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第20章 とある国と聖なる乙女
第882話 サーシェルの真意とは
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オレを受け入れたサーシェルはなんとも嬉しげだ。
「最初から名乗っていただければ、国を挙げてでも歓迎させていただいたのですが、随分と無礼があったのではないでしょうか?」
「いえ。お気になさらず」
そもそもオレの方は最後まで名乗る気はありませんでしたから。そう思っていても、まず間違いなく正体ばらす事になるけどな。
「アルタシャ様は自ら名乗り出る事はほとんど無いと聞いておりましたけど、本当だったのですね。それでもあえて私を守るために真の姿を見せて下さったのは実に光栄です」
アイウーズはやっぱり勝手に拡大解釈しているな。
「王妃様とアルタシャ様、それにアイウーズ公子がおられたら、きっとこの国を変える事も出来るでしょう」
「もちろんですよ!」
いや。いくら何でもオレに対して過剰に期待しすぎだろ。
「とりあえず今日のところはお二人ともこの保健室にいて下さい。ここならば安心でしょう」
ふうむ。確かにここは比較的安心かもしれない。
守護精霊のサバシーナがいても、大勢の相手に力尽くで攻め込まれたらどうしようもないだろうが、この保健室の隣は神殿だからな。
襲撃してきた連中が宗教界の奴らなら、いくら何でも手出しは控える筈だ。
しかし周囲の様子が分からないままなのは困る。オレも相手を宗教界の人間だと考えたが、大外れの場合もありうる。
ここはオレが外に出て、官憲の助けを呼んでくるべきか?
しかしその前にサーシェルの真意を確かめておきたい。万が一、サーシェルが敵方だったらアイウーズと二人きりにしたら、何をするか分からない。
「すみません。少しサーシェル先生と話をさせていただけますか?」
「おや? 二人きりで話をするなら、むしろ私の方が邪魔だと思っていたのですけど」
今までもそんな態度だったけど、やはり自分の事はごまかしているのか?
「とにかくお願いします!」
「分かりました。それではこちらに」
そんなわけでオレはサーシェルと別室に向かう。
どうやら『恋人』としての語らいをしたかったらしいアイウーズが残念そうな視線を注いでいたけど、もちろん無視する。
「アルタシャ様のお願いとあれば、何をおいても優先すべきかと思いますが、いかなる用でございましょうか」
「失礼ながらサーシェル先生は、この学院やアイウーズ公子の情報を誰かに話してはいませんか?」
オレの問いかけに対し、一瞬だがサーシェルの眉は動く。
「もちろん私もこの学院の事について話ぐらいはしていますよ。ごく普通のことではありませんか」
「それだけではなく――」
「申し訳ありませんが、私が話したのを誰かが聞いていたとして、それが後でどうなるかまでは存じ上げません」
サーシェルの表情はオレの正体を知った先ほどの興奮した様子から、感情を押さえ込んだ能面のようなものとなっていた。
やっぱりそうか。サーシェルはアイウーズだけでなく、王妃達の動向についても宗教勢力の強硬派に漏らしていたな。
だがサーシェルはそうそう友人である学長や王妃を裏切るような人間には見えない――アイウーズの場合はなんとも言えないが。
「あなた様ほど聡明なお方ならば、我らの方にもいろいろと事情があることをお察し下さると思います」
学長はこちらの神殿の司祭も兼ねているという事だが、どう考えても暗殺のような挙に出るつもりは無いだろうし、この国が混乱する事も望んでいないだろう。
宗教勢力の方もフラネス王国の圧力に対し、強硬な手段でこの国を混乱させてでも辞めさせようと考えている勢力と、王妃と組んで穏便に手を引かせる事を望んでいる勢力に別れているに違いない。
そして強硬派の中には、穏健に済ませようとする勢力を『敵視』する者も出てくるはずだ。
「つまりサーシェル先生が情報を伝える見返りに、王妃様や学長先生には手を出さないように話をつけていると言う事ですか?」
「繰り返しますが、私の言葉を聞いた方々がどのように振る舞うかは、関知するところではありません」
これは認めたようなものか。
要するに『アイウーズは殺していい』けど、そこまでにしておけという事だったらしい。
もちろん強硬派に対しても明言はしていないだろうけど、アイウーズを前にして平然としていたところを考えるとサーシェルも相当なタヌキだ。
もっともそこを指摘したら『大事な事を隠して平然としているのはお互い様』だと言われてしまいそうだ。
「しかしアルタシャ様がお越しになられて、アイウーズ公子をお守りになったとなれば、それを無視できるものはおりますまい」
宗教界の強硬派も、暗殺などの挙に出てこの国を混乱させようとしているが、正面から国家権力と激突はしたくないはずだ。
もしもオレの存在が状況を変える事が出来るなら、それはそれでいいのだが色々と悩ましい問題もある。
「しかし……わたしが本物だと信じてもらえますかね?」
「その桁外れの美貌と、人の身を超絶した魔力を見せられて疑うものなどおりますまい」
用意周到に準備して、相当な戦力を投じたはずの襲撃をついさっきオレが一蹴したのは大きかったようだ。
だがまだ確認せねばならない事は幾つかある。
「サーシェル先生には以前に『王妃様がアルタシャ』だという噂について聞きましたね?」
「ええ。もちろん覚えていますよ」
「その噂を流していたのは、王妃様の側だったそうですが、いったいどのような意図があったのでしょうか?」
オレがそこまで尋ねたところで、思わぬ声がかかる。
「それについては私の方から説明させていただきましょう」
振り向くとドアが開いて学長が姿を見せていた。
「最初から名乗っていただければ、国を挙げてでも歓迎させていただいたのですが、随分と無礼があったのではないでしょうか?」
「いえ。お気になさらず」
そもそもオレの方は最後まで名乗る気はありませんでしたから。そう思っていても、まず間違いなく正体ばらす事になるけどな。
「アルタシャ様は自ら名乗り出る事はほとんど無いと聞いておりましたけど、本当だったのですね。それでもあえて私を守るために真の姿を見せて下さったのは実に光栄です」
アイウーズはやっぱり勝手に拡大解釈しているな。
「王妃様とアルタシャ様、それにアイウーズ公子がおられたら、きっとこの国を変える事も出来るでしょう」
「もちろんですよ!」
いや。いくら何でもオレに対して過剰に期待しすぎだろ。
「とりあえず今日のところはお二人ともこの保健室にいて下さい。ここならば安心でしょう」
ふうむ。確かにここは比較的安心かもしれない。
守護精霊のサバシーナがいても、大勢の相手に力尽くで攻め込まれたらどうしようもないだろうが、この保健室の隣は神殿だからな。
襲撃してきた連中が宗教界の奴らなら、いくら何でも手出しは控える筈だ。
しかし周囲の様子が分からないままなのは困る。オレも相手を宗教界の人間だと考えたが、大外れの場合もありうる。
ここはオレが外に出て、官憲の助けを呼んでくるべきか?
しかしその前にサーシェルの真意を確かめておきたい。万が一、サーシェルが敵方だったらアイウーズと二人きりにしたら、何をするか分からない。
「すみません。少しサーシェル先生と話をさせていただけますか?」
「おや? 二人きりで話をするなら、むしろ私の方が邪魔だと思っていたのですけど」
今までもそんな態度だったけど、やはり自分の事はごまかしているのか?
「とにかくお願いします!」
「分かりました。それではこちらに」
そんなわけでオレはサーシェルと別室に向かう。
どうやら『恋人』としての語らいをしたかったらしいアイウーズが残念そうな視線を注いでいたけど、もちろん無視する。
「アルタシャ様のお願いとあれば、何をおいても優先すべきかと思いますが、いかなる用でございましょうか」
「失礼ながらサーシェル先生は、この学院やアイウーズ公子の情報を誰かに話してはいませんか?」
オレの問いかけに対し、一瞬だがサーシェルの眉は動く。
「もちろん私もこの学院の事について話ぐらいはしていますよ。ごく普通のことではありませんか」
「それだけではなく――」
「申し訳ありませんが、私が話したのを誰かが聞いていたとして、それが後でどうなるかまでは存じ上げません」
サーシェルの表情はオレの正体を知った先ほどの興奮した様子から、感情を押さえ込んだ能面のようなものとなっていた。
やっぱりそうか。サーシェルはアイウーズだけでなく、王妃達の動向についても宗教勢力の強硬派に漏らしていたな。
だがサーシェルはそうそう友人である学長や王妃を裏切るような人間には見えない――アイウーズの場合はなんとも言えないが。
「あなた様ほど聡明なお方ならば、我らの方にもいろいろと事情があることをお察し下さると思います」
学長はこちらの神殿の司祭も兼ねているという事だが、どう考えても暗殺のような挙に出るつもりは無いだろうし、この国が混乱する事も望んでいないだろう。
宗教勢力の方もフラネス王国の圧力に対し、強硬な手段でこの国を混乱させてでも辞めさせようと考えている勢力と、王妃と組んで穏便に手を引かせる事を望んでいる勢力に別れているに違いない。
そして強硬派の中には、穏健に済ませようとする勢力を『敵視』する者も出てくるはずだ。
「つまりサーシェル先生が情報を伝える見返りに、王妃様や学長先生には手を出さないように話をつけていると言う事ですか?」
「繰り返しますが、私の言葉を聞いた方々がどのように振る舞うかは、関知するところではありません」
これは認めたようなものか。
要するに『アイウーズは殺していい』けど、そこまでにしておけという事だったらしい。
もちろん強硬派に対しても明言はしていないだろうけど、アイウーズを前にして平然としていたところを考えるとサーシェルも相当なタヌキだ。
もっともそこを指摘したら『大事な事を隠して平然としているのはお互い様』だと言われてしまいそうだ。
「しかしアルタシャ様がお越しになられて、アイウーズ公子をお守りになったとなれば、それを無視できるものはおりますまい」
宗教界の強硬派も、暗殺などの挙に出てこの国を混乱させようとしているが、正面から国家権力と激突はしたくないはずだ。
もしもオレの存在が状況を変える事が出来るなら、それはそれでいいのだが色々と悩ましい問題もある。
「しかし……わたしが本物だと信じてもらえますかね?」
「その桁外れの美貌と、人の身を超絶した魔力を見せられて疑うものなどおりますまい」
用意周到に準備して、相当な戦力を投じたはずの襲撃をついさっきオレが一蹴したのは大きかったようだ。
だがまだ確認せねばならない事は幾つかある。
「サーシェル先生には以前に『王妃様がアルタシャ』だという噂について聞きましたね?」
「ええ。もちろん覚えていますよ」
「その噂を流していたのは、王妃様の側だったそうですが、いったいどのような意図があったのでしょうか?」
オレがそこまで尋ねたところで、思わぬ声がかかる。
「それについては私の方から説明させていただきましょう」
振り向くとドアが開いて学長が姿を見せていた。
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