920 / 1,316
第21章 神の試練と預言者
第920話 宝珠と語らって
しおりを挟む
改めてフェスマールはオレに向けて問いかけてくる。
『しかしそなたのような者がこの地を訪れたのはいったい何のためだ?』
「あなたを見つけた事を含めてたまたまですよ。もっと別の用事があっただけです」
『我を探していたわけではないのだな』
フェスマールは少しばかり残念そうだ。
金銭的にも歴史的にも計り知れない価値のある宝珠に宿ったフェスマールがこの地に取り残されてしまった事情はだいたい分かったがまだ聞きたい事はある。
「ところでフェスマールさんは、よその地域からここに持ち込まれたのですよね」
『もちろんだとも。元々、我はここより遥か離れた『輝きの地』より、大勢の信徒達を引き連れてその時の大司祭と共にこの地に入ったのだ。もちろん帝国皇帝の承認を得て、この地がケルマル信徒の領地となった時の話だ』
そう言えばこの地域もかつては東方を支配していた帝国の一部だったのだな。
元から住んでいた住民の事など考えもせず、一方的に『ここはケルマル信徒の土地だ』などと認定したら後でもめるのは確実だけど、既に火山活動で荒れ果てた土地だから、そんな事は考えもしなかったのだろうか。
ひょっとすると閉鎖的な共同体を作っているケルマル信徒は、近隣の住民としばしば摩擦を引き起こすので、荒廃した地域に送り込んで厄介払いをしたのかもしれない。
上手くいって開拓が進めばよし、失敗しても面倒な連中がいなくなるという考えだったに違いない。
もちろん送り込まれた方も、そんな意図は分かっていた上で、命がけで苦労するのを承知しつつ、自らの信仰心を証明するため、そして新たな土地を得るため飛び込んできたに違いない。
命がけでこの荒れ果てた土地で生きるところは、イル=フェロ信徒と同じなのだけど、残念ながら彼らは絶対に仲間にはなれないどころか、互いに相容れない敵同士となってしまうわけだから、なんとも不毛な話だ。
そしてケルマル信徒の生き残りが、まだこの周囲にいるのかどうかは、残念ながらフェスマールもまるで知らないらしい。
もっともかつてのケルマル信徒の子孫がいても、いまはイル=フェロ信徒になっていて『弱肉強食』の生活を送っているかもしれないけどな。
いずれにせよフェスマールの言葉から考えれば、この地域の廃墟にはいろいろと埋もれたお宝が眠っているのは間違いない。
オレの過去の経験からすれば、まさに『宝の山』というべきだ。
それではさっきここで廃墟をあさっていたイル=フェロ信徒は、やはりそんなお宝を探していたと考えるべきだろうか。
しかし連中の行動を見る限り『なぜ自分たちがこんな事をしているのか』という点についてもよく分かっていなかった様子で、あくまでも『預言者シャンサの命令』だからそれに従っていただけの様子だ。
そうすると彼らに聞いたところで、事情など分かる筈も無いか。
ただシャンサがこのようなお宝に興味があるとすれば、やはり外部と何らかのつながりのある人間という事になるな。
それならイル=フェロ信徒達がこの地に居座っていたので、探す事の出来なかった宝を探すために預言者を騙っているのだろうか?
いや。それでは外部の『堕落した者達』を攻撃するように命じているのがおかしい。
もっと複雑な事情がありそうだな。
『ところでこの地でケルマル信徒がもういなくなってしまった事は分かった……だが他の地ではどうなっているのだ?』
「わたしの知る限りでは、ケルマル神を崇拝している人たちは、今でもいろいろなところで開拓にいそしんでいるようです」
『そうか……滅びてしまったわけではないのだな』
フェスマールは少しばかり安堵した様子だ。
もともとケルマル信徒は少数派だし、この宝珠がうち捨てられて何世代も経っているのに誰も回収にこないとなると『ケルマル神を崇拝する勢力が滅びてしまったのかもしれない』と不安になっていたのだろう。
もしかしたらフェスマールのことは『失われた伝説の宝』という事になっているかもしれないな。
ただケルマル神の教団はオレの知る限り、この宝珠のようなもの凄い宝とは縁が無かった事を考えると、フェスマールが信仰の焦点となっていた時期よりも大きく勢力が損なわれているかもうせいもあるな。
『それではそなたは何の義理も関わりも無いのに、我をケルマルの教団に渡すというのか?』
「もちろんですよ。先ほどの約束は守りますよ」
探せばこの宝珠をケルマル教団よりも高く買い取ってくれそうな相手もいるだろう。
フェスマールも当然、それを心配していたに違いない。
オレは金銭的価値になど興味は無いので、ケルマル信徒に引き渡され、もう一度信仰の焦点として働きたいというフェスマールの願いを叶えてやるのはやぶさかではないが、優先順位というものがある。
「今は別にやることがありますので、しばらく我慢してくれますか?」
『むう……仕方あるまい。だが外がどうなっているのか、知っている限りで構わないので教えてくれぬか?』
ここでオレはひとまず周囲が完全に荒れ果てた荒野と化し『適者生存』『弱肉強食』を信奉するイル=フェロ信徒だけが生き残っている点を伝える。
そのイル=フェロ信徒のサロールが同行していて、かの神の聖地に向かう途中だという話ははしょったが、面倒な事は後回しにさせてもらいたい。
『しかしそなたのような者がこの地を訪れたのはいったい何のためだ?』
「あなたを見つけた事を含めてたまたまですよ。もっと別の用事があっただけです」
『我を探していたわけではないのだな』
フェスマールは少しばかり残念そうだ。
金銭的にも歴史的にも計り知れない価値のある宝珠に宿ったフェスマールがこの地に取り残されてしまった事情はだいたい分かったがまだ聞きたい事はある。
「ところでフェスマールさんは、よその地域からここに持ち込まれたのですよね」
『もちろんだとも。元々、我はここより遥か離れた『輝きの地』より、大勢の信徒達を引き連れてその時の大司祭と共にこの地に入ったのだ。もちろん帝国皇帝の承認を得て、この地がケルマル信徒の領地となった時の話だ』
そう言えばこの地域もかつては東方を支配していた帝国の一部だったのだな。
元から住んでいた住民の事など考えもせず、一方的に『ここはケルマル信徒の土地だ』などと認定したら後でもめるのは確実だけど、既に火山活動で荒れ果てた土地だから、そんな事は考えもしなかったのだろうか。
ひょっとすると閉鎖的な共同体を作っているケルマル信徒は、近隣の住民としばしば摩擦を引き起こすので、荒廃した地域に送り込んで厄介払いをしたのかもしれない。
上手くいって開拓が進めばよし、失敗しても面倒な連中がいなくなるという考えだったに違いない。
もちろん送り込まれた方も、そんな意図は分かっていた上で、命がけで苦労するのを承知しつつ、自らの信仰心を証明するため、そして新たな土地を得るため飛び込んできたに違いない。
命がけでこの荒れ果てた土地で生きるところは、イル=フェロ信徒と同じなのだけど、残念ながら彼らは絶対に仲間にはなれないどころか、互いに相容れない敵同士となってしまうわけだから、なんとも不毛な話だ。
そしてケルマル信徒の生き残りが、まだこの周囲にいるのかどうかは、残念ながらフェスマールもまるで知らないらしい。
もっともかつてのケルマル信徒の子孫がいても、いまはイル=フェロ信徒になっていて『弱肉強食』の生活を送っているかもしれないけどな。
いずれにせよフェスマールの言葉から考えれば、この地域の廃墟にはいろいろと埋もれたお宝が眠っているのは間違いない。
オレの過去の経験からすれば、まさに『宝の山』というべきだ。
それではさっきここで廃墟をあさっていたイル=フェロ信徒は、やはりそんなお宝を探していたと考えるべきだろうか。
しかし連中の行動を見る限り『なぜ自分たちがこんな事をしているのか』という点についてもよく分かっていなかった様子で、あくまでも『預言者シャンサの命令』だからそれに従っていただけの様子だ。
そうすると彼らに聞いたところで、事情など分かる筈も無いか。
ただシャンサがこのようなお宝に興味があるとすれば、やはり外部と何らかのつながりのある人間という事になるな。
それならイル=フェロ信徒達がこの地に居座っていたので、探す事の出来なかった宝を探すために預言者を騙っているのだろうか?
いや。それでは外部の『堕落した者達』を攻撃するように命じているのがおかしい。
もっと複雑な事情がありそうだな。
『ところでこの地でケルマル信徒がもういなくなってしまった事は分かった……だが他の地ではどうなっているのだ?』
「わたしの知る限りでは、ケルマル神を崇拝している人たちは、今でもいろいろなところで開拓にいそしんでいるようです」
『そうか……滅びてしまったわけではないのだな』
フェスマールは少しばかり安堵した様子だ。
もともとケルマル信徒は少数派だし、この宝珠がうち捨てられて何世代も経っているのに誰も回収にこないとなると『ケルマル神を崇拝する勢力が滅びてしまったのかもしれない』と不安になっていたのだろう。
もしかしたらフェスマールのことは『失われた伝説の宝』という事になっているかもしれないな。
ただケルマル神の教団はオレの知る限り、この宝珠のようなもの凄い宝とは縁が無かった事を考えると、フェスマールが信仰の焦点となっていた時期よりも大きく勢力が損なわれているかもうせいもあるな。
『それではそなたは何の義理も関わりも無いのに、我をケルマルの教団に渡すというのか?』
「もちろんですよ。先ほどの約束は守りますよ」
探せばこの宝珠をケルマル教団よりも高く買い取ってくれそうな相手もいるだろう。
フェスマールも当然、それを心配していたに違いない。
オレは金銭的価値になど興味は無いので、ケルマル信徒に引き渡され、もう一度信仰の焦点として働きたいというフェスマールの願いを叶えてやるのはやぶさかではないが、優先順位というものがある。
「今は別にやることがありますので、しばらく我慢してくれますか?」
『むう……仕方あるまい。だが外がどうなっているのか、知っている限りで構わないので教えてくれぬか?』
ここでオレはひとまず周囲が完全に荒れ果てた荒野と化し『適者生存』『弱肉強食』を信奉するイル=フェロ信徒だけが生き残っている点を伝える。
そのイル=フェロ信徒のサロールが同行していて、かの神の聖地に向かう途中だという話ははしょったが、面倒な事は後回しにさせてもらいたい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,739
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる