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第20章 とある国と聖なる乙女
第871話 王妃の語る皮肉な運命
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ここでロブラは声を落とし、周囲を警戒する様子を見せる。
もちろんこの学長室は守護精霊であるサバシーナも見張っている筈なので、話が外部に漏れる可能性はまずないはずだが、それでも警戒はしているようだ。
「あなたも耳にしたことがあると思いますが、我が夫たる国王陛下はもともとは王位を継げるような立場ではありませんでしたし、御本人にも特に野心などありませんでした」
まあ野心があったら有力貴族から妻を娶るだろうな。
聖女を側室にするのではなく、還俗させて正妻にしたのなら、権力に興味がなどなかったとしか考えられない。
いや。場合によっては後継者争いに巻き込まれないため、敢えて『自分は王位に関心がありません』と示すための行動だったのかもしれないぞ。
ここでロブラは懐かしげにほほえむ。
「陛下がまだ幼かった頃、見習い聖女だった私が看病したのが馴れ初めだったのですよ」
う~ん。あくまでも『ナースのお仕事』でしか無かったのは明らかだが、見習い聖女が看病しているあたり、王子としてもあんまり重要視されていなかった事は確かなようだ。
「快癒の折に『大きくなったらロブラをお嫁さんにする』などと宣言された時には、私も苦笑したものでした」
小さな子供が周囲で親切にしてくれた年上の女性に対し、そんな事を口にするのはよくある話だ。入院した時に親切にしてもらった看護師など典型の一つだろう。
その言葉を大人になってから実践するとは感心するよ。歳をとるのが遅い聖女相手だったからこその出来事だな。
しかしロブラの話はこれまで聞いていたものとはまるで合わないぞ。
「それではあなたが今の王様を王位につけたという話は……」
「もちろん違います。だいたい聖女を引退して還俗し、聖女教会の後ろ盾すらない私のどこにそんな力がありますか」
表向き聖女教会と無関係となったところで、完全に部外者という事はないだろうけど、それは王位に就く手助けになるどころか、むしろマイナスだろうな。
「私が公式の場に出ないのも、結婚の時に周囲から強く反対されたので、陛下が妥協されて表舞台には顔を出さない約束をしたからなのですよ」
「ええ?!」
「聖女でなくなったら、私はただの名も無き『おばさん』ですからね。仕方ありませんよ」
なんだそりゃ?
出自の問題で王子に嫁いでも、表舞台に顔を出せないとはまた理不尽だが、それはそれとしてこの話が本当だとすると、今まで聞いて来た事は王妃が姿を見せないので、事情を知らない人間達が深読みしまくっているのが真相なのだろうか?
オレがこの国を調べるきっかけとなった『アルタシャ』云々の噂も、勝手な想像の産物に過ぎないということになるぞ。
しかしそうすると、いったい何がどうなって本来、即位出来るはずがなかった現国王が即位したのだろうか。
元から王妃が諸悪の根源で王を操っているとか、そんなよくあるファンタジーな展開を妄想していたわけではないけど、どうにも面倒な話になっていそうだな。
「それでは国王陛下が即位されたのはいかなる事情があったからなのですか?」
もともと後継者でもなく、野心も無く、妻は表舞台に顔を出せないというならば、何をどう転んでも国王になどなれるはずが無い。
可能性を言うなら先代国王と他の王位継承者が全員、死んでしまった、というならあり得るかもしれない。
だがそんな事になるのは王都が他国に攻め落とされ、かろうじて落ち延びると言った非常事態ぐらいだろう。
そして現在、この国は拡大政策をとっているから、よくあるパターンで考えると上位の継承者が先代国王の方針に逆らったので、皮肉にも野心の無い今の国王にいつの間にかお鉢が回ってきたという展開なのか?
「実は先代の陛下はフラネス王国のこれ以上の勢力拡大は危険だと考えておられたのです」
あれ? そういうわけでもないらしい。
「二つの小国を併呑し、他の周辺国も屈服したとは言え、支配は決して盤石なものではありませんでした。故に先代陛下は何かの失敗があれば全てが一気に崩壊してしまうのではないか。そのような危惧を抱いておられたのです。そのため拡大をいったん止めて、征服した土地を整備し確固たる体制を築こうと考えておいででした」
さすがに先代の国王が平和主義者だったので、戦争をやめようとしたとか、そういう話では無いわけか。
「しかし拡大を続けたい勢力との対立となってしまい、先代陛下は盤石な体制を築こうとして国が割れては本末転倒だと自らの責任を感じ、引退を決意されました」
支配圏が拡大するという事は、貴族達にとっては自分たちの領地が増えるという事だからな。形勢が不利な状況ならともかく、拡大している状況だと『いけいけドンドン』になってしまって、足下を固めようとした先代国王のやり方は手ぬるいと思われたのだろう。
「それでは他の継承者の方々もその時に身を引かれたのですか?」
「そうです。その結果として政争から一歩引いておられた我が夫が国王として即位されたのですよ」
有力な後継者は誰が国王になってもカドが立つので、もっとも毒にも薬にもならない人間に白羽の矢が立ったという事らしい。
言いかえると現国王は野心も権力欲も無かったが故にこそ、無理をしてでも勢力拡大を目論む強硬派に担ぎ上げられてしまったと言う事なのか?
身も蓋もない言い方をすれば『一番、傀儡にふさわしい人間だった』だったからなのだろう。
オレも今までこの手の皮肉な出来事には何度も出くわしてきたが、この国でもその運命は変わらないらしい。
もちろんこの学長室は守護精霊であるサバシーナも見張っている筈なので、話が外部に漏れる可能性はまずないはずだが、それでも警戒はしているようだ。
「あなたも耳にしたことがあると思いますが、我が夫たる国王陛下はもともとは王位を継げるような立場ではありませんでしたし、御本人にも特に野心などありませんでした」
まあ野心があったら有力貴族から妻を娶るだろうな。
聖女を側室にするのではなく、還俗させて正妻にしたのなら、権力に興味がなどなかったとしか考えられない。
いや。場合によっては後継者争いに巻き込まれないため、敢えて『自分は王位に関心がありません』と示すための行動だったのかもしれないぞ。
ここでロブラは懐かしげにほほえむ。
「陛下がまだ幼かった頃、見習い聖女だった私が看病したのが馴れ初めだったのですよ」
う~ん。あくまでも『ナースのお仕事』でしか無かったのは明らかだが、見習い聖女が看病しているあたり、王子としてもあんまり重要視されていなかった事は確かなようだ。
「快癒の折に『大きくなったらロブラをお嫁さんにする』などと宣言された時には、私も苦笑したものでした」
小さな子供が周囲で親切にしてくれた年上の女性に対し、そんな事を口にするのはよくある話だ。入院した時に親切にしてもらった看護師など典型の一つだろう。
その言葉を大人になってから実践するとは感心するよ。歳をとるのが遅い聖女相手だったからこその出来事だな。
しかしロブラの話はこれまで聞いていたものとはまるで合わないぞ。
「それではあなたが今の王様を王位につけたという話は……」
「もちろん違います。だいたい聖女を引退して還俗し、聖女教会の後ろ盾すらない私のどこにそんな力がありますか」
表向き聖女教会と無関係となったところで、完全に部外者という事はないだろうけど、それは王位に就く手助けになるどころか、むしろマイナスだろうな。
「私が公式の場に出ないのも、結婚の時に周囲から強く反対されたので、陛下が妥協されて表舞台には顔を出さない約束をしたからなのですよ」
「ええ?!」
「聖女でなくなったら、私はただの名も無き『おばさん』ですからね。仕方ありませんよ」
なんだそりゃ?
出自の問題で王子に嫁いでも、表舞台に顔を出せないとはまた理不尽だが、それはそれとしてこの話が本当だとすると、今まで聞いて来た事は王妃が姿を見せないので、事情を知らない人間達が深読みしまくっているのが真相なのだろうか?
オレがこの国を調べるきっかけとなった『アルタシャ』云々の噂も、勝手な想像の産物に過ぎないということになるぞ。
しかしそうすると、いったい何がどうなって本来、即位出来るはずがなかった現国王が即位したのだろうか。
元から王妃が諸悪の根源で王を操っているとか、そんなよくあるファンタジーな展開を妄想していたわけではないけど、どうにも面倒な話になっていそうだな。
「それでは国王陛下が即位されたのはいかなる事情があったからなのですか?」
もともと後継者でもなく、野心も無く、妻は表舞台に顔を出せないというならば、何をどう転んでも国王になどなれるはずが無い。
可能性を言うなら先代国王と他の王位継承者が全員、死んでしまった、というならあり得るかもしれない。
だがそんな事になるのは王都が他国に攻め落とされ、かろうじて落ち延びると言った非常事態ぐらいだろう。
そして現在、この国は拡大政策をとっているから、よくあるパターンで考えると上位の継承者が先代国王の方針に逆らったので、皮肉にも野心の無い今の国王にいつの間にかお鉢が回ってきたという展開なのか?
「実は先代の陛下はフラネス王国のこれ以上の勢力拡大は危険だと考えておられたのです」
あれ? そういうわけでもないらしい。
「二つの小国を併呑し、他の周辺国も屈服したとは言え、支配は決して盤石なものではありませんでした。故に先代陛下は何かの失敗があれば全てが一気に崩壊してしまうのではないか。そのような危惧を抱いておられたのです。そのため拡大をいったん止めて、征服した土地を整備し確固たる体制を築こうと考えておいででした」
さすがに先代の国王が平和主義者だったので、戦争をやめようとしたとか、そういう話では無いわけか。
「しかし拡大を続けたい勢力との対立となってしまい、先代陛下は盤石な体制を築こうとして国が割れては本末転倒だと自らの責任を感じ、引退を決意されました」
支配圏が拡大するという事は、貴族達にとっては自分たちの領地が増えるという事だからな。形勢が不利な状況ならともかく、拡大している状況だと『いけいけドンドン』になってしまって、足下を固めようとした先代国王のやり方は手ぬるいと思われたのだろう。
「それでは他の継承者の方々もその時に身を引かれたのですか?」
「そうです。その結果として政争から一歩引いておられた我が夫が国王として即位されたのですよ」
有力な後継者は誰が国王になってもカドが立つので、もっとも毒にも薬にもならない人間に白羽の矢が立ったという事らしい。
言いかえると現国王は野心も権力欲も無かったが故にこそ、無理をしてでも勢力拡大を目論む強硬派に担ぎ上げられてしまったと言う事なのか?
身も蓋もない言い方をすれば『一番、傀儡にふさわしい人間だった』だったからなのだろう。
オレも今までこの手の皮肉な出来事には何度も出くわしてきたが、この国でもその運命は変わらないらしい。
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