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第21章 神の試練と預言者
第912話 一度、逃げ延びた後で
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とりあえずサロールからもう少し詳しい話を聞こうかと思った時、地面がわずかに揺れ始めた。
それと同時に地の底から何かが湧き上がって来るような感覚が生じる。
「もしや!」
サロールはその表情を険しくする。
オレの経験からするとこの地が昔、火山の噴火で埋もれたとしたら、以前に干拓地で出会った『地の底に呼ぶもの』のように、その時に犠牲となった人間の魂を使役するっ手段があるかもしれない。
そう思っていたら、いきなり地面が爆ぜて周囲に猛烈な熱気が噴き出してきた。
「ここまでしてくるとは!」
オレの『霊視』で見ると、熱気の中に潜む霊体が見える。
どうやら『火山の噴火で埋もれた浮かばれぬ魂』を使役するような回りくどいやり方ではなく、地中の熱気の精霊を呼び出しているらしい。
火山地帯ならではの精霊の使い方というべきか。
もっと火山に近いところだったら、熱気どころか溶岩そのものが呼び出されてくるかもしれないな。
いや。感心している場合ではない。
オレはそんじょそこいらの霊体であれば、いくら攻撃されてもどうにでもなるが、熱気そのものをぶつけられたらとても耐えきれない。
熱気や冷気への抵抗力をつける魔法もあるが、あくまでも自然界の温度に対するものであって、これほど高温の蒸気を相手に試してみる気はない。
そして霊体は蒸気をまといつつ、こちらに迫って来る。
あんなのに体を覆われたら、あっという間に全身火傷であの世行きだろう。
こうなると仕方ない。
やっぱり逃げるのだ。オレは自分とサロールに『馳せ足』の魔法をかける。
「サロールさん! 今は逃げましょう!」
「しかし逃げ切れるものでは――」
「わたしを信じてください!」
オレは強引にサロールの手を取って駆け出す。当然ながら蒸気の精霊は追って来て、熱気が周囲の空気をゆがめる。
だが思った通り、蒸気の精霊は地中から出て外気に触れると急速に熱を奪われるらしく、すぐに最初に出てきた地面の割れ目に戻っていった。
普通だったら間違いなく飲み込まれて全身火傷だったろうが、移動力を上げていたのでなんとか振り切る事が出来た。
改めて精霊を振り切った事を確認したところで、サロールは驚いた様子で話かけてくる。
「驚いたな。これもお前の力か?」
「ええ。そんなところです」
「ふうむ……確かによそ者も侮れぬのだな……」
サロールは本当に『よそ者』についてはほとんど知らないらしい。
オレを基準に考えるのは困るのだが、いちいち説明するのも面倒だし、ここはこのまま話を続けるしかないか。
「改めてうかがいますけど、先ほどの人たちは何者なのです」
「奴らは俺と同じくイル=フェロを信仰するものでありながら、その信仰をゆがめ、神が我らに与えた掟を軽んじるものだ」
「その掟の一つが先ほど聞いたように、戦いにルールがあるという事ですよね」
オレの問いかけに対し、サロールは頷く。
「戦いは常に正々堂々と行わねばならない。相手の不意を打ったり、遠くから攻撃したり、数で押したりするような戦いは忌むべきものなのだ」
「そうすると先ほどの人たちはそのルールを破っているのですね?」
確かに連中は、不意打ちで、遠くから、数で押す戦いをしてきたな。
もちろん普通だったら『勝つために出来る事は何でも準備して、勝つべくして勝つ』のが正しい指揮官のあり方なのだろうが、彼らは違うのだな。
「その通りだ。連中は『霊的に劣った奴ら』に対しては、どのような事をしても構わないと説いているのだ」
正直に言えばここ以外の世界における権謀術数を考えると、そうでもしないと彼らも身が持たないだろう。
この地域が細々と通商路が通るだけで他の地域と関わりがほとんど無いのは、火山活動が盛んで荒れ果て、危険な上に支配する価値が無いので誰も手を出さないというだけだ。
「それでは先ほどの人たちがあんなことをしたのは、よそ者のわたしが一緒にいたからなのですか」
「恐らくはそうだろう……だがそんなことは関係ない」
サロールをここで憤りを込めて叫ぶ。
「劣った相手だからといって、そいつらと同じ域に落ちてどうする! 我らはいかなる時も気高き戦士でなければならぬのだ! そうでなければイル=フェロ神に仕えし『偉大な民』とはなり得ない!」
当人を前にしてそんなことを力説するところが、なんとも『この世界の住民』らしいと言うべきだろうか。
「だけどサロールさんも連中に追われているのですよね。出来ればその理由も教えていただけますか?」
オレの問いかけに対し、サロールは少しばかり不可解そうな表情を浮かべる。
「なぜそこまで聞くのだ?」
今まで何度も問われてきた事だが、部外者のオレが彼らの事情に興味を持つのは不可解なのだろうな。
「もしかしたらサロールさんの助けになれるかもしれませんよ」
サロールは確かに自分たちイル=フェロ神の信徒以外を見下してはいるが、先ほど襲撃して来たように、集団で隊商を襲撃して皆殺しにするような奴らに比べたらまだマシだろう。
ここはサロールから事情を聞いて、もしもオレに力になれることがあればどうにかしたいところだ。
それと同時に地の底から何かが湧き上がって来るような感覚が生じる。
「もしや!」
サロールはその表情を険しくする。
オレの経験からするとこの地が昔、火山の噴火で埋もれたとしたら、以前に干拓地で出会った『地の底に呼ぶもの』のように、その時に犠牲となった人間の魂を使役するっ手段があるかもしれない。
そう思っていたら、いきなり地面が爆ぜて周囲に猛烈な熱気が噴き出してきた。
「ここまでしてくるとは!」
オレの『霊視』で見ると、熱気の中に潜む霊体が見える。
どうやら『火山の噴火で埋もれた浮かばれぬ魂』を使役するような回りくどいやり方ではなく、地中の熱気の精霊を呼び出しているらしい。
火山地帯ならではの精霊の使い方というべきか。
もっと火山に近いところだったら、熱気どころか溶岩そのものが呼び出されてくるかもしれないな。
いや。感心している場合ではない。
オレはそんじょそこいらの霊体であれば、いくら攻撃されてもどうにでもなるが、熱気そのものをぶつけられたらとても耐えきれない。
熱気や冷気への抵抗力をつける魔法もあるが、あくまでも自然界の温度に対するものであって、これほど高温の蒸気を相手に試してみる気はない。
そして霊体は蒸気をまといつつ、こちらに迫って来る。
あんなのに体を覆われたら、あっという間に全身火傷であの世行きだろう。
こうなると仕方ない。
やっぱり逃げるのだ。オレは自分とサロールに『馳せ足』の魔法をかける。
「サロールさん! 今は逃げましょう!」
「しかし逃げ切れるものでは――」
「わたしを信じてください!」
オレは強引にサロールの手を取って駆け出す。当然ながら蒸気の精霊は追って来て、熱気が周囲の空気をゆがめる。
だが思った通り、蒸気の精霊は地中から出て外気に触れると急速に熱を奪われるらしく、すぐに最初に出てきた地面の割れ目に戻っていった。
普通だったら間違いなく飲み込まれて全身火傷だったろうが、移動力を上げていたのでなんとか振り切る事が出来た。
改めて精霊を振り切った事を確認したところで、サロールは驚いた様子で話かけてくる。
「驚いたな。これもお前の力か?」
「ええ。そんなところです」
「ふうむ……確かによそ者も侮れぬのだな……」
サロールは本当に『よそ者』についてはほとんど知らないらしい。
オレを基準に考えるのは困るのだが、いちいち説明するのも面倒だし、ここはこのまま話を続けるしかないか。
「改めてうかがいますけど、先ほどの人たちは何者なのです」
「奴らは俺と同じくイル=フェロを信仰するものでありながら、その信仰をゆがめ、神が我らに与えた掟を軽んじるものだ」
「その掟の一つが先ほど聞いたように、戦いにルールがあるという事ですよね」
オレの問いかけに対し、サロールは頷く。
「戦いは常に正々堂々と行わねばならない。相手の不意を打ったり、遠くから攻撃したり、数で押したりするような戦いは忌むべきものなのだ」
「そうすると先ほどの人たちはそのルールを破っているのですね?」
確かに連中は、不意打ちで、遠くから、数で押す戦いをしてきたな。
もちろん普通だったら『勝つために出来る事は何でも準備して、勝つべくして勝つ』のが正しい指揮官のあり方なのだろうが、彼らは違うのだな。
「その通りだ。連中は『霊的に劣った奴ら』に対しては、どのような事をしても構わないと説いているのだ」
正直に言えばここ以外の世界における権謀術数を考えると、そうでもしないと彼らも身が持たないだろう。
この地域が細々と通商路が通るだけで他の地域と関わりがほとんど無いのは、火山活動が盛んで荒れ果て、危険な上に支配する価値が無いので誰も手を出さないというだけだ。
「それでは先ほどの人たちがあんなことをしたのは、よそ者のわたしが一緒にいたからなのですか」
「恐らくはそうだろう……だがそんなことは関係ない」
サロールをここで憤りを込めて叫ぶ。
「劣った相手だからといって、そいつらと同じ域に落ちてどうする! 我らはいかなる時も気高き戦士でなければならぬのだ! そうでなければイル=フェロ神に仕えし『偉大な民』とはなり得ない!」
当人を前にしてそんなことを力説するところが、なんとも『この世界の住民』らしいと言うべきだろうか。
「だけどサロールさんも連中に追われているのですよね。出来ればその理由も教えていただけますか?」
オレの問いかけに対し、サロールは少しばかり不可解そうな表情を浮かべる。
「なぜそこまで聞くのだ?」
今まで何度も問われてきた事だが、部外者のオレが彼らの事情に興味を持つのは不可解なのだろうな。
「もしかしたらサロールさんの助けになれるかもしれませんよ」
サロールは確かに自分たちイル=フェロ神の信徒以外を見下してはいるが、先ほど襲撃して来たように、集団で隊商を襲撃して皆殺しにするような奴らに比べたらまだマシだろう。
ここはサロールから事情を聞いて、もしもオレに力になれることがあればどうにかしたいところだ。
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