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第20章 とある国と聖なる乙女
第884話 『都合のいい女』として
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学長の語りにはだんだんと力がこもってくる。
「王妃殿下にもあなた様のことはすでにお伝えしております。その上で極秘に連絡を取っている前国王派の貴族たちにも話を通せば、彼らも動いてくれるでしょう」
いいのかそれで?
オレはこの国に来てから間も無くて、詳しい事情などろくに知らない通りすがりなんだぞ。
王妃のロブラでも今の主流派を怖れ、隠れてコソコソ活動していただけなのに、なんでまたオレが来ただけでいきなり大ごとになっているんだよ。
もっとも過去にはオレが訪れたのをきっかけにして、雪崩のごとく事態が急展開した事が何度もあるからな。
微妙なバランスで危うい均衡が保たれていたけど、いつそれが崩れるか分からない状況だったところにオレがトドメの一撃を加えてしまったと考えるべきか。
「実を言いますと、私がこっそりと話をつけていた貴族の方々もあなた様がこの近くに来ておられるという評判を耳にして『もしもアルタシャ様がおいでになられたら』などと口にしていたものです」
それは体良く断るための口実のような気がするな。
そんな連中をあてにするのは危険な賭けだろう。
「その貴族たちは信頼できるのですか?」
「もちろん彼らの行動も情勢次第なのは分かっています。しかし失礼ながらアルタシャ様がおいでになったという事は、言い換えればこの国に大きな危機が訪れていることの証明でもあります」
おいおい。オレは疫病神かよと、ツッコミたくなるが過去にも『アルタシャの訪問は重大事が起きる証』と言われた事もあるからな。
つまり行動を渋っている連中に『乗るしかない。このビッグウェーブに』思わせて、ケツを叩くことに、アルタシャの名が有効という事か。
「現状を危惧しているものであれば、あなた様の尊き御名を聞き流す事は出来ますまい」
「それでもわたしを警戒する人だっているはずです」
「お言葉の通りかもしれません。しかし失礼ながら……アルタシャ様はこの地の騒乱が収まれば、また新しい旅に出られるのでございましょう?」
「そのつもりです」
オレの場合、一箇所に留まると言うことがないからな。
ついでに言えばここにいつまでもいたら、アイウーズだけでなくオレに結婚を迫ってくる男がいくらでも湧いて出てくるだろうし、他の地域で『恋人』を名乗っている連中も関わってきて面倒な事になるのは目に見えている。
「あなた様は常に危機にある場所を訪れ、その解決に手助けをすると何の報酬も求めずにすぐ立ち去って、次の場所に向かう――そのような偉大な英雄だと聞き及んでおりましたが、やはり間違いないようですね」
オレ自身は自分をそこまで偉大に思った事は無いが、勝手にそんな評価が定着してしまっている事は知っている。
しかしそんな放浪ばかりしているのを知っているなら、なおさら信頼出来ないのでは――そこまで考えが及んだところで、学長の言わんとすることの見当がついた。
要するに『アルタシャ』はひとまず片がついたら、さっさと立ち去るから後々居座られて口出しされる心配が無いので安心という事らしい。
何というか『後腐れの無い都合のいい女』的な存在と思われているようだ。
そういう場合、メロドラマだったら『自分はそんな都合のいい女ではない』と言い返してドロドロ展開になるところだろうなあ――などとつまらない妄想が脳裏をよぎる。
「とりあえず今日のところは、この学園内ならば大丈夫でしょう。もちろんニグリ家の方には私から連絡を入れておきます」
「ありがとうございます。ただわたしの事はまだ黙っていて下さらないでしょうか?」
「分かりました。それでは」
学長もそそくさと引き上げる。
恐らくはこれから急いで王妃達と連絡を取り合って行動に出るのだろう。
これで事態が穏便に解決すると思うほど楽観は出来ないが、ここは王妃や学長、サーシェルに任せるしかないか。
そういえば学長は結構あっさりとオレの正体に感づいたのに、スコテイは目の前にいてもオレがアルタシャ当人だとは思っていなかったようだ。
有能そうに見えた割には、随分と間の抜けたことだな。
いや。そう思って侮るのはマズイ。
常識的にはむしろスコテイの反応の方が当たり前なのだ。
オレの評判を聞いているなら、貧乏貴族の養女になって女学院に通うところからして不可解なのに、幾ら何でも『スコテイのスパイになって王妃の動向を探る』なんて役目を引き受けるなど想像する方がどうかしている。
学長達の方はオレがスコテイのスパイになっていることを知らなかったから、オレがアルタシャである可能性にすぐ至ったと言うことか。
言いかえるとスコテイは自分の得た情報の範囲で合理的に考えたがゆえにこそ、オレ自身の非合理性を理解できなかったのだな。
まったく世の中は何が幸いするか分からないものだな。
しかしスコテイがオレの正体に気づくのも時間の問題だろう。
その時にイオドやネアラの身に危険が及ばないよう、オレとしても手を打っておきたい。
王妃達にとって下級貴族のニグリ家の事など優先順位で言えば、下の下なのは間違いないし、国を背負っている彼女達に対しそれを責めるわけにもいくまい。
しかしオレにとっては最優先とはいかなくとも、彼等が危害を加えられるのは我慢がならないのだ。
「王妃殿下にもあなた様のことはすでにお伝えしております。その上で極秘に連絡を取っている前国王派の貴族たちにも話を通せば、彼らも動いてくれるでしょう」
いいのかそれで?
オレはこの国に来てから間も無くて、詳しい事情などろくに知らない通りすがりなんだぞ。
王妃のロブラでも今の主流派を怖れ、隠れてコソコソ活動していただけなのに、なんでまたオレが来ただけでいきなり大ごとになっているんだよ。
もっとも過去にはオレが訪れたのをきっかけにして、雪崩のごとく事態が急展開した事が何度もあるからな。
微妙なバランスで危うい均衡が保たれていたけど、いつそれが崩れるか分からない状況だったところにオレがトドメの一撃を加えてしまったと考えるべきか。
「実を言いますと、私がこっそりと話をつけていた貴族の方々もあなた様がこの近くに来ておられるという評判を耳にして『もしもアルタシャ様がおいでになられたら』などと口にしていたものです」
それは体良く断るための口実のような気がするな。
そんな連中をあてにするのは危険な賭けだろう。
「その貴族たちは信頼できるのですか?」
「もちろん彼らの行動も情勢次第なのは分かっています。しかし失礼ながらアルタシャ様がおいでになったという事は、言い換えればこの国に大きな危機が訪れていることの証明でもあります」
おいおい。オレは疫病神かよと、ツッコミたくなるが過去にも『アルタシャの訪問は重大事が起きる証』と言われた事もあるからな。
つまり行動を渋っている連中に『乗るしかない。このビッグウェーブに』思わせて、ケツを叩くことに、アルタシャの名が有効という事か。
「現状を危惧しているものであれば、あなた様の尊き御名を聞き流す事は出来ますまい」
「それでもわたしを警戒する人だっているはずです」
「お言葉の通りかもしれません。しかし失礼ながら……アルタシャ様はこの地の騒乱が収まれば、また新しい旅に出られるのでございましょう?」
「そのつもりです」
オレの場合、一箇所に留まると言うことがないからな。
ついでに言えばここにいつまでもいたら、アイウーズだけでなくオレに結婚を迫ってくる男がいくらでも湧いて出てくるだろうし、他の地域で『恋人』を名乗っている連中も関わってきて面倒な事になるのは目に見えている。
「あなた様は常に危機にある場所を訪れ、その解決に手助けをすると何の報酬も求めずにすぐ立ち去って、次の場所に向かう――そのような偉大な英雄だと聞き及んでおりましたが、やはり間違いないようですね」
オレ自身は自分をそこまで偉大に思った事は無いが、勝手にそんな評価が定着してしまっている事は知っている。
しかしそんな放浪ばかりしているのを知っているなら、なおさら信頼出来ないのでは――そこまで考えが及んだところで、学長の言わんとすることの見当がついた。
要するに『アルタシャ』はひとまず片がついたら、さっさと立ち去るから後々居座られて口出しされる心配が無いので安心という事らしい。
何というか『後腐れの無い都合のいい女』的な存在と思われているようだ。
そういう場合、メロドラマだったら『自分はそんな都合のいい女ではない』と言い返してドロドロ展開になるところだろうなあ――などとつまらない妄想が脳裏をよぎる。
「とりあえず今日のところは、この学園内ならば大丈夫でしょう。もちろんニグリ家の方には私から連絡を入れておきます」
「ありがとうございます。ただわたしの事はまだ黙っていて下さらないでしょうか?」
「分かりました。それでは」
学長もそそくさと引き上げる。
恐らくはこれから急いで王妃達と連絡を取り合って行動に出るのだろう。
これで事態が穏便に解決すると思うほど楽観は出来ないが、ここは王妃や学長、サーシェルに任せるしかないか。
そういえば学長は結構あっさりとオレの正体に感づいたのに、スコテイは目の前にいてもオレがアルタシャ当人だとは思っていなかったようだ。
有能そうに見えた割には、随分と間の抜けたことだな。
いや。そう思って侮るのはマズイ。
常識的にはむしろスコテイの反応の方が当たり前なのだ。
オレの評判を聞いているなら、貧乏貴族の養女になって女学院に通うところからして不可解なのに、幾ら何でも『スコテイのスパイになって王妃の動向を探る』なんて役目を引き受けるなど想像する方がどうかしている。
学長達の方はオレがスコテイのスパイになっていることを知らなかったから、オレがアルタシャである可能性にすぐ至ったと言うことか。
言いかえるとスコテイは自分の得た情報の範囲で合理的に考えたがゆえにこそ、オレ自身の非合理性を理解できなかったのだな。
まったく世の中は何が幸いするか分からないものだな。
しかしスコテイがオレの正体に気づくのも時間の問題だろう。
その時にイオドやネアラの身に危険が及ばないよう、オレとしても手を打っておきたい。
王妃達にとって下級貴族のニグリ家の事など優先順位で言えば、下の下なのは間違いないし、国を背負っている彼女達に対しそれを責めるわけにもいくまい。
しかしオレにとっては最優先とはいかなくとも、彼等が危害を加えられるのは我慢がならないのだ。
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