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第20章 とある国と聖なる乙女

第868話 学長の呼び出しを受けて

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 改めて蒼穹女学院に登校する。もちろん完全な遅刻だが、スコテイの方から連絡は入っているはずなので処罰はされないはず。
 しかし三回目の登校でこれだけ毎回、問題に直面するとは――別にオレが引き起こしているつもりはないが――むしろオレは開校以来の問題児かもしれんな。
 オレが教室に入ると、またしても周囲がざわめくと共にヒソヒソといろいろな話が聞こえてくる。

「今日はいったい何があったの?」
「なんでも碧空学園の方で殿方と何事があったようですよ」
「もうこの学院などに留まってはいられないと言う事ですか」

 激しく勘違いされているけど、いつもの事だと割切ることにしよう。

「騒ぎがあったようだけど、いったいあれからどうしたのよ?」

 オレが横に座ると、ネアラは本当に呆れた様子でオレに問いかけてくる。

「あなたは家から学校に来るだけでも、その都度に何か事件を引き起こさないと気が済まないのかしら?」

 ネアラは冗談半分、本気半分という空気でオレに問いかけてくる。
 これはもちろんネアラだけのものではなく、立て続けに起きた面倒事の原因がオレではないのかと思っていそうな疑惑の視線はちらちらと注がれてくる。
 何も知らないここの生徒からすれば、容姿も魔力の人間離れしていて、初日に学園の守護精霊が顕現するオレが登校してきたら、立て続けに異常事態が起きているわけだ。
 まさに元の世界でよくあった『学園を覆う影と謎の転校生』そのものだな。
 まあオレが彼女達の立場でも、オレに対して何らかの疑念を持つだろうな。
 下手をすれば何か深遠な陰謀の首謀者にすら見えるかもしれない。
 しかし普通に考えれば、そんなマンガみたいな事がある筈が無いので正面切って文句を言ってくるものはいない。
 オレ自身がこの世界の常識をぶち抜き過ぎていて、これぐらいの事件に巻き込まれるのはしょっちゅうなのだから、真逆の方向に逸脱しているわけだが。

「それでアイウーズ様とはどうだったの?」

 さすがにアイウーズが暗殺者に襲撃され、命の危機に陥ったとまでは思っていないな。
 常識的にはそんなとんでもないことが起きたのに、オレが平然と登校してくる筈が無いから当たり前だけど。

「いろいろとありましたよ。だけど授業中ですからその話は後にして下さい」
「分かったわよ……」

 授業中なんだけど、ここは先ほどの出来事をオレなりに分析しよう。
 今回の襲撃者が貴族の馬車に隠れていたと言うことは、連中はその馬車を持っていた貴族家と関係があるのだろうか?
 いや。いくら何でもその貴族家が首謀者という事はあるまい。成功しても失敗しても確実に身の破滅だ。
 もっとも可能性が高いのは馬車に掲げられた貴族家の紋章が偽造で、登校する生徒の方は通学路の途中で何らかの手段で引き止めたというところか。
 普段、馬車で登校していない貴族家を騙って、昨日の襲撃のために用心したと言えば、学校の方でそれを見抜くのは無理だ。
 その上でこちらの動向を探りつつ、事前に校門のところで意図的に別の貴族家の馬車と鉢合わせさせて押し問答しながら、待ち伏せていたと考えるのが自然だな。
 だが何よりも深刻なのは、アイウーズが馬車で登校する情報を相手が事前につかんでいたということだ。
 何らかの魔法で情報を得ているか、さもなくば内通者がいることになる。

 そうすると今回の襲撃者はアイウーズを殺害して戦争を引き起こす事を目論む、フラネス王国の強硬派か?
 いや。最悪の事態を想定すると、フラネスとグラフトの強硬派が、利害の一致から裏で手を組んで、アイウーズを暗殺しようとする事だってありうる。
 いずれにしてもこんな事では、これからもアイウーズを守るのは困難だろう。
 何しろ防ぐ側は全て防がないといけないが、暗殺する側は一度成功すればそれでよいのだ。
 今回の暗殺者は自分が捕まる事を覚悟の上の行動だった。言いかえると首謀者に繋がるような情報は最初から与えられてはいない筈だ。
 これまで得た情報からはそれぐらいしか想像は出来ないな。
 結局のところ首謀者は何者なのかといった、肝心な部分は分からず仕舞いだ。
 まあアイウーズは『肉体の治癒』ヒール・ボディで負傷は回復している筈だけど、さすがにしばらくは外に出してもらえないだろうし、オレと顔を合わせる事はないはずだ。
 命は助かった事とあわせてこれだけは少しばかり安心できる要素かな。

 そんなことを考えていると、学長からの呼び出しがあった。
 これだけいろいろあれば、当然というものだろうな。

「入学以来のあなたの行いについては色々と聞いています」

 学長の緊張に満ちた表情からして、オレが問題を引き起こしている訳で無いのは理解してくれているようだが、それでもあまりにろくでもない事件ばかり起こるので困り果てているのだろうか?
 いや。学長のまとう雰囲気からして、何かが違う気がするぞ。

「もちろんわたしにも出来る限り説明はさせてもらいます」
「いえ。私ではなく、是非ともあなたに会って話を聞きたいと仰る方がお越しになっているのです」

 え? それはいったい誰だ?
 もしかしたら――
 オレが身構えた時に学長室の奥の扉がゆっくりと開き、そこにベールを被った上品そうな女性が姿を見せたのだった。
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