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第20章 とある国と聖なる乙女
第899話 『水の巨人』を倒したところで
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トゥロガスの水で出来た体内に飛び込んだ結果、オレの体はもの凄い水流でかき回される。
外から見ればただの水だが、人間も身体の中では体液が絶える事なく動き回っているから、それに近いのかもしれないな。
オレの場合は魔法により水中でも呼吸は問題ないが、水流に逆らって動くのは大変だ。
恐らくトゥロガスは人型の体で打撃を加えるだけでなく、体内に敵を取り込み水流で揉みくちゃにして脱出不能なまま溺死させるという戦いをするのだろう。
体が水でできているので通常の物理攻撃は効かない巨人が、王宮に迫ってきた敵を打ち砕き、また体内に次々に敵兵を取り込んで溺死させるなんて事をしたら、攻める側も間違いなくビビるだろう。
ただ水流の中でどうにか外の様子を知覚する限り、トゥロガスは今のところオレを取り込んでから動きを見せてはいないらしい。
だが急がなければ近くの会衆まで攻撃する可能性がある。
またオレの『魔法眼』で周囲を見ると水は全て魔法の光を帯びており、その流れは人体における血流を思わせるものだ。
やはりこの水の中のどこかに精霊の本体がいるに違いない。
いったいどこだ。
必死になって探し回っていると『霊視』にこの巨体に比してケシ粒のように小さい霊力の塊が飛び込んできた。
あれか? なんとなく予想はしていたがあの本体が堀の水を魔力で動かして、この『水の巨人』を形成しているのだな。
それが分かればやることは簡単だ。
オレは意識を集中させて、本体部分に狙いをつけ、魔力を大幅に増強して『追放』を投じる。
先ほどは大ざっぱにこの水の巨人に向けて放ったものだったから、効果はほんの僅かなものだったが、逆を言えばそれでも影響はあったのだ。
それなら本体に向けて、より強化した魔法を使えばこいつを一時でもこの世から、追い払う事は出来るはず。
オレが魔法を放った後、周囲の魔力の流れが急速に衰える。
だがそれから一気に水流が暴れ回り、オレは今まで以上にもみくちゃにされて転げ回った。
どうやらトゥロガスの霊体がこの世界から追い払われたので、その魔力で形成されていた『水の巨人』が崩壊したらしい。
その中にいたオレが水流に翻弄されるのは当たり前か。
しばらくして水がすっかり流れ落ちたところでオレは立ち上がる。
「おおお! やはりアルタシャ様はご無事だったのだ!」
「見ろ! あの神々しいお姿を!」
思わず自分の身体を見下ろすと、先ほどまで身にまとっていたドレスが水でスケスケになっていて、お約束なラッキースケベ状態となっている。
普通だったら整えられた髪はボロボロで、化粧も落ちて酷い格好になっているはずだ。
しかしオレの場合はどんな状態でも、最低でもこの美少女の外見を維持し続ける。恐らくそれも何らか魔力によるものなのだろう。
「アルタシャ様! お怪我はありませんか?!」
サーシェルが心配げな表情で、慌てて駆けつけてくると頭を下げる。
「申し訳ありません」
「なぜ謝るのですか?」
むう。まさかと思うけど、オレ以外にも誰か犠牲になってしまったのか?
「アルタシャ様をお一人で戦わせ、何の助力も出来ませんでした」
なんだそんなことか。むしろオレひとりで済んでほっとしているところなんだけどな。
「わたしの事はいいです。それより誰か傷ついた人はおられませんか?」
「この状況でもご自身よりも、我らの事をご心配なさるとは……やはり」
ここでサーシェルは洪水の直後のような周囲を見回す。
「しかしあの水の巨人をああもたやすく倒してしまうとは……これまであなた様の評判は数多く耳にしてきましたが、聞きしにまさるとはこのことです」
サーシェルが感嘆の声をこぼしたところで、見守っていた会衆は一気に歓声を上げる。
それと共に周囲にいた王宮の守備兵、そして城壁の向こうからオレに注がれてきた視線には怖れの色が混じってきた。
どうやれオレが簡単に王宮の守護精霊の一つを倒した事はかなりの衝撃だったようだ。
そうだ。スコテイはどうしている?
トゥロガスの力でオレを倒し、今回の行動を瓦解させるつもりだったとすれば、正反対の結果に終わったわけだが、それで終わりというわけでもないはずだ。
オレが周囲を見回そうとしたところで、いつの間にかサーシェルの影に隠れていたかのようにスコテイが姿を現した。
なんだ? まさかヤケになってここでオレを討つ気なのか?
そう思って身構えた瞬間、スコテイは頭を下げる。
「さすがはアルタシャ様ですな。正直感服いたしました」
「な! どういうつもりですか」
サーシェルも明らかな疑念の目を向ける。スコテイがあの精霊を使役出来るとは思えないが、何の警告も発しなかったのはやはり疑わしい。
「まさか今の襲撃はあなたの仕業ですか?」
「とんでもありません。私ごときに王宮の守護精霊がどうにか出来る筈がないでしょう」
「知らなかったとも思えませんが」
「もちろん存じておりましたとも。しかしアルタシャ様ならばあの程度の相手は造作もないと思っておりましたし、実際にその通りでした」
スコテイは何ら悪びれる事無く言い切る。
「これだけの群衆の前でトゥロガスを倒した、あなた様の事を疑うものなどおりますまい。むしろ士気は大幅に上がっております。今こそ最大の好機というものです」
そうか。先ほどのスコテイはトゥロガスがオレを倒してもよし、逆ならそれでもよしと思ってほくそ笑んでいたに違いない。
どっちに転んでも自分が功を誇るつもりだったのだろう。
なんて図々しい奴だ。しかし今、この場ではどうすることも出来ない。
とりあえず利用されてやるしかないのは、オレにとってはやっぱりいつもの事なのだ。
外から見ればただの水だが、人間も身体の中では体液が絶える事なく動き回っているから、それに近いのかもしれないな。
オレの場合は魔法により水中でも呼吸は問題ないが、水流に逆らって動くのは大変だ。
恐らくトゥロガスは人型の体で打撃を加えるだけでなく、体内に敵を取り込み水流で揉みくちゃにして脱出不能なまま溺死させるという戦いをするのだろう。
体が水でできているので通常の物理攻撃は効かない巨人が、王宮に迫ってきた敵を打ち砕き、また体内に次々に敵兵を取り込んで溺死させるなんて事をしたら、攻める側も間違いなくビビるだろう。
ただ水流の中でどうにか外の様子を知覚する限り、トゥロガスは今のところオレを取り込んでから動きを見せてはいないらしい。
だが急がなければ近くの会衆まで攻撃する可能性がある。
またオレの『魔法眼』で周囲を見ると水は全て魔法の光を帯びており、その流れは人体における血流を思わせるものだ。
やはりこの水の中のどこかに精霊の本体がいるに違いない。
いったいどこだ。
必死になって探し回っていると『霊視』にこの巨体に比してケシ粒のように小さい霊力の塊が飛び込んできた。
あれか? なんとなく予想はしていたがあの本体が堀の水を魔力で動かして、この『水の巨人』を形成しているのだな。
それが分かればやることは簡単だ。
オレは意識を集中させて、本体部分に狙いをつけ、魔力を大幅に増強して『追放』を投じる。
先ほどは大ざっぱにこの水の巨人に向けて放ったものだったから、効果はほんの僅かなものだったが、逆を言えばそれでも影響はあったのだ。
それなら本体に向けて、より強化した魔法を使えばこいつを一時でもこの世から、追い払う事は出来るはず。
オレが魔法を放った後、周囲の魔力の流れが急速に衰える。
だがそれから一気に水流が暴れ回り、オレは今まで以上にもみくちゃにされて転げ回った。
どうやらトゥロガスの霊体がこの世界から追い払われたので、その魔力で形成されていた『水の巨人』が崩壊したらしい。
その中にいたオレが水流に翻弄されるのは当たり前か。
しばらくして水がすっかり流れ落ちたところでオレは立ち上がる。
「おおお! やはりアルタシャ様はご無事だったのだ!」
「見ろ! あの神々しいお姿を!」
思わず自分の身体を見下ろすと、先ほどまで身にまとっていたドレスが水でスケスケになっていて、お約束なラッキースケベ状態となっている。
普通だったら整えられた髪はボロボロで、化粧も落ちて酷い格好になっているはずだ。
しかしオレの場合はどんな状態でも、最低でもこの美少女の外見を維持し続ける。恐らくそれも何らか魔力によるものなのだろう。
「アルタシャ様! お怪我はありませんか?!」
サーシェルが心配げな表情で、慌てて駆けつけてくると頭を下げる。
「申し訳ありません」
「なぜ謝るのですか?」
むう。まさかと思うけど、オレ以外にも誰か犠牲になってしまったのか?
「アルタシャ様をお一人で戦わせ、何の助力も出来ませんでした」
なんだそんなことか。むしろオレひとりで済んでほっとしているところなんだけどな。
「わたしの事はいいです。それより誰か傷ついた人はおられませんか?」
「この状況でもご自身よりも、我らの事をご心配なさるとは……やはり」
ここでサーシェルは洪水の直後のような周囲を見回す。
「しかしあの水の巨人をああもたやすく倒してしまうとは……これまであなた様の評判は数多く耳にしてきましたが、聞きしにまさるとはこのことです」
サーシェルが感嘆の声をこぼしたところで、見守っていた会衆は一気に歓声を上げる。
それと共に周囲にいた王宮の守備兵、そして城壁の向こうからオレに注がれてきた視線には怖れの色が混じってきた。
どうやれオレが簡単に王宮の守護精霊の一つを倒した事はかなりの衝撃だったようだ。
そうだ。スコテイはどうしている?
トゥロガスの力でオレを倒し、今回の行動を瓦解させるつもりだったとすれば、正反対の結果に終わったわけだが、それで終わりというわけでもないはずだ。
オレが周囲を見回そうとしたところで、いつの間にかサーシェルの影に隠れていたかのようにスコテイが姿を現した。
なんだ? まさかヤケになってここでオレを討つ気なのか?
そう思って身構えた瞬間、スコテイは頭を下げる。
「さすがはアルタシャ様ですな。正直感服いたしました」
「な! どういうつもりですか」
サーシェルも明らかな疑念の目を向ける。スコテイがあの精霊を使役出来るとは思えないが、何の警告も発しなかったのはやはり疑わしい。
「まさか今の襲撃はあなたの仕業ですか?」
「とんでもありません。私ごときに王宮の守護精霊がどうにか出来る筈がないでしょう」
「知らなかったとも思えませんが」
「もちろん存じておりましたとも。しかしアルタシャ様ならばあの程度の相手は造作もないと思っておりましたし、実際にその通りでした」
スコテイは何ら悪びれる事無く言い切る。
「これだけの群衆の前でトゥロガスを倒した、あなた様の事を疑うものなどおりますまい。むしろ士気は大幅に上がっております。今こそ最大の好機というものです」
そうか。先ほどのスコテイはトゥロガスがオレを倒してもよし、逆ならそれでもよしと思ってほくそ笑んでいたに違いない。
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