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第21章 神の試練と預言者
第946話 テセルと改めて『預言者』について
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サロールが険しい山道を進んでいるのを後ろから険しい視線を注ぎつつ、テセルは声をかけてくる。
「あいつはアルタシャの顔を見て、明らかにこれまでと違った反応をしていたぞ。まったく……僕の婚約者に対しどいつもこいつも色目を使うのだから困ったものだ」
「あくまでも演技で仮の婚約者になっただけなのを、いつまでも言い続ける人も十分に困った人だと思いますけどね」
そもそもテセルと『婚約者』になったのは神造者によって『並外れた美女を見れば手を出さずにはいられない』という神話にされたアンブラール神にチョメチョメされてしまうのをかわすための演技でしかなかったのに、テセルの方はいつまでも婚約者のつもりで近寄ってくるのだ。
元の世界だったら間違いなくストーカー認定されるところだろう。
それでエリートの地位をなげうって大陸の反対側まで追いかけてくるのだから、確かにとんでもない奴ではある。
「お前はこの僕を何だと思って――」
「エリート神造者のテセルだと思っていますから、ちょっと尋ねていいですか」
「な、何だよ」
今のオレは先ほどテセルにかけられた外套をまとっているだけで、殆ど半裸に近い格好だ。
それを近くで見ているので、テセルもかなり意識しているようだ。
思った通り幼い頃からエリートを目指して勉学にいそしんでいたので、異性経験が欠落しているのがモロバレだぞ――何しろオレも同類だったからな。
「この地域では亡霊をなだめるのではなく、追い払う事ばかりしていて、それで行き場のなくなった亡霊が集まり、先ほどの『嵐の亡霊』のような存在を作り出しているようですね」
「エリート中のエリート神造者たる僕を何だと思っているんだ? そんな事ぐらい一目で分かるぞ」
「それならばしばらくすれば、またあんな亡霊が暴れ回る危険性があるのですね?」
「もちろんあり得るが、それは何百日も先の話だ。今の僕たちには関係無い……と言いたいがお前はそれを心配しているのだな?」
フェスマールとは違い、テセルはオレの事をこの男なりに理解しているらしい。
「この地が僕ら神造者の支配下に置かれれば、あのような亡霊も正しい死者の道へと歩む事になる。そのためにお前も僕に協力するんだ」
テセルのこういうところは本当にオレの事を理解していないのか、理解するつもりが最初から無いのか。どちらだろうか。
まあ相変わらずである事が分かっただけで、むしろ安堵してしまうのはオレがある意味で『悟り』を開いたからかもしれないな。
「ただ前もって断っておくが本当にシャンサの事を僕は知らないからな」
「知らなくとも思い当たる節はあるのでしょう?」
オレに対してテセルは明確な嘘はついていないだろう。
しかし引っかかるところがあるのだ。
そしてここでテセルは観念したようにため息をつく。
「現地の信仰における預言者を創造し、僕たち神造者に仕えさせるような実験なら行う可能性はあると言ったな」
それはオレも考えたところだ。
しかしシャンサの唱えている『外部の人間は霊的に劣った存在だから、尊重する必要は無い』という教えは神造者の利益にそぐわないのは明らかである。
もしもテセルがシャンサの教えを信奉しているイル=フェロ信徒に出会ったら、その場で殺害されていたのは間違いないだろう。
「ただしそれは我が祖国であるフォンリット帝国の近くで実験が行われる場合だ。このような遠く離れた異境の地にすまう奴らならば、どんな実験に使っても構わないだろう」
「それでは純粋に神造者の行う実験の一環としてならば、シャンサのような預言者を作り出す事はありうるのですか?」
ううむ。オレが以前に接した限りでは、神造者の行う実験は『神のすげ替え』などロクでもない結果を招く事はしばしばあったのは間違いない。
だがそれは『実験の失敗』であって、目的はその土地を豊かにする事だったはずだ。
そういう目的を持たずに『何が起きるのか?』という興味本位で、現地の信仰を勝手に操作するような真似をしているというのか?
確かに『弱者には生きる資格は無い』というイル=フェロ神の教えは、オレにとっても全く相容れないものだ。
だがそれだとしても偽りの預言者をでっち上げて信仰をねじ曲げるような真似をしていいはずがない。
「あくまでも可能性の話だぞ。本当に僕はそんな話は聞いていないし、少なくともまともな神造者だったら、成功しても何の益もない実験など行わないはずだし、許可が下りる筈がない」
テセルの言っていることは分かるが、しかし神造者だって大勢いるのだ。
少数でも損得抜きで自分の興味や好奇心を優先させる人間がいても不思議では無い。
しかもこの地域は、神造者の本拠地とは殆ど大陸の反対側だ。
当然、中央の目は届かないだろうから、現地の人間が勝手な真似をする可能性は否定出来ないはず。
そんなことを考えていると、テセルはオレの表情に気づいた様子だ。
「お前は僕ら神造者の中に、貴重な信仰の力を無益な事に注ぐ輩がいるのかと疑っているのか?」
「いないとは言い切れないでしょう。どこにだってそんな変わり者はいるはずです」
「ああ。言われてみれば確かにそれもあり得るか」
おや。テセルにしては珍しく謙虚な姿勢だな。
「お前のように、自分に捧げられた信仰の力をまるで無関係な事に使っているへそ曲がりだからこそ気づく事もあるわけだ。いや。教えられたよ」
「いつも通り一言多いのですよ!」
オレは思わずテセルを怒鳴りつけた。
「あいつはアルタシャの顔を見て、明らかにこれまでと違った反応をしていたぞ。まったく……僕の婚約者に対しどいつもこいつも色目を使うのだから困ったものだ」
「あくまでも演技で仮の婚約者になっただけなのを、いつまでも言い続ける人も十分に困った人だと思いますけどね」
そもそもテセルと『婚約者』になったのは神造者によって『並外れた美女を見れば手を出さずにはいられない』という神話にされたアンブラール神にチョメチョメされてしまうのをかわすための演技でしかなかったのに、テセルの方はいつまでも婚約者のつもりで近寄ってくるのだ。
元の世界だったら間違いなくストーカー認定されるところだろう。
それでエリートの地位をなげうって大陸の反対側まで追いかけてくるのだから、確かにとんでもない奴ではある。
「お前はこの僕を何だと思って――」
「エリート神造者のテセルだと思っていますから、ちょっと尋ねていいですか」
「な、何だよ」
今のオレは先ほどテセルにかけられた外套をまとっているだけで、殆ど半裸に近い格好だ。
それを近くで見ているので、テセルもかなり意識しているようだ。
思った通り幼い頃からエリートを目指して勉学にいそしんでいたので、異性経験が欠落しているのがモロバレだぞ――何しろオレも同類だったからな。
「この地域では亡霊をなだめるのではなく、追い払う事ばかりしていて、それで行き場のなくなった亡霊が集まり、先ほどの『嵐の亡霊』のような存在を作り出しているようですね」
「エリート中のエリート神造者たる僕を何だと思っているんだ? そんな事ぐらい一目で分かるぞ」
「それならばしばらくすれば、またあんな亡霊が暴れ回る危険性があるのですね?」
「もちろんあり得るが、それは何百日も先の話だ。今の僕たちには関係無い……と言いたいがお前はそれを心配しているのだな?」
フェスマールとは違い、テセルはオレの事をこの男なりに理解しているらしい。
「この地が僕ら神造者の支配下に置かれれば、あのような亡霊も正しい死者の道へと歩む事になる。そのためにお前も僕に協力するんだ」
テセルのこういうところは本当にオレの事を理解していないのか、理解するつもりが最初から無いのか。どちらだろうか。
まあ相変わらずである事が分かっただけで、むしろ安堵してしまうのはオレがある意味で『悟り』を開いたからかもしれないな。
「ただ前もって断っておくが本当にシャンサの事を僕は知らないからな」
「知らなくとも思い当たる節はあるのでしょう?」
オレに対してテセルは明確な嘘はついていないだろう。
しかし引っかかるところがあるのだ。
そしてここでテセルは観念したようにため息をつく。
「現地の信仰における預言者を創造し、僕たち神造者に仕えさせるような実験なら行う可能性はあると言ったな」
それはオレも考えたところだ。
しかしシャンサの唱えている『外部の人間は霊的に劣った存在だから、尊重する必要は無い』という教えは神造者の利益にそぐわないのは明らかである。
もしもテセルがシャンサの教えを信奉しているイル=フェロ信徒に出会ったら、その場で殺害されていたのは間違いないだろう。
「ただしそれは我が祖国であるフォンリット帝国の近くで実験が行われる場合だ。このような遠く離れた異境の地にすまう奴らならば、どんな実験に使っても構わないだろう」
「それでは純粋に神造者の行う実験の一環としてならば、シャンサのような預言者を作り出す事はありうるのですか?」
ううむ。オレが以前に接した限りでは、神造者の行う実験は『神のすげ替え』などロクでもない結果を招く事はしばしばあったのは間違いない。
だがそれは『実験の失敗』であって、目的はその土地を豊かにする事だったはずだ。
そういう目的を持たずに『何が起きるのか?』という興味本位で、現地の信仰を勝手に操作するような真似をしているというのか?
確かに『弱者には生きる資格は無い』というイル=フェロ神の教えは、オレにとっても全く相容れないものだ。
だがそれだとしても偽りの預言者をでっち上げて信仰をねじ曲げるような真似をしていいはずがない。
「あくまでも可能性の話だぞ。本当に僕はそんな話は聞いていないし、少なくともまともな神造者だったら、成功しても何の益もない実験など行わないはずだし、許可が下りる筈がない」
テセルの言っていることは分かるが、しかし神造者だって大勢いるのだ。
少数でも損得抜きで自分の興味や好奇心を優先させる人間がいても不思議では無い。
しかもこの地域は、神造者の本拠地とは殆ど大陸の反対側だ。
当然、中央の目は届かないだろうから、現地の人間が勝手な真似をする可能性は否定出来ないはず。
そんなことを考えていると、テセルはオレの表情に気づいた様子だ。
「お前は僕ら神造者の中に、貴重な信仰の力を無益な事に注ぐ輩がいるのかと疑っているのか?」
「いないとは言い切れないでしょう。どこにだってそんな変わり者はいるはずです」
「ああ。言われてみれば確かにそれもあり得るか」
おや。テセルにしては珍しく謙虚な姿勢だな。
「お前のように、自分に捧げられた信仰の力をまるで無関係な事に使っているへそ曲がりだからこそ気づく事もあるわけだ。いや。教えられたよ」
「いつも通り一言多いのですよ!」
オレは思わずテセルを怒鳴りつけた。
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