異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第21章 神の試練と預言者

第915話 サロールの目的は

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 いきなりサロールは踊りかかって切っ先をオレの顔面に突きつける。
 今までに何度も体験した事だが、それでも怖くないはずもない。
 しかしその切っ先はオレの眼前で止まったままだ。

「どうした。なぜ戦わない? お前に力がある事は分かっているのだぞ」

 サロールは理解出来ないと言わんばかりで少しばかり困惑した様子を見せる。
 思った通り、サロールにとって強さを競う戦いはあくまでも『神性な儀式』だから、一方的に相手を攻撃するわけにはいかないのだな。
 もちろんそれはオレを対等の相手と認めているからであって、出会ったばかりの時だったら『神聖な儀式』ではなく『狩りの獲物』として容赦なくぶった切っていたかもしれない。

「だからサロールさんと戦う気は無いのですよ」

 オレにすれば魔法でサロールを退けるのむしろ簡単だけど、今後の事を考えると話し合いでどうにかしたいところだ。

「戦わないのであれば、お前の事が分からない」
「人間同士、分からなくて当たり前ですよ。もちろんわたしとサロールさんもそんなに簡単に分かる筈がありません」

 オレの返答に対し、またもサロールは首をかしげる。

「つまりお前も俺について分からないと言うのだな? ならばなぜ力を貸すなどと言い出したのだ?」
「外では戦わずに人間は時間をかけて、互いに理解してわかり合うものなのですよ」

 現実にはそう簡単にはいかないが、ここは少しばかり誇張させてもらおうとしよう。

「だからサロールさんと話し合いたいのです」
「正直……お前の言う事がよく分からん」

 やはりサロールは理解出来ないらしい。
 彼の生きてきた文化が、あまりにも異質すぎるのだな。
 もっとも今までにもいろいろな相手に出会ってきたから、オレの方はすっかり慣れてしまった気がするよ。

「しかしお前が俺と戦う気が無いことは分かった」

 サロールはそう言うと突きつけた剣を一度収める。
 これで一気にオレとサロールの理解が深まる――などと世の中がそんなに甘いものでない事も幾度も思い知ってきたところだ。

「それならばお前が戦う気になるまで、今は待つとしよう」

 やっぱりそんな展開になるか。
 以前に『敵を殺して喰う』事を望む相手に出会った事があるが、相手に敵意が無いと殺して喰っても無意味だからと、敵になることを一方的に要求された。
 今のサロールもそれと似たような感じなのか。

「それでいいですよ。それではしばらく同行するとしましょう」
「本当にお前は変わっているな」
「ええ。よく言われます」

 これはサロールが特別だから、ではなくオレの方がこの世界の基準では異質過ぎる存在なのだろうなあ。

「それでサロールさんはどこか行く当てがあるのですか?」
「俺が向かう先はあそこだ」

 そう言ってサロールは遥か遠くで煙を噴いている、山の頂を指し示す。
 大陸を旅してきたオレにとってはそれほど遠くでも無いが、その途中の道は相当に危険が伴いそうだ。
 どう考えてもこれまでの展開とは関係なさそうだが、こういう場合にその意味はだいたい見当はつく。

「あそこがイル=フェロ神の聖地なのですか?」
「その通りだ。偉大なるイル=フェロが初めてその怒りを示したところであり、我らにとっては恐怖と試練の始まりであり、また堕落を消し去った神聖なる場所でもあるのだ」

 要するにこの地を荒廃させた火山活動が最初に起きた場所らしい。

「俺はそこで神の意思を聞いて、シャンサが本物の預言者かどうか確かめる」

 理屈は分かるけど、当然の疑問が出てくる。

「これまでその聖地でシャンサの事を神に尋ねた人はいないのですか?」
「もちろん望んだ者はいた。それも一人や二人では無いだろう」

 この返答からすると、この話の結末はだいたい予想出来る。

「もしかすると一人も帰ってこなかったのですか?」
「そういうことだ」

 やっぱりそうなるか。
 思った通り『聖地』と言っても、立派な寺院が建っていて信徒が簡単に訪れて崇拝出来る――元の世界ならむしろ観光地になっているような――場所ではないな。
 たどり着くだけでも命がけ、強者だけを重んじるというイル=フェロ神の信徒にとっても危険極まり無いところのはずだ。

「しかし仮にその聖地にたどり着いても、イル=フェロ神が答えて下さるとは限らないのではありませんか?」
「その場合、俺が神意に触れるだけの力が無かったと言うだけの話だ」

 サロールにとって命がけで神の意思を尋ね、それに失敗しても『力が足りなかったから』でしか無いのか。
 しかしそうするとちょっとばかり不安要素もあるな。

「まさかとは思いますけど、その時には火口に身を投げたりはしませんよね?」
「はあ? 何を言っているのだ?」

 ここでまたしてもサロールは呆れた表情を浮かべる。

「それに何の意味がある? 外の世界ではそんなことをするのが当たり前なのか?」
「いえ。少しばかり気になっただけですから、忘れて下さい」

 そうだよな。『適者生存』『弱肉強食』の神が信徒の自殺なんて望むわけがないか。
 そこは少しばかり安心出来るところだろうか。
 何にせよオレが厄介事に首を突っ込まずにはいられない事はいつも通りである。
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