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第21章 神の試練と預言者
第909話 神の教えは『自然の摂理』
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オレを見つめる視線の主は、半ば埋もれ朽ちた建物の残骸の影に隠れているようだ。
今のところ確認出来るのは一人だけ。『調和』があるので暴力的行動は出来ない筈だが、絶対というわけでもないし注意しつつ声をかける。
「あなたはどなたですか?」
ここで相手の目が僅かに揺らぐ。オレの場合、勝手に言語が変換されるのだが、そのために言葉が通じたので驚いたのかもしれないな。
「お前こそ何者だ?」
ここで廃墟の影から相手が姿を見せた。
相手は浅黒い肌をした屈強な若い男だ。恐らくオレとそれほど年は変わらないだろう。
手には動物の骨を加工したと思しき武器を持ち、身体にはハーネスのような紐で結びつけた革製の防具をまとっている。
その中で特徴的なのは腰につけたバックルだ。
身につけている中でこれだけが金属なのだが、かなり手の込んだ加工がしてあるぞ――ショッ○ー戦闘員などと言ってはいけない。
推測だがただの装身具ではなく、本人の出自か身分を示すものなのだろうな。
「わたしの事はアルと呼んで下さい。あなたの名は?」
「俺の名はサロールだ」
サロールはそう言って近づいてくる。もしも『調和』をかけていなかったら、襲ってきたかもしれないな。
最初に確認すべきなのは隊商を皆殺しにした事に、サロールが関係しているかどうかだ。
「あちらに死体が幾つもありますね?」
「ああ。それは見たぞ」
サロールは全く動じた様子は無い。人間の死体が転がっていても、まるで気にしない事は間違いないようだ。
「あなたが殺したのですか」
元の世界でも『殺す』なんてありふれた言葉だったけど、他人に対し本当にそんな事を問いかけるなど想像だにしていなかった。
オレもすっかりこの世界になじんでしまったと思わずにはいられない。
「いや。俺がここに来たときには既にああなっていた。俺には関係ない」
あの殺戮が犯罪と認識しているならば、必死になって『俺は関係ない!』などと力説して否定する場面だろう。
しかしサロールにとっては本当に『へんじがない。ただのしかばね』に過ぎないらしい。
つまり関係ないという言葉も嘘では無いという事だ。
そうするとあの殺戮を行ったのは何者なのだろうか。
サロールは地元の人間だろうから、心当たりがあるかもしれない。
「誰がやったのか見当がつきますか」
「そんな事など知らん。だいたいなぜそんなことを聞くのだ?」
誰かを庇っている様子はまるで無い。
どうやらサロールの認識では隊商を襲撃して皆殺しにする行為を罪どころか、そもそも『悪』ですらないらしい。
「どうしてあの隊商が襲われたのか、それは分かりますか」
荷物にはほとんど手がつけられていなかったから、略奪目的ではないのは確かだろう。
ただ死体を念入りに確認しなかったけど、護衛の武器や防具は奪われていた可能性はある。
「奴らは弱かったから殺された。ただそれだけだ」
「それは襲われた理由では無いでしょう」
やっぱり話が通じていない気がするな。
「違う。弱い奴は滅ぼさねばならぬのだ」
「え? どういうことですか」
いつも通りだけど、かなり不吉な予感がしてくるぞ。
「弱者は殺される。それが自然の摂理であり、大いなるイル=フェロのご意志だ」
その『大いなるイル=フェロ』というのがサロールの神様らしい。
「よかったら。わたしにイル=フェロのご意志について教えてくれますか」
「なぜそんなことを聞く?」
サロールは信じられないと言わんばかりに首をかしげる。
いや。あんたの神様の教義について、よそ者のオレが知っている筈が無いだろう。
「いま言ったはずだ。イル=フェロのご意志とは自然の摂理だと。よそ者はそんな当たり前の事も知らないのか?」
いくら何でも話が曖昧過ぎます。
「まあいいだろう。自然の摂理とはつまり『弱者には生きる資格は無く、強者のみが生き残り繁栄する』と言うことだ」
その『弱肉強食』『適者生存』は分かるけど、ひょっとしてサロール達の信仰とはそれを神の教えとしたものなのか。
「だからイル=フェロに仕えしものは弱者を殺さねばならない」
いくら何でもキツすぎる。
確かにこの荒廃した地域では、日々の生活も過酷だろうから、弱者を救済するのは難しいかもしれない。
だが積極的に弱者を滅ぼせと言う教義は初めてだな。
「しかしあなたの同胞にも、いろいろな事情で弱い人もいますよね?」
「もちろん自然の摂理に従い、妊婦や健康な幼児は守られる。それは当たり前だ」
この言い方からすると老人や病人、健康で無い幼児は見捨てられるのか。
「そして幼児も互いに相争い競い合う。それで脱落してもただ弱者が淘汰されただけに過ぎない」
「なぜあなた方はそこまでするのですか? ここから外れた地では人間はお互いに助け合って生きているのですよ」
もちろん外の世界について都合良く四捨五入しているけど、ここは話を単純にさせてもらおう。
だがオレの言葉を聞いて、サロールは手にした武器を握りしめる。
「それぐらいは俺も聞いた事はある。そして我らの先祖も同じ道を歩み、堕落してしまったのだ」
サロール達にとって弱者救済は『堕落』なのか。
今までいろいろな価値観に出会ってきたけど、また極端過ぎるな。
「遠い昔、我らの先祖の住まうこの地は、豊かで素晴らしい世界だったそうだ」
恐らくは数世代前、この地が豊かな穀倉地帯だった事がそう伝わっているのだろうな。
「だがそれにより先祖は愚かにも自然の摂理を忘れてしまった。その結果、イル=フェロはお怒りになり、大地をこのような無残な姿に変えてしまったのだ」
そういってサロールは手にした武器で、周囲の廃墟を指し示した。
今のところ確認出来るのは一人だけ。『調和』があるので暴力的行動は出来ない筈だが、絶対というわけでもないし注意しつつ声をかける。
「あなたはどなたですか?」
ここで相手の目が僅かに揺らぐ。オレの場合、勝手に言語が変換されるのだが、そのために言葉が通じたので驚いたのかもしれないな。
「お前こそ何者だ?」
ここで廃墟の影から相手が姿を見せた。
相手は浅黒い肌をした屈強な若い男だ。恐らくオレとそれほど年は変わらないだろう。
手には動物の骨を加工したと思しき武器を持ち、身体にはハーネスのような紐で結びつけた革製の防具をまとっている。
その中で特徴的なのは腰につけたバックルだ。
身につけている中でこれだけが金属なのだが、かなり手の込んだ加工がしてあるぞ――ショッ○ー戦闘員などと言ってはいけない。
推測だがただの装身具ではなく、本人の出自か身分を示すものなのだろうな。
「わたしの事はアルと呼んで下さい。あなたの名は?」
「俺の名はサロールだ」
サロールはそう言って近づいてくる。もしも『調和』をかけていなかったら、襲ってきたかもしれないな。
最初に確認すべきなのは隊商を皆殺しにした事に、サロールが関係しているかどうかだ。
「あちらに死体が幾つもありますね?」
「ああ。それは見たぞ」
サロールは全く動じた様子は無い。人間の死体が転がっていても、まるで気にしない事は間違いないようだ。
「あなたが殺したのですか」
元の世界でも『殺す』なんてありふれた言葉だったけど、他人に対し本当にそんな事を問いかけるなど想像だにしていなかった。
オレもすっかりこの世界になじんでしまったと思わずにはいられない。
「いや。俺がここに来たときには既にああなっていた。俺には関係ない」
あの殺戮が犯罪と認識しているならば、必死になって『俺は関係ない!』などと力説して否定する場面だろう。
しかしサロールにとっては本当に『へんじがない。ただのしかばね』に過ぎないらしい。
つまり関係ないという言葉も嘘では無いという事だ。
そうするとあの殺戮を行ったのは何者なのだろうか。
サロールは地元の人間だろうから、心当たりがあるかもしれない。
「誰がやったのか見当がつきますか」
「そんな事など知らん。だいたいなぜそんなことを聞くのだ?」
誰かを庇っている様子はまるで無い。
どうやらサロールの認識では隊商を襲撃して皆殺しにする行為を罪どころか、そもそも『悪』ですらないらしい。
「どうしてあの隊商が襲われたのか、それは分かりますか」
荷物にはほとんど手がつけられていなかったから、略奪目的ではないのは確かだろう。
ただ死体を念入りに確認しなかったけど、護衛の武器や防具は奪われていた可能性はある。
「奴らは弱かったから殺された。ただそれだけだ」
「それは襲われた理由では無いでしょう」
やっぱり話が通じていない気がするな。
「違う。弱い奴は滅ぼさねばならぬのだ」
「え? どういうことですか」
いつも通りだけど、かなり不吉な予感がしてくるぞ。
「弱者は殺される。それが自然の摂理であり、大いなるイル=フェロのご意志だ」
その『大いなるイル=フェロ』というのがサロールの神様らしい。
「よかったら。わたしにイル=フェロのご意志について教えてくれますか」
「なぜそんなことを聞く?」
サロールは信じられないと言わんばかりに首をかしげる。
いや。あんたの神様の教義について、よそ者のオレが知っている筈が無いだろう。
「いま言ったはずだ。イル=フェロのご意志とは自然の摂理だと。よそ者はそんな当たり前の事も知らないのか?」
いくら何でも話が曖昧過ぎます。
「まあいいだろう。自然の摂理とはつまり『弱者には生きる資格は無く、強者のみが生き残り繁栄する』と言うことだ」
その『弱肉強食』『適者生存』は分かるけど、ひょっとしてサロール達の信仰とはそれを神の教えとしたものなのか。
「だからイル=フェロに仕えしものは弱者を殺さねばならない」
いくら何でもキツすぎる。
確かにこの荒廃した地域では、日々の生活も過酷だろうから、弱者を救済するのは難しいかもしれない。
だが積極的に弱者を滅ぼせと言う教義は初めてだな。
「しかしあなたの同胞にも、いろいろな事情で弱い人もいますよね?」
「もちろん自然の摂理に従い、妊婦や健康な幼児は守られる。それは当たり前だ」
この言い方からすると老人や病人、健康で無い幼児は見捨てられるのか。
「そして幼児も互いに相争い競い合う。それで脱落してもただ弱者が淘汰されただけに過ぎない」
「なぜあなた方はそこまでするのですか? ここから外れた地では人間はお互いに助け合って生きているのですよ」
もちろん外の世界について都合良く四捨五入しているけど、ここは話を単純にさせてもらおう。
だがオレの言葉を聞いて、サロールは手にした武器を握りしめる。
「それぐらいは俺も聞いた事はある。そして我らの先祖も同じ道を歩み、堕落してしまったのだ」
サロール達にとって弱者救済は『堕落』なのか。
今までいろいろな価値観に出会ってきたけど、また極端過ぎるな。
「遠い昔、我らの先祖の住まうこの地は、豊かで素晴らしい世界だったそうだ」
恐らくは数世代前、この地が豊かな穀倉地帯だった事がそう伝わっているのだろうな。
「だがそれにより先祖は愚かにも自然の摂理を忘れてしまった。その結果、イル=フェロはお怒りになり、大地をこのような無残な姿に変えてしまったのだ」
そういってサロールは手にした武器で、周囲の廃墟を指し示した。
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