウーズ一人だけ』を狙っていたと考えるのが自然だろう。
これは相手を特定する根拠になりうるだろうか?
フラネス王国の強硬派が自国の貴族の子弟を巻き込まないのは当然だ。
もしも無関係の犠牲者が出ていた場合、親族が真相の徹底究明を求めてくる可能性が考えられる。他国からの要求ならいざ知らず、自国内の貴族から声が上がれば、そう簡単に握りつぶすわけにもいかず、面倒な事態になる事は容易に予想出来る。
それにアイウーズの殺害を求める連中がどれほどいるのかわからないが、関係者は当然ながら貴族階級の中にもいるだろうし、碧空学園と蒼穹女学院に親族が通っているものもいる可能性が高い。
もみ消しを防ぐため公然とアイウーズを始末せねばならないとしても、自分や味方の親族が巻き込まれるのは避けたいだろう――親族が死亡するのはもちろん瀕死の重傷を負わされても、仲間割れや裏切りにつながる事は十分にあり得るからな。
それではアイウーズの祖国であるグラフト公国の強硬派の場合はどうだろう?
あちらは当然、フラネス王国に恨みを抱いているから、他に犠牲者が出ることなど気にせず攻撃するに違いない――とは言い切れない。
もしも犠牲者が多数出ていれば、アイウーズの死も『貴族の子弟を狙った凶悪なテロに巻き込まれた』という事になりかねない。
それではただでさえ形勢不利を悟って膝を屈したグラフト公国内の不満層をたきつけて、戦争を勃発させるには不足だろう。
それに国政に大きな影響のある大貴族や国王ならいざ知らず、貴族の子弟を何人か殺傷した程度ではフラネス王国全体での打撃はほとんどないが、万が一にも関係者が捕まって口を割らされたら、グラフト側が一方的に極めて困難な状況に陥ってしまうのは明白だ。
グラフト側も単純な勢力差では自国が圧倒的に不利にあることは理解しているはずで、戦争になったときにはフラネスと対立している他国の協力が必要なはず。
それを得るためにはなるだけ自国に同情が集まるように演出するだろう。
そうするとやっぱりグラフトの強硬派も『アイウーズだけ』を狙う合理的な理由があることになるな。
結局のところ、あれだけでは襲撃者が何者かはわからない。
アイウーズが狙われる理由にしても、イオドから聞いた噂話しか根拠は無いからな。
こんなことをあれこれ考えていたら、とんでもない的外れだった事も何度かあった。
ハッキリしているのは相手にかなり有力な魔法使いがいて、そいつらは次の機会を狙っている事が間違いないということだけだ。
もちろんそれが魔法使いだけである根拠も無い。
いや。さっきの襲撃が失敗したからには、さらにいろいろなやり方で仕掛けてくる可能性が高い。
やれやれ。難題だらけで頭が痛くなってくるけど、そのお陰で少しは王妃につながる道ができたと肯定的に考えるしか無いか。
「あなたがそれだけの魔法を学んだのは聖女教会ですよね」
保険医のサーシェルから話を聞いていれば、当然の結論だな。
もちろん事実では無いのだけど、ここで否定すれば余計に話が面倒な事になるのは目に見えている。
それに一つ安心できる材料があるとすれば、サーシェルから学長に話が行っており、また学長自身がそれを問題視していないのだから、少なくとも学長は聖女を拘束したり移住を強制したりする行為に同意はしていないという事でもある。
「そしてあなたの本当の目的は王妃殿下について調べる事ですね」
オレがサーシェルに対し、王妃について問うた事を聞いていればそう考えるのは必然だな。
自分ではこっそり隠れてスパイ活動の予定だったのが、なにをどう間違えばこんな事態になるのだろうか。
たぶんオレがスパイ活動しようという、最初から何もかもが間違っているのだろうな。
いずれにせよ王妃の件はオレにとっても渡りに船だ――と考えたい。危険がある事はとっくに承知の上だよ。
「おっしゃる通り、王妃様について知りたいと思いここに来ました」
オレの返答を聞いて、学長はため息をつく。
「そうですか。いつかはこんな日が来るだろうとは思っていました」
学長がサーシェルと同様、聖女教会がちょっかいをかけて来る事を予想していたのは間違いないな。
「それでは王妃様に目通りを願えますか?」
ほんの少し前、そんな要求をしても聞いてもらえるはずがないと思っていたが、こうなったらそれぐらいは頼んでみてもバチは当たるまい。
しかし学長は首を振る。
あんまり期待はしていなかったので、特に落胆はしなかったけどな。
「残念ですが私の方から王妃殿下にお越しを願う事は出来ません。次にいつお見えになるのかも分かりません」
「それではせめて学長先生が王妃様についてご存知の事を教えていただけませんか?」
オレのこの問いにも学長は渋い表情を浮かべる。
「友人として相談された事を、ご本人の了承なく他人に明かす事など出来ません」
そう言われるとどうしようもないな。しかし次に王妃が姿を見せた時に、何らかの事はしてくれると期待は出来るだろう。
そう考えるとアイウーズの殺害を阻止し、目立ちまくった事が怪我の功名というところか。
隠れてこそこそと王妃の動向を探るつもりが、逆方向に突き抜けてどうにか燭光が見えて来るとは相変わらず、オレのやる事は皮肉に満ちているな。
学長室を出たところで取りあえず先ほどのアイウーズ襲撃事件を考えてみる。
まず動機はフラネス王国にしぶしぶ臣従したグラフト公国から来た人質であるアイウーズを殺害して、戦争を勃発させる意図があったと考えるしかないが、そのような勢力はフラネスとグラフトの両国に存在しているはず。
そして確実とは言い切れないが、先ほど襲撃してきた相手は『アイウーズ一人だけ』を狙っていたと考えるのが自然だろう。
これは相手を特定する根拠になりうるだろうか?
フラネス王国の強硬派が自国の貴族の子弟を巻き込まないのは当然だ。
もしも無関係の犠牲者が出ていた場合、親族が真相の徹底究明を求めてくる可能性が考えられる。他国からの要求ならいざ知らず、自国内の貴族から声が上がれば、そう簡単に握りつぶすわけにもいかず、面倒な事態になる事は容易に予想出来る。
それにアイウーズの殺害を求める連中がどれほどいるのかわからないが、関係者は当然ながら貴族階級の中にもいるだろうし、碧空学園と蒼穹女学院に親族が通っているものもいる可能性が高い。
もみ消しを防ぐため公然とアイウーズを始末せねばならないとしても、自分や味方の親族が巻き込まれるのは避けたいだろう――親族が死亡するのはもちろん瀕死の重傷を負わされても、仲間割れや裏切りにつながる事は十分にあり得るからな。
それではアイウーズの祖国であるグラフト公国の強硬派の場合はどうだろう?
あちらは当然、フラネス王国に恨みを抱いているから、他に犠牲者が出ることなど気にせず攻撃するに違いない――とは言い切れない。
もしも犠牲者が多数出ていれば、アイウーズの死も『貴族の子弟を狙った凶悪なテロに巻き込まれた』という事になりかねない。
それではただでさえ形勢不利を悟って膝を屈したグラフト公国内の不満層をたきつけて、戦争を勃発させるには不足だろう。
それに国政に大きな影響のある大貴族や国王ならいざ知らず、貴族の子弟を何人か殺傷した程度ではフラネス王国全体での打撃はほとんどないが、万が一にも関係者が捕まって口を割らされたら、グラフト側が一方的に極めて困難な状況に陥ってしまうのは明白だ。
グラフト側も単純な勢力差では自国が圧倒的に不利にあることは理解しているはずで、戦争になったときにはフラネスと対立している他国の協力が必要なはず。
それを得るためにはなるだけ自国に同情が集まるように演出するだろう。
そうするとやっぱりグラフトの強硬派も『アイウーズだけ』を狙う合理的な理由があることになるな。
結局のところ、あれだけでは襲撃者が何者かはわからない。
アイウーズが狙われる理由にしても、イオドから聞いた噂話しか根拠は無いからな。
こんなことをあれこれ考えていたら、とんでもない的外れだった事も何度かあった。
ハッキリしているのは相手にかなり有力な魔法使いがいて、そいつらは次の機会を狙っている事が間違いないということだけだ。
もちろんそれが魔法使いだけである根拠も無い。
いや。さっきの襲撃が失敗したからには、さらにいろいろなやり方で仕掛けてくる可能性が高い。
やれやれ。難題だらけで頭が痛くなってくるけど、そのお陰で少しは王妃につながる道ができたと肯定的に考えるしか無いか。
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