異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第20章 とある国と聖なる乙女

第907話 立ち去り際にいろいろと

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 ここでアイウーズは不自然に芝居掛かった少々大げさな動きで、落胆したかのように頭に手を当てる。
 もちろんオレは『恋人』でも何でもないので、慰めたりはしない。

「分かっています。アルタシャ様はあくまでも私を助けて下さっただけで、恋人には不足と思っておられるのでしょう」

 不足というよりは、むしろアイウーズに足りている部分を見つける方が困難だけどな。
 地位とか財産とか、オレにとってほとんど価値は無いのだ。

「正直に言えばアルタシャ様が幾度も私を助けてくださったので、期待してしまったのですけど、少々自分を過大評価していたのですね」

 あいにく『少々』どころではないけど、少しは理解してくれたようで何よりだ。

「もちろん私とてまだまだアルタシャ様にふさわしい英雄とは言えないでしょう。しかし将来はそれだけの男になってみせます」
「是非とも努力してグラフト公国を平和で豊かな国にして下さい」

 もちろん努力したからって、オレが応える義理は無いけどな。
 オレが欲望むき出しで貢がせるように要求したら、何でも応じそうだけど、そんな事出来るはずもないし、そもそもその手の贅沢にオレは全然興味が無い。

「おお! ありがとうございます! 将来は必ず我がグラフト公国を立て直し、それをあなた様への贈り物といたしましょうぞ」

 これがつい先日まで『死んでもいいや』と思っていた男の言葉だよ。全く現金なものだ。
 今はフラネス王国の属国に甘んじている、グラフト公国が力をつけたら、また逆らうかもしれないし、逆に関係が深まって仲良くなれるかもしれない。
 しかしそれは最短でも十年は先の話だし、もうオレの手を離れた事だ。
 まあアイウーズが平和な国を作る事を祈ってはおくよ。


 そして迎えた翌日、オレは首都パナハップを後にする事にした。
 いつもの通り、知り合いだけによる見送りを願ったので、そこにいるのはイオドとネアラ、アイウーズ、サーシェル、後は学長と王妃だけだ。
 まあ地位的には王妃や公子がいるわけだから、豪勢な見送りとは言えるかもしれない。
 ただ知り合いの中で一人見当たらない相手がいるのは気になった。

「スコテイさんはどうされましたか?」
「あの男なら後始末に忙しいと言っておりましたぞ」

 イオドは少しばかり不機嫌そうにこぼす。
 自分の地位が第一のスコテイにすれば、立ち去っていなくなるオレの事などどうでもよくなったのだろうな。
 最後にあの男を見ずに済んでほっとしたと言うか、何をしているのか少し不安というか、結局はいてもいなくても気にはなる存在だ。

「兄上、あんな人の事は忘れましょう」

 小耳に挟んだところでは、左遷されていたイオド達の父も首都に戻る事が出来るらしい。あとイオドにも昇進の話があるようだ。
 そんなわけでネアラは結構嬉しそうだ。
 もっとも出世よりも『兄をたぶらかす魔性の女』扱いしていたオレがいなくなるので一安心なのかもしれない。

「もうしばらく逗留して下さればよかったのですが、もうお発ちとは残念です」

 言葉とは裏腹に王妃もまたあんまり残念そうではない。
 今回の騒動の後始末とか、いろいろな貴族や教団との交渉とか難題が残っている筈なんだけど、それよりも夫である国王がオレに熱をあげる前にいなくなるので一安心というのが本音なのだろう。
 その意味ではネアラと少しばかり似た心理かもしれない。

「一時とは言えどアルタシャ様を生徒として迎え入れられた事は、私とサバシーナ先生にとっても誇りです」

 校長もまた嬉しそうだが、たぶん今後はオレが蒼穹女学院の箔をつけるために利用されるのは間違いないな。
 それで今まで以上に、女子教育に力を入れるようになってくれるのなら、利用される事は受け入れるとしよう。

「厚かましい事を言わせていただければ、もうしばらく我が『娘』でいて欲しかったですね」

 イオドは少しばかり残念そうだが、今後はオレが一時でも養女になっていたのは、ずっとニグリ家の自慢のネタにされるのは間違いないところだ。
 まあこれでネアラにもいい縁談が来る事を期待しているかもしれないな。
 ここでよくあるパターンならアイウーズとネアラがくっつくところだろうけど、ロクに会話もしていないのに、そんな都合のいいことは起きないか。
 とにかくオレとしては、いつも通り立ち去った後の事は任せるしかない。
 これまで拡大政策をとってきたフラネス王国が平和主義国家になるとは思わないが、いったん立ち止まって安定志向を目指してくれたらそれでいい。
 少なくともオレに関わった人たちが、安心して暮らせる国になる事は願っておこう。


 それから首都で起きた一連の騒動とその後始末のため、しばらくフラネス王国は外征を行う余裕はなくなり内政に専念する事になる。
 各教団に対する高圧的な方針は撤回されたが、首都の一角に宗教団体の施設を集中させる事は双方の利害の一致からそのまま続けられた。
 そして他国に先んじていたフラネス王国の教育機関もまた見直され、女子教育の垣根も下がっていったため、次第に他国にもその必要性への認識が広まっていった。
 ただ事態を平和裏に収拾した『アルタシャ』については、フラネス王国と属国のグラフト公国との間で、彼女の『恋人』として選ばれたのが誰だったのかについては不毛で実りの無い論争が始まったのは、将来の懸念材料になるかもしれない。

【後書き】
これでこの章は完結となります。
いろいろとお付き合い下さってありがとうございます。

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