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第21章 神の試練と預言者
第910話 『強くなければ生き残れない』そして『優しい奴には生きる資格が無い』世界
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サロールの崇拝しているイル=フェロ神の教えは『適者生存』を唱えるものであり、弱者には生きる資格すら認めないものらしい。
そしてサロール達は弱者を救済する行為を『堕落』と蔑み、先祖が堕落した結果として神の怒りを買って、自分たちの住むこの地が荒廃したと考えているようだ。
確かに『神代の昔、地上は楽園だったが、それが人間の愚かさにより失われてしまった』という伝説は珍しくはない。
これはオレの推測だけどイル=フェロ神が怒って、この地が荒廃したのでは無く、荒廃した結果として弱者を切り捨てる事を正当化する信仰が広まったのでは無いか。
つまり順番が逆なのだと思う。
恐らくは荒廃する前、この地域の住民の文化も信仰も他の地域とさして変わらないものだったのだろう。
だが荒廃していく中で生き残った者達は弱者を見捨てざるを得なくなり、またそれに対する良心の呵責を逃れるため、そのような信仰が広まった――ひょっとすると『生み出した』――のかもしれない。
弱者の抹殺は『神の意思』と言う事になれば、切り捨てた側は負い目を感じないどころか、逆に正しい事をしたとなるからな。
そして世代を重ねれば、きっかけがどうあろうとそれが疑う余地の無い事実になってしまうはずだ。
もっとも全てはオレの想像に過ぎないし、隠された真相などサロールにとってはどうでもいい事なのは間違いない。
それに荒廃したこの地を見捨てて去っていったのも多いだろうけど、残った彼等はどれほど過酷な運命が待とうとも、先祖代々棲み着いてきた土地を離れることをよしとしなかった人たちの末裔なのだ。
誰からも助けられること無く、危険な土地に生きる道を選んだ彼等の行為を単純な善悪で論じたところで何の意味も無いだろう。
「しかしあなた方もただ身体の強さだけでなく、他にも尊ばれるものがあるでしょう」
知力、財力、魔力、技能、口のうまさ、容姿などなど身体の強さだけで計れないものもあるはずだ。
「もちろん健康な女ならば子供を産む能力は尊ばれるぞ。より屈強な女であればあるほど強い子孫を残せるからよい」
やっぱりそういう話になるか。とにかく肉体的な頑健さが大前提にあるようだ。
「それでは女性を得るために男同士で戦うのですね」
「もちろんだとも」
どこの世界でも女を巡って男同士で争うところまでは当たり前だが、ここでは良くも悪くも超単純に戦闘能力で勝負なのか。
「しかし女性の方が男を受け入れるとは限りませんよね?」
「もちろん男だろうと女だろうと、子作りをしたいと思った側が相手に決闘を申し込んでよい。それで勝った側の言う事に従うのだ」
その決闘は当然、相手を殺す事が目的では無いが、危険な行為であるのは間違いないはずだ。
「その決闘で命を落とすような事があったら――」
「たまにそういう奴もいるが、そんな事で死ぬような弱者なら子を残す資格が無い。ただそれだけの話だ」
野生動物でも異性を巡って争うのは当たり前だが、それで命を落とす事は滅多に無いはず。
それを考えるとサロール達は『自然の摂理』よりもさらに厳しい世界に生きていると言えるのかもしれないな。
そしてここでサロールはズイとその顔を近づけてくる。
「俺が耳にしたところでは、遠く離れた異邦の地では弱者を助ける事がまかり通っているというが本当か?」
「ええ。多くの場合は『人間は弱いのでお互いに助け合って生きねばならない』という考えで、余裕のある人間は弱者を助ける事が正しいとされています」
「そんなことをしていたら、弱者が残って部族全体が弱くなってしまうではないか」
元の世界の有名な台詞に『強くなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格が無い』があったけど、サロールは前者しか認めないのだ。
それどころか『優しさ』など彼にとっては『堕落』でしかないのだな。
「そんな堕落した奴らはいつの日か必ず滅びる事になるぞ」
サロールはかなりの憤りを抱いているようだ。
まあどんな勢力でもいつかは必ず滅びるから、ここは適当に話を合わせておこう。
「それでイル=フェロ神は、あなた方のご先祖に怒って、この地を荒廃させた後はどうされているのですか?」
「イル=フェロ神は堕落に対し怒りはしたが、決して我らを完全に見捨てたワケでは無いのだぞ」
「だからあなた方に力を与えているのですね」
「もちろんそれもある」
サロールは自らの手にした骨を削って作った武器を突き出す。
「他には何があるのです?」
「我らが再び神の望みし偉大な民となったとき、この地はもう一度楽園に戻るのだ」
そう言ってサロールは荒れ果てた周囲の土地を見回す。
彼の考える『偉大な民』とは同胞だろうと、部外者だろうと弱者を殺害して、とにかく強者だけを残すというものなのは間違いない。
もちろん本当にそうなったとしても、この地が彼の信じるところの楽園に戻るという話は正直に言えば眉唾だ。
しかし他の地域にあるように『正しく生きれば死後は神の御許に行ける』という話とさして違いは無いのかもしれない。
だが次にサロールが口にしたのは、オレにとっても少々不安をかき立てるものだった。
「そのために偉大なるイル=フェロは預言者を使わし、我らに対して試練を与えている」
むう。そういう話を聞くと不吉な予感が胸中にわき上がってくるのは、決して気のせいではないだろう。
オレにとっては本当に毎度の事なのだけどな。
そしてサロール達は弱者を救済する行為を『堕落』と蔑み、先祖が堕落した結果として神の怒りを買って、自分たちの住むこの地が荒廃したと考えているようだ。
確かに『神代の昔、地上は楽園だったが、それが人間の愚かさにより失われてしまった』という伝説は珍しくはない。
これはオレの推測だけどイル=フェロ神が怒って、この地が荒廃したのでは無く、荒廃した結果として弱者を切り捨てる事を正当化する信仰が広まったのでは無いか。
つまり順番が逆なのだと思う。
恐らくは荒廃する前、この地域の住民の文化も信仰も他の地域とさして変わらないものだったのだろう。
だが荒廃していく中で生き残った者達は弱者を見捨てざるを得なくなり、またそれに対する良心の呵責を逃れるため、そのような信仰が広まった――ひょっとすると『生み出した』――のかもしれない。
弱者の抹殺は『神の意思』と言う事になれば、切り捨てた側は負い目を感じないどころか、逆に正しい事をしたとなるからな。
そして世代を重ねれば、きっかけがどうあろうとそれが疑う余地の無い事実になってしまうはずだ。
もっとも全てはオレの想像に過ぎないし、隠された真相などサロールにとってはどうでもいい事なのは間違いない。
それに荒廃したこの地を見捨てて去っていったのも多いだろうけど、残った彼等はどれほど過酷な運命が待とうとも、先祖代々棲み着いてきた土地を離れることをよしとしなかった人たちの末裔なのだ。
誰からも助けられること無く、危険な土地に生きる道を選んだ彼等の行為を単純な善悪で論じたところで何の意味も無いだろう。
「しかしあなた方もただ身体の強さだけでなく、他にも尊ばれるものがあるでしょう」
知力、財力、魔力、技能、口のうまさ、容姿などなど身体の強さだけで計れないものもあるはずだ。
「もちろん健康な女ならば子供を産む能力は尊ばれるぞ。より屈強な女であればあるほど強い子孫を残せるからよい」
やっぱりそういう話になるか。とにかく肉体的な頑健さが大前提にあるようだ。
「それでは女性を得るために男同士で戦うのですね」
「もちろんだとも」
どこの世界でも女を巡って男同士で争うところまでは当たり前だが、ここでは良くも悪くも超単純に戦闘能力で勝負なのか。
「しかし女性の方が男を受け入れるとは限りませんよね?」
「もちろん男だろうと女だろうと、子作りをしたいと思った側が相手に決闘を申し込んでよい。それで勝った側の言う事に従うのだ」
その決闘は当然、相手を殺す事が目的では無いが、危険な行為であるのは間違いないはずだ。
「その決闘で命を落とすような事があったら――」
「たまにそういう奴もいるが、そんな事で死ぬような弱者なら子を残す資格が無い。ただそれだけの話だ」
野生動物でも異性を巡って争うのは当たり前だが、それで命を落とす事は滅多に無いはず。
それを考えるとサロール達は『自然の摂理』よりもさらに厳しい世界に生きていると言えるのかもしれないな。
そしてここでサロールはズイとその顔を近づけてくる。
「俺が耳にしたところでは、遠く離れた異邦の地では弱者を助ける事がまかり通っているというが本当か?」
「ええ。多くの場合は『人間は弱いのでお互いに助け合って生きねばならない』という考えで、余裕のある人間は弱者を助ける事が正しいとされています」
「そんなことをしていたら、弱者が残って部族全体が弱くなってしまうではないか」
元の世界の有名な台詞に『強くなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格が無い』があったけど、サロールは前者しか認めないのだ。
それどころか『優しさ』など彼にとっては『堕落』でしかないのだな。
「そんな堕落した奴らはいつの日か必ず滅びる事になるぞ」
サロールはかなりの憤りを抱いているようだ。
まあどんな勢力でもいつかは必ず滅びるから、ここは適当に話を合わせておこう。
「それでイル=フェロ神は、あなた方のご先祖に怒って、この地を荒廃させた後はどうされているのですか?」
「イル=フェロ神は堕落に対し怒りはしたが、決して我らを完全に見捨てたワケでは無いのだぞ」
「だからあなた方に力を与えているのですね」
「もちろんそれもある」
サロールは自らの手にした骨を削って作った武器を突き出す。
「他には何があるのです?」
「我らが再び神の望みし偉大な民となったとき、この地はもう一度楽園に戻るのだ」
そう言ってサロールは荒れ果てた周囲の土地を見回す。
彼の考える『偉大な民』とは同胞だろうと、部外者だろうと弱者を殺害して、とにかく強者だけを残すというものなのは間違いない。
もちろん本当にそうなったとしても、この地が彼の信じるところの楽園に戻るという話は正直に言えば眉唾だ。
しかし他の地域にあるように『正しく生きれば死後は神の御許に行ける』という話とさして違いは無いのかもしれない。
だが次にサロールが口にしたのは、オレにとっても少々不安をかき立てるものだった。
「そのために偉大なるイル=フェロは預言者を使わし、我らに対して試練を与えている」
むう。そういう話を聞くと不吉な予感が胸中にわき上がってくるのは、決して気のせいではないだろう。
オレにとっては本当に毎度の事なのだけどな。
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